日本軍「慰安婦」制度に関する知識や情報を提供するウエブサイト「Fight for Justice日本軍『慰安婦』――忘却への抵抗・未来の責任」(以下FFJ、 https://fightforjustice.info )が12月6日、リニューアルし、公開された。
FFJは、日本軍「慰安婦」問題についての、歴史的な事実関係と責任の所在を資料や証言など明確な出典・根拠をもって示すことを目的に2013年に創設された。10周年を迎えるのを機に、内容の充実を図った。専門家と市民が集まる日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会(吉見義明、金富子・共同代表)が計画し、昨年3月にクラウドファンディングで資金を調達した。
制作に関わった委員会のメンバーは「国際的に歴史修正主義、歴史否定が浸透し、加速している状況がある。同時に、慰安婦問題には触れない、避ける傾向が広がっている」と現状を説明。今回のリニューアルについて「日本から責任の所在を明らかにして、資料や明確な根拠を示しながら多言語で伝えていくことはすごく大切だ」と意義を説明する。サイトは日・英・韓・中の4カ国語に対応している。
学生メンバーがQ&A動画を作成
FFJの母体となったのは、「慰安婦」問題の真相究明と問題解決に取り組んできた日本の戦争責任資料センター、「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC/VAWW-NET JAPANの後続団体)の2団体。趣旨に賛同する研究者や市民運動団体、ジャーナリスト、アーティストらが連携し、「慰安婦」問題の事実関係に特化したサイトを開設し、運営してきた。
このたびのリニューアルで、パソコンだけでなくスマートフォンでも見られるようにし、入門的な知識を伝えるQ&A動画を20〜30代の学生メンバーらが作成するなど、初めて「慰安婦」問題に触れる人に対応したウエブサイト作成を目指したという。
「慰安婦」問題巡る政治、社会状況を一望
サイトは5つの柱で構成される。
「基礎知識」=「慰安婦」問題に関する基本的な知識・事実関係を動画やマンガなどで提供する
「もっと知りたい」=日本軍「慰安婦」問題、植民地支配、侵略戦争に関する事実を歪めた言説や疑問に一問一答で、根拠をもとに答える
「解決への道」=日本政府の見解、アジアの被害国政府の見解、国連の提言などを解説する
「日本と世界の動向」=平和の少女像の建立マップ、マーク・ラムザイヤー氏や朴裕河氏らの論文の批判的検証など
「証言と資料」=アジア各国の被害者が名乗り出てきた経緯と被害者の現在、被害者と加害兵士の証言を提供し、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(2000年12月に東京で開催)などの映像を公開
また、「基礎知識」内にある「年表」も充実させた。1988年から35年間の日本軍「慰安婦」をめぐる、政治、社会、裁判、出版などの状況が一望できる。今後も随時更新していくという。
「慰安婦問題」は「女性の人権の問題」
FFJは2021年から講座「いちからわかる」シリーズを展開。「日本軍『慰安婦』問題」「公娼制度」「朝鮮植民地支配」などのテーマで年3〜5回のオンライン講座を開いてきた。学生は無料で、この場を足がかりとして学習を深める若い世代が多いという。来年5月からは「歴史修正主義/歴史否定論」をテーマに、5回の講座を予定している。サイトでは過去の講座のアーカイブも無料で公開しており、FFJは「Q&Aと合わせ、大学や高校の授業の導入部で活用してほしい」と期待している。
一橋大学大学院の加藤圭木准教授は「若い世代が『慰安婦』問題について学びたいのに体系的に学べない状況にある。情報が錯綜してどのように理解していいかわからない人にこそ見てほしい。『慰安婦』問題は女性の人権の問題。レイシズム、セクシズムとからめて議論を深めていきたい」と話した。
同志社大の板垣竜太教授は「2015年の日韓合意と安倍長期政権の影響は大きく、『慰安婦』問題は反日の運動という言説が広がった。しかし、学生はモヤモヤしている。知りたいと思っている。とりあえずここを見ればいいというサイトがある意味は大きい」と話す。
FFJは、サイトの維持・更新、運営、特に多言語発信の充実のため、寄付を募っている。
(吉永磨美、阿久沢悦子)