【Z世代の群像②】「国籍越えて命と人権守る社会に」 外国人・難民支援団体BOND 真栄田早希さん

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連載【Z世代の群像】日本で暮らす外国人の人権を守りたい

環境やジェンダー、核廃絶――。さまざまな社会課題の解決に向け、若者たちが声を上げ、動き出している。デジタル環境を活かしてゆるやかにつながり、リアルな現場で連帯を深めるといった、従来の組織的な活動とは違う、新たな形の政治参加を模索する活動家たち。「Z世代」を中心とする若い人の声を、政治や市民社会は受け止めていけるのか。時代背景を読み解きながら、活動家たちの素顔を探る。

当事者の言葉から始まる共感と憤り

 「最近は眠れていますか?」「希望していた眼科の診察は受けられましたか?」8月下旬、東京出入国在留管理局の面会室で、外国人支援団体「BOND(バンド)」の学生メンバー真栄田早希さん(22)は、アクリル板越しに座るアジア国籍の男性にマイクを通して話し掛けた。男性は難民認定を申請しているものの、数ヶ月前に同局施設に収容されたという。「当事者の言葉を直接聞いて、今の入管で起きていることを知る。それが、日本に暮らす外国人の権利や命の安全を守る出発点になる」。 収容された外国人との面会に通う意義をそう語る。

 2021年春、新型コロナ感染拡大の真っ只中で大学生活が幕を開けた。通学はままならず、思うように活動できない日が続く中、高校時代の友人の誘いである写真展に出掛けた。そこで目にしたのが、同年3月に名古屋出入国在留管理局で収容中に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=の遺品や遺族の写真だった。交際相手の暴力から逃れ、収容所で適切な医療措置を受けられないまま亡くなったウィシュマさんの死に、心が揺さぶられた。学生が参加できそうな複数のボランティア団体を調べ、「BOND〜外国人労働者・難民と共に歩む会」にたどり着いた。ただ、当初は「外国人の問題に特別な怒りや共感があったわけでない」という。

 当時、政府による入管法改正案の提出を巡り、BONDなど法案に反対する市民団体が街頭デモを続けていた。外国人の問題を学びたいという思いと、街頭活動の集団に加わる抵抗感とを「天秤にかけていた」と真栄田さん。大学2年の9月、当日まで参加を迷っていた街頭デモに加わり、初めて100人ほどの支援者の前で抗議文を読み上げた。在留外国人の現状に問題意識を持つ人の多さや熱量に驚き、「何もできない」と思っていた気持ちは一変した。街頭活動に参加していたウィシュマさんの妹ワヨミさんら遺族とも交流する機会ができ、ウィシュマさんの死因や入管職員の対応への調査が十分になされないことへの無念さが伝わってきた。「自国でも多くの苦労を経験し、一生懸命、日本語を学んできた。それだけ努力を重ねてきた人がなぜ日本でこんな目に合わなくてならないのか」。入管制度への不信と憤りは強まった。

東京出入国在留管理局に収容された外国人との面会を前にBOND学生メンバーの後輩と打ち合わせを行う真栄田さん=東京都港区、8月29日

現実を見つめる 差別や偏見乗り越える助けに

 東京都生まれ。希望していた中高一貫の私立女子校へ進学したものの、周囲の能力主義的な価値観や協調性を求められがちな友人らとの関わりに息苦しさを感じた。そんな中学3年の時、特殊詐欺事件で受け子を担った男性の裁判を傍聴した。公民の授業の一環だった。自分と年齢は近く、弱々しい声の被告人に「犯罪者」という印象は持てなかった。経済的な困窮や家庭環境など、周囲に理解されない環境の中で苦しんでいた被告人の様子が伺えた。環境や事情は異なるものの、自分が感じていた息苦しさに重なった。「当事者を非難し、罰するだけでは解決しない問題がある」。その気付きが法曹を目指す原点となった。

 中央大法学部に進学して1年目、オンライン署名の普及に向けた参加型講座に応募し、裁判傍聴を学校の授業に取り入れることを求める署名活動を行った。活動がインターネットの記事で紹介されると、思い掛けないコメントがネット上で寄せられた。「教員の負担も考えろ」「被害者の気持ちを考えていない」。真栄田さんは「伝えたい真意や問題の論点をすり替えるようなコメントが、一見正論にも思えてしまう。それらにコメントに『いいね』と多くの人が同調する怖さを感じた」という。

 難民や外国人労働者を支援するBONDにも、外国人に対する差別や偏見をあおるようなコメントが寄せられることは少なくない。しかし、真栄田さんは「既に国内に住み続ける外国籍住民の人権をいかに守るかという問題は、そうした非難とは本来、別の議論のはずだ」と話す。バブル期以降、途上国から技能実習生を受け入れる制度は安価な労働力確保の手段として利用され、オーバーステイ(超過滞在)の外国人を事実上、黙認してきた。施設から一時的に収容を解かれる仮放免者は、就労や国内での移動を制限され、困窮する人が後を断たない。「国のご都合主義を当事者の自己責任だとするのは間違っている」と真栄田さん。「文字や映像だけの情報を基に批判しても、現実は変えられない」とし、仮放免中の外国人を囲んで現状を聞く催しの開催にも力を入れる。外国人の置かれた実情を多くの人に肌身で知ってもらうことが、偏見を乗り越える一助になると信じている。

苦しむ人と一緒に立ち向かえる弁護士に

 今年6月に成立した改正入管法では、永住資格を取り消す対象者を税金の滞納者や入管法違反者などにも拡大し、日本に暮らす外国人の立場を一層不安定なものとした。難民申請が3回目以降の人を強制送還の対象に定めた改正法も施行。難民条約の批准国である日本は、迫害から逃れた外国人を難民として受け入れる義務があるものの、2023年の認定率は3.8%と低い水準に留まる。

 「入管庁や政府は、当事者に『ルールを守れ』という前に、まずは自分たちが憲法と国際法を守ってください」。改正法の審議が始まった今春、都心の駅前や永田町の街頭に立って声を上げた。議員事務所に電話を掛けて外国人を取り巻く実情を訴えた。改正法成立を知った時は涙が止まらなかった。その時、共に活動してきた難民申請中の男性が「泣かないで」と笑顔で励ましてくれた。「外国人は、決して弱くて支援を受けるだけの立場ではない」と感じた。「苦しんでいる人と一緒に怒って立ち向かえる人が、実は一番優しい」ということを活動を通じて学んだ。

 大学卒業後は、労働者や外国人の権利擁護を進める弁護士を目指して法科大学院へ進学する。入管施設の運用や難民認定の審査は、入管庁が裁量権を握り、裁判や要請活動だけでは変わらない理不尽さを目の当たりにした。だからこそ「社会的な力を持って現状を変えられる一人になりたい」と将来を描いている。

同局前で、入管施設における外国人の長期収容を止めるよう訴える街頭活動でマイクを握る真栄田さん(中央)。当日は収容施設の中にいる被収容者が応える声が街頭まで聞こえた=2023年8月、東京都港区©︎BOND提供

真栄田早希(まえだ・さき)
 2002年、東京都葛飾区出身。中央大法学部4年。2021年5月より「BOND〜外国人労働者・難民と共に歩む会」の学生メンバー。日本に生まれ育ちながら在留資格がなく、就学や就職が困難な子どもたちに在留特別許可を与えるよう求める全国的な署名運動にも参加し、駅前の街頭や大学の学園祭などで署名を募った。昨年11月と今年4月には、各地で支援に当たる団体・個人でつくる市民連合を代表して出入国在留管理庁に提出。BONDの活動の一環として、当事者の外国人が市民向けに現状を語る「仮放免者の話を聴く会」の運営にも携わる。

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