2013年からの生活保護費の減額について、最高裁が「違法」との判決を出したことを受け、3月から差額の追加給付が順次、始まっています。しかし、なお高裁で裁判が継続している原告らに対し、国は2月20日の通知で、「確定判決が出るまで追加給付をしない」との方針を打ち出しました。即時の追加給付を求め、「いのちのとりで訴訟」が高裁で係争中の原告らと弁護士が3月24日、最高裁と厚生労働省に要請行動を行いました。
いのちのとりで訴訟 国が2013年から2015年にかけ、段階的に生活扶助基準を平均6.5%、最大10%引き下げたのは、生存権を定めた憲法25条に違反するとして、生活保護の利用者らが減額の取り消しを求めて訴えた。提訴は2014年から2018年にかけて29都道府県の地裁で行われ、原告の数は計1000人を超えた。2023年4月の大阪高裁(原告敗訴)と2023年11月の名古屋高裁(原告勝訴)で判断が分かれ、2025年6月27日に最高裁が「引き下げは違法」とする統一見解を判決で示し、国に減額処分の取り消しを求めた。厚生労働省は行政法学者らを含む「専門委員会」で最高裁判決への対応を協議。判決で違法とされなかった「ゆがみ調整」を再実施の上、新たな基準を設けて2.49%減額し、従来の減額幅4.78%との差額を追加給付。原告についてのみ、特別給付金を上乗せ給付するとした。2026年3月から各自治体で追加給付が始まっている。

9訴訟が最高裁で係属中
全国の裁判所で、いのちのとりで訴訟が争われたのは31件。このうち21件で判決がまだ確定していません。最高裁判決以降に高裁判決が出た富山、石川、三重、青森、神奈川、宮城、沖縄、岡山の各訴訟について、国は上告受理の申し立てをせず、判決が確定しました。一方、最高裁判決以前に、高裁で原告勝訴となった福岡、京都、札幌、埼玉、広島、原告敗訴となった秋田、兵庫、佐賀、熊本の9訴訟は最高裁に係属中で、いつ判決が言い渡されるか見通しが立っていません。
24日の要請行動は主にこの9訴訟の原告らに即時の追加給付を求める目的で行われました。
原告、弁護団はまず最高裁に対し、「10年以上一致団結して闘った原告らの間に、判決が確定しているか否かで、追加給付の支給時期について著しい不正義が生じている」として、9訴訟について国側の上告申立ての不受理か、弁論を開いて速やかな判決を出すことを求めました。
判決が未確定でも直ちに追加給付を
厚生労働省に対しては上野賢一郎厚労相あてに要求書を提出し、以下の4点について、1カ月以内の回答を求めました。
1 )訴訟係属中の原告についても、判決が確定している原告と同様に、直ちに追加給付を行うこと
2 )原告側が控訴審で勝訴判決を得て、現在、最高裁判所に係属している訴訟について、上告受理申立てを取り下げること
3 )すべての対象者が漏れなく追加給付を受け、かつ、不服申立ての機会を保障されるよう、制度構築と周知を徹底するとともに、問題が生じた場合には、その都度、柔軟な運用改善を行うこと
4 )すべての生活保護利用者に対する真摯な謝罪、違法な保護基準改定に至る事実経過と原因の調査と解明、生活保護基準部会への当事者参加など、実効性ある再発防止策を講じること
「非常にフラストレーションの残るやりとり」
厚労省保護課と原告らの対面交渉は1時間以上に及びました。交渉は非公開だったため、事後に厚労省保護課と大阪訴訟原告代理人の小久保哲郎弁護士双方に取材しました。
追加給付について厚労省側からは「判決が確定していない人でも、訴訟の効力が及ばないところ(2013年の減額決定後、最初に冬季加算や収入認定の変更があって以降)については速やかに給付する」と回答がありました。
上告申立ての取り下げについては「まだ裁判が続いているのでこの場ではお答えしかねる」。生活保護利用者への周知徹底については、相談センターを3月に立ち上げ予定で、本格的な周知は夏ごろを予定していると回答がありました。
交渉後の記者会見で、小久保弁護士は「紛糾し、非常にフラストレーションの残るやりとりだった」と振り返りました。
「厚労省の言い分の裏を返せば、判決が確定していない人には払えないということになる。すでに北九州市では福岡訴訟の最高裁判決を待たずに保護変更処分後の部分だけ追加給付を始めたが、判決確定後と2回に分けて払うことになり、原告に上乗せする特別給付はさらに遅れる。最高裁判決は統一見解なので、今後の判決で国が負けることは明らか。それなのになぜ個々の訴訟の判決確定まで支給しないのかと聞いたが、厚労省から返答はなかった」(小久保弁護士)
顔写真や世帯全員分の戸籍謄本の提出を求められるなど、必要書類の厳格さにも改善を求める声が上がっています。DVや虐待により家を出た人の扱いについても、厚労省から「生活保護の支給は世帯単位のため、減額決定当時の世帯主しか追加給付を受けられない。個別対応はできない」という見解が示されました。

区別して差別して、まだ出し渋り
交渉後の記者会見では原告らから謝罪と早期給付を求める声が相次ぎました。
◆北海道訴訟の女性原告
札幌から来ました。厚労省と話し合いをした率直な感想は、「謝らないんだな」ということです。最高裁で国が間違っているとされたのに、原告や生活保護を受けている人に謝罪がない。私は幼い時から「自分が間違ったことをしたら素直に認めて謝りなさい」と教わってきました。一般の人ならそれが当たり前だと思います。厚労省は、国が間違っていると認めない、謝らない。
判決が確定した原告と係争中の原告で差別をする。そして原告になった人となっていない人で差別をする。生活保護を受け、生活が大変で苦労してきたのはみんな同じ。区別をして差別をして、それでもまだ出し渋りをする。10年以上に及ぶ裁判の中で、亡くなった原告がたくさんいるのに、そうした対応を貫き、まるで私たちに「早く死んでくれ。そうすれば国が払うお金が少なくなるから」と言っているように聞こえました。あきれるというか情けないというか。
一日も早く、確定していない原告に対しても、原告になれなかった生活保護利用者に対しても減額分の追加給付をしてほしいと思います。
省庁を一回解体した方がいいと思うほど憤っている
◆埼玉訴訟の男性原告
50代です。厚労省は特別給付を上乗せするか否かで、原告と原告ではない人を区別した。最高裁で国は敗訴し、減額処分の取り消しを命じられている。対応を分けていいなんて、最高裁は言っていないんですよ。処分取り消しというのは、原告でも原告以外でも一律に同じ対応をしなさいということなんですよ。
さらに屁理屈で、原告の人が訴訟を継続中の場合については出さずに、それ以外は追加給付を支払うと、またおかしなことをいう。なぜそんなにややこしいことをやるのか。全員に減額分を払えばいいだけのことなのに、なぜそれができないのか。最高裁で負けたんですよ、国は。亡くなる原告が増えていく中で、どうしてそういうことができるんですか。省庁を一回解体して作り替えた方が早いと思うぐらい憤っています。まだまだ確定していない訴訟があり、判決がいつになるかわからないという状況で、私たちの生きているうちに払ってくれるのかと。
命があるうちに解決していただけたら
◆兵庫訴訟の男性原告
最高裁判決に従うのが国の努めだと思っています。全国でこれだけたくさんの方が苦しんでいる。厚労省の側から、一人でもいいから「ごめんなさい」という言葉が欲しかった。地元に帰って今日の報告をするのですが、原告のみなさんに合わす顔がありません。全国民の力で、生活保護がまともに支給されることをお願いしたいと思います。私は88歳になりました。命があるうちに解決していただけたらと願っています。

最高裁判決後も相次ぐ原告の訃報
いのちのとりで裁判の原告は高齢者や持病のある人が多く、最初の提訴から最高裁判決までの11年間に全体の2割以上にあたる232人が亡くなりました。最高裁判決後も北海道訴訟の3人、福岡訴訟の1人など、訃報が相次いでいます。厚労省通知は、「死亡した人については追加給付をしない」としています。弁護団からは「これ以上、給付を先延ばしにすると、もらえる人ももらえなくなる。そういうことが現実に起こっている」という訴えもありました。
いのちのとりで裁判全国アクションの共同代表を務める尾藤廣喜弁護士は「われわれは謝罪、原因究明、生活保護基準部会への当事者参加などを求めている。そういうことをやらないと本当の意味での再発防止にならない。しかし、この点について、厚労省から回答がないままだ。最高裁で全面的に敗訴し、遡って差額を給付しなければいけない事態に陥ったというのは、前代未聞のことだ。なぜそうなったのかということを明らかにしないと再発防止にならない」と訴えました。
尾藤弁護士は2013年当時、生活保護の減額を推進した片山さつき財務相、高市早苗首相らの名前を挙げ、「こういう人たちがいま政権の中枢にいて、なんの追及も受けず、反省もない。総額2000億円の追加給付を払わなきゃいけないということになっても、誰も責任を取らない、謝罪をしない。そんなこと許されるわけがない」と語気を強めました。
4月2日に行政不服審査請求キックオフ集会
いのちのとりで裁判全国アクションは、新たな基準で減額後に算定された「追加給付額」について一斉に行政不服審査請求を行う予定で、全国の生活保護利用者に呼びかけています。4月2日12時から、参議院議員会館とオンライン(ZOOM)の併用で、キックオフ集会を開く予定です。問い合わせは、いのちのとりで事務局(inotori25@gmail.com)もしくは、全国生活と健康を守る会連合会(03-3354-7431)へ。

