秋田県秋田市が生活保護の「障害者加算」を誤って過大に支給し、対象者に過支給分の返還を求めている問題について、民間団体の「秋田生活と健康を守る会」が14日、市内で対象者向けの相談会を開いた。訪れたのは3人。うち2人は約100万円の返還を市側から告げられていた。受給者によって市の対応は異なり、中には十分な説明を受けないまま、保護費を減額された人もいた。返還ありきの秋田市の対応に、対象世帯は不安を募らせている。
秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ世帯に障害者加算を過大に支給。該当する世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円になる。返還対象額は、最も多い世帯で149万円に上る。
減額、返還…「頭が真っ白」
相談会に訪れた女性は前日の13日、秋田市の生活保護窓口を訪れた際に過支給ミスの対象者であると初めて知らされたという。女性は精神障害者手帳2級を持つ。「あなたは障害者加算の『対象外』であるため、11月から障害者加算を保護費から削る」とのことだった。
削減額は月約1万6千円。これまでの月約8万円(家賃補助を除く)の保護費でも、生活は苦しかった。物価高騰の中、そこからさらに1万6000円を引かれる――。「頭が真っ白になりました」
窓口ではさらに、5年分の過支給額(約93万円と推定)を返還してもらうことになる、と伝えられた。「加算がなくなると言われただけで気が動転してしまった。返還と言われて、もう何も言えなくなりました」
ミスと説明せず、機械的に減額
相談会に参加した男性は8月半ば、市側から突然、障害基礎年金の手続きをするよう勧められた。手続きを渋ると、1週間ほどして電話があり「実は市のミスで生活保護費の過支給があったので手続きをお願いしたい」という説明を受け、翌9月から過支給分を減額すると伝えられた。さらに後日、「5年分の過支給額、合計97万円を返還してもらうことになる」と告げられた。
別の男性は、秋田市のミスだったという説明を一切受けることなく、過支給分を減額された。市からは7月に「障害者加算が過支給だったので来月から減らす」という説明を受け、予告通り、8月から2割近い生活費(家賃補助を除く)を削減された。それから3週間ほどたった8月下旬、電話で初めて「過支給は秋田市のミスだった」という説明を受けた。さらに「5年分の過支給額、93万円も返還してもらうことになる」と告げられた。
3人に対する市の対応はばらばらだ。過支給は行政のミスによるものだという説明もないまま、機械的に減額された世帯すらある。相談会に参加していない30数世帯に、秋田市がどのような対応をしているのかは不明のままだ。
「返還を求めない方法、検討したのか」
相談会を開いた「秋田生活と健康を守る会」の後藤和夫会長によると、秋田市は返還について「月々1000円から受け付けます」とすでに分割払いの説明までしているという。
「分割だからいいということではない。自分が受け取れる保護費だと信じて生活に充ててきた受給者の実態を考慮せず、はっきりした方向性も示さないまま、個別に返還の地慣らしだけを先行させている」と批判する。
生活保護法80条は「保護の実施機関は、保護の変更、廃止又は停止に伴い、前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合において、これを消費し、又は喪失した被保護者に、やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができる」と規定している。行政には、法にのっとって返還を免除する裁量がある、ということだ。
後藤会長は「返還を迫る前に、80条を基に返還を免除する方法を秋田市は検討したのだろうか?」と疑問を呈する。
穂積志・秋田市長は今月3日、「認定誤りのあった世帯の方々に深くおわびします。今後、国や県と協議し、当該世帯に寄り添った対応をしていきます」とのコメントを発表した。「それならば、受給者に『返還していただくことになります』と一方的に通告するのは、本来ならあり得ない」(後藤会長)
近年は役所のミスによる過支給の返還請求が、裁判や知事への審査請求で「取り消し」となった例が複数ある。
後藤会長は「秋田市は生活保護行政が目指すものと真逆のことをしようとしている。対象世帯に返還を求めるのであれば、行政不服審査法に基づく審査請求という形で、県知事に受給者には返還義務がないことを訴えていく」と話した。