2016年から2022年まで放送された地方局のバラエティ番組内で、セクシュアルハラスメントを受けたとして、出演していたフリーアナウンサーの女性が、株式会社あいテレビ(愛媛県)に約4100万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回期日が10月3日、東京地裁でありました。原告の女性が法廷で意見陳述し、被告は請求棄却を求めて争う姿勢を示しました。
あいテレビセクハラ訴訟 女性はあいテレビと業務委託契約を締結し、2016年〜2022年放映の深夜番組の司会をした。当初、女性に伝えられた番組のコンセプトは「俳優・画家のAと県仏教会会長のBが、酒を酌み交わしながら、『ちょっと大人の夜』を提供する」。しかし、実際には「エッチな話に罪はなし!?」「放送コードギリギリのトークが売り」などのコピーをつけて、下ネタトークやセクシュアルハラスメントが反復かつ継続的に行われた。身体に触る、服のファスナーを下ろすなどの直接的なわいせつ行為もあった。収録に携わっているテレビ局のスタッフ約10人も状況を積極的に容認。放映に際しカメラワークやテロップ、イラストで性的な意味を強調し、公共の電波を使って、女性の尊厳や人格権を侵害した。女性は体調を崩し、2021年11月に降板。重度のうつと診断され、回復の見込みが立っていない。
原告本人が意見陳述
法廷では原告の女性本人が衝立の向こうから意見陳述をしました。アナウンサーであることが感じられるなめらかなよく通る声で、しっかりとした語り口調でしたが、被害の場面になると、数秒、言葉に詰まる場面もありました。
私はフリーランスのアナウンサーとして、6年弱の間、株式会社あいテレビ制作のバラエティー番組に進行役で出演しました。番組収録にかかわる場や放送において、労働者としての人権が守られることなく、男性出演者やスタッフらから繰り返し執拗なセクシュアルハラスメントを受け、心と体を病み番組を降板しました。狭く閉鎖された場所で、男性ばかりの出演者とスタッフらに囲まれ、逃げ場のない状況で、唐突に性加害を受け、見せ物のように嘲笑され、それを公にさらされる耐えがたい体験は、決して忘れられるものではありません。
この番組の制作現場には、ハラスメントが発生する要因となるあらゆる条件がそろっていました。契約書もなく、唯一渡されたのは番組提案の資料だけでした。そこに書かれた元々の番組コンセプトには性的な内容を感じさせる文言は一切なく、著名な男性タレントと地元の有力者である僧侶が酒を酌み交わしながら語り合うというものでした。収録が始まってみると、台本は無く、打ち合わせやトークテーマの提供もありませんでした。収録時間は最小限でカメラは回しっぱなし、カンペの指示も何もない中、私は、テンポよくトークテーマを変えていくように指示されていました。
台本がないので、セクシュアルハラスメントはいつも唐突に始まりました。出演者らの卑猥な下ネタや執拗な性的いじりを、スタッフらはいつも大笑いして盛り上げ、私がどう反応するかおもしろがっていました。スタッフも積極的に性的な話題になるよう加担し、セクシュアルハラスメントはどんどんエスカレートしました。私に隠して事前に著名タレントにハンディカメラを渡しアダルトビデオの撮影シーンのようになるよう仕向けました。衣装のワンピースの背中のファスナーを下ろされても大笑いして撮影は続行され、放送もされました。お酒で酔っ払った男性出演者、男性ばかりのスタッフ、頼れる人も助けてくれる人もなく、閉ざされた収録場所で、男性たちの視線にさらされて性的な辱めをうけ嘲笑される恐怖は、今でも心と体に張り付いています。何とかしようと、収録本番中や機会を探して複数のスタッフに改善を訴えましたが、状況は変わりませんでした。人として認められていない惨めさ、尊厳を踏みにじられる屈辱と悲しさで、抵抗する気力も奪われていきました。それでも、大切な仕事を続けるためには進行役として番組を成立させなければならないという一心で、必死に強がり、声がかれるほど笑い続けるうちに、心と体が壊れてしまいました。(中略)
この提訴を通じて、奪われた尊厳を取り戻したいと強く願います。そして、ハラスメントに寛容な業界の風土や因習が改善され、弱い立場の人たちが性的搾取ややりがい搾取されることなく安全に働ける場となるように、同じように苦しむ人たちがこれ以上増えないための抑止力となるように、心から願っています。
被告「バーのママという演出」
裁判終了後、原告側弁護士らが東京都内で報告集会を開きました。民放労連の組合員、メディア関係者ら約50人が参加しました。

原告側はあいテレビに、女性に対する安全配慮義務違反があった、と主張しています。
一方、被告あいテレビ側は、安全配慮義務が一般に存在することは認めながらも、セクハラ防止が含まれるかどうかについては議論があるとして、争っています。
原告側弁護士によると、被告側の答弁書には、番組内のセクハラは「番組コンセプトは深夜のバー、原告はバーのママという演出」で、「視聴者からのクレームはなかった」と書かれていました。番組内容がセクハラであるという認識も「争う」としています。また原告の女性が、「しばしば苦痛を訴えたが改善されなかった」と主張していることに対し、制作側は「女性の訴えに気づくことができなかった」と否定しています。
BPOの認識も問われる
この番組についてはBPO(放送倫理・番組向上機構)が2023年7月18日、「人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまでは言えない」との判断を示しました。決定理由の中で、BPOは「表現内容に着目して放送局の責任を問うことは表現の自由に対する制約につながりうるので、人権侵害ありとの判断には謙抑的であるのが妥当である。本件番組では眉をひそめたくなるような言動もあるが、人権侵害に当たる言動があったとは認められない」としています。
原告代理人の伊藤和子弁護士は「被告は反論の中でBPOの決定を使ってくると思う。しかしBPOの人権意識も問われなければならない。一般社会ではセクハラと認められるのに、テレビ番組だけ例外が認められることはあってはならないと思う。さまざまな運動による世論喚起が大事になってくる」と話しました。
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