韓国・独立メディア ニュース打破 女性PDの活躍 尹錫悦政権との闘いの記録ドキュメンタリー『非常戒厳前夜』からみる(下)

記者名:
ニュース打破の朴鐘華PD

映画『非常戒厳前夜』の中で女性記者が唯一登場する場面がある。朴鐘華(パク・ジョンファ)PD(プロデューサー)が柳熙林(リュ・ヒリム)放送通信審議委員長を追及する場面だ。

柳委員長には、ニュース打破の報道を引用した放送局への苦情申し立てを同委員会に行うよう、親戚、友人・知人を煽動した疑いがあった。苦情の発信元は柳氏の関係者ばかりで、内容も180件が全く同一のものだった。

朴PDはこのインタビューをするためにとても苦労したという。事務所を訪ね、電話やメールもしたが、返事がなかった。毎朝9時の出勤前に事務所前に行って、1時間ほど待った。9回訪ねたが、柳委員長は貨物エレベーターで逃げるなどしてなかなかインタビューできなかった。

この日、柳氏が社外で昼食の約束をしたという情報を得て、事務所前の車寄せで待ち、ついに柳氏が出てきたので質問を始めた。柳氏が質問を避けて、結局は車に乗って逃げる姿をすべてカメラに収めた。

逃げる柳熙林放送通信審議委員長にインタビューし続ける朴鐘華PD。映画『非常戒厳前夜』より。

女性記者として

朴鐘華PDは1989年、韓国の最南端、全羅南道の光陽生まれ。大学生の時、朴槿恵(パク・クネ)政権の時にあたり社会に対してもどかしい思いでいっぱいだった。その頃誕生したニュース打破を知り、入りたいと思ったという。

2017年、ニューメディアチームのプロデューサーとしてニュース打破に入った。数年後の2021年から取材チームに入り、PDになった。

ニュース打破の記者33人中、女性記者は12人。約4割だ。韓国で女性記者は3割程度と言われている中では高いが、チーム長など管理職にはまだ女性はいない。

女性記者として揶揄されたり攻撃を受けたことがあるかと朴PDに尋ねると、「2024年、李眞淑(イ・ジンスク)放送通信委員長候補者を検証する報道を準備していた時、李候補者と共に準公共放送MBC(文化放送)で労組弾圧をした罪で最高裁で有罪判決を受けた金張謙(キム・ジャンギョム)「国民の力」議員(当時MBC社長)を国会で取材したことがあります。金議員は私と撮影記者を「暴力的な取材」として国会の事務所への出入り禁止を要請し、自身のフェイスブックに手の甲を引っかかれたと書きました。 金議員の書き込みにキム議員の支援団体の人物が私を撮影した写真に『この人か。印象が特異で写真を撮った』とコメントを付け投稿しました」と語った。朴PDはこうした攻撃コメントに慣れているのであまり気にしなかったと付け加えた。

記事「金張謙 申告でニュース打破に懲戒 無編集の動画公開」より

女性であり記者であることでよかったこと、不利益を被ったことについては、「性別によって取材の力量に差があるとは思いませんが、状況によっては女性の取材陣の方が適している時があると考えます。たとえば、性暴力事件を取材する際は被害者の多数が女性なので、女性取材陣が有利かと思えます。また、私の経験では、荒々しい取材環境であればあるほど、女性の取材陣が取材しやすい時もあると思います。 たとえば、宗教団体や集会に潜入する際にあまり目立たなかったり、あまり警戒されなかったりというメリットがあるようです」と語った。

右派勢力の取材をして

「尹錫悦政権となり、ニュース打破が家宅捜索まで受け、2年間本当に慌ただしく仕事をしました。ドキュメンタリーを8〜9本、2ヶ月間で作りました。先輩たちと徹夜しながら、打破の事務所で暮らすようにして作りました。 そして初めて情報提供を受けて取材に取り組んだのが、柳熙林放審会委員長のクレーム教唆疑惑です。その後、明泰均ゲート、さらに、リバクスクールというコメント操作チームの事件を報道しました」

リバクスクールとは、李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)を称賛するニューライトの歴史教育団体で、2人の頭文字をとって名付けられた。
「リバクスクールだけでなく、最近極右団体に参加する10代、20代が急速に増えています。これは、キリスト教勢力が背景にあります。今やこの勢力がアメリカの極右政治の理論を輸入して韓国に広めているのです。今、アメリカと連携して活動する極右派を取材しています」と朴PDはいう。

大統領選挙の開票では20代男性の70%が「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)と「改革新党」の李俊錫(イ・ジュンソク)を支持した。しかし一方で、20代30代の女性たちはアンチフェミニズムの尹政権に対して批判し続け、弾劾や罷免を求めるデモにもどの世代よりも多く参加した1
「この両面を見ないと韓国社会の現状はわからないでしょう」と朴PDは指摘する。

PDは記者と同じく取材をして記事を書くが、他にカメラを持って現場に行ったり、ドキュメンタリーの編集・制作もしたりする。朴PDは「時間に制約なく、取材活動ができる。1つの素材に2、3年かけて記事を書くことができる。現場取材で突破していく時、取材が成功した時に感じる快感がとても大きい。現在、チームワークもよく、とても満足している」と語った。

https://youtu.be/UGalsqPR9k0?si=Jc1ljlLNF0wGs3W1 https://newstapa.org/article/XmVnG
記事「『平和の少女像」毀損犯もリバクスクール講師」より

ソウルの在韓日本大使館前で日本軍「慰安婦」被害者に対する謝罪と賠償を要求し続けている「水曜デモ」。そのデモを妨害する行為が6年ほど前から続いている。妨害行為を主導するキム・ビョンホン氏もリバクスクール講師だ。
「キム・ビョンホン氏が私の記事により侮辱されたと警察に訴え、警察署に出向き事情聴取を受けています」と朴PD。ニュース打破は弁護士をつけ全面的に彼女をバックアップしている。

リバクスクールの報道は、先の大統領選開票の直前、5月30日にスクープ報道され、大きな反響を呼んだ。
4月から韓国で劇場公開していた『非常戒厳前夜』は6万5000人を動員。大統領選の約1週間前にはYouTubeで無料公開し約300万回、視聴された。
この期間にニュース打破の後援者は1万人増え、6万2000人になった。

「4万人から5万人になるまでに約3年かかったことを考えると、どれほど急増したのかわかっていただけると思います」と朴PD。「いくら権力者が言論弾圧しようとしても、勇気を出して、記事で鋭く批判する、そういう批判精神が生きていなければならないと思います」と付け加えた。

  1. 尹政権下で進行していた女性政策の後退もまた日本メディアではほとんど報じられていない。岡本有佳編著『弾劾可決の日を歩く ”私たちはいつもここにいた”』(タバブックス)参照。 ↩︎



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