熊本・健軍駐屯地に長射程ミサイル配備 全国28の市民団体が撤回と住民説明会求め小泉防衛相に申し入れ

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半径2km以内に学校が28、保育施設が29。そんなところにミサイルを配備?

2026年3月31日、熊本市東区の陸上自衛隊健軍(けんぐん)駐屯地に国産の長射程ミサイルが「配備」されました。この日を境に呼称も「12式地対艦誘導弾能力向上型」から「25式地対艦誘導弾」に変わりました。長射程ミサイルの配備は、敵基地攻撃能力を認める安保三文書が具体化したもので、平和憲法下での日本の防衛にとって大きな曲がり角です。この日、地元の人の案内で、駐屯地周辺を取材しました。地域住民不在の安全保障政策の危うさが見えてきました。一日の様子を時系列に沿って報告します。

半径2km以内に学校が28、保育施設が29

【午前10時】

熊本市東区の健軍駐屯地正門前に市民団体が60人ほど集まり、横断幕を広げて、ミサイル配備に抗議。

道路を挟んで向かい側では迷彩服を着た右翼団体4〜5人が、大音量で軍歌をかけ、「ジジイ、ババアは早く家に帰って寝ろ」「この非国民どもめが」などとマイクを使って罵っている。青信号に変わると、横断歩道をダッシュして市民団体側に突撃しようとすることも何度かあった。警察官が20〜30人出動し、市民団体、右翼団体の双方に張り付き、行動を抑制していた。市民団体のスピーチもマイクを使用していたが、1〜2m離れるとほとんど聞き取ることができない。

陸上自衛隊健軍駐屯地正門前。道路をはさんで右手にマンション、左手奥は熊本市民病院=熊本市東区

駐屯地のすぐ西側には6階建てマンションが建ち、「入居者募集中」の懸垂幕が下がっている。南側には熊本市民病院が隣接しており、駐屯地から半径2km以内に小学校が12校、中学校が7校、高校が8校、大学が1校、保育施設が29カ所ある。近くに住む40代女性は「商店街で買い物をするなど、同じ生活圏で、私たちはずっと自衛隊と共存してきた。こんなところに長射程ミサイルを置いて、もしも他国の標的とされたら逃げようがない」。

健軍駐屯地周辺の保安施設一覧(作成:平和を求め軍拡を許さない女たちの会)

【午前10時30分】

正門前で、平和を求め軍拡を許さない女たちの会・熊本の海北由希子事務局長が小泉進次郎防衛相、鳥海誠司・陸上自衛隊西部方面総監あての要請書を読み上げ、健軍駐屯地司令業務室長に手渡した。要請書は熊本県県内19、県外9の計28団体の連名。

自衛官の要請文を手渡す海北由希子さん(左)=熊本市東区

主権者の人権を二重三重に踏みつける安全保障

ただ一度の説明もなく強権的に進められている、健軍駐屯地への長射程ミサイル配備・健軍駐屯地内に新設予定の「覆土式弾薬庫2棟」に強く抗議し、撤回を求めます。
昨年(2025年)8月29日、全国に先駆けて「長射程ミサイル能力向上型の健軍配備」が九州防衛局長から木村敬熊本県知事と大西一史熊本市長に伝えられました。そもそも敵基地攻撃能力を持つこと自体、憲法違反であり、国会での議論を経ず閣議決定だけで進められていて、手続き上の問題も厳しく指摘されています。その後、当時の中谷元防衛相を始め、現職の鳥海西部方面総監など、様々な責任ある役職の方々が「国は住民に丁寧な説明をする必要がある」とコメントし、住民の理解を求める必要性について発言しています。
大分県や佐賀県、宮崎県、鹿児島県、南西諸島、先島諸島の地方自治体では、防衛省の訪問による対面式での住民説明会が開催されております。昨年10月、宮崎県では新田原空自基地のステルス戦闘機F-35Bの離発着訓練についての住民説明会が計10回開催されました。住民からの要請により自治体が窓口となって国に住民説明会の開催を要請し、実現しています。最近では今年3月2日に中距離ミサイル部隊の陸上自衛隊与那国駐屯地(沖縄県与那国町)への配備について、防衛省が町民への説明会を開きました。
今回の長射程ミサイル配備は日本に住むすべての住民の関心事であり、県外からも「直接対面式の意見交換会を開くのが筋だ」と怒りの声があがっております。2月23日には、自衛隊員の命と憲法を守ろうと日本各地から集まった1200人以上の市民が「平和の輪」で駐屯地を囲みました。
日本国憲法第13条に「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」、第14条に「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」とあります。
他所では開かれてきた説明会開催の要望さえ、熊本では無視され、そのために募る住民の不安に対して、「(ミサイル配備は)抑止力を高めることにつながっている。その効果の方が大だ」(内倉浩昭・統合幕僚長、3月13日記者会見)と開き直りともいえる発言までなされています。なぜ主権者である住民が、このように絶対服従とも言うべき理不尽な扱いを受けなければならないのでしょうか。
現在の世界情勢をみれば、敵基地攻撃能力を高めることは、「抑止力」になるどころか、かえって周辺諸国を刺激し、更なる混乱と破滅的自体を招くことは火を見るより明らかです。主権者である私たち住民の人権を二重三重に踏みつけにし、強引に進められる「安全保障」は、いったい何のための、誰のための安全保障なのでしょうか。
熊本市は1995年7月27日、「平和都市」を宣言しています。再び戦争の惨禍を繰り返さないと宣言した熊本市に、日本初となる敵基地攻撃能力を持つ長射程ミサイルを配備させることなどございませんよう、よろしくお願い申し上げます。なお「(防衛装備品等)展示会」は、私たちの求める「対面での説明及び住民との意見交換会」とは全く別のものであり、長射程ミサイル配備と弾薬庫に関する説明にはならないことを申し添えます。

海北さんは「最後に個人的な気持ちを申し添えます」と言って、自衛官の目を見ながら続けた。「戦地への派遣命令が出ても命を賭けて従う必要はありません。自衛隊の高い救援技術は世界に必要とされています。みなさんを戦地に送らないために私たちも声を上げます」。

健軍駐屯地正門前に掲げられた手書きのボード=熊本市東区

【午後1時】

市民団体が熊本県庁を訪れ、木村敬知事あてに住民説明会の開催を国に要請するよう促す文書を提出した。「平和を求め軍拡を許さない女たちの会・熊本」の成田紀恵さんが読み上げ、県危機管理防災課の職員が応対した。

木村知事あての要請文を手渡す成田紀恵さん=熊本県庁

自治体は平和的生存権の保障を

木村知事は「長射程ミサイルの配備は国の専管事項であるため、県は意見を言える立場にない」とし、それ以上の踏み込んだ要請をしておりません。しかしながら、今回の長射程ミサイル配備は日本に住むすべての住民の関心事であり、県外からも「直接対面式の意見交換会を開くのが筋だ」と怒りの声が上がっております。(中略)
「地方自治」は憲法92条に保障された権利です。その基本原則である「地方自治の本旨」とは、住民一人ひとりの福祉の増進を図ることです。日本国憲法の保証する「平和的生存権」を含むすべての権利が保障されるよう努力することが地方自治体の責務です。(中略)
健軍駐屯地内に新設が予定されている覆土式弾薬庫2棟についても対面式での説明会の開催を求めます。弾薬庫を建て替える理由や、いざという時の避難方法など、自治体が「国民保護法」に基づき行う計画内容を住民に知らせるよう強く求めます。

展示会ではなく、対面、対話式の説明会を

九州防衛局は3月17日、健軍駐屯地内でミサイル関連装備品の展示会を開き、知事、熊本市長、県議、市議、地元の自治会会長、地元マスコミを招いた。木村知事は展示会の後、マスメディアの囲み取材にこう答えた。

「防衛力を高めるため既存のミサイルを更新するものであるという説明を受けた。これからも引き続き丁寧な説明を求める声に応えてほしいことを伝えて了解をいただいた」

成田さんらの不安は、知事が展示会を説明会と解釈しているのではないかということだ。

展示会に参加した自治会長らから「装備品について個別に説明を受けたが、質問には答えてもらえなかった」と聞いた。

「私たちは展示会ではなく対面での対話式の説明会を求めています」という成田さんらに、県危機管理防災課の職員は「私どもは説明会の開催を国に要望するだけ。その方式は国の方で考えられることですから」と繰り返した。

女たちの会の石本貴子さんが、ミサイル発射機搬入時の知事コメントなどの情報開示請求の結果を受け取りに、県庁の情報公開コーナーへ。危機管理防災課の別の職員2人が応対した。ミサイル配備や先島諸島からの避難への対応など軍拡関連事項を扱う職員は県庁に数人しかいないという。

女たちの会は、健軍駐屯地周辺の住民避難はどこの担当なのか、と防衛省に問い合わせた。防衛省の回答は、内閣府。内閣府に聞いた。「地元自治体ではないでしょうか?」。熊本県は「避難計画は熊本市では?」。

たらい回しの末、今も明確な答えを得ていない。

職員の手元には「国民保護法」の解説本が置かれていた=熊本県庁

海北さんは「今日、ミサイルが配備された。健軍駐屯地にミサイルがあることを前提に周辺住民の避難計画を立てた方がいいと思う。弾薬庫と病院や学校などの保安距離をどうするか、有事の時は何分以内にどちらに向かって避難するのか、具体的に計画を立てるには専門家の知見も必要。熊本地震からまもなく10年。あらかじめ備えておかなければ困ることは身に染みているはずです」と問いかけた。職員は「国民保護法」の解説本に手を置いたまま、うなずいた。

県庁のロビーから市民団体有志が、東京で開かれている院内集会「殺傷能力のある武器輸出解禁反対」にオンラインで出席。熊本の状況を話した。集会では小泉進次郎防衛相がこの日朝の記者会見で、健軍駐屯地へのミサイル配備に言及したことが明かされた。

県庁のロビーからオンラインで武器輸出反対の院内集会に出席した=熊本県庁

小泉防衛相の発言は以下の通り。

「防衛省としては、熊本県知事や熊本市長から、この取組について一定の評価をいただいたものと受け止めています。現時点においては、住民説明会を実施する予定はありませんが、熊本県知事、そして熊本市長からは、一般の方に向けた装備品展示の実施について御要望を頂いています。防衛省としては、これを真摯に受け止め、実施時期を含め、装備品展示の在り方について、しっかりと検討していきたいと思っています」

【午後3時】

市民団体有志の車に分乗して、健軍駐屯地付近を見学して回った。前述したように、病院や学校と非常に近いことに驚いた。熊本市民病院とは片側1車線の道路をはさんで隣接。敷地境界との距離は20mに満たない。熊本市立東小学校とも100mしか離れていない。

防衛省は火薬庫整備マニュアルの中で、病院や学校などの保安施設と火薬庫の保安距離について、「貯蔵量40tの場合550m以上」と定めている。

ミサイル本体のありか、国民に知らせず

海北さんらの不安はミサイル本体がどこに置かれるのかが、未だにわからないことだ。

健軍駐屯地には3月9日にミサイル発射機が搬入された。だが、保安距離の問題があり、ミサイル本体は置けないはずだ。一方で、ミサイル本体を格納できる大きさの覆土式弾薬庫の建設工事も進めている。海北さんらは、健軍の弾薬庫が完成するまで、大分県の請戸弾薬庫に置かれるものと思っていたが、こちらも3月末までの予定だった建設工期が遅れ、完成は未定に。

「いまミサイル本体が一体どこにあるのか、国民には一切知らされていないんです」(海北さん)

敷地を囲む樹木を同じ高さに伐採

車を降りて基地周辺を歩くと、敷地を囲む樹木が地上から1mの高さにバッサリと伐り揃えられていることに気づく。昨年春ごろから伐採が始まり、今年に入ってペースが加速したという。かつては花見の名所だったという桜並木も無惨に幹から伐られていた。

急ピッチで進む樹木伐採=熊本市東区

海北さんらが「いったい、なんのために樹を伐ったのですか?」と聞いても、駐屯地側からは「どこの樹? 伐られている?」とはぐらかされたという。

小泉防衛相は健軍からミサイルを撃つ可能性について、3月31日の記者会見で「一般論として、状況に応じて平素の配備先から必要な場所に移動して任務に当たることになるため、特定の場所への配備をもって、その場所で運用することになるわけではない」と回答した。しかし、1月26日に東京で開かれた防衛省交渉の席で、海北さんらは「熊本から撃つことが全くないとは言えない」との回答を得ている。

樹木の伐採はヘリの離発着の邪魔になるからか、はたまたミサイル発射訓練のためか。いずれにしろ、ミサイルの配備をもって一触即発の事態に備える自衛隊に変貌したのだ、ということが強く印象づけられた。