京都、大阪、奈良にまたがる西日本随一の文教都市に陸上自衛隊の弾薬庫が増設されようとしています。数年にわたりこの問題を追い、2本のドキュメンタリー番組を制作した毎日放送報道情報局の亘佐和子記者から寄稿をいただきました。2回に分けて掲載します。
人口25万人の学研都市にミサイル弾薬庫
京都・奈良・大阪の3府県に広がる「関西文化学術研究都市」の中に、陸上自衛隊祝園(ほうその)分屯地があります。ここに新たに弾薬庫14棟が建設されようとしています。
防衛省は2032年度ごろまでに、全国に弾薬庫130棟を増設する計画ですが、現在明らかになっている中で最も多いのが京都・祝園の14棟です。弾薬庫には長射程ミサイルが保管される可能性が高いとみられています。なぜこの場所なのか、長射程ミサイルは必要なのか、住民たちが防衛省に説明を求め続けています。
2023年12月、弾薬庫増設が突然発表され、住民たちを驚かせました。祝園分屯地は、京都駅から南へ電車で30分程度、京都府精華町と京田辺市にあります。東京ドーム100個分、470haの広大な敷地は、本州にある自衛隊の弾薬庫施設では最大級の規模ですが、全体が樹々に覆われていて、外から敷地内の様子は見えません。ここに現在、弾薬庫が何棟あり、どんな弾薬を保管しているのかについて、防衛省は「自衛隊の能力が明らかになるおそれがあり、お答えできない」としています。

祝園分屯地がある「関西文化学術研究都市」には、国立国会図書館関西館や多くの研究施設、企業、大学などが建ち、1980年代から90年代に住宅地が開発されました。学研都市全体の人口は約25.1万人(2025年4月1日現在、学研都市推進機構調べ)。分屯地の半径10km圏内には、奈良市、奈良県生駒市、大阪府枚方市、寝屋川市などの人口密集地があります。
「弾薬庫は有事の際に標的になる」「敵基地を直接攻撃できる長射程ミサイルの保管には納得できない」など、不安を感じた住民たちが、2024年3月、「京都・祝園ミサイル弾薬庫問題を考える住民ネットワーク(ほうそのネット)」を結成しました。共同代表のひとりで、精華町に隣接する木津川市に住む呉羽真弓さんは、「弾薬庫のありようが大きく変わり、祝園に保管される長射程ミサイルがどこかの国の子どもたちを傷つけるかもしれないと思うと、地域に暮らす一員として声を上げなければならないと思った」と話します。
祝園弾薬庫の歴史と確認書
祝園に弾薬庫ができたのは第二次大戦中の1941年のことです。大阪府枚方市にあった禁野(きんや)火薬庫が、1939年に94人の死者を出す大爆発事故を起こし、その代替地として選ばれたのが祝園でした。当時の陸軍が半ば強制的に農地を買収し、弾薬庫を建設していきました。戦争中は「東洋一の弾薬庫」と呼ばれ、多いときは3000人が働いていたといいます。
日本の敗戦後、弾薬庫は米軍に接収されますが、1960年に返還され、自衛隊に移管されることになりました。このとき、地元住民から「土地をもとの所有者に返してほしい」と反対運動が起こります。自衛隊に対する抵抗感も強かった時代です。住民の反対を受けて、当時の精華町、防衛庁、陸上自衛隊の三者が、確認書を交わすことになりました。「核兵器は絶対に貯蔵しない」「施設の拡張はしない」「弾薬の貯蔵量を増やす場合は事前に精華町と協議する」など、23項目の「確認書」が、公文書として残っています。
この確認書がある以上、弾薬庫を増設するなら、防衛省は事前に精華町と協議しなければならないはずですが、防衛省も精華町も「確認書に契約的意味合いはない」、つまり、防衛省が精華町に事前に意見を聞く必要はないというスタンスです。
精華町の杉浦正省町長は、「学研都市の中心地である精華町に弾薬庫はふさわしくない。しかし、確認書を交わして自衛隊の土地使用に同意してからは、基地との共存を基本政策として、防衛省の支援を受けてきた」と話します。広大な祝園分屯地があることで、精華町には国から年間2億円程度の補助金が出ています。このお金で、学校給食をつくる「防災食育センター」や「防災保健センター」などの施設を整備し、住民の生活に役立てているというのです。

ほうそのネットの闘い
2024年11月、私は中谷元防衛大臣(当時)の会見で、「ミサイル弾薬庫ができると有事の際に標的になるという住民の不安にどう答えるのか」と質問しました。大臣は「火薬庫の整備で、我が国の防衛体制を強化する。抑止力・対処力を高めて、他国から攻撃される可能性そのものを低下させることが大切だ」と答えました。弾薬庫を増やせば抑止力が高まり、攻撃されなくなるというのが、防衛省の考え方です。
住民たちは納得ができません。ほうそのネットは、発足以来ずっと、防衛省に住民説明会の開催を求めてきました。地道な街頭宣伝や戸別訪問で、説明会を求める署名を集め、すでに1万4000筆以上を近畿中部防衛局に提出しています。現在は、祝園分屯地に長射程ミサイルを保管・配備しないよう求める署名活動も行っています。
2025年5月には、ほうそのネットから精華町議会議員も誕生させました。生まれも育ちも精華町で元京都府職員の神田高宏さんです。「ミサイル弾薬庫はいらない」と訴えた手づくりの選挙戦で、定数18の議会に15位で当選しました。

神田さんは、住民の命と安全を守るため、精華町が国に対してきちんと意見表明する必要性を感じていました。当選後、初めての一般質問で、「『防衛施設に関することは国の専管事項で、町は回答を差し控える』という答弁がこれまで繰り返されてきたが、独自の意見を表明することは町長の責務。町長の考えを聞きたい」と問いました。
町長はいらだちを隠しませんでした。「私は3万6000人の町民の幸せと安全・安心を願って一生懸命働いている。防衛省に対しても、安全にやってくれと何回も言っているが、それ以上のことは言えない」と苦しそうに答弁した後、「私は神田議員のお父さんもよく知っている。お父さんは健やかで立派な方だったのに」と言ったのです。質問と無関係の私情を絡めた発言に議場はざわつき、神田議員の求めで、町長の発言の最後の部分は議事録から削除されました。
このときの議会で、ほうそのネットのメンバーが提出した「祝園弾薬庫に長射程ミサイルを保管しないよう国に対し意見書の提出を求める請願」は、否決されました。「『この町にミサイルはいりません』と国に伝えてほしい」という住民の訴えに対し、「安全保障は国の専管事項で、町議会は意見を言う立場にない」などと、3分の2以上の議員が反対しました。「決めるのは国でも、町として意見は言うべきだし、言う権利はあるはずだ」と、神田議員は悔しさをにじませました。(㊦につづく)
わたり・さわこ 毎日放送記者。神戸市出身。1993年毎日放送入社。テレビ報道、ラジオ報道を経て現在はテレビドキュメンタリー「映像’26」ディレクター兼ラジオの報道番組プロデューサー。
毎日放送(近畿エリア)で2026年2月に放送したドキュメンタリー「弾薬庫が増える町」が、5月17日(日)25時28分~26時28分、TBSドキュメンタリー「解放区」で放送されます。関東地区でご覧いただけます。https://www.tbs.co.jp/kaihou-ku/

