大分県にある陸上自衛隊日出生台(ひじゅうだい)演習場で4月21日、実射訓練中に戦車の砲塔内で砲弾が暴発し、搭乗していた自衛官3人が死亡、1人が重傷を負う事故が起きました。拙速な軍拡で自衛隊員の生命がないがしろにされているのではないか——。地元で活動する4団体が27日、大分県庁で記者会見を開き、「実弾演習の中止」「第三者による原因究明」「周辺住民への説明」などを求める声明を出しました。
日出生台演習場自衛官死傷事故 2026年4月21日午前8時39分ごろ、陸上自衛隊日出生台演習場(大分県玖珠町、九重町、由布市)での実射訓練中に、玖珠駐屯地所属の戦車隊の10(ひとまる)式戦車1台の内部で砲弾が暴発した。車体上部にある砲塔内にいた戦車長(2等陸曹、45歳)、砲手(3等陸曹、31歳)、安全係(3等陸曹、30歳)が死亡。女性操縦手(21歳)が重傷を負った。砲弾は国産で、戦車には自動装填装置がついていた。陸上自衛隊西部方面総監部は砲弾と戦車の双方を調査し、原因を究明する方針。26日には小泉進次郎防衛相が現地を訪れ、葬送式が営まれた。
昨年8月にも落雷で戦車部隊の2人死亡
27日に記者会見を開いて声明を発表したのは軍拡に反対する地元の「湯布院ミサイル問題ネット」「ローカルネット大分・日出生台」と「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」(略称:敷戸市民の会)、「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」(略称:沖西ネット)の4団体です。

それぞれが声明を準備し、読み上げました。
敷戸市民の会の神戸輝夫共同代表は「長射程ミサイルの保管場所ともいわれる敷戸弾薬庫が5月末に完成予定など、急ピッチで軍拡が進んでいる」と指摘。日出生台演習場では昨年8月にも玖珠戦車隊の隊員2人が訓練中に落雷で死亡するなど、1年足らずの間に自衛官の死者が5人にのぼっており、「政府・防衛省による安全軽視と責任放棄がはなはだしい」と断じました。
防衛省は日出生台演習場での10式戦車を使用した訓練を一時中止する措置を取っていますが、敷戸市民の会は「国産の砲弾による事故であり、製造過程に不安も残る。一旦、すべての演習を中止すべきではないか」と指摘しました。
また敷戸弾薬庫が完成し次第、25式長射程ミサイルが搬入される可能性が高いことにも懸念を表明しました。
敷戸市民の会の要求項目は次の4点です。
①日出生台演習場における死亡事故について、政府・防衛省はその原因と責任の所在を明確にすること
②自衛官の安全が確保されるまで、すべての実弾演習を直ちに全面中止すること
③対中国を名目とした拙速な軍拡および安保三文書に基づく政策を直ちに見直し、撤回すること
④大分分屯地における長射程ミサイル用大型弾薬庫建設計画を即時中止・撤回すること
拙速な軍拡で新たな装備 自衛官に重圧
湯布院ミサイル問題ネットの鯨津(ときつ)憲司さんは、「自衛官の充足率低下の中で、個々の自衛官に任務遂行の重圧がかかっている。そこに拙速な軍拡で新たな装備が導入され、密度の高い訓練が行われている。自衛隊の硬直的な組織風土に根ざしたハラスメントの多発、一般公務員の2倍にのぼる高い自殺率も問題だ」と事故の社会的背景にも言及しました。
また「内部の事故調査委員会では、社会的要因を含めた調査に至らない可能性が高い」として、公正な第三者による調査と、結果の公表を求めました。
また、今後、駐屯地や弾薬の輸送ルート周辺の住民を巻き込む事故に至らないという保障はないとも指摘し、周辺住民への説明を求めています。

ローカルネット大分・日出生台と湯布院ミサイル問題ネットの提言は以下の3点です。
①日出生台演習場での自衛官死傷事故の根本的原因が解明できるまで、当地での全ての実弾訓練を中止すべきです
②公正な第三者による調査委員会を立ち上げ、操作や技術的問題に終始することなく、自衛隊の訓練のあり方、自衛官の置かれた状況など社会的心理的側面を含む広範な視点で調査し検証したうえで全容を余すことなく公表すべきです
③住民の不安を取り除くため、日出生台演習場周辺住民のみならず日出生台演習場への弾薬運送ルートの沿線住民、大分分屯地(通称:敷戸弾薬庫)周辺住民への速やかな説明会を開催すべきです
事故当日、米軍の実弾砲撃演習を地元自治体に説明
沖西ネットは4月24日に声明『悲劇を繰り返すな——日出生台演習場での自衛隊員の死を悼み、すべての人の安全と尊厳のため弾薬庫建設と軍拡に反対する』を発表しています。
そこには事故当日の4月21日、九州防衛局から大分県と日出生台演習場がある地元1市2町に対し、「今年度の米軍の実弾砲撃演習で、新たに迫撃砲、ロケットランチャーなどの重火器を使用させてほしい」との説明会が予定通り行われた、と記されています。
この実弾砲撃演習は、1995年の沖縄の米兵による少女暴行事件を受け、1997年度以降、沖縄から全国5カ所に移転された米海兵隊の訓練で、そのうちの1カ所が日出生台演習場で行われています。当初、日米政府間で交わされた「沖縄で行われている訓練と同質同量の155㎜りゅう弾砲使用」という合意が反故にされ、新たな武器の使用や訓練の拡大、周辺地域への騒音、振動の激化が各地で問題となっています。
また、4月21日には殺傷能力のある武器輸出の解禁を盛り込んだ「防衛装備移転三原則」の改定も閣議決定されました。
沖西ネットの声明は事故当日のこうした動きに触れ、「3人の隊員の死を悼む最中に進められたこのような暴挙に怒りを禁じ得ません」と訴えました。
陸上自衛隊健軍駐屯地(熊本市東区)への長射程ミサイル配備に反対している沖西ネットの海北由希子さんは「熊本県民にとって、家族に1人自衛官がいるといわれるくらい、自衛官は身近な存在。もし自分の家族が亡くなったらと考えるとたまらない。誰の子どもも、誰の夫や妻も亡くなってはならない」と話しました。また健軍駐屯地や敷戸弾薬庫といった住宅地や学校に近い場所に置かれる弾薬についても「いつ爆発するかわからない。そう捉えていく必要がある」と訴えました。
沖西ネットは、事故当日に荒井正芳陸上幕僚長が「地元をはじめとする国民の皆様にご迷惑、ご心配をおかけして申し訳ない」と述べたことにも、強い違和感を表明。「この発言にこそ、組織の中に『個人の命』よりも軍事運用を優先する空気が蔓延していることを露呈している」と記しています。
沖西ネットの要請は次の5点です。
①部内だけではなく、第三者機関による事故の原因究明を徹底的に行い、結果を開示すること
②自衛隊は命を粗末にするな。政府・防衛省は自衛隊に力量を超えた無理な訓練を強いる構造を改め、今回の事故の責任を明確にせよ
③政府・防衛省は、陸上自衛隊大分分屯地(敷戸弾薬庫)をはじめとする大型弾薬庫の計画・建設が住民・市民の命を脅かす現実を直視し、直ちに撤回せよ
④そもそも軍事演習・訓練は「戦争の練習」、すなわち大量殺人の練習であり、憲法第9条に照らせば実施すること自体が違憲・違法である。自衛隊は全ての軍事演習・訓練を中止せよ
⑤武器による威嚇ではなく、第9条をはじめとする平和憲法を活かした誠実な対話による平和友好外交に舵を切れ
4団体は今後、政府、防衛省、駐屯地のある自治体、政党などに各声明を送付し、要請行動につなげていく方針です。
レンジャー部隊の熱中症、銃の落下など死亡事故相次ぐ
自衛隊の殉職者は、2025年度慰霊式の対象者(2024年9月1日〜2025年8月31日)だけで30人にのぼります。決して日出生台だけの問題ではありません。
自衛官の人権弁護団で自衛官の事故・ハラスメント・自死の問題に取り組んできた佐藤博文弁護士は次のように話しました。

「自衛隊内の事故は軍事力の評価や自衛隊員の士気に関わり、軍事機密として秘密にされやすい。しかし、レンジャー部隊の訓練中に自衛隊員が熱中症で死亡した例が、ここ数年の間に少なくとも2件ある。昨年は高所から落下した銃が隊員にあたり、死亡した事件も起きている。戦車の爆発事故も、これまで北海道、広島などで起きている」
「昼夜を問わない危険任務を伴うため、自衛隊法108条の規定により、自衛官には労働基準法や労働安全衛生法は適用されない。公務災害が認定され、団体生命保険は下りるが、そこで遺族が黙らされてしまう事例が多い。公務災害認定で終わらせず国家賠償請求訴訟を起こして、公の場で徹底した原因究明を行なうことが必要だ」

