衆院選2024「個人的なことは政治的なこと」② 今こそ「原発ゼロ」に! 再稼働と汚染水の海洋投棄をやめて

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大河原さきさん©︎生活ニュースコモンズ2024

福島第一原発と同じ型の原発再稼働しちゃう! 次世代が心配なく暮らせる社会を

原子力発電所(以下、原発)の再稼働、汚染水の海洋放出、エネルギー政策は、今回の衆院選で鋭く問われなければなりません。

投開票日の2日後、10月29日には宮城県女川原発の再稼働が予定されています。2011年に事故を起こした東京電力福島第一原発と同型の「沸騰水型炉」として初の再稼働です。10月28日には柏崎刈羽原発のある新潟で再稼働の是非を問う県民投票が始まります。

なぜ、再稼働を即刻止めなければならないのでしょうか。

原発再稼働の状況を図1にまとめました。
原発の種類は主に2種類「沸騰水型炉」「加圧水型炉」があります。これまで再稼働した原発は12基全て「加圧水型炉」でした(図で青い部分)。今後、「沸騰水型炉」の女川原発が再稼働すれば、「沸騰水型炉」の柏崎刈羽、島根、東海の3カ所も続くことが予想されています(図で赤い部分)。

図1:再稼働した原発、再稼働予定の原発

2011年の福島原発爆発から13年。現地の人々はどんな思いでいるのか、何に困っているのか、その声は日本全国にちゃんと届いているのか。コモンズはその声を聞きたいと思いました。

大河原さきさんはなぜ福島に戻ったのか

大河原さきさん=10月10日、福島・三春町 オンライン

福島県三春町(みはるまち)に暮らす大河原さきさん(71歳)にお話を伺いました。

三春町は福島第一原発から西に45キロに位置しています。大河原さんは2013年に三春町に戻ったそうです。福島で生まれた大河原さんは、高校を卒業して東京へ。その後、横浜に移り30年ほど暮らしていました。ところが、2011年の東日本大震災による津波のため、福島第一原発が電源喪失状態になり、注水・除熱が途絶えて水素爆発を起こしました。三春町の隣にある田村市船引町で有機農業を営んでいた弟夫婦は、放射能汚染によって共同購入者が3分の1まで減ってしまったため、農産物の放射線測定値を公表して野菜の直売所とカフェを併設する新たな事業を始めることになり、大河原さんに手伝ってほしいと連絡が来たのです。

「友人の中には福島は汚染されているから危険だと止める人もいました。弟のところは牛や鶏もいるため避難できないし、年老いた母親もいました。私はちょうど定年になったところでしたが、決心するまで1年くらいかかりました」

大河原さんには、自分の被曝の危険性よりも気になっていたことがありました。

「2011年3月15日、弟たちがチェルノブイリ原発事故後に購入していた、環境放射線測定器(R-DAN)がものすごい音で鳴り響いたそうです。R-DANの事務所に問い合わせると壊れたのではないかと言われ、仕方なくコンセントを抜いて、郡山市に避難しました。当時、郡山の方が汚染されていたんですが、それらの情報は公表されていませんでした」

「原発事故後いち早く、福島にIAEA(国際原子力機関)などと関わりのある長崎大学の山下俊一教授らが入ってきて『笑っている人に放射能は来ません』などと、放射能汚染を過小評価して福島県民をバカにした講演をしていたんです。弟もそれほど大変な状況じゃないんじゃないかと思ってしまうほどでした。
さらに、「チェルノブイリ事故の際、『エートス運動』を推奨していた、国際放射線防護委員会(ICRP、民間の国際学術組織)が福島に入り込んできました。エートス運動とは、住民が自ら除染し放射能測定をしながら、汚染された地に住み続けることを推奨する運動です。福島エートスもすぐにできました。これは反原発の立場からは批判されていました。汚染地からは離れなければいけないのが鉄則ですからね。私はエートスを批判してきたのに、福島に戻ったら外からは同じに見えるんじゃないか。何が違うのか考えました。
エートスは東電や国を批判しないが、私は、原発事故の責任を東京電力や国に問う運動を福島の人たちと一緒にやる。こう自分なりに整理して、福島に戻ることにしました」

図2:大河原さんの住む三春町

目前! 福島原発と同じ「沸騰水型炉」初の再稼働

女川原発の再稼働が目の前に迫っている今、大河原さんは2023年5月、岸田政権が「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」(略称、GX電源法)を成立させた過程を怒りとともに思い出しています。

GX電源法は、稼働から60年を超えた原発の運転を可能にするもので、原発を最大限活用するために国民の理解促進や事業環境整備を「国の責務」とするとしています。

「2022年、政府は、北海道、関東、東北、中部、九州、四国など10ブロックで国民の意見を聞く会を設けた。まず福島の人たちに意見を聞くべきなのに福島では開催されず、私たちは仙台まで出向き反対意見を言いました。しかし資源エネルギー庁の職員はその場で『皆さんの意見は政策には反映されません』と言ったんです。みんな怒りましたよ。議事録も残さなかった。国会では西村康稔・経済産業大臣(当時)が「国民の皆さんに意見を聞いた」と答弁して、『福島をバカにすんな!』って。内堀雅雄・福島県知事も政府の言いなりで 県民の声は代弁してないです。

いったん原発事故が起きれば、放射能汚染の災禍は際限なく続きます。そのことを教訓としたならば、原発の再稼働はできないはずです」

放射能汚染水の海洋投棄も深刻です

福島と同型の原発再稼働の問題に加え、昨年8月24日に始まった福島第一原発の放射能汚染水の海洋投棄も、「深刻な問題です」と大河原さんは言います。

「汚染水の海洋放出にかかる費用は、当初34億円とされていましたが、海底トンネルの掘削費用と「風評被害」対策を合わせて1200億円以上、放出強行後の中国などへの海産物輸出がダメージを受けたことへの補償も加えて、現実には膨大な費用がかかっています。

福島原発の汚染水放出を強行したのは、膨大なトリチウムを放出する青森県六ヶ所村の再処理工場の稼働のためではないかと思います。六ヶ所再処理工場が稼働した場合、福島第一原発で放出する一年分の量のトリチウムを一日で放出すると言われています。失敗続きの再処理工場ですが、核燃料サイクルのためには稼働の可能性を残したいからでしょう」

このために、メディアを掌握しての「処理水は安全」キャンペーンや子どもたちの教育への介入が行われてきたと大河原さんは指摘します。


「『トリチウムは問題ない』『処理水は安全』『汚染水と呼ぶな』という政府とメディアが一体となったキャンペーンが大々的に行われ、批判をすれば“風評加害者”というレッテルが貼られる中での汚染水放出開始でした。
福島では、県行政と地元メディアが一体となり電通の指導で、風評払拭PRと称して、『福島のものは美味しい』『風光明媚だ』などのポジティブな言葉を使い、『放射能』や『汚染』などネガティブな言葉は使ってはダメだとして報道の規制をしてきました。
2021年4月の政府による汚染水海洋放出決定後は、福島県は『オールメディアによる漁業の魅力発信業務』として地元メディア8社のプロジェクトを組織し、新聞広告やテレビCMなどで福島県産水産物のPRを展開しています」

さらに教育現場では、県内外から多くの批判がある文部科学省発行の『放射線副読本』の使用に加えて、福島県がJAEA(日本原子力研究開発機構)の肝入りで作った福島県環境創造センター交流棟をすべての小学生に見学させて、「放射能を怖がらせない教育」を進めています。
2021年末には、復興庁が教育委員会への連絡もなしに全国の学校に直接「処理水を海に流しても大丈夫」という内容の全児童生徒向けチラシを送付。経産省は、いくつもの高校に「汚染水放出は安全」という出前授業をしています。

「福島では、博報堂が企画し、各市町村の教育委員会に対し、福島県産水産物を使った小中学校向けの『出前食育授業』が提案されましたが、応募はゼロだったそうです。すると今度は『道の駅』で、料理研究家・栗原はるみさんとのコラボ企画として『親子での料理教室』が開催されました。

汚染水の海洋放出方針の決定後、2022年に国が「風評被害対策」としてに最初に創設した300億円の基金の中に、海産物を学校の給食に使うという項目が作られました。海洋放出で売り上げが落ちたら学校給食に使えばいいという魂胆だったのでしょう」

それでも繋がって、闘う

提供:「これ以上海を汚すな!市民会議」FaceBookより

こうした状況の中で、大河原さんたちは「これ以上海を汚すな!市民会議」(2014年設立)や「汚染水の海洋投棄を止める運動連絡会」(2023年設立)を作り、学習会や集会、経産省、東電との交渉を開催してきました。昨年9月には、福島地方裁判所にALPS処理汚染水の海洋放出の差し止めや国による認可処分の取り消しを求めて提訴しました。
「今後30年以上にもわたり放射能汚染水が海洋投棄されることをやめさせたい」と大河原さんは訴えます。

「これ以上海を汚すな!市民会議」が呼びかけたグローバルアクション2024

大河原さんは、原発事故被害者団体連絡会(略称ひだんれん)の事務局長もしています。ひだんれんは、福島第一原発事故に対する国と東京電力による謝罪、損害賠償、暮らしと生業の回復、事故責任の明確化を求めて2015年5月に設立されました。訴訟などを起こした被災者団体が結成した全国組織です。全国で30ほどの集団損害賠償の裁判が提訴され、現在は24件が係争中です。

未来の福島は…

大河原さんが気になっているのは、『福島イノベーション・コースト構想』(略称、イノベ構想)という国家プロジェクトです。

「いわゆる惨事便乗型とも言えるもので、教育・研究と称して人を集めています。これにより汚染された土地への移住も推進しています。移住者への支援が厚いため、シングルマザーなど経済的に困難な人たちも増えており、同時に幼い子も入ってくるので、親たちに放射能汚染について十分な知識があるのかと心配しています」

これについは市民グループ「イノベーション・コースト構想を監視する会」があり、問題提起を続けています。

「最近、ドキュメンタリー映画『リッチランド』(アイリーン・ルスティック監督・製作・編集)を観たのですが、イノベ構想がこのまま進めば、何十年後かには福島もこうなってしまうと思いました」

衆院選に向けて言いたい

大河原さんは今回の衆院選に際し、立憲民主党の公約に着目しました。

立憲の原発に関する公約の詳細
〇原子力発電所の新増設は認めません。廃炉作業を国の管理下に置いて実施する体制を構築します。
〇実効性のある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働は認めません。

「自公政権のままでは、再稼働どころか新増設を狙っているので非常に危険です。

それなのに、立憲が『原発ゼロ』を消すなんて! 福島第一原発が爆発した時、当時の民主党政権は『原発ゼロ』を宣言したのに……

立憲の公約の1つ目は評価できますが、2つ目は『地元合意』では表現があいまい。地元合意があれば再稼働してもよいことになる。県民が反対しても、県知事が合意すれば地元合意とするなら、意味がないと思います。『原発ゼロ』政策は維持すべきべきです」

「立憲にはいい議員もいるので、野党共闘してほしい。野党共闘ができないのは、背後に『連合』があるからだと思います。連合には電気労連も入っているので、電力業界に迎合しがちで、共産党や市民運動も排除しようとしている節があります」

大河原さんは最後にこう結びました。

「福島で起きたことは、原発事故じゃなく、原発爆発事件です。本来閉じ込めておかなきゃならない放射能を撒き散らして、収束するには何百年もかかると思います。今まだ13年しか経っていない。今、原発ゼロにしなければ」

立憲は目を覚ましてほしい

10年余り福島と東京を往復しながら、被災者・避難者の声に耳を傾け、寄り添い、取材し、サポートしてきた吉田千亜さん(47歳)にお話を伺いました。被災者・避難者の声は『原発事故、ひとりひとりの記憶――3.11から今に続くこと』(岩波ジュニア新書)にまとめられています。

吉田千亜さん=10月14日、オンライン

「各党の公約を見ると、自公政権はもってのほかですが、維新は公約すら言及なし。
そうなると、立憲民主に期待していましたが、「原発ゼロ」を消してしまったことにがっかりしました。福島原発事故の被害者と一緒になって考えてきた立憲の議員もいるので心苦しいですが……」

そもそも再稼働の要件に避難計画がないことが問題

立憲の公約2つ目に「実効性のある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働は認めません」とあります。

吉田さんは、「そもそも再稼働の要件の中に『避難計画』が入っていないことが大問題」と強調します。
「私は3年前に約1年かけて、全国の原発のある自治体を回り、計画通りに避難できるかどうか実際に見て歩き、ルポを書いたことがあります。原発避難の本質は被ばくを避けることだと思いますが、驚くことに、被ばくを避けることができないと思う計画ばかりです。
そもそも、福島の原発事故時は放射性セシウム137が推定で約1 万テラベクレル放出されていますが、その100分の1(セシウム137 が100 テラベクレル)の放出を前提に避難計画を立てています。これが本当に地域住民を守る避難計画になるでしょうか。
たとえば、米国ニューヨーク州にあるショアハム原発は、1972年に建設が開始されましたが、住民が納得できる避難計画が立てられず、1989年に廃炉になっています。
日本では、能登半島地震でも明らかになったように、そもそも住民は避難ができないのに、どんどん再稼働しようとすることが信じられません」

避難者・被害者のケアがない自公民政権の政策

現在の自公政権の政策についても吉田さんは批判しています。

「各地域の避難計画は、『原子力災害対策指針』に基づき地域防災計画、避難計画が作られます。この『指針』自体が、不十分です。能登半島地震後にこの『指針』を変える必要があるという声が多数あがりましたが、実際には原子力規制委員会は問題を矮小化して議論をすすめています」

さらに、「自民党と公明党が毎年出している『東日本大震災 復興加速化のための提言(第13次・令和6年8月28日)』は、かつて少しは記載されていた被害者・避難者へのケアはほとんどなくなり、今は廃炉や新産業創出を軸にした『福島イノベーション・コースト構想』などがメインです。毎年、消されていく被害のキーワードがありますが、『被害』という言葉は必ず『風評』とセットでのみ使われ、『自主避難』という言葉が早い段階で消えるなど、方向性がわかります。

政治がそのような姿勢を示すため、福島原発事故の被害者は、声をあげれば叩かれる息苦しい中で、踏みとどまって裁判を闘い、あるいは本音を隠しながら暮らし、みな、それぞれのつらさを抱えています」

「『地元合意』と言いますが、たとえば避難者の意向調査も大抵、ほとんど男性の世帯主あてに届きます。その『地元合意』では、女性や子どもたちの声は誰がどこで聴くんでしょうか? なぜ、まっさきに、大きな災害や原発事故で弱い立場に立たされる人々や、女性や子どもたちの声は聞かれないんでしょうか?」

最近、原発の新増設の建設費を電気料金に上乗せできるようにする制度を、経産省が導入しようとしていると報じられています。「これもとんでもない話」と吉田さん。

「とにかく、あの原発事故はなかったかのように語られていると感じています。原発そのものや、原発事故について、避難について、どう考えているのか、被害者・避難者の声をまず丁寧に聞いてほしいと思います。

政治は、“いま大人が稼ぐこと”ではなく、次世代、若い人たちにどう心配なく生きられる社会を手渡せるかを軸に考えてほしいと思います。そうせねばならない大人でありながら、現実にはそうなっていないと考えているので、個人的には申し訳ない思いがあります。

だからこそ、今回の衆院選を前に、政治にこそ、あの2011年の原発事故や、今年の能登半島地震を、想像力をもってリアルに思い返してほしいと思っています」

各党 エネルギー政策の公約は?

原子力発電所、エネルギー政策について、各党の公約を見比べてみると、「原発ゼロ」を掲げているのは、共産党、れいわ、社民党だけです。あとの政党は再稼働を認めています。

石破茂氏は自民党総裁選の時は「原発ゼロに近づける努力を最大限する」と発言していましたが、その後、「原発ゼロが自己目的ではない」と後退しました。

立憲民主党も「原発ゼロ」を掲げていましたが、代表選で野田佳彦氏が選出されるやトーンダウンし、「原発ゼロ」は消えてしまいました。

今回の衆院選では、東日本大震災で停止した原発の再稼働の判断が争点のひとつだと言えます。