同性同士の結婚を認めない現行法は「憲法違反」 東京高裁判決 「1日も早い立法を」

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私たちの声は届いていた。1日も早く、結婚の自由を。

 「判決を読み上げる裁判長と目が合う瞬間があって。『言ったよ』といわれているようで、私たちの言葉は届いていたんだなと思いました」。原告の一人、小野春さんの言葉です。

 10月30日、婚姻の平等を求める「結婚の自由をすべての人に」東京訴訟の控訴審判決が東京高等裁判所(谷口園恵裁判長)で言い渡され、男女間の婚姻しか認めていない民法と戸籍法は性的指向によって「差別」をするものであり、日本国憲法に違反していると判断しました。高裁での違憲判決は今年3月14日の札幌高裁に続き、2例目となります。

 当事者の生活実態から目を背けるかのように、動きの鈍い立法府(国会)。これに対して司法がまた一つ、当事者に寄り添う歴史的な判断を下しました。

〈この裁判の流れ〉
 日本はG7の中で唯一、同性同士の結婚を認めていません。2019年には各地の同性カップルが婚姻の平等を求めて一斉に提訴。現在、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5カ所の裁判所で6つの訴訟が行われています。これらは「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれており、今回の東京訴訟もその一つです。
 1審の東京地裁は「同性愛者についてパートナーとして家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する状態」(違憲状態)という判決だったものの「同性間の婚姻を認めていない民法と戸籍法の規定は14条1項と24条1項、2項に反しない」と判断。国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を怠っているという主張(賠償請求)が認められなかったため、当事者側が控訴していました。
 これまでの判決は、1審の地裁で違憲2件(札幌、名古屋)、違憲状態3件(東京1次、2次、福岡)、合憲1件(大阪)。2審の高裁では今年3月14日の札幌と今回の東京で、違憲2件となりました。

同性同士の婚姻を認めないのは「差別」 

 1審の東京地裁判決より踏み込んだ、明解な判決でした。

 東京高裁は、同性同士の婚姻を規定していない現行法について「合理的な根拠に基づかずに、性的指向により法的な差別的取扱いをするもの」であるとし、憲法14条1項と24条2項に違反していると判断しました。

少数だけれど「現に存在する」

 お互いを伴侶として共に暮らし「社会的公認」を受けることを望む同性カップルは、少数だけれども「現に存在する」。判決文はこう指摘し、原告の具体的な生活状況――家事や生活費を分担したり、子育てをしたり、婚姻関係にある夫婦と何ら変わらない共同生活を営んでいること――にも触れました。
 そのうえで、同性間でも「配偶者としての法的身分関係」によって得られる法的利益を十分に尊重されるべきで、それができない状態に置かれた同性カップルの不利益は「重大なもの」だと指摘しました。

東京高裁での歴史的な違憲判決を受けて、笑顔で旗を手にする原告たち(「マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚-」より)

婚姻の目的は「子の生殖」ではない

 判決では、民法について、夫婦とその間に生まれた子どもからなる家族を一般的に想定しており、「婚姻と親子」を密接に結びつけた規定をしているものの、同法はその「一般的な想定」に当てはまるものだけを「社会的に正当な家族の在り方」と認めているわけではない―と指摘。

 婚姻の目的について「子の生殖」よりも「当事者間の永続的な結びつき」を重視する見解が大勢を占めてきたことから考えても、婚姻とは、当事者間の結びつきに「法的保護」を与える制度であるーと位置づけました。そして、婚姻による法的保護は「安定的で充実した社会生活を送る基盤」を成すものであり、「個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益」として十分に尊重されるべきであるとしました。

 そのうえで「子の生殖は婚姻の不可欠の目的ではない」と位置づけられてきたのだから、「自然生殖」の可能性がない同性間にも、男女間と同様の法的利益を十分尊重すべきであるとの考えを示しました。

「両性」「夫婦」の文言は同性婚を認めない理由にならない

 憲法24条にある「両性」「夫婦」という文言のとらえ方にも言及しました。憲法の制定時には「婚姻とは男女間のもの」という「当然の前提」があったに過ぎず、同性婚の可否が議論されたわけではない点を指摘。

 このような背景があるにもかかわらず「両性」「夫婦」という文言が憲法24条にあることを根拠にして「男女間の婚姻のみを認め、同性婚は認めない」とすることは、憲法14条1項(法の下の平等)に違反し得るとしました。

同性婚は「男女の婚姻」に何ら影響しない

 また、現行法が「男女間の婚姻」に加えて新たに「同性間」の関係に同様の法的保護を与えたとしても、「男女間の婚姻に与えられてきた法的保護は何ら減ずるものではない」と指摘。すでに、一方のみと血縁関係のある子どもを育てる同性カップルや、里親として養育している例があり、社会の次世代を育てるという重要な社会的機能を果たしていることを示した上で、同性間の婚姻ができないという「区別」をすることに合理的な根拠があるとはいえない、と述べました。

「いろんな家族の形がある」

 同性のパートナーとともに3人の子どもを育てている原告の小野春さんは、判決後の記者会見で次のように語りました。

 「裁判中は3人の子どもたちのことがずっと胸にありました。でも裁判長がいろんな家族の形があるんだと言ってくださって、本当にうれしかったです。今日は子どもの1人と一緒に判決を聞いたのですが『よかったね、前進するね』と言い合いました」

 2019年2月の提訴から、5年がたちました。

 「裁判をやっているときは、自分のことをちゃんと伝えられただろうか、みんなの思いを伝えられただろうかと、自信を失う場面もいっぱいあったんですけれども、判決文の中に、しっかり事例を受け止めたという内容を書いてくださっていて、ああ、届いていたんだなとうれしい気持ちでいます」

法律に守られない日常と子育て

 法律による保障がない中での子育てについて、小野さんは「この20年、ずっと手探りだった」と振り返りました。

判決後の記者会見で思いを語る原告の小野春さん(「マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚-」より)

 「例えば、病院で子どもの入院手続きができなかったこともありました。法律というと何かすごく遠いもののように感じますけれども、法律がない状況は、日常の些細なことにまで及んでいます。私の家族とお友達の家族が一緒にピクニックに行ったとして、お友達の家族は何かあったときに法律で守られるけれど、私たち家族は、守ってくれるセーフティネットがない。そういうなかで子育てをしなければなりませんでした」

「私たちの言葉は、届いていた」

 日本では長く、同性愛者は「いないもの」とされてきました。社会には当事者を傷つける表現があふれ、いまだ法的な差別がある現実は変わりません。しかしこの日の判決は、小野さんの背中を温かく押すものでした。

 「法律に守られない子育てをしていても、ずっと『(同性同士だから)そういうものだ』という扱いを受けてきました。でも今日の判決は『そうではない』と言ってくれました。同性カップルを含めて子育てしている人たちはいるし――もちろん子育てすることが全てではないのですが――いろんな家族はもう既にいる、そういう人たちはただ放置されているわけではない、人権は守られなければいけないんだということを、裁判所がはっきり言ってくださったことが私にとってはすごくうれしかったです」

 判決文を読み上げる際、裁判長は原告一人一人に目を向けたといいます。

 「子どもについての内容を読んでくださっているときに、パチンと目が合った瞬間がありました。私は『あ、言ってくれたんだ』と思いました。そのとき、裁判長が『言ったよ』といってくれているように感じて、私たちの言葉は届いていたんだな、と思いました」

「裁判の間に、何人も友達が亡くなった」

 この日、会見にのぞむ小野さんの隣には、原告の一人で2021年に亡くなった佐藤郁夫さんの写真がありました。小野さんは、声を詰まらせながらこう語りました。

 「本当に、一緒に聞きたかったなと思う内容でした。最初に東京地裁で一緒に意見陳述をしたときに『絶対、将来結婚できるようになるよね』と話したけれども、ちゃんと裁判長が違憲だと言ってくれたことを、今日、佐藤さんも裁判所で一緒に聞いてくれていたと思っています」

 提訴からすでに5年以上が経過し、この日までに、同性婚の実現を願っていた友達が何人も亡くなりました。「本当に一日も早く、法律になってほしいと改めて思っています」(小野さん)

「配偶者」という言葉に希望

 判決は、性的指向による差別が許されないことは国際的に広く共有されている認識だとし、日本は国連から同性カップルを法的に保障するよう勧告を受けている点にも触れました。そして地方自治体でのパートナーシップ制度の広がりや、国民の意識の変化を考えても「むしろ(同性間の婚姻への)社会的受容度は相当程度高まっている」とし、同性カップルへの区別について「合理的根拠があるとはいえない」と結論づけました。

 原告の一人で、30年以上ともに暮らすパートナーがいる小川葉子さんの言葉です。

 「私は今まで(パートナーのことを)配偶者というふうに考えたことはありませんでした。『家族』というふうな置き換えをしてきまして、配偶者ではない、と思っていたのです。でも今後は、配偶者という考え方ができるのかなと希望を持てた気がしました。私たちはいろいろと持病があって、最近は病院での検査が続いているんですけれども、そのときに思うのはやはり、法的なしっかりとした支えがあったらすごく安心かなということです。私たちは高齢ですので、もう時間がありません。これから立法に向けて、何とか、一歩でも早く進んでほしいという思いです」

「立法に向けて一歩でも早く進んでほしい」と語る原告の小川葉子さん(「マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚-」より)

何度も国連に勧告を受けている日本

 小川さんのパートナーである大江千束さんは次のように語りました。

 「私は、婚姻制度の中にジェンダーの平等はあるのかということが、ずっと自分の中での問いでした。同性同士が、あるいは性別を越境して結婚できるということが、やはりジェンダーの偏ったバイアスを壊していくことの一穴になると固く信じてここまでやってきました。そういった意味で、今日の判決はとてもありがたかったです。日本は国連の自由権規約委員会から同性婚や選択的夫婦別姓のことをちゃんとやるよう勧告されながらも、なかなか進んでいません。これからも老体に鞭打って、頑張っていきたいなというふうに思っております」

ジェンダー平等の視点から同性婚について語る原告の大江千束さん(「マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚-」より)

男女間の婚姻と異なる規律は「違憲」となり得る

 今回の判決は、同性カップルがこうむっている不利益を解決するための「方法」についても踏み込んだ形で言及しました。

 まず、民法と戸籍法を改正して同性間の婚姻を認めるという方法のほかに、同性間に「婚姻とは別の制度」を新設するという方法もある――と示したうえで、しかしもしも「男女間の婚姻とは異なる規律」にした場合は「憲法違反の問題が生じ得る」と指摘したのです。

 同性カップルにだけ、例えばパートナーシップ制度のような「別建ての制度」をつくったとしても、それは新たな不平等(憲法違反)になり得る。だから同性同士も配偶者となれるよう、目をそらさずにきちんと法改正すべき――司法が立法府(国会)に、そう注文をつけているようにも見えました。

「画期的かつ歴史的な判決」

 判決後の記者会見で、弁護団の寺原真希子弁護士は「画期的かつ歴史的な判決と言えると思います。札幌高裁判決に続いて明確に憲法に違反すると述べたこと、そして特に今回は、国会でのやり方についても司法が具体的な注文をつけて、とにかく立法府にきちんとやれということを明確に言ったところが一番のポイントと思っています」とあらためて評価しました。

 また上杉崇子弁護士は「同性カップルと家族の人権と尊厳が、毎日毎日、侵害されるという状態が今は続いている」とし「立法府には、今回の判決を踏まえた立法をただちにしてほしい」と強く訴えました。

〈参考資料〉
・CALL4 結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)サイトhttps://www.call4.jp/search.php?type=material&run=true&items_id_PAL[]=match+comp&items_id=i0000031
マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚」