性と生殖に関する健康と権利「知っている」女性は1割 RHR巡る理解 広まらない実情明らかに 日本助産学会が調査

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性と生殖に関する健康と権利、日本で知っている人はわずか1割程度なんだって

 女性が産む時期や産まないことを決めたり、予期せぬ妊娠を防いだりするための医療環境が、大きな変化を迎えています。2023年には飲み薬による中絶が承認され、今月2日には性交後72時間以内に服用するアフターピル(緊急避妊薬)の薬局販売が国内で始まりました。ただ、こうした性と生殖に関する知識や自己決定への理解は国内では広まっていません。全国の助産師らでつくる日本助産学会の作業部会が2025年までに行った調査から、「性と生殖に関する健康と権利(RHR)」の普及に向けた課題を考えます

 日本助産学会の研究者らでつくるグループが「性と生殖に関する健康と権利」(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、通称RHR)に関する知識について男女735人に聞いた調査で、権利の内容について「知っている」との回答は女性が11.4%、男性3.0%にとどまることが分かった。国は2000年に策定した男女共同参画基本計画でRHRの普及啓発を初めて盛り込んだが、四半世紀を経ても国内において権利が普及していない実情が明らかとなった。調査に当たった信州大(本部・長野県松本市)講師で助産師の芳賀亜紀子さん(49)は、「教育現場や産婦人科の受診経験が、RHRを知る機会につながらず、多くの人はインターネットで情報を得ている。女性がRHRに基づいた行動を取る権利を知り、そのための教育を受ける機会を学校や医療機関で確保していく必要がある」としている。

国内におけるRHRへの理解や普及度を調査した信州大の芳賀さん(左)と中込教授=2025年11月、松本市

 調査は、全国の研究者・助産師でつくる日本助産学会の作業部会による研究の一環。作業部会は2021年、日本助産学会元理事の中込さと子・信州大教授らが国内の中絶ケアを巡る課題を探る狙いで設置した。RHRに関する調査は、民間の調査会社を通じて無作為に選んだ男女を対象に2021年12月から約2ヶ月間かけてインターネットで実施し、20〜50代の女性367人、20〜60代以上の男性368人が回答した。

 調査結果によると、RHRの内容まで「知っている」と答えた女性のうち20代が4割を占め、最も多かった。「聞いたことはあるがよくわからない」「知らない」との回答は、女性では88.6%、男性は97.0%に上った。性に関する情報源を複数回答で聞くと、インターネットを含むメディアが女性は60.8%、男性は53.6%。「教育機関」及び「産婦人科医・助産師」と回答した女性はそれぞれ4割未満だった。一方、教育機関と答えた男性は15.2%、「パートナーの女性」と回答した男性は51.1%。また、自身が持つ性に関する情報の正確性については、女性の65.9%、男性の79.3%が「正確か自信がない・分からない」と回答。調査時点で性交渉を持った経験がある人(女性220人、男性280人)に避妊方法を尋ねたところ、男女ともに約2割が腟外射精やオギノ式を用いた安全日など、誤った避妊方法を選んでいたことも分かった。

 考察では、小中学校の学習指導要領にRHRに関する記述がなく、「性交」については取り扱わないとする「はどめ」規定があること、国の男女共同参画基本計画ではRHRに基づいた具体的な政策に欠けていたことが、RHRの普及が著しく低い背景にあると指摘した。

産む・産まない選択 「相手の意思尊重」とした男性は2割

 調査では、産む・産まない選択に対する男女の意識についても比較を行った。産むことを「(パートナーと)2人で決める」と回答した女性は43.6%、「自分自身で決める」としたのは45.2%。一方、産まないことの選択は、「自分自身で決める」と回答した女性は24.0%にとどまり、人工妊娠中絶を伴う産まない選択においては女性が自己決定を避ける傾向にあることが読み取れた。一方、男性では、産むこと及び産まないことを「2人で決める」との回答はともに7割を超えたが、産むことについて「パートナーの意思を尊重する」とした男性は22.0%、産まないことも21.7%と低い値だった。

 日本国内における人工妊娠中絶は、母体保護法に基づき身体的、経済的理由などにより妊娠の継続が困難な場合に限り、妊娠21週6日まで認められている。厚生労働省はこれまでに未婚女性、また性暴力による妊娠やパートナーからの暴力(DV)被害を受けている場合は「本人の同意だけでよい」との見解を示しているが、原則は配偶者の同意が必要となる。要件を満たさない人工妊娠中絶を行った場合、医師には刑法に基づく業務上堕胎罪が科される恐れがある。また、人工妊娠中絶に保険制度の適用はなく、医療費は全額自己負担となる。

 芳賀さんは「産む・産まない選択を、女性が個人の権利として選び取れる社会に制度上、なっていない」と指摘。「中絶について『悪いこと』『1人で決めてはいけない』との意識は社会に浸透している」とみる。「今回の研究を通じて、中学高校における保健体育の学びや、産婦人科を含む医療機関の受診がRHRに関する知識の普及につながっていないという課題が見えた。教育現場や医療従事者は知識だけでなく、人権や家庭やパートナーを含む人間関係の大切さについてメッセージを伝えていくことが重要だ」と話していた。

 中絶ケアやRHRに関する調査を行った作業部会は、日本助産学会から研究助成を受けて2021年に発足。信州大、駒沢女子大、聖路加国際大(ともに東京)など12大学の研究者18人が参加した。24年までに一般の男女、助産師、医療・相談支援に当たる団体を対象に調査を行い、調査結果をまとめた論文をウェブサイトで公開している。

RHR/SRHR
 産む・産まない、いつ、何人子どもを持つかなど、性や妊娠・出産など生殖に関することを自己決定する権利。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの略語で、日本では「性と生殖に関する健康と権利」と訳される。1994年にエジプトのカイロで開催された国際人口開発会議で提唱された。主に途上国における人口管理政策によって、本人の意思に基づかない不妊手術や安全性の低い避妊中絶に対する懸念が高まったことが背景にある。日本では、2000年に策定された男女共同参画基本計画で「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透」が初めて掲げられ、「正しい知識・情報を得、認識を深めるための施策を推進する」とした。 近年は、性の多様性や性行動を選択する当事者の性的同意が尊重される権利などを包括した「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念が国際的に普及し、日本でもSRHRが略語として広まっている

引用;「日本人のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの普及度と予定外の妊娠をめぐる医療体験の実態」(2024,日本助産学会誌)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/advpub/0/advpub_JJAM-2023-0039/_pdf/-char/ja

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