11月7日午前中、韓国・ソウル中央地裁で、1980年光州(クァンジュ)で戒厳軍と警察よって行われた性暴力の被害者が国家を相手に提起した精神的損害の賠償を求める訴訟の初公判が開かれた。
裁判の前には、5・18性暴力被害者の会「ヨルメ(実)」の記者会見が開かれた。
会見後、参加者たちと共に「真実と癒しのパフォーマンス」が行われた。ヨルメが準備した「調和」を表すプラカードには光州を意味する「518」、流れた年数を表す「45」がプリントされている。 さらに当日、生の緑色の葉っぱや実がついた生木の枝を持ち寄るように呼びかけられ、支援者たちはそれらを手にして集まった。


光州事件:当事者らは光州民衆抗争と呼ぶ。1980年、全斗換大統領=当時=率いる新軍部が、拡大した学生の民主化闘争と労働者の生存権闘争を鎮圧し権力を掌握するために非常戒厳令拡大措置を敢行(5・17クーデター)。これをきっかけに全羅南道光州市を中心に5月18日から27日まで民主闘争が展開された。一時は光州にコミューン的開放空間が実現した。これに対し、政府は空輸部隊を投入し無差別な暴行や虐殺を行った。韓国現代史の重要な転換点となった。
韓国ではその後民主化が進み、95年「5・18民主化運動等に関する特別法」制定で、全斗換、盧泰愚ら責任者が有罪判決を受けた。
性暴力被害者が声を上げるまで
1980年の光州事件当時、戒厳軍や警察から性的暴行に遭った女性たちが証言し始めたのは、2018年である。声をあげた多くの被害者は、その年、性被害を告発し、#MeTooの象徴になったソ·ジヒョン検事の勇気に後押しされ、事件から38年ぶりに証言したという。
その2年後、光州事件を調査する「5·18民主化運動真相究明調査委員会」(以下、5·18調査委)が当時に起きた性暴力事件について調査を始めた。
2023年12月、そのうち16件に対して「被害は事実」と認定した。国家機関が戒厳当時起こった性暴力事件の真相究明をしたのは初めてのことだった。
「性暴力被害者」という烙印を恐れ沈黙を強いられてきた被害者16人が、お互いに「証言者」になって被害事実を明るみにし、彼女たちの体験が「集団的経験」であると証明できたことが被害認定を後押しした。
5·18調査委の報告書が大統領室に提出されてから1年間、国は被害者に「真相究明決定通知書」を発送しただけで、賠償や治療につなげる措置を何も取らなかった。そこで被害者らは5·18調査委の元調査チーム長、専門委員とともに2024年8月29日、「5·18戒厳軍などによる性暴力被害証言者の会-ヨルメ」を結成した。 国家が沈黙する中で、真実と回復の道を自ら拓いていこうという決断だった。
以後、ヨルメはピアサポート(同じような立場の人によるサポート)の場である「証言基盤治癒回復プログラム」を毎月運営し、被害者が互いの話を聞いて治癒に向かうというプロセスを踏んでいる。また、韓国の国家性暴力問題を国際社会に知らせる活動もしている。2024年9月30日には国会で5・18性暴力被害者証言大会を開催した。
“非常戒厳という言葉を聞いた瞬間凍った”
性暴力被害者らが国家を相手に訴訟を決心したきっかけは、「12・3内乱事態」(2024年12月3日の尹錫悦大統領=当時=による非常戒厳を指す)だった。
報道によると、代理人のハ・ジュヒ弁護士は「原告らは非常戒厳という言葉を聞いた瞬間凍った」と話したという。「再び国民に向けて銃を構えることがあってはならない」という切迫した思いに駆られ、2024年12月12日に訴訟を提起した。日付には5・18民主化運動の始点である1979年「12・12軍事反乱」(全斗煥による軍事クーデターの日)を忘れないという意味を込めたという。原告は、性暴力被害生存者14人と家族3人を含めて17人にのぼった。
次回公判は2026年1月16日の予定。

女性作家たちが展覧会《私の知らない彼女たち》光州で開催

光州女性展示館Herstoryでは9月17日〜11月30日まで、女性作家たちの展覧会《私の知らない彼女たち》が開催されている。参加作家は、キム・ファスン ぺ・ミジョン、ウプスヤン、チョン・ジョンヨプの4人。
企画は「飛び石美術店」。芸術と労働、芸術家と労働者、芸術運動と労働運動をつなぐ架け橋になることを願って2022年にオープンしたオンラインスペースで、企画展を開催しながら、オンラインで出展作家や作品の紹介・販売をしている。
本展の序文より一部紹介する。
女性たち一人一人の力、つながっている女性たちの力が世の中を開いてきた。 誰も逆らえない世の中が来ていることを知っていて、一緒に進んでいる。
傷つき犠牲になって過ぎ去った人生が溜まっており、循環し連帯し続いてきた歴史がゆらゆらしている《そこ》は今ここだ。
大したことない人々の、人生を持続しようとする小さな努力は、《折れたが生きていく木》のように生の意志で充満するだけだ。
赤いドレスを着て《踊り》を踊るように、蝶の羽ばたきで《手振り》するように、今ここ、私たちが私たちを呼ぶ。(一部抜粋)
4人の作家の作品と言葉を紹介しよう。

| キム・ファスン(アーティスト) 韓国の近現代史に起きたいたましい性暴力の話、日本軍性奴隷の被害者、済州島4・3事件の中の性暴力はまだ記録さえされていません。そして5・18光州事件での性暴力など、描く作業は大変でしたが、光州で声を上げた女性たちの美しい勇気に連帯する心で制作しました。 |

72.7×60.6cm キャンバスにオイル 2025年

53×45.5cm キャンバスにオイル 2025年

ペ・ミンジョン(アーティスト)
私たちの周りにいる普通に生きている人たちの生についての話です。生と死が絡み合っていますが、死んでいく者にも生命が宿っている……。女性たちの努力で新たな生を創出できる小さな世界を語っています。

145.5×112.1cm キャンバスにアクリル 2025年

34.8×27.3cm キャンバスにアクリル 2025年

チョン・ジョンヨプ(アーティスト)
透けて見える布に墨とアクリルで、女性たちの身振りを描きました。
展示する場所の後ろが黒い壁だったので、その壁を通過する、出たいということを拡張させて見せたかった。揺れながら互いに重なりながら一緒に動く姿、それらが一緒に進んでいく話をこめました。

300x120cm 布に墨、アクリル 2018年

300x120cm 布に墨、アクリル 2018年

ウプスヤン(アーティスト)
私は普段、K-POPや現代舞踊など踊る映像をよく見ます。ふと非常に美しく柔らかく優雅な動作は弱く柔軟なのではなく、本当は強い力が必要であるこという逆説を見せたくなりました。踊っている人たちの動作の中にある筋肉の動きなどを私の視線で面白く描きました。

32×41.5cm キャンバスにアクリル 2025年

70x29cm 木にアクリル 2025年
展覧会では、参加者が、当時の女性たちの被害状況を初めてリスト化した証言資料集『2025光州民衆抗争と女性』(光州女性家族財団)の中から証言を選び朗読した。
*展覧会の写真は全て展覧会《私の知らない彼女たち》より。
展覧会《私の知らない彼女たち》製作の動画(2025年)
【韓国通信】光州5・18性暴力との女性たちの新たな闘い
2025/11/20配信
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