「尊厳」を手に、一緒に歩いて行きましょう——「中高年シングル女性」を出版した和田靜香さんに聞く

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男性に依存しないで生きている女性たちよ、手をつなごう!

632万人。日本に住む45歳以上のひとり暮らし女性の数だ。(2020年国勢調査)

決して少なくない数なのに、この層の住まいや暮らしの困りごとに手が届く政策はほとんど見当たらない。いるのに、いない。透明化された存在。大勢いるのにマイノリティ……。

フリーランスライターの和田靜香さん(1965年生まれ)は当事者の一人として、中高年シングル女性たちに取材を重ね、昨年12月、雑誌「世界」での連載を岩波新書「中高年シングル女性 ——ひとりで暮らすわたしたちのこと」として出版した。

30人以上の女性からライフヒストリーを聞き取り、3年がかりでまとめた本書について、和田さんにお話を伺った。(聞き手:阿久沢悦子)

独身でも離婚・死別でも、子どもがいても「シングル」

——冒頭に「中高年シングル女性」をメディアで目にすることが増えたとしていくつかの記事が引用されています。しかしそこで描かれているのは「独身」女性。和田さんの本はカテゴリーをさらに広げ、「離婚・死別後のシングル」「子どもありシングル」も対象にしています。そのことに目新しさを感じました。子どもがいてもいなくても、「私たち中高年シングルは同じ」としたのはどうしてですか?

中高年シングル女性の当事者団体「わくわくシニアシングルズ」(以下、わくわく)の大矢さよ子さんが、2022年夏に中高年シングル女性の2345人の生活実態調査をしたんですね。私はその少し前、若い女性たちが一緒にご飯を食べておしゃべりするNPO団体の記事を読んで「これの中高年版が欲しいなあ」とXでつぶやいたら大矢さんに声をかけられ、自分が「中高年シングル」というカテゴリーに入るとわかったんです。

そのときに大矢さんから「私たちは声が小さいから、独身でも、死別でも離別でも、子どもがいてもいなくても、親と住んでいても、きょうだいと住んでいても、パートナーがいなければ<シングル>ってことにしているんだ」と聞いたんですね。

男性に依存するかしないかだけで、日本社会では受けられるもの(保障、恩恵)が全然違う。そのことを考えたら、男性に依存しないで生きている女性たちの問題として大きな輪にして考えていかなきゃだめなんだよ、と言われて、「そうなんだ!」と。

だから本当に大矢さんがいなかったらこの本は生まれていないと思います。

「中高年シングル女性」

2025年12月19日刊、岩波新書、241ページ、本体960円+税

以下、グレー背景部分は本書から引用

フェミニズムによって繋がっていく

——実際に、多様な背景を持つ女性たちの聞き取りを読み進めていくと、「共通項」の方が多いかなと思いました。

本当に! 独身であっても、子どもがいて離婚した人であっても、悩んでいること、考えていることは、言葉の内容は違っても本質は同じ。差はあるけど、違いはない、と思いますね。

——本の中で、中高年シングル女性にとって、フェミニズムが持つ力や影響に繰り返し言及されています。フェミニズムによって困難が解消されるとすれば、それはどんな風に?

中高年女性が直面する実際の問題が解決されるために、フェミニズムで繋がっていくって大事ですよね。一方で、解決につながらなくても、たとえば、本書に出てくるように家族から性暴力を受けていた女性がいて、本当にもう生きていくのが難しいような精神状態の中で、フェミニズムに出会って前向きに考えられるようになって仲間ができていく。それって、本当に大きい。

恋人からDV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受けて、真夜中に茂みに逃げ込んだ女性も、「だったら、あなたもフェミニストじゃない?」などで知られる作家、アルテイシアさんの本に出会って、「救われた」と言っている。DVや性被害を受けた女性が、「私が悪かったんじゃないか」という思いを抱えて生きてきて、フェミニズムに出会って「いや、私は悪くないんだ」と強い気持ちを持つことができる。自分を肯定できる。それが生きていく大きな原動力になったんじゃないかなと思います。

——和田さんも50代でフェミニズムに出会って、肯定された感じがありましたか?

あります、もちろん。私は一人で、それが良くて生きてきたけど、「女は子どもを産んでこそ一人前。まずはよき母、よき妻であるべきで、そして空いている時間に仕事をしなさい」という昭和の時代の固定観念がガッチリすり込まれてきたから、自分の生き方を自分で否定してたし、母親も私を認めてくれなかった。けど、フェミニズムを知ったら、「そんなことねーべ」と。私、これでいいんじゃん、とわかってそれは楽になりましたよね。

【中高年シングル女性の課題①「住居」】

——中高年シングル女性をめぐる大きなテーマで気になったのは「住居」と「労働」です。住居の困難について多くのページが割かれています。女性がひとりで暮らしていく時に、若いうちであっても物件がないか、もしくは高い。そうでなければ、遠くて不便。年を取るとそもそも住居を貸してもらえないと言う問題に直面するということですよね。

(本書・第6章 生涯暮らせる住まいが欲しい)
まずは「わくわく」の調査から。「居住形態」を訪ねた項目で、「民間賃貸住宅」に住む人は41.8%、自分の「持ち家」は21.3%、「公営賃貸住宅」は6.9%だ。住居費負担は月に5〜7万円が22.6%、7〜9万円が12.8%、9万円以上が10.7%で、5万円以上が約半数を占める。(中略)住生活問題の専門家である葛西リサさん(追手門学院大学教授)が単身高齢者の住宅問題について執筆し、「民間賃貸住宅の貸借人の8割が高齢者に対して拒否感を有しており、実際に、高齢者のみの世帯や単身高齢者(60歳以上)への入居制限を行っているとする事業者も一定存在する」と書いている。

男性稼ぎ手対象の世帯別「持ち家政策」の外で

日本の住宅政策が戦後一貫して「持ち家政策」で、男性稼ぎ手を中心とした世帯を対象にしたものですよね。それが強固に続いてきちゃっているので、そこを切り崩すのは本当に難しいと思うんですよね。

東京などは地価が上がりすぎているので、公共住宅を作るのが難しいとも言われています。

兵庫県尼崎市の取り壊しが決まった古い団地を、コープこうべが請け負って改修して単身女性たちに貸しているとシンポジウムで伺ったんですけど、たとえば都営住宅でも10%は必ず単身者に貸すとかそういう新たな法律や条令を作って、制度を変えて行かないと無理かなと思う。公営住宅は世帯入居が基本だけど、いま、東京都の半数が単身世帯なので、10%では足りない。20〜30%は単身者向けとして、シェアハウスも認めるなどの公営住宅法の外になる「目的外使用」を認めていかないと単身者の住居問題は解決しないと思います。

——単身者が入れる都営住宅の倍率が100倍近くと大変なことになっていますよね。

そうなんですよ。場所も都心から1時間も電車に乗って、さらにそこからバスで数十分とか、めっちゃ不便で。都営に当たって引っ越せたらラッキーだけど、そうしたら今まで暮らしていた場所や人、私の愛する野良ネコとの縁とか、地縁みたいなものから全部引き剥がされてしまう。小池百合子都知事は子育て世帯対策だけなので、単身者向けの住宅施策はやらないと思いますが。いま、中野区に住んでいるんですが、再開発が進んで古いアパートがどんどん壊されて、家賃がどんどん上がっている。私が、引っ越さなきゃいけなくなったのも、改築の影響です。いま物件を探しているけど、ほとんどない。生活保護の人たちも住むことができた月5万3千円ぐらいのアパートが取り壊されて、小ぎれいなマンションに生まれ変わって、家賃も3倍、4倍になっている。

全国的に見れば、空き家もまだまだあるし、単身者の住まい確保もできそうなんだけど、こと東京都においては、今後単身者が住める見通しがない。東京から単身者は出ていかざるを得なくなるのかな、と思う。

住まいは人権という基本的な考え方がない

——阪神大震災の時に、借り上げ復興住宅の期限20年問題というのを取材したことがあります。復興住宅が足りないからURの物件を借り上げて、家をなくした人に提供してきたんだけど、20年経ったら出て行ってくれと、行政から裁判を起こされるという恐ろしい事態が起きていた。人が住んで、コミュニティが発生していることにはお構いなしに、あっちに動け、こっちに動けということを、日本政府は災害列島でずーっとやってきている感じですよね。

住まいは人権という基本的な考え方が行政にないから、「ここに住め」「住めないのか、金ないのか、じゃあ仕方がない」ということになっちゃってる。

平屋の長屋みたいなところに住むのもいいなあとあこがれるんだけど、東京だともう郊外にしか残っていない。郊外だと仕事に出るのに交通費も時間もかかる。

2世代前ぐらいの女性は単身で働いていても正社員でお金があったから、退職後に仲間とコーポラティブハウス(*1)を建てられたけど、今の中年世代の単身者は非正規で働いている人が圧倒的に多いから、貯金があるわけでもなく、自前でコーポラティブハウスを建てるのは無理ですよね。高齢女性同士で住んでいると介護の問題もどうしても出てくるし。

*1……入居希望者が組合を作って理想の集合住宅を建てて、共同で住まう方式

和田靜香さん=国会前(本人提供)

【中高年シングル女性の課題②「労働」】

——もう一つの困難は「労働」です。本の帯に「非正規時代の『おひとりさま』たちへ」とありますが、今後、就職氷河期世代の女性たちが中高年に差し掛かっていきます。こちらも、男性を主な稼ぎ手、女性をその配偶者とする労働モデルがあり、女性は安く使われてきたという構造の問題がある。2024年の調査で男女の賃金格差は男性を100とすると、女性は75.8です。

(本書・第2章 働いているのに、この不全感)
1960年代から現在まで、だいたいどの時代においてもシングル女子の8割以上が永続的に働いている。ひとりで暮らす私たちは、多くの場合で自ら働いてお金を得て、生活をする。「わくわく」が2022年夏に行った生活状況実態調査では、回答した中高年シングル女性2345人中、1984人が「働いている」と答えており、84.6%と高い就労率がわかる。就業形態は正規職員が44.8%、非正規職員は38.7%、自営業・フリーランスが14.1%と続く。

男女の賃金格差がどうして当たり前に続いているのか

女性の非正規労働の多さ、男女の賃金格差がどうして当たり前に続いているのか、不思議でたまらないよね。みんなもっと怒ってもいいし、怒ってほしい。それなのに男たちは「もう差別なんてない」と言っている。いやいやこんなにでっかい差別があるじゃん。

本書に出てくるフリーランスの宮園さんは、69歳になっても夜勤をやってフルタイムで働いている。年を取った人は仕事を選べない。あるのは清掃や介護などのエッセンシャルワーク、肉体労働。それしかないんだよね。地方だと、コールセンター勤務の非正規の人も複数いました。みんな収入低いから、年収も低い、年金も低い、だからずっと働かなければならない、でもエッセンシャルワークしかない。生きているだけで「女性罰」「シングル罰」「生きているだけ罰」を課されているような気がします。

(本書・第3章 いつまで働くのか)
「わくわく」の調査に、「いつまで働くか?」という項目がある。最多は「働ける限りはいつまでも」で全体の45.7%。続いて「生きている限り、死ぬまで」が19/9%で、二つを足すと65.6%になる。これが非正規職員に限ると78.9%になり、自営業なら77.7%になる。私たちシングル女性の半数以上は出来得る限り働きたいと願っている。というか、そうする以外に生きる術がないと感じている。

年金は雀の涙 死ぬまで働くしかない

私も年金は雀の涙しかもらえないことがわかっているので、死ぬまで働くしかないと思っています。今は本を書いているけど、来年からまたバイト人生かなと。

みんなずっと働くんだよね。いつまでも働いているもんね。しかし自分も60歳になり、身体が動かないことがデフォルトで、これでバイトまでしろってのか?と叫びたい気持ちになります。

とにかく女性を正規で雇ってほしい。本では特に就職氷河期世代の会計年度任用職員について複数人に取材して詳しく書きましたが、大椿ゆう子・元参議院議員が「連帯させない。労働組合潰しの制度」と話してくれ、就職氷河期世代を囲い込んで働かせているひどい制度だなと思う。公務員なのに非正規、さらにそれを恣意的に公募したり雇い止めにしたりしている。任用年度の上限を撤廃する自治体は増えてきたけど、大勢は変わらないだろうなと思う。そこで働く人の多くが女性です。

インタビューをするとみんな自信を持つのが難しいように思う。会って話すと素敵な人たちなのに、自己卑下してしまう。「どうせ私は」「このぐらいの待遇で当然だ」「働かせてもらっているだけでありがたい」となってしまっているのがつらい。そこまで人を追い込む労働形態があっていいのかな、と思う。会計年度任用職員って、扱いが「人」じゃなくて、「物品」なんだよね。人を人として扱わない。日本社会が外国人労働者にしていることと、非正規の人にしていることって、全く同じだよね。

女性たちはこんなにも「暴力」にさらされている

——通読して思ったのは、世の中の女性はこんなにも「暴力」にさらされているのか、ということでした。和田さんは「ここからはゆっくり読んでください」と注釈しながら書いていますが……。

本当にそうなんですよね。夫からDVを受けた人が何人も出てくる。親子2代でDV被害を受けた人もいる。家庭内で性虐待があって、実家にも帰れない人がいる。こんなに暴力が蔓延しているんじゃ、女が一人で生きていく羽目に遭うのは当たり前だなと思った。

裏を返せば男たちに自信がない。女を暴力で支配することしかできない。そういう男たちのありようも悲劇だし、この国ってなんなんだろうなと思います。

「炊き込みご飯を一緒に食べた」から広がる風景

——どこで何を食べながらインタビューしたというのが詳しく出てきます。これはどうしてですか?

話したくないことも話してくれているので、個人が特定できるようなディテールは載せたくなかった。その代わりに「作ってくれた炊き込みごはんを一緒に食べた」「喫茶店でサンドイッチを食べた」という記述から、生きている感じが伝わってくるじゃないですか? 半生を聞いて書くということはもう暴力だから、プライバシーを守るというのはライターとして絶対条件だと思っている。

自分が中高年シングル女性として「貧困ポルノ」みたいに取り上げられ、数百人もの読んだ人たちから自己責任論で責められた体験があることがすごく大きいですね。ここに出てきてくれた女性たちの何人かも、過去に新聞やネット媒体の取材を受けたことがあって、掲載されなかったとか、話をないがしろにされたという思いを持っている人もいたから、そこも守りたいと思いました。30人に取材して全員の話を盛り込みました。

人とつながる、相談できることが大事

——繰り返し「つながる」「連帯」という言葉が出てきます。私たちがつながるためにはまず、何が必要でしょうか?

私は一人でいいもん、と思っちゃったら、まずつながれない。読んで、「つながることが大事」とまずは思ってほしいと、しつこく書いています。

思っていれば、何かのきっかけで人とつながることができるのではないかなと。同じような境遇の友達がなかなかできないから、作る機会があるといいですよね。

あと、相談できる相手がいるってすごく大事。困難女性支援法で、中高年シングル女性の相談窓口を設けてほしい。

性別役割分業、低賃金、頼りない暮らしを終わりにしたい

——「ひとり暮らしの戦後史 —戦中世代の婦人たち—」(塩沢美代子・島田とみ子著、岩波新書、1975年)が繰り返し引用されています。

シングル女性を取り巻く状況は、50年間驚くほど変わっていないです。本書にも書いたのですが、「根深い家父長制からの性別役割分業、いくら働いても半人前とされ、能力よりも従順さが求められて賃金は安いまま、長く働いても年金では暮らせない老後、世の中の偏った規範に息をひそめ、ひとりの人間として生きる自信を持つこともできずに頼りなく暮らす」。

もうそういうことは終わりにしたい。そのためにも女性がつながって、共に声を上げて、壁を切り崩していくしかない。50年後に私の本をたまたま手にした誰かが、「昔はひどかったねえ」と言えるようになってほしい。

「ひとり暮しの戦後史」

1975年3月刊、岩波新書、226ページ、本体820円+税

——和田さんは60歳。中高年シングルの当事者として今後、どのように生きていきたいですか?

田舎でのんびりというのは私にはないなということはわかっています。まずは当面の住まいをどうするか。住まいは人生そのもの。なのに、大事にされていない。夫がいて、「結婚しました、家を建てました」という人は、全人口の半分ぐらいしかいないんだから「住まいは人権」ということをちゃんと見直してほしい。猫と暮らすひとりの暮らしぐらい、そうそうワガママじゃないでしょう。