年度末に産休取得を申請したら雇い止め? 不透明な人事評価で適応障害も 非正規公務員の省庁交渉で改善求める声

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非正規公務員が年度末に産休の予定を申し出たら雇い止め。それって「マタニティハラスメント」では?

年度末に向け、非正規公務員の雇用継続を判断する面接が始まっています。不当な雇い止めやハラスメント防止のため、非正規公務員と支援者らでつくるvoicesが1月15日、省庁交渉の場を持ちました。

交渉には総務省、人事院、厚労省の18人とvoices側17人が参加。voicesからの質問・要望に、国側が答える形で進められました。

非正規の取り出し調査、実施せず

ハラスメントアンケートの実施については、総務省、人事院とも、非正規を含む公務員全般に対して実施。「より声が上げにくい非正規を取り出し、直接の上司を通さない調査をしないと実態がつかめないのではないか」とのコモンズ記者の質問に対し、総務省の担当者は「ハラスメントは非正規だけの問題ではない」と取り出し調査の実施を否定しました。

公務員のハラスメントの相談件数が増えている原因については、総務省、人事院とも「一概には言えない」としながらも、「ハラスメントに対する職員の認知度が向上しているからではないか」という見解を示しました。

専門職にあたる会計年度任用職員を雇い止めにして、正規職員の退職後の再雇用を進めている状況がある、というvoicesの指摘に対して、総務省は「カウントしていない。どの仕事にどういう職員をあてるかは各自治体において適切に選択いただいていると思う」と話しました。voicesの藍野美佳さんは「今まで再任用だった人が、会計年度任用職員を選ぶ。勤勉手当が付き、年収が高くなるからです。正規が会計年度になるのはノーテストで、公募なく会計年度任用職員になれる。非正規の待遇改善のためではなく、退職者のための会計年度任用制度ではないのか、と疑われている。実態を把握していただきたい」と要望しました。

透明で恣意的な人事評価、改善を

非正規公務員の人事評価については、「専門性のない評価者が決めている」「透明性がなく、好き嫌いや私情がはさまれている」などの懸念があります。雇い止めの理由として低い評価が挙げられることもあり、この状況がハラスメントや公益通報をためらう温床になっているとvoicesは見ています。こうした点についても、省庁側に改善を求めました。

人事評価と雇い止めについて、3人の当事者が発言しました。

省庁交渉では女性たちが自身が受けた人事評価や雇い止めについて発言した=東京都内

◆人事評価により適応障害を発症したAさん

私は不適切な人事評価で適応障害を発症しました。
私の自治体では会計年度任用職員の評価項目は5つあり、それぞれ5点で合計25点満点です。合計点が13点以上あれば、雇用更新できるというものでした。
私は協調性が2点、ほか4項目が3点で14点でした。更新できる点数ではありますが、不安を感じました。次回までに改善を行うために、なぜ協調性が低く評価されたのか、理由が知りたかった。しかし評価開示面談をした上司に質問しても、すぐに回答は得られませんでした。
人事や相談窓口を通じて再三説明を求めたところ、5ヶ月たって理由が開示されました。内容は「業務に否定的な意見が多い」「業務を協議する時間が長い」「否定的な意見ばかり口にするため周囲の人と良好な関係が築けていない」など主観的であいまいな理由ばかりが並んでおり、客観的な理由は示されませんでした。何を根拠に言っているのか、私には理解できませんでした。
業務に関する否定的な意見というのは具体的にどのような発言を指しているのか。
業務を協議する時間はいったい何分以上なら長いのか。
誰とのどのような関係を見て良好ではないと判断したのか。
評価に至った事実や根拠について質問しましたが、回答はありませんでした。

人事評価ではなく人格を傷つけるだけのパワハラ

これでは評価の妥当性や行動の改善について認識をすりあわせるどころか、根拠となった事実の有無すら確認することはできません。
これは到底、人事評価とは言えません。ただ人格を傷つけるだけのパワハラです。
所属長は私と一度も面談をしたことがありませんでした。いつまでにどのような業務目標を達成するのかが示されず、質問にも答えてもらえず、日々放置されていました。にもかかわらず、ある日突然、「起案をしてこない」と怒鳴られたこともありました。私はそのとき業務開始から1年たっておらず、起案という言葉すら初めて聞くような状況でした。
評価理由の開示面談にも評価責任者である所属長は出てきていませんでした。そのように所属長から根拠不明で不透明不公正な評価を受け、業務に集中したくても雇い止めや評価のことが頭から離れず、重大な精神的ダメージを負い休職しました。
公務災害を申請したところ、私に何の聞き取り調査も行われず、「公務外」と認定されました。認定の根拠について開示請求をしましたが、すべて黒塗りで、どんな判断をされたのか、ほとんどわかりませんでした。
適応障害を発症してから5年近く経っています。こんなに長期にわたるのは人事評価について、上司が自らの好き嫌いや思い込みで、根拠を明示することなく、自由に言いたいことを言っていいのだと誤解していることが原因ではないでしょうか?
更新を希望するすべての会計年度任用職員にとって、人事評価に対する精神的な負担は重大です。私と同様に不当な人事評価を受けて雇い止めに至った人の話をよく聴きます。このような制度を放置することは人権問題で、安全配慮義務違反です。
対策として人事評価を行う管理職に対して、正しい人事評価方法の研修を行い、研修通り評価できているか組織がチェックする制度が必要です。評価は開示されるまで何を根拠にどんな評価がされているかわかりません。職員は常に監視されているような緊張状態を強いられます。
ネガティブな評価がある場合は、評価責任者による面談と書面でどのように行動を変えれば評価が改善するのかを具体的に明示し、改善の機会を十分に与えることもセットで義務づければ、会計年度任用職員は予期しない低評価をされ、そのまま雇い止めになるといった不安から解放されます。
本当は更新にかかわる評価は廃止することが望ましいのですが、能力主義を掲げて、今後も継続するのであれば、せめてこのような制度の改善を行うことを求めます。

厚生労働省、総務省、人事院に要望書を手渡したvoicesの藍野美佳さん(右端)=東京都内

◆職場で孤立状態になり退職したBさん

私は昨年末に12年間務めた職場を退職しました。そのうち、9年間はパワハラやモラハラに苦しんだ日々でした。
生活保護にかかわる専門職として採用されましたが、上司が異動になると、専門職の仕事はできなくなり、非正規職員というレッテルを貼られ、はれもの扱いを受けました。人事委員会や行政管理課に相談しても「あり得ない」といわれるだけで、適切な対応をしてもらえませんでした。
生活保護の仕事をするケースワーカーは、一般行政職員が対応しており、社会福祉主事を持たない人も配属されていました。管理職も30年前に数年ケースワーカーをしていたというだけで配属され、生活保護制度を理解していない方が多くいらっしゃいます。
本日はこの1年間に起こったことについて報告します。
何年も前から、私は職場で孤立状態で、職場内での会話は全くありませんでした。業務に関してすら、私に声をかける職員、上司はいませんでした。

離職票や健康保険証の喪失届も来ず

昨年5月に一人のケースワーカーがメンタルの原因で休職しました。社会福祉主事を持たない新採のケースワーカーでした。その後もケースワーカーの休職が相次ぎ、11月には在籍者の半分が休職し、壊滅的な状況となりました。人員の配置をすることなく、人手がない状況になって初めて上司から話しかけられました。
職員が行うべき仕事をすべて私に振られ、引き受けた途端にいつもと変わらぬ会話のない日常がまた始まりました。12月末で退職と告げると、「それは困る」と言われました。最後の最後まで「都合のいい人」扱いを受けていたことが、とても残念でなりません。
正規職員の休職は給与が保障され、復帰に向けたフォローがとても手厚い。ストレスチェックは全職員に対して行われていましたが、どんな結果であっても非正規職員には声がかかることはありません。単にチェックを実施したという事実が残るだけです。私はパワハラ、モラハラによる休職を経験しましたが、産業医と話すこともなく、職場復帰に際しても上司からの声かけやフォローは全くありませんでした。
非正規は休職が雇い止めと直結してしまうため、休みたくても休めない。低賃金で病院に通うことを躊躇する人もいます。
パワハラ、モラハラによる退職は裁判をしない限り自己都合になると私は言われました。退職が年末年始にかかったこともあり、離職票や健康保険証の喪失届も届いておらず、失業の手続きを進めることや病院にかかることができません。
私が在職していた福祉分野の仕事は簡単に切り捨てることができないものだと思います。地域共生を目指しているならば、人員配置や会計年度任用の運用見直しをお願いします。

「非正規公務員の生の声を是非聞いてください」と訴える藍野美佳さん(右)=東京都内

◆妊娠を報告したところ雇い止めにあったCさん(代読)

中国地方の自治体で働く会計年度任用の女性です。これまで6年間、同じ町の二つの部署で働いてきました。
今年3月に出産予定のため、昨年10月、所属課の課長に「3月に出産予定なので産休・育休を取りたい」と申し出ました。すると、「会計年度任用職員の任期は4月から翌年の3月末。3月に出産で休むことになるのでは雇用を更新できない。働きたいのであれば、一から面接を受ける必要がある」と説明されました。
今までは2月に面談や更新について説明があったため、秋の段階で「契約更新できない」と言われ、非常に動揺しました。しかも、会計年度任用職員も産休育休が取れると理解していたのに、4月に休みがかかるなら契約更新できないといわれ、出産時期が違ったならば、産休・育休がとれたのだろうかと困惑しました。契約更新できない理由は「私が3月に出産するから」としか理解できませんでした。産休は制度的には5月半ばまで取得できますが、雇用契約終了の3月末までしか取得できないと言われました。
私はシングルで子育てする予定です。育休を取って、また町で働きながら子育てをがんばるつもりでいました。その見通しが突然崩れ、産後の生活の経済的基盤が失われる不安に襲われました。

産休育休取れず、生活保障も一気に失う

「私が産休育休を取得できない理由は何か」
県人事委員会や市町村共済組合にも相談しました。
県人事委員会からは「市町村の判断による」との答えしか得られませんでした。
所属長ではなく町としての見解を伺いたいと12月4日、町総務課に申し入れました。そこから2週間経った12月19日、「所属長から、契約更新できないのは勤務態度が理由だと聞いた」と言われました。寝耳に水でした。所属長の説明では、「これまでは更新してきたが、トータルな勤務態度から今回は更新できないと判断した」とのことでした。
所属長から直接叱責を受けたことも、大きな業務上のミスをしたこともなく、粛々と仕事をこなし、業務量に合わせて勤務時間を調整して働いてきました。それなのに、「決まった曜日で休みを取ってほしかった」「会計年度も職員の一人だという自覚が低い」などのあいまいな理由を述べられ、それが問題のある勤務態度だと説明されました。ショックでした。
町の係長からは「会計年度任用職員は来年度以降の雇用が約束されたものではない」と説明されました。それはわかっています。しかし、正規職員は当たり前に産休育休を取れるのに、会計年度任用職員は、「勤務態度」を理由に産休育休が取れず、産後の生活保障を一気に失うのは理不尽です。結局、私は都合良く雇われ、都合良く切られる存在なのだと思い知らされました。
これから生まれる子どものことも、私のことも誰も気にかけてくれず、守ってくれません。この事態に直面し、絶望しています。女性が安心して働き、子育てをできる社会をつくるというフレーズをよく聞きますが、会計年度任用職員というだけで、上司の「契約更新しません」という一言で、社会的な制度を利用できません。
全国の会計年度任用職員の8割が女性です。会計年度任用職員が安心して産休育休を取得できる仕組みを作ってほしい。

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