
国や自治体が単年度契約の非正規公務員に育休・産休を取らせず、妊娠が発覚すると雇い止めとするケースが各地で起きていることが、非正規公務員当事者でつくる団体voicesのアンケートでわかりました。団体は「民間団体であれば、マタニティ・ハラスメントに該当し、深刻な人権侵害だ」と訴えています。
年度末に休む人の雇用は更新できない
中国地方の自治体に会計年度任用職員として勤務するAさんは3月下旬が出産予定日です。これまで6年間、同じ町の二つの部署で働いてきました。
未婚で妊娠し、昨年10月、所属課の課長に「3月に出産予定なので産休・育休を取りたい」と申し出ました。すると、「年度末に休む人の雇用は更新できない。働きたいのであれば、一から(公募の)面接を受ける必要がある」と説明されました。
県の人事委員会に相談しましたが、「市町村の判断による」との答えしか得られませんでした。
12月になって町総務課に改めて「契約更新出来ない理由」をたずねると、「所属長から、契約更新できないのは勤務態度が理由だと聞いた」と言われました。
出産予定日と前後して雇用も保険証も失う
Aさんはこれまでやってきた仕事がすべて否定されたように感じ、ショックを受けました。
雇用契約が切れるため、3月31日までに健康保険証を返納するよう求められています。ちょうど出産に前後して仕事を失い、給与を失い、保険証も失うことにAさんは「とても不安だ」といいます。
「正規職員は産休・育休が取れるのに、非正規だというだけで勤務態度を理由に休暇が取得できず、仕事も失う。結局、私は都合良く雇われ、都合良く切られる存在なのだと思い知らされました。これから生まれる子どものことも、私のことも誰も気にかけてくれず、守ってくれません。この事態に直面し、絶望しています」
Aさんの事例は中国新聞で報道され、国会でも取り上げられました。
しかし、救済策は見いだされていません。voicesは妊娠・出産をきっかけとした雇い止めは他にもあるのではないかと2月、オンラインアンケートで体験を募りました。13件が寄せられました。
【現在進行形の事例……4件】
育休取得希望したら「勤務態度が悪い」と更新拒否
雇用を更新して育休取得を希望したのに、今年度限りで更新はしないと言われた。理由を聞くと勤務態度が悪いからと言われた。一つ一つ反論していくと、「実は昨年度の更新から迷っていた」と言われた。「そんな事ある?」という言い訳がたくさん出てきて逆に呆れた。結局、勤務態度を理由とした退職扱いになりました。総務課も町長も、私への聞き取りはなく、所属課長の出した結果に納得しているそうです。私は1つも納得していません。
(昨年末にメールで相談)
今日、課長に妊娠を報告し、今後の相談をしました。初めてのケースなのでそもそもどうなるかわからない(課長にも知識がない)、と話されました。
課長も年明けに人事課と相談する必要があるため、現時点では育休を取れるとも辞めろとも言われていないのですが、不安で仕方ないです。
戻ってきても今まで通りの勤務を約束できない
産休育休は問題なく取れるし、そのせいで更新を切ることはできないのでしないが、カバーのために人を異動させるので、結果、「戻ってきても今まで通りの勤務時間や日数を約束できない」と言われてしまった。復帰までに他の人が抜けてしまった場合は、今まで通りの業務が出来るだろうと言われましたが、保育園の(入園に必要な)点数にもかかわるし、そんな不安定な状態で安心していられるかと言うと難しいです。
会計年度任用職員として働いていて現在育休中です。来年度は更新1回目で、引き続き育休のまま更新してもらえます。保育園激戦区で年度途中の入園は難しく、育休を延長して子どもが1歳半になる再来年度の4月に入園し、復帰するのが現実的かと考えていました。ただ、年度中に一月以上勤務できなければ更新できないと言われています。
正職員なら何の問題もないはずですが、会計年度任用職員だからできないということと、再来年度はもう一度更新できるはずなのに、ということで悔しい気持ちです。今まで3年ほど理不尽な思いなども飲み込んで一生懸命やってきたこととは関係なく、年度の区切りだけで簡単に切られてしまうのかと思うと悲しいです。
【過去の体験談……9件】
産休・育休中の再任用は周りに説明できない
3年前の話です。会計年度任用職員として2年勤務していました。妊娠発覚とともに職場に相談し、今後のことについて確認したところ、産休・育休を取得中の人を再度任用することは周りに説明出来ない旨、回答をされました。後日、省庁のマニュアルを確認し抗議しました。マタハラにあたる旨も指摘すると、人事権のある上役と再度話し合いをすることになりました。その上役からいきなり「会計年度任用職員のポストをなくす考えがある」と説明がなされました。その際、マタハラにあたることと、今回の説明は不利益取扱になると考えている旨を申し上げ、上役もその場では謝罪をしてきましたが、結論は出ず。再度連絡するとの事で終わりました。公務員の組合である職員団体にマタハラの事例として相談をしました。力になってくれるどころか、会計年度任用職員は(産休・育休を)取得した前例もないし出来ないとの回答をされたあげく、人事部に相談内容が漏らされ、結果こちらの承諾なしに人事部からマタハラについて関係者に事情聴取がなされていました。
その後、人事院や人権センターのようなところにも連絡をしましたが(自治体の)人事に関することなのでと助けてはもらえませんでした。
年末になっても上役から連絡が無かったのかでこちらから連絡すると、前回から態度を変え「あなた方に今お伝えすることはなにもない」と高圧的な態度での回答でした。
雇用関係が終了してからの、ハラスメントや雇止の訴えでは時すでに遅しになるケースが多いとのことなので交渉を諦めて、地方議員を通して議会に問題提起することを先方に伝えました。
実際に地方議員も帯同で状況把握のために先方に話を聞くとなった時に態度が急変し、これまでのハラスメントとなりうる発言と採用に関しての誤解を与える行動について謝罪があり、育休中に再度の任用をするという形になりました。
育休は取得することができましたが、かなりこじれたので育休明けの採用面接で不採用となりました。
妊娠すると「切りのよいタイミング」と契約終了
10年前の経験です。私は県立美術館に非常勤学芸員として2005年4月から働いていました。非常勤のため請け負える責任に限度はありましたが、毎日勉強になり充実した日々でした。多くの非正規公務員の契約がそうであるように、契約は1年単位で3月末が切り替えでした。
契約の3年目の6月に妊娠しました。12月を迎えるころ副館長から契約終了を告げられました。県庁からは、私が4月に出産予定で切りの良いタイミングだからと言われました。
私は通勤距離の長さもあり、子どもを抱えて実際に勤務を続けられる可能性は低かったと思います。ですが、私からやめるのと、県から契約更新はないと言い渡されるのとでは状況がまったく違います。せめて来年度はどうするか、聞いてほしかったです。規定では非常勤も産休育休が取れましたが形骸化していました。
日常会話のなかで館長からは非常勤の給与は人件費からは出ていないと言われました。私は人間ではないのかととても悲しく思いました。また、ちょうどひとりの常勤学芸員が同時期に妊娠出産を迎えていました。私が契約終了を言い渡された後、私の見えるところで産休育休の話を事務の常勤職員としていました。それを聞いているのはとてもつらくて私の尊厳はずたずたにされました。
同じ非常勤仲間が「つらいでしょう」となぐさめてくれたのが救いでした。あれから10年以上が経ち、まだ妊娠出産による雇止めが行われている状況に怒りを覚えます。専門職に対して日本はあまりにも評価が低いと思います。
これ以上不当に雇い止めにされる人が出ないように関係各所に求めます。
妊活のタイミング逃し、離婚
36歳で結婚。妊娠しにくいと診断され、結婚後1年間、“妊活”をしていました。徐々に私が職場を失うことがリスクに思えて、夫に子どもを諦めてほしいと相談しました。夫も経済的に育てられるかというと正直自信ないから、と納得してくれました。夫も私も子どもが欲しいことが一番の理由で結婚しましたが、そのことをお互い口に出さないようになっていき、5年後に離婚に至りました。婚期が遅く、妊娠のチャンスも短かったため、子どもがいたら離婚しただろうか……と振り返ります。夫の将来を想い、まだチャンスがあるかもしれないと、早めに離婚に踏み切りました。自己責任だとは思いましたが、仕事が不安定だと、結婚することも子を産むことも、一筋縄ではいかないと思います。
配偶者が当時、半年更新の非常勤の給食センターの栄養士(県費)だったが、妊娠が7月にわかり、8月に所属長(給食センターが設置されている中学校長)に申し出たら契約更新はできないと言われ、9月末で雇い止めにあった。
公営企業のある公立病院の非正規のリハビリ職なので産休は取れるが、育休条例がないので、雇い止め通告された。(当時、総務省は非正規の育休条例の整備を求めていて当該自治体でも翌年度に制定が予定されていた)
特別支援学級に在籍する非常勤の看護師が妊娠故に雇い止めに遭い(当局は明確に雇い止めの理由として妊娠を示していた)、組合が交渉して撤回させた。
妊娠が分かったら、契約更新しない
妊娠が分かったら、契約更新しないと言われ、1年の任期で終わった。
雇い止めではないけれど、通院で休みがちになってしまうため、勤務日数の調整(週5→週4に)を募集の範囲内(週3以上)で申し出たところ、パート勤務の契約のはずが、「本来ならばフルタイムのはずなのに!」と脅された。これを市に報告したが、謝罪もなく、採用されたら勤務先に従うべきだと放置された。
第1子妊娠時は産休をいただきました。第2子の時は「(産休は)第1子で取ったからいいよね」と言われて、次の年は更新になりませんでした。当時は嘱託制度でしたが、更新にならなかった理由は明らかにされませんでした。
経験者は誰一人、納得できていない
事例を読み上げた後、voicesの藍野美佳さんはコメントしました。

「皆さんの体験談から、妊娠出産を理由にした雇い止めの中には様々な問題があると感じました。妊娠して子どもを産むことは終わりの出来事ではなく、生命を育むという始まりの出来事です。ある程度計画的に考え、選択して準備が必要な出来事だと思います。安心して妊娠時期と産後を送る事が出来るように産休・育休をはじめ、さまざまな社会資源も用意されています。本来なら法律で守られているはずです。
しかし非正規公務員ということで、このような理不尽な対応にさらされています。
専門職が大切にされない。保育園に入園できない。低賃金の為、妊娠を諦めて離婚にいたる。妊娠するまでは問題なく何年も更新されていたが、妊娠を告げたとたん『勤務態度が悪い』との理由で雇い止めに遭う。
経験者は誰一人、納得出来ておらず悔しい思いを抱えたままです。少子化対策と言いながら、妊娠・出産をした方が守られず、不安を抱えることがなくなるよう望みます」
会計年度任用職員の問題点が集約されている
voicesのアドバイザーで和光大学名誉教授の竹信三恵子さんは妊娠・出産に伴う雇い止めに「会計年度任用職員、期間業務職員の問題点が本当に集約されている」と話しました。
会計年度任用職員は1年ごとの契約更新ですが、総務省は昨年6月、公募によらない更新回数の上限(2回まで)を撤廃する通知を各自治体に出しました。しかし、一方で、公募するかどうかをめぐり、上司の恣意的な評価やハラスメントが横行するようになったという訴えが当事者からは出ています。

竹信さんは、勤務態度や成績を理由にしたマタハラの素地がここにあるとみています。
「妊娠すること自体が『面倒くさい人』という扱いを受けてしまうんですね」(竹信さん)
即効性のある解決策は見当たりません。
根本的な解決策として竹信さんは「ずっと続く仕事を1年で切ることをやめる」ことを提案しました。
また、自治体の内部にある相談窓口は非正規公務員については機能しない、と指摘。外部の相談窓口の利用や、人権擁護の第三者機関の設置を求めました。
その上で、「非正規雇用の8割が女性。いちいち妊娠で首を切られていたら、子どもを作ろうとはとても思えない。国は少子化対策を進めているが、女性を有期雇用にしたままでは、人生設計が立てられない」と訴えました。
「国は地方自治に介入できない」を言い訳に
voicesはこれまで総務省、厚生労働省、人事院と非正規公務員の労働環境について省庁交渉を重ねてきました。生活ニュースコモンズの記者もその場で取材をしてきました。総務省は年度末に産休を申請したら雇い止めになったという事例について、「人道的にあり得ない」としながらも、「国は自治体の人事に介入できない」と繰り返しました。
3月24日には参議院の地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会で社民党の福島みずほ議員が非正規公務員の妊娠・出産について質問しました。
福島議員
「会計年度任用職員において、妊娠などによる雇い止めが実際に起きているんですね。どう対処するんですか?」
冨樫博之・総務副大臣
「産休や育休を理由とする不利益な取り扱いは地方公務員法第13条や地方公務員育児休業法第9条により制度上、禁止されております。この取り扱いについては会計年度任用職員であっても同じです。各自治体において、育児休業の適正な運用が行われるよう今後とも情報提供や助言を行ってまいります」
福島議員
「これね、改善策をとらないと絵に描いた餅なんです。妊娠出産して働き続けることは、正規にはできるが、非正規にはできない。1年ごとの契約更新でマタハラの制度化が起きているんですね。実態を調査してください」
小池信之・総務省自治行政局公務員部長
「育児休業をとった人の雇用契約が継続しているかどうかなどについては各自治体の具体的な任用にかかわる部分なので、総務省として調査は考えていない」
・産休育休を理由にした不利益取り扱いは地方公務員法で禁止している。
・国は具体的な自治体の人事には介入できない。
総務省は地方自治を言い訳に、根本的な改善策を検討しようともしていません。
しかし、現実に起きていることは、非正規公務員の方々にとっては、「いつ、何人子どもを持つか」という自己決定権がないがしろにされている状況に他なりません。
voicesは妊娠・出産と雇い止めについての声を引き続き集めています。4月末に第一次集約し、再び省庁交渉に臨む予定といいます。
*アンケートフォームは下記リンクを参照してください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSd7d1p7Sh1LPBF6tNS1QTyzng4vj89PbW4bZ9QAod8Kt_fxRw/viewform