子ども向けの防衛白書として防衛省広報課が作成した2026年版『まるわかり!日本の防衛 はじめての防衛白書』について、小泉進次郎防衛相が8月4日の記者会見で「小学校高学年だけでなく中高生も対象にし、教育委員会や私立学校主幹課に配布を働きかける」と発言した。24年版は青森、秋田、栃木、長崎など9県で配布され、25年版は文部科学省が教育委員会あての配布物に添付する紹介状が得られなかったなどの理由で配布が見送られていた。
自衛隊員の食事や進路を強調
これを受けて9月8日、防衛省・文科省交渉が行われた。福島みずほ参議院議員が呼びかけ、ラサール石井参議院議員、自治体議員らが参加した。
26年版は防衛白書のサマリーだったこれまでの冊子と異なり、自衛隊へのリクルート色が濃くなった。34ページのうち、実に3ページを「自衛隊員の食事」に割き、空自の唐揚げや海自のカレーなどを写真入りで紹介。一般の成人男女に比べ、自衛隊員には厳しい訓練に対応するカロリーが必要と、「大盛りごはん」のイラストを添えている。徽章や階級の説明も細かくなされ、巻末には「理想の未来を実現する様々なコース」として「一般幹部候補生」「一般曹候補生」「防衛大学校生」「自衛隊奨学生」など自衛隊員になる複数のルートの一覧表が掲載されている。

なぜ中高生も対象にしたのか
交渉ではこの点について質問が集中した。(回答は防衛省広報課)
——24年版は小学生だけだった。なぜ、中・高も対象にしたのか。
「まずは小学生から、しかし、中・高生も最初から対象である。図書館や役所において一般市民に見てもらってもよい」
——食事・階級・かっこよさが前面に出ている。リクルートのためではないか。
「どういう人が自衛隊で働いているのか基本的な知識を紹介した。(リクルートを担う地方協力本部ではなく)広報課の作成であり、国民に広く自衛隊のことを知ってもらうためのもので、隊員募集が目的ではない」
——配布と対象拡大の決定はいつか。小泉防衛相が記者会見で発表したのはなぜか。
「意思決定の細部にかかわるので回答を控える。大臣会見は冊子が完成したタイミングで行われた」
一方、自衛隊、防衛省についてのニュースを発信する新聞「朝雲」では、自衛隊幹部がこども防衛白書について、「隊員募集の目的」と明言しており、どちらかの説明が虚偽ということになる。

中国・北朝鮮・ロシアを名指し
冊子では専守防衛や非核三原則について触れているが、現実に進行している安保三文書の改訂、敵基地攻撃能力の保持などとの矛盾については記載がない。日本を取り巻く環境の説明では、中国、ロシア、北朝鮮を名指しし、「日本の周りには核兵器を含む大規模な軍事力を持ち、日本とは政治・経済に関する価値観を共有しない国家や地域が複数あります」と記載している。

板橋区議の五十嵐やす子さんが「区内の小学校には中国にルーツを持つ児童も多く通っている。いじめが起きないか」と質問した。
防衛省の回答は「あくまでも安全保障環境の客観的な認識であり、『仮想敵国』とは書いていない」、文科省は「個別の記載についてのコメントは差し控える」とかみ合わなかった。
『ネルソンさん』の映画と同じ
9月11日公開の映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は実在のベトナム帰還兵アレン・ネルソンが主人公だ。ひどいPTSDに苦しむアレンは息子が学校から海兵隊のリクルートパンフを持ち帰った時、怒り狂い、校長室に「教室で私に、戦場の話をさせろ」と怒鳴り込む。
子ども防衛白書は、この映画の海兵隊のリクルートパンフと同じではないか。26年版の「防衛白書」本体では、長射程ミサイルなど敵基地攻撃能力の配備とともに、「新しい戦い方」を強調している。自衛隊の任務が防衛から戦闘へと舵を切りつつある中で、食事や進学をエサに困窮家庭の子どもたちを取り込んでフロントに立たせるようなことはあってはならない。今後も配布の状況や授業での活用に注視する必要がある。
子ども防衛白書を学校で配布しないよう求める署名も立ち上がっている。

