桐生市で生活保護費不適切支給 全国調査団が報告 違法性疑われる対応「検証を」

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生活が苦しくても生活保護が受けられない自治体があるの?

 群馬県桐生市が一部の生活保護受給者に保護費を1日1000円ずつ手渡し、全額支給していなかったことが昨年秋、明るみになった。問題を受けて発足した貧困問題に取り組む有識者でつくる「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(団長=井上英夫・金沢大学名誉教授)が、市側に質問書への回答を求め、独自に実態を調査。桐生市によると、法的な根拠がないまま日割りで支給したり、厳しい就労指導などを行ったりし、昨年11月末時点で判明しただけでも2018年度以降で11世帯に満額を支給していなかった。調査団は4月4日、市中央公民館で報告会を開き、市側の回答などを基に把握した実態や不適切な事例を参加者約70人に報告した。

桐生市生活保護問題
2023年11月、群馬県桐生市が、生活保護を申請した50代男性に、1日1000円、月合計でも決定額の半分しか支給していなかったことが新聞報道などで明るみに出た。男性は持病があって就労が困難だったため、7月26日に市保護課に生活保護を申請。8月18日に決定通知を受け取った。桐生市は毎日ハローワークで求職することを指導し、求職活動をした証拠としてハローワークで「求職活動状況・収入申告書」に認印をもらってから市役所に来るよう求めた。その上で、窓口で1日1000円を手渡していた。「フルタイムの仕事に就かなければ、生活保護を打ち切る」ともし、家計簿をつけることも指導。男性が8月に受け取った総額は3万3000円、9月が3万8000円と、決定額(月7万1460万円)の半分程度だった。市は分割支給の記録を残しておらず、未支給分の保護費は保護課の手持ち金庫で管理していたという。会計処理上は全額支給したと虚偽計上していた。
12月18日、桐生市は記者会見で、生活保護の届け出や受領に関し、1948本の認印を預かっていると明らかにした。市は内部調査チームを発足。第三者委員会設置も表明した。市は2024年3月27日に第1回目の第三者委員会を開催。
4月3日、生活保護の分割支給を受けた男性2人が、桐生市を相手取り、損害賠償請求訴訟を前橋地裁桐生支部に起こした。

 全国調査団は、弁護士や学識経験者、貧困者支援に取り組む20団体・個人でつくり、3月上旬、市の生活保護行政などに関する質問状を荒木恵司市長などに送り、約70項目について回答を得た。市側の回答によると、2018年度以降に保護費を日割りや週ごとに分割支給した事例は14件。市は分割支給を行なった理由について「保護費のやりくりができない方や生活習慣に課題を抱えている方の自立に向けた支援」とし、支給に当たっての基準やガイドラインは「ない」と回答した。

桐生市福祉課。生活保護の申請者は個室ではなく、この窓口で職員と面談したという=群馬県桐生市役所

11世帯が満額未支給、残金は手持ち金庫で保管

 市が行なった調査では、2018年度以降に分割支給を行ったのは14世帯。11世帯は支給が決定された保護費の満額を受け取っていなかった。市福祉課は、未支給の残金は同課の手持ち金庫で保管していたといい、会計上は全額支給した額を計上。また、長年にわたり受給者の印鑑1948本を福祉課で保管し、受給者の書類に無断で認印を押したケースは86件に上った。

 全国調査団が要望書の提出を前に4日に開いた報告会では、調査団メンバーの花園大(京都市)の吉永純教授=社会福祉学=が2011年度以降の桐生市の生活保護の状況について、調査結果の概要を説明。桐生市では12年度は902世帯(月平均)だった生活保護の被保護世帯数は、22年度は490世帯まで大幅に減少している=表1。生活保護費総額も、2012年度の19億4340万円から22年度は8億7313万円と45%に急減した。全国では世帯数、保護費ともほぼ横ばいなのとは対照的だ。

表1;桐生市と全国の生活保護受給世帯(月平均)の推移  *被保護者調査 年次調査(厚生労働省)と市の公表資料を基に作成

働けると見なした人に厳しく就労指導

 吉永教授は、高齢者や障害者などを除く世帯や母子家庭の受給世帯が12年度は131世帯だったのに対し、22年度は16世帯と88%急減したことに着目。「市が、働けるとみなした人や母子世帯を標的にして厳しい就労指導をしている可能性がある」と指摘した。さらに市職員の女性の割合が3割を占める一方で、市福祉課の生活保護担当者の女性職員が1割にとどまり、女性ケースワーカーがいなかった点についても、「貧困率の高い母子世帯など女性が相談しやすい体制になっているのか検証すべきだ」とした。

 申請を受けた保護の開始率も全国平均は87.6%だが、桐生市は高い年で78.0%、最も低い年は47.6%だった。保護を廃止する事由別では「辞退」が多いのが特徴で、2014年には廃止の4割が「辞退」だった。また、「施設入所」による廃止も目立つ。全国平均では「施設入所による廃止」は2.1%なのに対し、桐生市は常時10%を上回り、2022年度は20.3%だった。吉永教授は「桐生市は生活の見通しが立たない人に対しても、保護廃止のために、威圧や脅しによって辞退するよう仕向けたり、本人や家族の意向によらない施設入所を勧めているのではないか」と疑問を呈した。また、全国では申請件数に占める却下の割合は7.5%、取り下げの割合は4.6%だったのに対し、桐生市では却下率は47.6%(2018年度)、取下率は9.1%(2019年度)と高い割合だった。

社協やNPOに生活保護費の管理を委託

 また、桐生市独自の取り組みとして、第三者に生活保護費などの金銭管理を委託。NPO法人や社会福祉協議会など3団体が委託先となり、2022年度には被保護世帯の13.9%の保護費を管理していた。

 徒歩による通院が困難な場合に支給される通院移送費も異常な低水準だ。桐生市の支給総額は最も少なかった2022年は8件、2400円。自治体規模が同じ新潟県新発田市が430万円であるのと比較すると、制度の周知や支給の判断に問題があると推測される。

 吉永教授は面接相談員、就労支援相談員に警察OBが配置され、新規相談対応から同席していることにも着目した。桐生市が群馬県警に提出した要望書には「刑事課等での暴力団対応経験者を希望」と書かれており、吉永教授は「相談者や申請者を大きく萎縮させる『水際作戦(※)』としての効果を持っていたことが強く疑われる」と指摘した。

 ※水際作戦=申請者に生活保護の受給をあきらめさせるよう窓口で適切な情報を与えなかったり、威嚇したり、説得したりすること。

桐生市の生活保護行政を「違法事件」として分析する吉永純教授=群馬県桐生市

吉永氏「組織犯罪で保護費の搾取だ」

 吉永教授は「桐生市が民間団体とつるんで保護費を不正に管理している組織犯罪ともいうべき実態がわかった。保護費の搾取が行われているという疑いも持っている」と話した。

 生活保護受給者らから聞き取りなどを進め、報告会で実態を説明した反貧困ネットワークぐんま事務局の町田茂さん(51)は「(生活保護世帯数を抑制しようとする)水際作戦は市福祉課の思い付きではなく、市の政策として組織的に進められてきた」とみる。市の生活保護費は12年度は19億4340万円だったが、22年度は8億7312万円。市が2005年に打ち出した行財政改革方針は、「自己決定、自己責任、自己負担の大原則に立って地方分権を担う基礎自治体として」、人件費、扶助費、公債費の「義務的経費」を中心に削減しなければならないとうたっている。町田さんは、具体的な歳出削減目標額も掲げた「市の姿勢が、生活保護申請を巡るさまざまな問題の中心にある」と批判した。

 集会では群馬県内の生活保護申請者への同行支援などに尽力し、3月20日にくも膜下出血で急死した司法書士の仲道宗弘さんをしのび、参加者が黙祷を捧げた。

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