カラ認定? 1円単位の「仕送り」や「預貯金」を理由に申請を却下 群馬県桐生市の生活保護違法問題でさらなる調査を要請

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(c)生活保護情報グループ「生活保護率増減マップ」

生活保護率が10年間で40%以上減った自治体は、全国に11市区!

群馬県桐生市の生活保護行政で数々の違法行為がみつかった問題で、研究者や、法律家、支援団体関係者でつくる「桐生市生活保護違法事件全国調査団」は9月20日、桐生市が調査を委嘱した第三者委員会に対し、4点についてさらに検証をすすめるよう要請しました。全国調査団が25日に、東京都内で記者会見を開き、内容を明らかにしました。

検証を求めたのは次の点です。

・認印の大量保管
・境界層却下
・施設入所による廃止
・被保護人員数の急減についての認識の乖離

【認印の大量保管】

桐生市福祉課は1948本の印鑑を保管していました。福祉課の内部調査では2018年度から2023年12月までの期間に86世帯の現金領収簿に職員が押印した際に使用した、としています。ほかに入院で生活保護費が減額となった場合に生じた返還金に関して、職員が押印したものが10世帯ありました。

調査団は、桐生市で生活保護の辞退や申請取下による廃止が多いことに注目。現金領収簿以外に、辞退届や取下届、親族からの扶養届、収入申告書などにも職員が生活保護利用者に無断で、もしくは利用者の意に反して押印したものがあるのではないかと見て、調査するよう求めました。

【境界層却下】

生活保護の最低生活費以下で生活している人が、いったん生活保護を申請し、保護適用ラインぎりぎりの「境界層」と認定されれば、介護保険のサービス利用料や介護保険料の減免を受けることができます。医療や介護にかかる費用が減ったことにより、収入が境界層措置適用後の最低生活費(本来の最低生活費よりも低い金額)を上回ると、申請は却下となります。これを「境界層却下」といいます。

(出典:桐生市生活保護違法事件全国調査団作成の資料)

桐生市はこの境界層却下が非常に多く、2018〜2023年度に計124件ありました。県の特別監査で、本来は要保護の収入しかないにもかかわらず、親族からの仕送り金額を収入に合算し、境界層措置適用後の最低生活費に無理矢理届かせていた疑いのある事例が多数見つかっています。

2018年度の介護減免にかかる「境界層却下」28件のうち、年金収入に仕送りや家族の就労収入、預貯金が合算されて、保護申請が却下されたものは23件を占めます。仕送りは46,647円、5,585円など1円単位で記載されており、基準に届かせるための「カラ認定」が疑われます。

県の特別監察では具体的な事例が報告されています。

・年金収入が最低生活費以下である高齢の妹から「不足分」11,933円の仕送りを受けたとして、境界層却下
・娘からの扶養届の仕送り金額が15,000円から「不足分」に訂正され、金額として30,372円が計上されていた
・「本人行方不明のため、職員代筆」と書かれた長男の扶養届に基づき、仕送り収入を認定
・姪へ20,000円の仕送りを送っている申請者が、甥から「不足分」(1,706円)の仕送りを受けたことになっている。
・姉からの扶養届で、金銭的な援助が「できません」にチェックがはいっていたものを、金銭的な援助を「します」、「不足額」と訂正された

生活保護問題対策全国会議事務局次長の田川英信さんは「県の特別監察は境界層却下を『不適切な対応』としているが、介護利用料の減免措置と引き換えに扶養援助を指導していたのであれば、扶養の強要にあたり、生活保護法違反になる。仕送りの実態がないのに、扶養届や収入申告書を作成していたとしたら、有印私文書偽造にあたる可能性もあり、明確な違法行為だ」と指摘しました。

境界層却下について説明する田川英信さん=東京都内

【施設入所による保護廃止】

居宅から介護保健施設などへの入所に伴い、最低生活費の基準額が下がり、保護が廃止されることがあります。桐生市は施設入所による保護の廃止が常時10%を超え、2022年には20.3%ありました。全国平均の2.1%に比べ突出して高い数字です。ここでも仕送りや預貯金が収入に合算されたケースが散見されます。

2022年の施設入所による廃止16件のうち、7件が年金と預貯金を足した額で判定し、却下していました。預貯金を判定の対象とするには、使用目的について申請者に聴き取り調査をし、生活保護法の趣旨目的に反すると認められる場合に限られます。「葬儀代」などの目的で預貯金を持つことは当然、認められています。

調査団は仕送りや預貯金を算入していたすべてのケースについて、本人、扶養親族に聴き取りをし、保護廃止が適正であったかを確認するよう求めました。

【被保護人員・保護費の半減】

桐生市では生活保護受給者数が2011年の1,163人から、2022年度の547人へと半減しました。市の「内部調査報告書」では職員への聴き取り結果として、「2008年度のリーマンショック以降、保護申請が増えたが、担当課の病気休職が増え、十分な調査や指導ができなかった」「2012年度ごろから、生活保護の適正化を図る目的で就労支援や年金受給など徹底した取り組みを行った結果、保護世帯数が減った」などとしています。

一方、県の「特別監査報告」では「不適切な対応が複数認められた」とした上で、「特に、面接相談において申請権の侵害が疑われる事案や、境界層却下の決定において実態に基づかない仕送り認定が疑われる事案が多数認められ、被保護人員数が半減した一因になっていると考えられる」と結論づけています。

調査団は、市の職員に生活保護行政が違法・不適切であるという意識がなぜなかったのか、総合的な検証と自省を求めています。

アグレッシブな就労指導?

「市の対応は不誠実だ」と話す小林美穂子さん=東京都内

桐生市の生活保護問題は、9月18日放送のNHK「クローズアップ現代」でも取り上げられました。ハローワークで求職活動をし、ハンコをもらってきた場合のみ1日1,000円、保護費を分割支給していた事例について、市の保健福祉部長は番組内で「少々アグレッシブに就労指導をした」と語りました。

支援団体「つくろい東京ファンド」のスタッフでフリーライターの小林美穂子さんは、「反省の気配がない」と憤りをあらわにしました。

「部長は、水際作戦ではないか、と問われて、記録がないからわからないとも答えていた。県の監査でも、水際を強く疑われる例が多数あったとされています。記録はあるんですよ。不誠実さに驚きました」と話しました。

9月市議会で違法性認めた

桐生市は9月19日の市議会で初めて、保護費の分割支給について「生活保護法に反していた」と認めました。渡辺ひとし市議は「桐生市では就労指導や生活保護に伴う義務ばかりが強調されていた。利用者の権利や、エアコン購入補助など要求できることについて説明をしてこなかった。国、県の監査で不適切と指摘されても、なぜ市は改善の必要なしとしてきたのか、さらに追及したい」と述べました。

9月議会で生活保護行政について質問した渡辺ひとし桐生市議=東京都内

厚労省も2度監査、改善促せず

田川さんによると、厚生労働省も、2014年と2017年に桐生市を監査していたことがわかりました。短期間に2回も同じ自治体に国の監査が入るのはまれです。監査記録は5年をめどに廃棄されるため、内容についてはわかりません。しかし、国の監査が桐生市の状況改善に繋がらなかったことは明らかです。

田川さんは「厚労省が監査に入るのは保護率が上がったところが多い。監査の目的が、本来は生活保護をもらえる人がもらえていない『漏給』の防止ではなく、不正受給の取締などの『濫給』防止になっているのではないか。こうした監査のあり方を変えなければいけない」と話しました。

保護率40%以上減少、全国の11市区

つくろい東京ファンドの稲葉剛さんは研究者らでつくる「生活保護情報グループ」が作成した「生活保護率増減マップ」についてコメントしました。

https://public.tableau.com/app/profile/seiho.info.group/viz/2012-21_17264090419280/1_1?publish=yes

2012年度〜2021年度の10年間に、人口に占める生活保護受給者の割合(保護率)がどう増減したかを、市町村ごとに算出し、増加は緑、減少は赤で色づけした地図です。

4割以上減少した自治体は、11市区ありました。

「桐生市はその上の方かと思ったら、なんと11番目。桐生市(−41.1%)を上回る自治体が10もありました」

ワースト3は愛知県知立市(−58.9%)、岡山県美作市(-51.1%)、香川県善通寺市(-51.0%)。

「いずれもホームページを見ると生活保護行政が自立支援に偏り、自治体の財政危機をあおる内容になっています」と稲葉さん。

知立市のホームページでは、生活保護について「世帯の構成や年齢などで決められた最低生活費を収入・資産と比較して、自力で生活できるまでその満たない部分のみ補います。したがって、保護を受けようとする人は、利用できる資産(土地・家屋など)、自分の持っている能力を生活の維持のため十分活用し、親子・兄弟からもできるだけ援助を受けてください」と記しています。

憲法25条に定められた国民の権利であるという認識はここにはありません。

美作市は桐生市同様、母子世帯の生活保護利用が2017年度以降は1〜2世帯と、ほとんど認められていません。

岡山県美作市のホームページより

減少率の大きな自治体については、桐生市と同様に違法・不適切な生活保護行政が行われていないか、今後、検証が必要です。

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