まるで「罰」のような申請主義 秋田市の生活保護費返還問題を取材して

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生活保護、年金…制度が分かりにくい

 いつ、秋田市から「返還のお知らせ」が来るか分からない。毎日、びくびくしている――。

 生活保護費の「障害者加算」の過支給について、返還(いわれなき「借金返済」)を求められている人の声です。1月29日時点で、私がつながっている当事者のもとには、特に秋田市から返還についての連絡は入っていません。気が気ではない、といった言葉では言い表せないような状況に置かれ、生きる気力すら奪われています。

【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ世帯に障害者加算を過大に支給していた。2023年5月に会計検査院の指摘で発覚した。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。返還対象額は、最も多い世帯で約149万円。

いつも不安で、びくびくしている

「日常生活を送っていても、いつ返還の連絡が入るか分からないって思う。心の片隅で、いつもどこかびくびくしていて、不安で……不安でいっぱいです」。秋田市のAさんが話します。Aさんは重度のうつ病で、精神障害者保健福祉手帳2級を取得しています。発達障害の診断も受けています。

 Aさんは「過支給」の該当者でした。1カ月の保護費およそ8万8千円のうち、約1万6000円が過支給だと分かり、削られました。あらゆる物価が上がっている中で生活費が突然2割減ったうえに、これまで過支給された分をさかのぼって「返還」するよう、秋田市から告げられています。

 Aさんのもとに秋田市の担当者が訪ねてきたのは、昨年11月末でした。

 過支給の問題が明るみに出た後だったので、Aさんは「何か詳しい説明があるのかもしれない」と緊張して訪問を待っていました。職員は玄関先で、秋田市のミスだったことを申し訳なさそうに謝罪しましたが、次の訪問先があるようで、すぐにAさん宅を後にしました。

 「市の担当者さんには何も悪い印象はなくて、決められた業務を頑張って真面目にやってらっしゃるんだ、と思いました。ただ、返還についての説明が何もなくて、本当に謝罪をされただけで終わってしまいました。私は、例えば、私が求められる返還額の説明があるのかなと緊張していたんですが、文書とかも渡されず、何もありませんでした」

 Aさんは後日、あらためて市に電話をし、自分に求められる返還額がいくらになるのか尋ねました。保留で少し待たされた後、自分の額を伝えられました。

 「もし私が、こういう報道とかも知らなくて、誰からも切り離されて一人きりで、いきなり返還してくださいと金額を示されたら、平静を保とうと思ってもできないと思います。急にそういう話になったら、気が動転してしまうと思うし、うまく対応したくても担当者さんとしゃべるので精いっぱいで、なかなか突っ込んで聞けないかもしれない。だから、私と同じ立場で一人で対応してらっしゃる方は、気持ちの面でも、いろんな苦労があると思います」

まるで「罰」のような申請主義

 「なんて分かりにくい制度だろう」。私は、今回の取材で生活保護や年金の仕組みを調べながら、何度もそう感じました。その思いは、Aさんの話を聞いてさらに深まりました。

 Aさんは、過支給だとして削られた障害者加算1万6000円分を再びもらえる可能性がある――と秋田市の担当者に言われました。「障害年金を受けられるかどうか年金事務所に問い合わせをしてほしい。もしAさんが障害年金の対象で、なおかつ申請を済ませたら、削られた障害者加算が復活する」との説明を受けたといいます。(文末に追記があります)

 Aさんはかすかな希望を抱いて、年金事務所に問い合わせました。しかし調べてもらったところ、Aさんは障害年金を受け取れないと分かりました。理由は、Aさんが過去に数カ月間、年金保険料を未納にしていたためです。

 障害年金を受けるには3つの条件があります。

①「初診日」(☆)に「国民年金」か「厚生年金保険」に加入していること(初診日要件)
②「初診日」の前日に、保険料の納付済期間や免除期間などが一定以上あること(保険料納付要件)
➂ 障害の程度が、法で定められた基準に当てはまっていること(障害状態該当要件)
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/04.pdf
☆初診日=病名が確定した日ではなく、障害の原因となった病気などで初めて医師の診療を受けた日のこと

 Aさんはこのうち②の「保険料納付要件」に引っかかりました。「初診日」のころに数カ月、保険料を未納にしていたためです。

 Aさんは体調がすぐれず、これまで長く働き続けることができませんでした。親との関係もよくなく、経済的に頼ることはできませんでした。年金保険料が未納となったのは、特に生活の状況が苦しい時期のことです。
 「もともと、体が丈夫ではなくて、就職しても体を壊して辞めてしまったり、無職になって自宅療養したり、ということがたびたびありました」

 年金には保険料の支払いが免除される制度があります。

 Aさんも、比較的元気なときはこの制度を利用し、免除の手続きをしていました。しかし、それすらできないときがありました。

 「体調が悪かったので、なかなか事務的なことがうまくできませんでした。公的な文書は分かりづらくて、でも職員さんに電話をして聞くにも、自分がある程度まとめていないと質問もできないから、緊張するし、怖さがありました。年金保険料の免除の手続きさえしていれば、年金を支払ったとカウントしてもらえることになると後で知りましたが、そういう知識も、その時はありませんでした」

これも自己責任なのか

 体調がすぐれず年金が未納だったこと、免除の制度を利用しなかったことは「自分自身の人生(責任)」だとAさんは言います。 

 しかし私には、まるで「罰」のような仕組みに思えました。この取材で年金や生活保護の制度を調べるようになりましたが、私には、理解するのに時間がかかることばかりでした。ホームページを読んでも「読み違えていないか、見落としていないか」と不安になりました。実際、記事をアップした後に社会保障に詳しいかたからご指摘をいただいて修正したこともあります。

 このような仕組みを、精神的に追い詰められている当事者にしっかりと読み、理解してください、申請してくださいというのは、酷だと感じます。「知らなかったのは自己責任」「申請しなかったのは自己責任」で終わらせてよいのかと疑問に思います。

 Aさんは昨年、過支給分の生活費を削られ、さらに秋田市から返還を求められると知ったとき「自分はこのまま生きていていいのか」と思ったと話します。

 「もう生きていくことができないんだっていうふうに、なにか、がっくりきてしまって、なんとか、死ねないかなって考えていました。いまも鬱々としているけれど、具合が悪くならないように、何げないことに集中するようにしています。日々の生活で、たとえば買い物はどうするかとか、何を料理して食べるかとか。何とか、思いつめる方にいかないようにと」

 自分のほかに、100人以上いる返還対象の人たちがどう受け止めているのか、Aさんはとても気になっていると言います。「明日のことも分からない状態で、切羽詰まっていて、みなさん本当に、悲鳴をあげていると思います」

※追記
 Aさんのように、精神障害者手帳2級以上で、障害年金を申請できない(障害年金の「受給権」がない)かたの場合は、障害者加算の対象になります。今後、Aさんは加算が復活するはずです。(ご指摘くださった読者のかた、ありがとうございました)

 一方、Aさんと同じ精神障害者手帳2級以上で、障害年金を申請できたが年金事務所に「不支給」(障害等級1級または2級に該当せず)と判断されたかたは、障害者加算の対象外です。
 同じ手帳2級で、同じく困難を抱えている2人が、異なる扱いを受けている。この矛盾した状況についても後日、お伝えしたいと思います。

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