トランスジェンダーのリアルを知る㊤

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「いない」んじゃなくて「言えない」んだ

 生まれたときに割り当てられた性別とは、異なる性自認を生きる「トランスジェンダー」。その人権を傷つけるような言説がSNSを中心に起きています。たとえば秋田県内では、一部の議員がトランスジェンダー女性への偏見につながるような発信を重ねています。

 トランスジェンダーは性的マイノリティの中でも少数です。人口の0.4~0.7%というデータもあります。そして特に、古くからの価値観が根強い地方では偏見や心ない言葉を受けやすく、孤立しがちな現実があります。そこに追い打ちをかけるように、議員がスマホの指先ひとつで当事者を傷つける発信をしている。一方で、当事者の状況を知り、人権を回復しようと行動する議員たちもいます。

 1月27日、秋田市で「トランスジェンダーのリアルから安心・安全なコミュニティを考えるフォーラム」が開かれました。なぜマイノリティの困難は見えにくく、差別に遭いやすいのか。よりよい社会のために何ができるのかを考える内容でした。2回にわたって紹介します。

  講師は時枝穂(ときえだ・みのり)さん。東京都北区で多様性を推進する市民団体「Rainbow Tokyo 北区 」を立ち上げ、代表をつとめています。また自身がトランスジェンダーの当事者であることを紹介しながら、発信を続けています。以下、時枝さんの講演です。

「性」とは何か

 性には大きく分けて4つの要素があります。「性別」「性自認」「性的指向」「性表現」です。これ以外にもあるのですが、大きく分けると4つです。
 「性別」は、生まれたときに割り当てられるもの、戸籍に記載される性別です。「性自認」は、自分自身の性をどう認識しているかということで、ジェンダーアイデンティティ、性同一性と言ったりします。「性的指向」は、恋愛感情や性的な関心がどの性別に向いているか、または向いていないかということです。「性表現」は、言葉遣いとか髪型、仕草などで自分の性を表すことです。

「性自認」「性的指向」は自分では決められない

 ここで大事なポイントは、性的指向と性自認は自分では決められないということです。「変えられるものだ」とか「趣味でやっているんだろう」とか、よくそのような誤解や偏見があります。しかし、自分では決められないのです。

 「性的指向」と「性自認」を組み合わせて、簡単に表した言葉があります。「SOGI(ソジ)」と言います。「Sexual Orientation and Gender Identity」(性的指向と性自認)の頭文字を取った言葉です。

 SOGIというのは「全ての人」が持っています。LGBTQの人たちだけが持っているものではなくて、全ての人が持っている要素です。

「性的マイノリティ(LGBTQ)の自殺対策を自治体で進めていくために」より

 SOGIのなかには、多数派(性的マジョリティー)と少数派(性的マイノリティ)があります。このうち少数派をいわゆる「LGBTQ+」といいます。人口の割合でいうと大体3%から8%ぐらいと言われています。

 一方、多数派(性的マジョリティー)は、ヘテロセクシュアル(異性愛)で、シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と、性自認が一致する人。または違和感をもたない人)です。

見えにくい「少数派」の困難

 基本的に社会は性的マジョリティーの人たちが前提となっていますので、性的マジョリティーのかたはカミングアウトしなくても自然に暮らしていけます。ここは、性的マイノリティのかたとは対照的です。

 「ダイバーシティの氷山モデル」という言葉があります。(編注=氷山のように「目に見えている部分」は全体のほんの一部分であり、大部分は見えていないという考え方)
 氷山と同じく、人との違いについても「見えやすいもの」と「見えにくいもの」があります。例えば背が低いとか、体が大きいとか、肌の色、髪の色といった身体的な違いは見えやすい。一方、その人の家族構成とか、アレルギーとか、学歴、信条などは見えにくいところがあります。

 性的指向と性自認も「見えにくいもの」です。特に性的マイノリティであるかどうかは、当事者が自分から言わなければ分かりませんですから、性的マイノリティの困難は見えづらいのです。

講演する時枝穂さん

トランスジェンダーをめぐる誤解

 トランスジェンダーについて少し説明したいと思います。「出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認を生きる人」のことを総称して、トランスジェンダーといいます。よく使われる表現としては、性同一性障害がありますが、これは診断名です。

 トランスジェンダーに対しての誤解には、いろいろなものがあります。
 例えば「女性」として生まれて「女性らしさ」を押し付けられて、それが何となく苦しい、生きづらいという人がいます。一方「男性」として生まれて「男らしさ」を押し付けられて生きなきゃいけないのが僕はちょっと生きづらい、という人もいます。そういう人がトランスジェンダーかというと、そうではないのです。

 これについては昨年、周司あきらさんと高井ゆと里さんが書かれた「トランスジェンダー入門」という本で、こんなふうに記されてます。
 〈トランスジェンダーの人たちは、生まれた瞬間に課せられた「女性であること」や「男性であること」という課題を、引き受けられなかった人たちのことです〉

2023年夏に刊行され、多くの人に読まれている「トランスジェンダー入門」

 つまり「生まれたときに割り当てられた性別で、一生ずっと生きてください」という課題をクリアできない人たちが、トランスジェンダーなのです。「男らしさを押し付けられるのは嫌だ」という人とは、違うことが分かります。ここをまず押さえていただけたら分かりやすいかと思います。

ある日突然、性別移行するのではない

 トランスジェンダーが直面している困りごとはさまざまあり、置かれている立場や状況もさまざまです。医療を受けたり、戸籍を変更したりするにあたって、さまざまなステップがあります。例えばジェンダークリニックに行って診断書をもらうか、もらわないか。診断書をもらっていても、治療をしていない人もいますし、性別適合手術を受けない人もいます。

 トランスジェンダーを理解する上で一番難しいところは、このような「移行期」があるところです。ある日を境に突然、女性から男性、男性から女性に変わるわけではない、ということなのです。

トランスジェンダーの実際を知ってもらおうと当事者の人たちがつくった冊子

 先ほどの書籍「トランスジェンダー入門」のなかでも「トランスジェンダーには三つの移行期がある。精神的な移行期、社会的な移行期、医学的な移行期」と紹介されています。全てのトランスジェンダーがこの移行期のステップを踏むわけではないのですが、このような移行の度合いによって、またどの移行期にあるかによっても、当事者の困難は変わってきます

 当事者の間でよく使われるのですが「パス度」という言葉があります。これは、第三者から見て、その人がどのように見えているか、その人が自認する性別で社会に認識されているかということです。このように当事者にはさまざまな困難な状況があります。

戸籍の性別変更について定めた「特例法」

 日本には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」、いわゆる特例法(※1)というものがあります。手術をすることによって戸籍の性別を変更することができるという法律です。

特例法の条文。戸籍の性別を変更するための五つの条件が記されている。このうち四の「生殖不能要件」は昨年、最高裁で違憲と判断された

これまでに1万人以上の方が戸籍を変更しています。
 特例法では戸籍を変更するためにいくつかの条件を課していて、このうち「生殖不能要件」というものは昨年、最高裁が憲法違反と判断し削除されました。大きくメディアでも報じられて、ご存知の方もいらっしゃると思います。ただ一方で「外観要件」というものが残ったままになっています。外観要件というのは、トランスジェンダー女性に対して性器の切除を求めるものです。こういった法律があることも知っていただければと思っています。(編注=最高裁の違憲判断についての記事はこちらです) 

職場では言えない環境にある

 データでももう少し、LGBTQの置かれている状況を見ていきたいと思います。

 2019年度に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが職場でのLGBTQの現状について調査しました。(※2)。この中に「いまの職場の誰か一人にでも、自身が性的マイノリティであることを伝えているか」という設問があり、ほとんどの方が「伝えていない」と答えています。つまり、それだけ言えない環境であるということなんですね。

「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」(P236)より

 一方、「社内にLGBTの当事者がいることを認知しているか」というか質問では、「いないと思う」「わからない」という回答が約7割となっています。つまり、自分の身近にはいないと思っている、ということです。

「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」(P234)より

アウティングは命を奪いかねない

 アウティングの問題もあります。
アウティングというのは、本人の了解なく第三者にその人の性的指向や性自認を言いふらす、ばらすことです。2015年、一橋大学の学生がアウティングによって亡くなっています。アウティングは人を死に追いやる危険な行為です。東京都の豊島区では、アウティングがパワーハラスメントに該当するとして労災に認定されたケースもあります。性的指向や性自認に関するハラスメントはパワーハラスメントに当たるもので、やってはいけない行為なのです。

いわゆる「パワハラ防止法」にはアウティングについて盛り込まれている

 ただ、性別に関する情報というのは、たとえば当事者から相談を受けた人が「よかれ」と思って「善意」で言ってしまうケースもあります。1万人以上の性的少数者を対象にしたアンケートで、25%がアウティングの被害を受けたことがあると回答しています。4人に1人はそうした経験があるということです。(※3 )

笑いのネタにし、茶化すことの罪

 性的マイノリティはメンタルヘルスの低下に陥りやすいというデータがあります。
 大阪市におけるアンケート(※4)ですが「生きる価値がないと感じた」という回答は、LGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)の人がそうでない人に比べて2.3倍です。「死ねたらと思った、または、自死の可能性を考えた」は2倍です。実際に自殺を図ったという割合は、LGBではない人と比べて約6倍の比率になっています。

 同じことをトランスジェンダーのかたにも聞いています。実際に自殺を図った割合は、トランスジェンダーではない人に比べて10倍という数字になっている。もちろんトランスジェンダーの割合自体がLGBTQの中でも非常に少ないのですが、それを差し引いたとしてもとても高い比率になっています。

 プライドハウス東京が「性的マイノリティの自殺対策を自治体で進めていくために」という冊子をつくっています。(※5)

 こちらにも、先ほどご紹介したアウティングやLGBTQの直面する生きづらさ、いじめ、自傷行為などを経験している人が多いということが、書かれています。

 つまり、LGBTQの人たちの性的指向、性自認を、決して笑ったり、茶化したり、笑いのネタにしたりしてはいけないということです。そういったことがメンタルヘルスの低下につながり、自死に追い込むことにつながっています。ここをぜひ、認識していただけたらと思います。

㊦に続きます

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フォーラムは「性と人権ネットワークESTO」が主催しました。

〈参考資料〉
※1)2004年に施行された特例法は、性別変更を望む人に対して次の5つの要件を課している。「18歳以上であること」「婚姻していないこと」「未成年の子がいないこと」「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(不妊化要件。精巣・卵巣の切除などによって生殖能力をなくすよう求めるもの)」「変更を望む性別の性器に似た外観を備えていること(外観要件。トランスジェンダー女性に陰茎の切除を求めるもの)」

※2)「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」(P234、236)https://www.mhlw.go.jp/content/000673032.pdf

※3)宝塚大学看護学部日高教授 第3回LGBTQ当事者の意識調査(ライフネット生命委託調査)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000069919.html

※4)大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート「心身の健康について」 https://osaka-chosa.jp/health.html

※5)「性的マイノリティ(LGBTQ+)の自殺対策を自治体で進めていくために」https://pridehouse.jp/legacy/event/603/

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