日本政府の女性政策について審査した国連の女性差別撤廃委員会が改善のための勧告(最終見解)を公表したことを受けて、1日、 現地審査に参加したNGO4団体の代表者らが都内で会見した。最終見解は、選択的夫婦別姓の導入や緊急避妊薬の利用を含む現代的な避妊中絶を選ぶ権利など4項目を重要項目に位置付け、2年以内に改善に向けた取り組みを報告することを日本政府に求めた。会見した関係者からは「国内法を正当化するのではなく、女性差別撤廃条約の締約国として誠実に向き合う責任がある」と早急な対応を国に求める声が上がった。
2年以内に取り組みの報告が求められるフォローアップ項目(重要項目)
・夫婦同姓を定める民法750条の改正
・女性が国政選挙に立候補する場合、供託金を一時的に減額する措置
・緊急避妊薬の利用を含む現代的な避妊中絶を選ぶ権利
・人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要とする母体保護法の改正
10月17日、スイス・ジュネーブで開かれた女性差別撤廃委員会の審査会合には内閣府、外務省、法務省、厚生労働省などの政府代表団が参加した。これに先立ち、委員会は日本から参加した市民100人余から、教育や雇用、政治参加や女性に対する暴力など分野別に取り組みの現状や評価を聞き取った。
1日の会見には、選択的夫婦別姓を求める一般社団法人あすには、 性と生殖に関する健康と権利に取り組む公益財団法人ジョイセフ、「#なんでないのプロジェクト」、出生時の性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーの当事者団体「Tネット」のメンバーが参加した。
選択的夫婦別姓の導入「何も前進がない」
選択的夫婦別姓を導入する法改正への勧告は、03年、09年、16年に続き4度目。審査では、内閣府男女共同参画局の担当者が旅券や身分証、不動産登記などで進めてきた旧姓の通称使用拡大について説明したが、最終見解は「夫婦同姓を定める民法750条の改正の措置は何ら前進していない」と断じた。
「あすには」代表理事の井田奈穂さんは、「旧姓併記は海外では不正を疑われ、不利益の解消に限界がある」とし、「問題の解消に向けて国が何一つやってこなかったとの評価を受けた意義は非常に大きい」と説明。「25年の通常国会で法改正を実現するため、各党へも働き掛けを強めたい」とした。
自分の体と人生 自己決定できる社会へ
性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:通称SRHR)の分野では、人工妊娠中絶を望む女性に対して配偶者同意を原則求める母体保護法の規定廃止に加え、性交後72時間以内の服用が必要な緊急避妊薬についても、すべての女性が入手できる環境整備を指摘。薬局販売の際、16歳と17歳の場合は保護者の同意が必要という要件の撤廃を求めた。2年以内に取り組みの報告が必要となる。
緊急避妊薬を巡っては、昨年11月から一部の薬局での試験的な販売が始まったが、本格的な導入の見通しは立っていない。購入価格が7000〜9000円と高額なことや16、17歳は保護者の同伴が求められるなど、若年層の入手には制約が大きい。避妊や中絶に対する理解を図る「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんは「政策を決断する段階になっており、言い訳は十分。早急に取り組みを進めてほしい」と訴えた。
この他、最終見解では性同一性障害特例法についても言及した。戸籍の性別変更を望む当事者に対し、生殖能力をなくすよう求める不妊化要件について、最高裁が昨年10月に違憲と判断。勧告は、これまで特例法の要件に従う形で意に反して不妊手術を受けたトランスジェンダーに対する賠償や被害回復の必要性を指摘し、早期の特例法改正も求めた。当事者の立場から情報発信を進める「Tネット」の高井ゆと里さんは「トランスジェンダーは、優生思想を背景に社会から切り離されて生きてきた。被害回復とは、当事者と市民社会がつながりを修復することを意味している」と受け止めた。
憲法に基づく条約の遵守 軽視続ける政治や司法に勧告
女性差別撤廃条約では、締約国が「条約の認める権利の完全な実現を達成するためのすべての必要な措置をとることを約束」(24条)しており、条約の趣旨にそぐわない国内法を改正する事実上の義務を課す。しかし、政府はこれまで、条約には「国内における法的拘束力はない」との見解を示し、選択的夫婦別姓の導入や特例を除いて妊娠中絶に刑事罰を課す堕胎罪の廃止など一部の法改正を見送り続けてきた。
憲法98条では「日本が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定める。一方、司法の場でも条約が国内で適用される法規範とみなす向きは薄い。選択的夫婦別姓を求める集団提訴では、国連委員会が導入に向けた民法改正の勧告を続ける中、 15年と21年に最高裁で合憲判決が出た。今年3月には3回目となる同様の集団提訴がなされ、今回の最終見解が司法判断に影響を与えるのかが注目される。
「あすには」の井田さんは、最終見解の中で「司法や法執行機関においても条約の理解や適用が不十分であり、裁判官や司法機関への研修などが求められる」と指摘した勧告を重視。「条約を軽視し、国内法を正当化することはもはや許されない。勧告を生かした立法が進むよう、行政、司法、経済界などあらゆる分野に発信を続けたい」と強調した。
女性差別撤廃条約(CEDAW)の最終見解はこちらhttps://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/index.html (内閣府男女共同参画局)