「こっちは、数百円の領収書も捨てずに、きっちり確定申告しているのに…!」「裏金って普通に脱税でしょ?何でほとんどの裏金議員は逮捕されないの?」
使途不明・不記載でも“政治資金”だから非課税が許される——。2022年、しんぶん赤旗の報道をきっかけに、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる巨額の裏金問題が発覚。以来、政治に対する国民の怒りと不信は、全国でくすぶり続けています。与野党ともにこれを受け、公約では政治とカネの問題に関する提言をトップに掲げてきました。
一方で、ヤミ献金や裏金作りによる政治腐敗を防止するための政治資金規正法は、今年6月の国会を含め、長年、何度も改正を繰り返してきたものの、いまだ、根本的な解決に寄与せず。政治家にとって都合のいい、抜け穴だらけのザル法として有名です。
裏金問題は今回の衆院選の最大の争点と言われます。一方で与野党問わず、政治家にとっては自分たち自身を厳しく律し、縛る必要を迫られる問題でもあります。各党、どこまで踏み込んだ内容になっているか。政府や自治体が持つ情報の公開を求め、国会議員とカネの流れを調査してきたNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長に、裏金に関わる公約を読み解いてもらいました。
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政策活動費って何?
——自民党は「将来的な」という前提つきですが、与野党合わせて7党とほとんどが「政策活動費の廃止」を公約に掲げています。この意味は? 裏金防止対策として効果を期待できるものですか?
各党の言う「政策活動費」とは一体、何を指しているのか。正直、何の話をしているのかと疑問です。というのも、6月の国会成立した改正政治資金規正法で、従来の意味での政策活動費はすでに廃止が決まっているからです。
これまで、政策活動費とは、寄付という体で、政党もしくは政党支部から議員個人や公職の候補者(以下、政治家個人)に渡し切るお金(政治資金)のことを指していました。本来、政治家は個人として、政治活動への寄付を受け取ることを禁止されています。しかし、例外的に政党か政党支部であれば、政治家個人に寄付ができます。これが、政策活動費という名目で政治資金収支報告書で報告されているものです。収支報告書は政治団体のみ提出するので、政治家個人は使途を明らかにする必要はなく、寄付なので課税もされず、どう使われたのかは確認ができない資金になっています。
——もともとは、政治家個人が政治活動の寄付を受け、管理していたんですよね?
はい。しかし、リクルート事件で不透明な資金が問題になり、1994年の法改正で政治活動への企業・団体からの寄付の政治家個人の受け取りが禁止され、政治団体で受けることになりました。ところが、前述したように政党や政党支部から政治家個人に寄付ができる仕組みが例外的に残りました。政治家個人が寄付を受け取ると収支が不透明になるので、政治団体でのみ受け取り、すべて収支を明らかにするはずが抜け道が残ってしまったわけです。
今回の法改正では、政党・政党支部から政治家個人に寄付ができるとする規定が削除されました。要は、寄付を政策活動費として支出することは、今後できなくなるわけです。しかし、今、政策活動費の使途を10年後に公開するなどの議論がされています。そうすると、この政策活動費とは従来の寄付とは異なり、経費として政治家個人に使途を具体的に指定しない資金を渡すことを想定しているのだと思います。
——どういう意味ですか?? 経費として出せる、ということの意味をもう少し詳しく。
政治家個人に寄付する仕組みをなくしたのに、政策活動費の支出を想定しているということは、今度は寄付ではなく経費として政策活動費を渡せる仕組みになったということです。これまでは政策活動費とは政治家個人への寄付だから、政党・政党支部以外は政策活動費を政治家個人に渡すことができませんでした。しかし、経費として政策活動費を支出するなら、すべての政治団体で同じようにお金が出せることになってしまっています。
そもそも、政策活動費という言葉が独り歩きしていますが、何の法的な定義もなく、事実上用いられている費目です。だから、「政策活動費」とは一体何か?が不明確なままの議論は、あまり意味がありません。
政治家個人に交通費や旅費のような形で、社会通念上、妥当な範囲で渡し切りの経費を出すことはあってもいいと思います。しかし、政策活動費は、多額の経費を渡し切りで政治家個人に支出して、具体的な支出内容はお任せというものです。そもそも、そんな経費は必要なのかが問題です。
——単に「政策活動費」だけでは、曖昧すぎるというわけですね。自民党は「政策活動費の透明性の確保」を合わせてうたっていますが、こちらは?
政策活動費については、「政党・政党支部から支出したもの」について、10年後の領収書の公開や第三者機関のチェックが政治資金規正法改正の内容に含まれています。しかし、前述したように、そもそも政策活動費は法的に何の定義もない費目で、政党・政党支部のみ支出できるという制限も法的にはありません。「すべての政治団体で支出可能な経費」だとすると、政党・政党支部という政治団体だけに絞った議論は何の意味もないでしょう。加えて10年後に領収書が公開されるとしても、本当に支出しているのかなどの確認がもはや難しい。違法な支出があっても時効になっています。今、議論されている「政策活動費」の透明性は中途半端で何を議論しているのか自体が不透明なものです。
企業・団体献金を禁止すれば、解決する?
——立民、維新、共産、社民の4党が公約に掲げている「企業・団体からの献金禁止」は? 今回発覚した裏金は、自民党派閥らが主催した政治資金パーティーのパーティー券収入が供給源です。パーティー券収入は実費を引いた利益率が高く、“実質寄付”です。また、企業・団体からの献金は政党・政党支部と全国政政党が一つずつ持てる政治資金団体以外受け取れませんが、パーティー券は多くを企業・団体とその関係者が購入しています。
企業・団体献金は1990年代のリクルート事件などを受けて原則禁止する代わりに、政党交付金を税で支出するという仕組みができました。しかし、政党・政党支部などへの企業・団体献金は残ったままです。90年代の議論に立ち返れば、そもそも企業・団体献金は廃止すべきです。しかし、寄付ではなくパーティー券を購入するという形で企業・団体から政治団体へ資金が流れる仕組みが残っていては、「企業・団体献金の廃止」は実質的な意味を持ちません。しかも、新型コロナの影響もあったとされていますが、近年、収益率が90%を超えるパーティーもあり、これはもう実質寄付です。
さらに、政治団体の収支であれば、年に1回は政治資金収支報告書により報告され、公開もされますが、企業・団体・個人は政治団体ではありません。それぞれがどの政治団体に寄付したか。あるいは、パーティー券を購入したのかを報告する仕組みはありません。パーティー券が原資となる裏金の場合は、政治団体が派閥のパーティー券を購入したと収支報告書に記載しているのに、当の派閥が収支報告書に収入として記載していなかったことが発覚の端緒となりました。しかし、企業・団体や個人の場合は、パーティー券も寄付も照らし合わせるものがないのです。
政党への企業・団体献金を禁止しても政治資金パーティーが残れば、変わらず企業・団体から資金が流れる仕組みは残ります。「政治資金パーティーの禁止」も一緒に行わなければ、あまり意味がないです。もっとも、企業・団体献金や政治資金パーティーを禁止しても、企業・団体の役員や関係者が個人献金をすることはあるので、その場合は、さらに、どこからどのような影響を受けているかを政治資金から把握することがかえって難しくなることもあります。
政治活動が広くいろいろな人の寄付で支えられないと、資金力のある企業・団体や個人の影響力が大きくなり、政治が歪む可能性もあります。多くの人が政治活動を支える状況を作るには、政治に対する信頼が不可欠で、そのためには政治資金の透明性がとても重要です。
——「政治資金をチェックする第三者機関の設置」は? 自民・公明・国民3党が掲げています。
やった方が良いとは思いますが、何をする第三者機関になるのか。何をチェックするのかという問題は大きいですね。今、全国の政治団体は約6万団体ほど。その政治団体が政治資金収支報告書を提出する先は総務省もしくは47都道府県のどこかです。全国に分散して存在しています。さらに、収支報告書は紙の文書をPDFにしたものをインターネット公表しているので、公開されているとはいえ、実際に確認するのは至難の業です。
第三者機関を総務省に設置したとして、「総務省届け出の分だけ見ます」とか「国会議員関係政治団体だけ見ます」というのでは、政治資金のチェックにはなっていない。収支報告書の何を見て何をするつもりなのか次第では、ないより良いけど政治の信頼を高めるための役割は果たせないことになります。
それに、行政に強い権限を与えればよいというものではなく、お金の使い方や政治活動の質に関わるようなところは、基本的には、有権者が判断すべきことでもあります。
——今回の各党の公約を見て、率直な感想を。
基本的に、与野党ともに改正政治資金規正法の議論で言っていたこと以上のことは言っていません。一方で、政治資金の透明性についてどういう考えを持っているかは、その政治団体や政党が信頼ある政治を責任を持って行おうとしているかどうかのバロメーターになります。自分たちの利益や利害を優先するなら、政治資金規正改正法の規定の明確性や透明性は高めたくないという内容になるでしょう。与党も野党も資金はできるだけ、幅を持たせて自由に使えるようにしておきたいですからね。
第三者機関の設置は、すでに海外に調査には行ったようなので、なんらか、やるんだとは思います。調査に行った以上、何かしなくてはいけませんから。ここは、選挙後の国会で具体的に何を議論するのか次第かなと思いますね。
——選挙後のチェックも怠らずいうことですね。ありがとうございました。
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三木 由希子(みき・ゆきこ):NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長、専修大学兼任講師。大学在学中より情報公開法を求める市民運動にかかわり、その後事務局スタッフに。1999年7月の組織改称・改編にともなうNPO法人情報公開クリアリングハウスの設立とともに室長となり、2011年5月から理事長。情報公開・個人情報保護制度やその関連制度に関する調査研究、政策提案、意見表明、情報公開制度の活用を行うとともに、知る権利の確立を目指し、市民の制度利用をサポートする。同様に、自治体などの行政、議員に対しても政策立案の協力ほかを行う。参考:裏金問題に関する情報公開クリアリングハウスの調査・レポート