離婚後の共同親権を導入する民法改正案が参議院で可決・成立してから5ヶ月が経ちました。公布から2年以内、2026年5月ごろには施行される見通しです。
衆議院法務委員会の参考人質疑で発言した斉藤幸子さん(仮名)は、DVの加害者だった夫から逃れ、子どもと暮らしています。法務委員会では衝立の向こうから、ボイスチェンジャーで声を変えて証言しました。共同親権の導入に反対する22万筆のオンライン署名があったにもかかわらず、可決された時は「落ち込みました」。いま離婚訴訟を控えていて、「共同親権について、夫からどのような申し出があるのか、緊張感が高まっている」といいます。
国会審議を通して、「DV被害者がどんなことにどう困っているのか、国会議員があまりにも無理解だ」と感じたといいます。
党派性ではなく、離婚後虐待の具体的な議論を
「議員に一番知ってもらいたいのは、この問題はイデオロギーや党派性のある議論ではなく、離婚後の虐待(ポストセパレーション・アビューズ)にどのように対応するかという具体的な問題だということです」
法律ができたから終わりではなく、むしろこれからどうなってしまうのだろうと注目し続けているひとり親が多い中、共同親権についての報道が変わらないことも気になっています。審議の過程で「親権の有無と面会交流の可否は別問題」とあれほど強調されたにもかかわらず、「共同親権にすれば子どもと会える」「一方の親が会えなくなる『子の連れ去り』が問題だ」などの論調が、テレビでも新聞でも散見されます。
「安心して子育てできない」
衆参両院の各法務委員会で採択された附帯決議に基づき、法務省、文部科学省、こども家庭庁、厚生労働省、外務省など関係省庁でガイドラインを作成することが決まっています。6月20 日、共同親権の導入に反対していた弁護士や学識者、市民団体がガイドラインで検討してほしい具体的な項目を列挙した要請書を法務省に提出しました。
項目数は159を数えました。一例を下記に挙げます。
・どこまでを急迫の治療を要する病気であると誰が判断するのか。別居中(共同親権)でも診察してもらえるのか。急迫でない病気の治療方針に父母相違があった場合、どのように判断するのか。
・離婚後共同親権の場合、監護者が単独であれば、児童扶養手当の受給ができるのか。
・親権を持つ別居親の同意が得られなければ、転勤、転職、親の介護などやむを得ない事情があっても引っ越すことはできないのか。
・高校合格後入学申し込み時に保護者2人の印鑑(サイン)が必要か。片方でよいのか。
斉藤さんは「子どもの暮らしにかかわる親権の事項がこんなにもあるのだと改めてわかった。DV被害者が離婚後共同親権になったら安心して子育てできないなと怖くなった」と話しました。
共同親権と離婚をバーターにしないで
9月、離婚後の共同親権に反対・慎重な3団体が集まって「ちょっと待って共同親権ネットワーク」が発足しました。その活動の一環として当事者をサポートする「#DVモラハラレスキュープロジェクト」を企画しています。斉藤さんはプロジェクトを通して「離婚調停や離婚訴訟の中で、共同親権にするぞと相手方から脅されている、裁判官や調停委員から共同親権を勧められたという声を拾っていこう」と考えています。
「かつては家庭裁判所の調停で、『養育費を払ってもらうんだから面会交流させなきゃいけないよ』と、養育費と面会交流がバーターのように扱われたという声を多く聞きました。実際、私も同じことを言われました。今後は『共同親権にするんだったら離婚してもいいと言っているけど、どう?』などと、共同親権と離婚、監護権と離婚をバーターされるのではないかと想像しています。原則面会交流という家裁の方針は、当事者や弁護士の訴えで緩和されました。共同親権についても当事者の声を集めて発信し続ける必要があると感じています」
施行されるまでの2年間がとても重要だ、と斉藤さんは強調しました。
「法務委員会の答弁と異なった運用にならないように、また法解釈を限定するダイヤモンド答弁を生かした運用となるように、監視していかなければなりません」
離婚後も支配関係が続く
ネットワークの発足会見で、代表世話人で弁護士の岡村晴美さんは「共同親権は可決されたものの、DVや虐待の被害当事者から上がった声で、多少は安全に運用できるものになった。合意がないのに共同親権を押しつけられたり、細かい約束をさせられて損害賠償を請求されたりするような事態は避けなければいけない」と話しました。
同じく代表世話人で和光大学教授の熊上崇さんは「共同親権は医療・進学・転居・職業選択などで子どもをしばってしまう制度。離婚後も支配関係が続くことになり得る。離婚家庭の子どもたちが生き生きと暮らせるように、ネットワークとしてサポートしていきたい」と述べました。
立憲、共産は「合意」要件を明確化
生活ニュースコモンズが衆院選の各党のマニフェストを調べたところ、「共同親権」について具体的に触れているのは立憲民主党と共産党だけでした。
公明、国民民主は、ひとり親家庭支援として「児童扶養手当の拡充」「養育費不払い解消」などを挙げています。自民党は「配偶者等からの暴力の根絶に向けて取組みを協力に推し進めます」としています。維新、れいわ、社民はひとり親や離婚家庭についての言及がありませんでした。
改正民法の再改正に、9割以上が「賛成」
「ちょっと待って共同親権ネットワーク」は衆院選の全立候補者にアンケートを実施し、19日までに233人から回答を得ました。
質問は5項目。回答の内訳は以下の通りです。
Q1)共同親権は父母双方の合意がなければ強制すべきではない。
賛成94.4%、反対4.7%、どちらでもない0.9%
Q2)DV・モラハラなどのために同居するのが辛かったら、子連れ別居してよい。
賛成98.7%、反対0.9%、どちらでもない0.4%
Q3)共同親権を導入する改正民法の施行は、裁判所の人員、体制の充実を待つべき。
賛成94.0%、反対3.9%、どちらでもない2.1%
Q4)改正民法を見直し、再改正すべき。
賛成92.7%、反対6.9%、どちらでもない0.4%
Q5)養育費の公的な立替払いと養育費支払義務者からの強制徴収の立法をすべき。
賛成91.4%、反対7.7%、どちらでもない0.9%
日本維新の会の一部の候補者からは次のような回答がありました。
「党本部に確認したところ、維新の会として回答しない方針と連絡が参りました」
「機微な内容であり、二者択一で回答することが難しく、当方の本意を正確にお伝えすることが困難であることから、回答を差し控えさせていただきます」
れいわ新選組は政党として、すべての項目に「賛成」と回答しました。