「母子生活支援施設がありません」 DV被害者を支援する市民団体が地方から訴え

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母子寮にあたる施設がない都道府県があるの?

DV被害者の支援を行う市民団体「高岡DV被害者自立支援基金パサパ」が11月16日、富山県高岡市でワークショップ「富山県には母子生活支援施設がありません」を開催しました。

高岡市男女平等推進センターで開催されたワークショップ「富山県には母子生活支援施設がありません」の様子

母子生活支援施設とは、ひとり親家庭の母子の保護・自立のために、その生活を支援することを目的とした施設です。1998年の児童福祉法改正により、母子寮から名称が変更されました。

DV被害者の保護をはじめ、経済的な理由や住宅事情などの様々な理由で利用されています。

2022年10月1日の調査によると、母子生活支援施設は全国に214施設あります。一方で、現在、富山県には母子生活支援施設がありません。

令和4年社会福祉施設等調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/22/index.html
参考表(施設の種類別調査対象施設数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/22/dl/sankou.pdf

富山県には県内唯一の母子生活支援施設である和光寮がありましたが、今年の3月末をもって廃止されました。運営主体だった富山市は廃止の理由として、約2年間、入所者がいない状態が続いたことを挙げています。

一方で、施設利用が適切なケースがあっても行政が必要と認めず、入所につながっていないのではないかという声も上がっています。

ワークショップには、ひとり親やDV被害者の支援を行っている相談員をはじめ、福祉施設職員、医療従事者に加え、広く一般の市民が参加しました。また、富山県の県議会議員3名、市議会議員5名も参加し、登壇者に質問をする場面もありました。

第一線で活躍する支援者が登壇し、ひとり親家庭への支援や母子生活支援施設に関して意見を交わしました。

母子生活支援施設を廃止したのは不適切では?

司会進行を務める沙魚川(はせがわ)万紀子さん

◆高岡DV被害者自立支援基金パサパ 代表 沙魚川万紀子さん

母子生活支援施設の利用者からは、施設の必要性を訴える切実な声が上がっている。相談員として接した母親と10年以上やり取りを続けているが、彼女は「今、安定して生活できるのは、母子生活支援施設で過ごした5年の月日があったから」だという。

行政によって、施設の利用期限を切られてしまう場合がある。すべての入所者が期限内に必ず自立する訳ではない。人の人生は、そんなに簡単に区切ることはできない。あるケースでは、施設長が当事者の事情を汲んで、施設の利用期限を延長してくれた。制度を熟知した上で当事者を応援してくれる人がいなければ、支援は成り立たない。

富山県の近県にある母子生活支援施設を3ヶ所見学した。3ヶ所の施設はそれぞれ一棟建てのアパートになっており、家庭ごとに個室が割り当てられていた。プライバシーが保たれるように考慮されているのがわかる。室内には台所(IH)、お風呂、トイレがあり、その日からすぐに生活できるようになっていた。

行政によって対応が異なり、温度差を感じている。施設への入所を何度お願いしても認めてもらえない。そのような行政の意識を変えることは、相談員には難しい。

人権意識を深めてもらうために、議員や地域の人たちに声を上げてもらいたい。行政の職員が変更となった場合でもしっかり対応してもらえるよう、市民のための行政であるという教育を迅速に進めてほしい。

DVからの避難を理由とする施設の利用も大切だが、生活基盤を整えるための期間を確保することに意味がある。生活スキルを高める上でも、母子生活支援施設の柔軟な活用を行政に考えてもらいたい。複合的な困難を抱える母子の場合、民間だけでは対応が難しいケースがある。自己責任ではなく、社会全体で見守ることができるようにしてほしい。

”ハコモノ”となる施設がないと、利用者の声も集まらない。和光寮の廃止によって、富山県は全国で唯一の母子生活支援施設がない県となった。この状況を発信して、良い施設ができるように声を上げていきたい。

母子生活支援施設が何をしているのかを知られていない現状がある

参加者の質問に答える渡邉一幸さん(左正面)

◆社会福祉法人聖徳園ファミール芦原 総合施設長 渡邉一幸さん

障害、精神、児童、保育、母子などの多様な支援に携わる中で、夫からのDVで離婚した母親の相談を受けた。母親は、転居先に夫が来るのではないかという不安があり、新しい職場では偽名で働くことになった。また、友人との縁も切らなければならなかった。見ず知らずの土地で生活することになり、周囲に相談できる人もいない状況だった。

面会交流センターでは、面会や再婚を頻繁に勧められた。面会交流の支援員が、なぜDV被害者を加害者の元に戻そうとするのか。とても驚いた。最近はDV被害者であっても、面会交流を避けることが難しくなったように思う。

養育費は毎月入金があった。一方で、夫の母からは、離婚済みにも関わらず様々な要求があった。離婚をしたから安心ということはなく、離婚後も色々な問題を解決しなければならなかった。行政は離婚すれば大丈夫と手を離すことが多いが、実際には離婚後の相談に対応できるサポーターが必要になる。

母子生活支援施設は、利用者の状況に応じた幅広い支援を行っている。仕返しを恐れてDVの被害届を出せない母親は多い。警察の保護を受けるためにも、時間をかけて寄り添いながら、制度利用の手続きを進めていく。また、市役所や警察、学校などの機関に状況を伝え、連絡調整を行っている。さらに、養育費の交渉や裁判所への同行、心理面のサポートなども行っている。

その他、お化粧講座や料理の配布といったリフレッシュを促すイベントの開催や、不登校対応などの必要な支援も担っている。退所後も引き続き見守りを行うために、学習支援教室や子ども食堂を開催している。

国は母子生活支援施設を大いに活用すべきと訴えているが、全国の施設数は減少傾向にある。相談者一人ひとりに合わせた対応が求められており、母子生活支援施設はより一層必要になる。

自治体の担当者が訪れた際に、「母子生活支援施設が何をしているのかわからない。説明してほしい。」といった質問があった。施設が何をしているのか自体が知られていないのが現状である。行政の意識を変えるには、施設をなくしてはいけないという声を伝えることが大切だ。

ただ住むところと安心して寝られるところ、食べるものがほしかった

自身の体験を交えて母子生活支援施設の必要性を訴える宮田隼さん(中央)

◆一般社団法人なかのま 代表 宮田隼さん

コミュニティハウス「ひとのま」という名前で、誰でも来ていいよと一軒家を空けている。行き先がなくて泊めてほしいという親子を何人も泊めてきた。

幼少の頃、母子寮に住んでいた経験がある。父が暴力を振るう人で、母と一緒に逃げるように引っ越すのが当たり前の生活をしていた。引っ越しに伴って、10回以上の転校を経験をした。母が心を病む中で、母子寮への入所と退所を繰り返した。

母子寮には、退所の度に涙を流してくれる職員さんや、一緒に遊んでくれる仲間たちがいた。学校ではいじめを受けていたが、そのことが小さく感じられるくらい、職員さんや仲間たちの存在は大きかった。

母子寮はきれいではなかったが、会いに行きたい人がいて、母が安心して眠ることができる。それがどれだけありがたかったかと思う。「何かあったら言ってね」という言葉では救われなかった。何で救われたかというと、住むところや食べるものがあり、ちゃんと話を聞いてくれる人がいたということだった。

和光寮の利用が2年間なくて閉鎖となったことに呆れている。ここ2年間、母子生活支援施設を必要とする人たちを何人も泊めてきた。そのような人たちを、予算を使わず運営しているところで見てもらえるよう、何とかお願いしてきた。和光寮の閉鎖が不適切であることを指摘しても良い立場にあると思う。

実際に支援を行っている人たちには余裕がなく、利用件数などのデータを取りまとめて行政に報告することは難しい。ニーズ把握の役割については、議員や行政の方に担ってもらいたい。

施設の必要性については、子どもがいるという視点で考えてほしい。自分が子どものときに望んだことは「ただ住むところと安心して寝られるところ、食べるものがほしかった」ということ。それが保証されていない子どもたちがたくさんいる。母子生活支援施設をなくすという選択肢は、本当に「子ども真ん中」になっているのかを今一度考えてほしい。

ワークショップを終え、高岡DV被害者自立支援基金パサパの沙魚川代表は「熱い意見交換ができた。皆さんの力を借りながら、母子生活支援施設の開設に向けて引き続き発信を続けていく。」と話しました。

母子生活支援施設は、全国的に入所定員が充足されていない傾向があります。理由としては、建物の老朽化や居住環境の整備が遅れていることが挙げられます。また、施設によっては厳しい規則があり、利用者が窮屈さを感じている場合もあります。

入所者の抱える課題が多様化・複雑化する中で、母子生活支援施設が果たす役割はより一層大きなものになっています。必要な人に必要な支援が行き届くよう、行政は市民の声に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

母子生活支援施設は、親子が分離せずに入所できる唯一の施設です。その役割は今こそ見直されるべきものでしょう。

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