本当に8100万円なのか 秋田市の「返還請求」に3つの疑問

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生活保護を受けている世帯への対応、あまりにも乱暴だと思う。

 分かりにくい制度のなかで、ひっそり事が進み、弱い立場の人の暮らしがいつの間にかますます困難になっていく。ほとんど関心を持たれないままに。今回の記事は、そのような現実について書きました。

 秋田市で起きた生活保護費の「障害者加算」の支給ミスをめぐって、市が本来は障害者加算の対象である世帯の加算を、誤って止めていたことが判明しました。ミスに対応する中で新たに起こったミスです。当事者と秋田年金事務所で本人の年金の状況を調べ、障害者加算を受け取れることを確認できました。

 また、秋田市が明らかにしてきた約8100万円という「返済(返還)」の対象額は、当事者にとって不利な計算の仕方で多めに積算されており、結果的に当事者が「過大な借金」を背負わされることも分かりました。

 今回の記事では、3つの問題点を指摘しています。結論として、これまで秋田市が「過大支給」としていた合計額 「8100万円」は正当なものとは言えないのではないか。そして「当事者に返してもらわざるを得ない」という前提そのものが誤りなのではないか、ということを伝えたいと思っています。

 大前提として、行政のミスで発生した今回の過大支給を、生活保護世帯に最低生活費を削ってまで返済させようとすることが最大の問題であることは変わりません。たとえ「分割返済」であってもです。詳しくはこちらの記事に↓

問題点① 加算を誤って削除していた

 秋田市は昨年5月、会計検査院から「障害者加算のミス」を指摘されました。これによって、精神障害があり生活保護を利用している120人が障害者加算を削られることになり、さらにこれから過去の分まで返済を求められようとしています。詳しい経緯はこちらです。

【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ生活保護世帯に障害者加算を過大に支給していた。2023年5月に会計検査院の指摘で発覚した。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。秋田市は過去5年分の過大支給を、当事者世帯に返すよう求めている。返還を求められる額は、最も多い世帯で約149万円。

 Aさんも加算を削られた一人でした。Aさんの障害者加算は月の保護費(約8万8000円)のおよそ2割にあたる約1万6000円。物価が高騰するなか、Aさんには非常に大きな減額でした。

 しかしAさんの年金の状況を調べた結果、障害者加算を受け取れることが分かりました。秋田市は会計検査院に指摘されたミスに対応する中で、削る必要がない人の分まで、障害者加算を削っていたことになります。(ちなみにAさんの加算削除が誤りだと分かったきっかけはこちらの記事に寄せられた読者のかたの声でした。記事の後段に書いているのですが、複数の福祉関係の方から「Aさんは障害者加算の対象ではないか」という指摘をいただいたのです)

 Aさんの年金の状況を再確認するため、ご本人と支援団体「秋田生活と健康を守る会」の後藤和夫さんとともに、秋田年金事務所へ行きました。そこでAさんの初診日、年金の支払い記録から、Aさんは障害年金を申請できないことが分かりました。障害年金を申請できないということは、障害者加算をもらえる、ということです。

 秋田市がAさんの障害者加算を減額したのは誤りだったことになりますので、市は減額した時点にさかのぼって、改めてAさんに加算を支給しなければなりません

秋田市役所庁舎

 なぜこのような誤りが起きたのでしょうか。秋田市は「年金の納付要件(※障害者加算をもらえるかどうかの条件の一つ)は120人全員の分をトリプルチェックしている。起こり得ないはず」と困惑していました。原因は今の段階では分かりません。

問題点② いったん全員削除したのは乱暴だったのでは

 秋田市は会計検査院の指摘を受けてから120人の加算をいったん全て削除しました。「年金の納付要件(※障害者加算をもらえるかどうかの条件の一つ)」を慎重に確認した上での削除だったとはいえ、乱暴だったのではないでしょうか。なぜならこの中には、加算のもう一つ条件である「障害年金の等級」が不明な人もいるからです。

 例えば、当事者の一人であるBさんは、昨年夏に早々と障害者加算を止められています。秋田市が議会にこの問題を公表する2か月ほど前です。秋田市は昨夏の時点で、Bさんに対し約93万円という「返済額」を示し「分割払いOK」とも伝えています。Bさんはまだ加算の条件になる「障害年金の等級」が分からない段階だったにもかかわらずです。

ある当事者の年金の「不支給決定通知書」。本来なら年金の確認が済むまでは、加算を削る判断はできないはず

 Bさんが「障害年金の等級」を確認できずにいる理由は、医師の診断書を入手できていないためです。障害年金を申請するには医師の診断書が必要です。Bさんは以前から主治医に診断書の作成を依頼しているのですが「他の人の分もあってなかなか取り掛かれない」と言われ、2年ほど待たされています。このため、Bさんは障害年金の等級を確かめることができません。

 繰り返しとなりますが、障害年金の等級が分からないということは、障害者加算をもらえるかどうか「予測」はできたとしても「確定」はできません。この段階で加算を削ったことについて、公的扶助研究会会長の吉永純さん(花園大学教授、公的扶助論)は「乱暴なものだ」と語ります。

 「秋田市は必要な調査をせずに、加算を支給していた当事者を『黒』(障害年金の受給資格はあるが障害等級が3級以下で、加算がつかない)と決めつけて、加算を削除しています。しかし、1965年の厚生省(当時)課長通知には『現に関連年金等の裁定請求等を受けていない障害者から加算についての申告があったときは、関連年金等の受給に必要な手続きをとるよう指示するとともに』加算の適否を判断するとあります。秋田市はこれまで通り障害者加算を計上したままの状態で、年金手続きの指示を行い、その結果に従って対応すべきでした。この対応をしていないという意味で、たいへん乱暴なことをやっていると思います」

 ちなみにBさんは加算を削られる際に「年金の申請(裁定請求)をすれば、暫定加算がつきます」といった説明を秋田市から受けていないと言います。「できるだけ早く年金を申請してください」とは言われましたが、なぜ早く年金を申請しなければならないのか、その理由(申請すれば暫定加算がつくこと)は伝えられていないそうです。そして年金を申請できないまま、翌月からばっさりと加算を削られました。

問題点➂ 返済額の計算がずさんなのではないか

 さらに大きな問題があります。それは、8100万円という返還対象額の出し方です。

 8100万円という額は、120人が受け取った障害者加算の「過大支給」を過去5年分、積み上げたものです。当事者にとっては「借金」といえるものです。しかしこの額は、当事者の立場からすると実態より多めに積み上げられている可能性があります

秋田市が記者発表した資料。8134万円が過大支給の返還対象額と明記されている

 障害者加算には「暫定的加算」というものがあります。障害年金の等級が確認できるまでの間、一時的に加算がつくのです。一般的に年金の確認には3、4カ月かかるといわれます。その間は、暫定的に障害者加算を受け取ることができます

 吉永さんによると「加算がつかない最悪のケースであっても、暫定加算によって必ず一人一人に正当な加算のつく時期がある」といいます。しかし8100万円という額は、この暫定加算のお金を一切、考慮していません。過去5年に当事者が受け取った加算全てを「過大だった」と考えて合算した額です。つまり当事者は、秋田市のミスによって本当の意味で「いわれのない余分な借金」まで背負っていることになります。

吉永さんが作成した「暫定的な加算」を説明する表。もし秋田市が会計検査院に指摘されたミスをしていなければ、赤丸の「暫定」部分の加算を当事者は受け取ることができていたはずです。秋田市はそれを考慮せず、単純な掛け算で加算の全額を「返済すべき額」として計算しています

 暫定加算は、秋田市がもし会計検査院に指摘されたようなミスをせずに加算を認定していたら、当事者たちがきちんと受け取ることのできたお金です。しかし今となっては、その額を計算することも不可能です。それなのに秋田市は、当事者が受け取れるはずだった金額もすべて、返済の中に混ぜてしまっています

 吉永さんは「暫定的な加算は必ずつくものです。秋田市は『障害者加算を受け取っていた期間に年金の申請をしてなかった人は全員、障害者加算のもらい過ぎだから返してもらう』というずさんな計算をしていますが、本当にそのまま、秋田市が言っている過払いの金額で確定してよいのか。私は、確定できないと思います。つまり過支給という前提が崩れるので、生活保護法第63条に基づく返還決定そのものが成り立たないのではないか」と指摘します。

 会計検査院から「障害者加算の算定ミス」を指摘されている自治体は多数あります。これらの自治体も同じような計算方法で、当事者に返済(返還)を求めているのでしょうか。

会計検査院資料「生活扶助費等負担金等の交付が過大」。障害者加算にかかわるミスがずらりと並んでいます

 以上、3つの問題点をまとめました。

 会計検査院検査に端を発した秋田市の障害者加算削除と返還要求には、かなり乱暴な面があるのではないでしょうか。(さらに言うなら会計検査院は「会計ミス」の指摘をしたのでしょうが、当事者の暮らしに及ぼす影響まで配慮して指摘をしているのでしょうか?)

 いま一番問題だと感じているのは、当事者に情報がなく、不安なまま置き去りにされていることです。秋田市は現在、自立更生(※当事者の返済を減らすこと)によってできるだけ当事者を救済しようと工夫しているのかもしれません。しかしその情報も、まだ当事者は知りません。当事者からすると、いま何が起きているのか、まったく分からない状況です。

 加算が復活するはずのAさんも「加算が戻るとすれば、よかった」とは感じていませんでした。加算が戻らないほかの当事者への申し訳なさを口にしていました。障害者加算を削られ、返済もあると知ったとき、Aさんは何度も「自分は生きていていいのか」と思ったそうです。生活保護に対するいわれのない偏見も、身に染みています。食欲がなくなり、起き上がることもできなくなりました。

 「今まで、不安でたまらなかったですし、それが急に、障害者加算が復活するかもしれないと言われても、本当なのかなって。なにかの理由でまた『やっぱり削除です』と言われるんじゃないかと、不安があります」とも話しました。

 秋田市にとっては長年、正しいと信じてきた障害者加算の認定方法が誤りだと会計検査院に指摘されたのですから、現場は混乱しているかもしれません。しかし特に問題点➂の8100万円の算出方法は、秋田市が当事者に行っている「加算削除と返済要求」の根拠を足元から崩すような問題です。このように根拠があいまいな中で「当事者の生活費は削る。返済も求めていく」という方針だけが当初から貫かれています。これでいいのでしょうか。

〈参考資料〉
※1)精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8465&dataType=1&pageNo=1

※2)会計検査院「令和4年度決算検査報告」第3章第1節 省庁別の検査結果 厚生労働省(17)生活扶助費等負担金等が過大に交付されていたもの(196—199P)https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy04_04_06_27.pdf