フジ会見を考える「女性を『捧げ物』にする」接待文化

記者名:

性的加害疑惑で開いたフジテレビの記者会見に違和感があるんだけど

 タレントの中居正広氏からフジテレビで働いていた女性に対する性加害疑惑について、1月27〜28日、日付をまたいで約10時間半かかったフジテレビの会見では、男性役員が、性加害疑惑を「トラブル」と言い換え、組織としての対応の悪さについては「(被害女性を)刺激するから(控える)」という答弁に終始した。参加した前代未聞のジェンダーに無配慮な会見を振り返る。

 縦に長いスタジオのような記者会見場に入ると、記者がごった返していた。目に入るのはスーツ姿の男性ばかり。この時点で嫌な予感がした。

記者会見場の入り口で、一人一人頭を下げて入室するフジテレビ役員たち=東京都江東区台場のフジテレビ本社で、2025年1月27日吉永磨美撮影

壇上は女性ゼロの会見で男性ばかり当てられた

 港浩一フジテレビ社長(当時)を始め、嘉納修治会長(当時)、遠藤龍之介副会長、親会社のフジ・メディア・ホールディングス社長の金光修氏、フジテレビ新社長の清水憲治の5氏だ。周囲と同じく、壇上も女性はゼロだ。

 一通り役員の説明が終わった後、記者たちの質問を1回2問まで受け付け始めると、嫌な予感が的中した。

 質問で当てられた一人目は男性ジャーナリスト。次も男性、次も男性、次も…。会見がスタートして1時間以上経過しても、男性の司会者がいっこうに女性に当てようとせず、男性ばかりの質問が続いた。

 前方の女性が「女性が当たっていない」と抗議した。私も「私もそう思う」と声に出した。女性の被害が話されているのに、女性が当てられず、女性から指摘されるまで、男性だけが問答するといった異様な状況がしばらく続いていたからだ。

壇上にずらりと並ぶフジテレビの役員ら。左端には会見途中に日付が変更すると同時に新社長となった清水賢治氏が座った=吉永磨美撮影

 ようやく自分の番が回ってきたので、質問した。

「問題となっている女性以外にも性的な被害がある可能性があるが、他の事例についても調査はするのか」

 これについては、調査を実施することを清水新社長が表明した。

フジ、メディアが性的加害疑惑を「トラブル」表記

 終始、役員全員が口を揃えて、性的加害疑惑を「トラブル」と表現していたことも気になった。さらに残念なことに、フジテレビの役員に限らず連日多くの新聞やテレビが、この事件における性的加害疑惑を「トラブル」という表現で報道していた。

 会見に参加していた他の女性ジャーナリストらも一様に、この表現について問題があると指摘していた。

 これまでも、性暴力に関してメディアは、暴行、婦女暴行、子どもへの「いたずら」などと曖昧に表現してきた経緯がある。レイプ、強姦、強制性交、強制わいせつなど、加害の中身を正しく示す表現や刑法の罪名を使わない傾向にあった。

 これに対し、メディアのジェンダー課題に取り組んできた女性記者たちは、性的加害について詳しく報じず、正規の罪名で書かないことが、被害の矮小化につながる、として再三指摘してきており、メディアの労働組合も現場を変えようと訴えている。

フジだけじゃない メディアの「男性中心主義」

 登壇者に限らず、会見では裏方もほぼ男性で、「男性中心」というキーワードが脳裏にすぐに浮かんだ。そして、この期に及んで、フジの役員たちは、なぜこれだけの問題を起こしておいて、堂々と振る舞えるのか? この振る舞いは、意思決定層における「ジェンダー格差があって当たり前」の体質があるからではないだろうか?

 ジェンダー格差は数字にも表れている。遠藤氏が会長を務める一般社団法人「日本民間放送連盟(民放連)」の2024年度、25年度の役員は45人中、女性は3人だけ。これでは女性の声が通りにくく、女性の側に立った発想も指摘も出てこないだろう。23年11月に「日本民間放送労働組合連合会(民放労連)」が発表した調査結果では、フジテレビの役員女性割合は3.6%、局長女性割合は12.5%。男女間賃金格差は76.5%だった。

 女性役員、幹部比率の低さは放送局に限らず、メディア全体に及び、日本新聞協会の「従業員数・労務構成調査」(23年)によると、会社法上の役員については、女性役員が5.3%で、執行役員を含む「広義の役員」についても5.6%に止まるお粗末ぶりだ。

会見中、苦渋の表情を何度も浮かべた港浩一フジテレビ社長(当時)=吉永磨美

「年上の女性同行」で許されるのか 女性利用の「接待文化」

 また、今回の性加害問題の土壌となったとも言えるのが、テレビ局員による接待文化だ。会見では、アナウンサーなど「女性を献上する接待文化」について質問が繰り返された。

これに対してフジ役員からは、「若い女性以外に年上の女性も同行していた」として、難を逃れようとする場面が見られ、がく然とした。

 女性を「捧げ物」にして相手の男性の機嫌をとり、男性が競争社会に勝ち抜くための手段として女性を利用するこのような接待文化は、ミソジニー以上に深刻な「男尊女卑」による差別に当たるものではないだろうか。女性を伴う接待は「若い女性がいけば男性が喜ぶ」という共通認識があって初めて成り立つはずだ。だとすれば、女性は男性と対等ではなく、「二級市民」扱いで、その差別を容認する男性中心社会の表れといえる。

戦後に国家ぐるみの女性利用の接待政策「RAA」

 女性を捧げ物にする接待は今に始まったものではない。この問題を語る中で、過去にもあった国家ぐるみの女性を使った接待を思い出した。

 第二次世界大戦後すぐに日本政府が連合国軍、いわゆる進駐軍向けに全国に設置した特殊慰安所だ。1945年8月15日に敗戦してから3日後の18日、内務省警保局から全国の知事宛に秘密の指令が発せられ、設置された。整備要項で、「性的慰安施設」について、警察署が積極的な指導、設備の速やかな充実を図ることも決められている。この実態は、村上勝彦著「進駐軍向け特殊慰安所RAA」(ちくま新書)に詳しい。同書は歴史的資料を踏まえた上で、記している。

 同書によると、東京では警視庁が働きかけ、特殊慰安所協会(RAA、Recreation & Amusement Association)が設立され、慰安所建設に向けて当時の国家予算の0.1%規模の融資がなされたという。

 当局の内命を受けて、RAAは、連合国の兵士のため、食堂のほか、キャバレー部(カフェ、バー、ダンスホール)、慰安部など七つの事業部門を準備。そのうち、慰安部には芸妓、娼妓、酌婦、ダンサー、女給といった仕事が事業内容として示された目論見書に記されていたという。

 実際にRAAが最初に開いた特殊慰安所は、「大森海岸駅」(京浜急行電鉄)付近の京浜道路沿いに、8月下旬にやってくる米軍の先遣隊が神奈川県の厚木基地に到着することを見越して作られたという。

 このほかに銀座・丸の内、品川、小石川、芝浦、向島、板橋、赤羽、大井・大森、多摩地区とまんべんなく、設置された。

会見が始まる前に準備をするスタッフら。裏方も男性が大方を占めているように見えた=吉永磨美撮影

男尊女卑の差別的構造が背景に

 国家ぐるみで、女性を捧げ、敗戦国として連合国軍の男性を慰めたという恐るべき実態。この悲惨な事実はその後、日本社会の中で大きく非難されることもなく、現在に至ってしまっている。いくらジェンダー平等などと叫んでも是正されず、ジェンダーギャップ指数の国際順位が低いのは、このような「差別的な扱い」が当たり前にあることが根底にあるのではないかと思うのだ。

 そもそも女性を「捧げ物」にして、己の立場を優位にしようとする動きは、戦後すぐだけに限らず、社会の中で脈々と続いている。男尊女卑の社会的構造が背景となって、今回のフジテレビで起きた問題を生み出しているのではないだろうか。さらに、今回浮き彫りになった構造的な差別は、メディアだけにとどまらず、社会全体の課題として、私たちに突きつけられている。

ただ終わらせてはいけない 今後もチェックを

 会見冒頭で、港氏と嘉納氏が28日付で辞職することを明らかにした。何度か辞職の理由を尋ねられたが「世間をお騒がせしたから」という言葉が繰り返された。果たして、辞職はこのタイミングで、この理由で許されるものだったのだろうか。

 週刊誌報道で中居氏と関係者をつなぐ接待の設定をしていたA氏や中居氏の加害性についての質問になると、役員らは「わかっていない」「第三者委員会の調査に委ねる」という答弁を逃げるように繰り返した。

 また港社長は、女性を「刺激する恐れがあったから」といい、中居氏が出演する番組を終わらせなかったこと、コンプライアンス部門を入れた中居氏の本格的な調査が行われなったことを弁明した。さらに「自分たちの時とは違って、人権意識が高まった社会の風潮との乖離」や「万能感があった」等と述べた。セクハラや性暴力の被害対応について、無知であることが、さらに被害者を傷つけている。

 フジテレビの会見は、あらゆる側面から、この国のメディアのジェンダー意識の低さが当たり前となっている実体を浮き彫りにした。ただ終わらせてはいけない。3月内に出される第三者委員会の結果においても、厳しい目でチェックする必要がある。

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