買春処罰だけでなく、売春女性の非犯罪化や支援強化を 文京区タイ人少女人身取引事件から考える

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買春男性を処罰するだけでは足りない。売春女性を保護し、脱性売買のための支援を

2025年11月、東京都文京区の違法マッサージ店でタイ人の12歳の少女に性的な接客をさせていたとして、経営者が逮捕される事件がありました。その事件から人身取引と買春が横行する日本社会を問う緊急集会が11月21日、衆議院第2議員会館で開かれました。主催は、東京・新宿で10代を中心に若年女性を支える活動をしている一般社団法人Colaboと性売買経験当事者ネットワーク灯火。事件をきっかけに買春者の処罰を求める議論が国会で始まっていますが、支援者・当事者からは性売買女性の非犯罪化と脱性売買支援を含んだ法律の制定を求める声が上がっています。

日本は人身取引を処罰しない買春社会

大東文化大国際関係学部特任教授の齋藤百合子さんは「日本の人身取引と買春社会」について解説しました。齋藤さんはマッサージ店の経営者の罪名が「労働基準法違反」のみであり、「不同意性交等罪」「児童ポルノ処罰法」「売春防止法」などでは罪に問われていないと指摘。また刑法の人身売買罪での摘発は非常に稀で、日本には加害者に厳罰を科し、被害者の保護や支援をうたう包括的な人身取引禁止法がないことも問題だとしました。

齋藤百合子さん

さらに、日本のホストクラブやコンセプトカフェなどの業者が若年女性を、搾取を目的にだまして売春を強要している現状も、人身取引議定書第3条で定義された人身取引に該当するにもかかわらず、政府も警察もメディアも日本の人身取引問題として取り上げないことにも、警鐘を鳴らしました。

国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書
第3条
 
(a) 「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、 他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。
(b) (a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定する搾取につ いて同意しているか否かを問わない。
(c) 搾取の目的で児童を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することは、(a)に 規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、人身取引とみなされる。
(d) 「児童」とは、18歳未満のすべての者をいう。

包括的な人身取引禁止法の制定を

歴史を振り返ると1970年代以降、日本人男性はアジア諸国に買春観光に出かけていました。2025年6月には日本人男性がラオスで児童買春していることが報道され、政府・外務省が注意喚起をするなど、その流れは続いています。一方で東南アジア、東アジアから女性が連れてこられて、日本国内で人身売買が行われてもいます。

齋藤さんは「私たちが問われているのは日本の性売買社会。既存の法規制を強めても人身売買はなくならない。摘発、保護・支援、防止の三つを要件とする包括的な人身取引禁止法が必要だ」と訴えました。

歌舞伎町だけで毎晩、買春者100人

Colabo代表理事の仁藤夢乃さんは日本国内の性売買の現状について話しました。

「歌舞伎町だけでも違法スカウト200人、買春者100人以上を毎晩確認している。路上に立つ性売買女性は一晩に50〜100人程度。大久保公園周辺に買春者が集まり、堂々としている」

「円安の影響と、日本には買春処罰がないことがSNSで拡散され、外国人買春者が増加。しかし、今でも買春者のほとんどが日本人男性。17歳の男性が、経験として少女を買いに来たこともあった」

仁藤夢乃さん

2024年4月、現行犯のみだった売春防止法第5条の勧誘等罪の適用が過去の事件にも広がりました。

「女性に厳しくなった。性売買業者は、路上は逮捕のリスクがあるから店においで、と女性を風俗店に誘導している」

2025年7月には、複数のテレビ局が、新宿・歌舞伎町で性売買をしたとして女性4人の顔や実名を出して売春防止法違反での逮捕を報道しました。

「彼女たちの背景には、障害や性搾取があるのに、それには触れず加害者として晒し者にした。被害からの回復がより困難になった」

反社会的組織による、管理売春も横行しているといいます。

「少女たちはGPSで位置情報を管理されたり、監視役に少年が使われたりすることがある。警察による補導への恐れがあり、大人に助けを求められない」

性売買女性の非犯罪化、脱性売買支援も

タイ人少女の事件では、娘を日本に連れてきて違法マッサージ店に置き去りにしたとして20代の母親がタイ警察に逮捕されています。仁藤さんは「娘を売るなんて、と母親を責める声もあるが、母親も性売買の被害者。もし性売買女性を保護する法律があるフランスやスウェーデンで同じ事件が起きれば、母親は保護されたはずです」と述べました。

その上で必要な施策として次の2点を挙げました

1)買春処罰と、性売買女性の非犯罪化、脱性売買支援を含んだ「性売買防止法」制定

2)性売買営業の禁止、風営法の改正

売防法と風営法 どちらにも女性の人権の視点がない

弁護士の角田由紀子さんは性売買に関する日本の法律について解説しました。

「売防法(*1)と風営法(*2)が助け合って性売買が成立している。そのどちらにも女性の人権の視点がない」

*1……売春防止法

*2……風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

角田由紀子さん

売防法は1956年5月に成立した後、重要な改正は行われていません。

第1条(目的):この法律は売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良な風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、(性行または環境に照らして、売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによって)売春の防止を図ることを目的とする。
※……()内は2022年に売春女性への保護更生条項の廃止とともに削除

角田さんは「売春は女性に責任があるという女性原因説に基づいている。保護法益は社会善良な風俗を守ることであって、女性の人権を守ることではない」としました。

買春行為については第3条にあります。

第3条:何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。

買春行為そのものについて、法律上は禁止されているが、罰則がありません。

一方、売春女性に対しては第5条で罰則が定められています。

第5条:売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、6月以下の拘禁刑または1万円以下の罰金に処する。
①公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること
②売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ち塞がり、又はつきまとうこと
③公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方になるように誘引すること。

角田さんは「性売買は禁止されているが罰則はなく、誘ったことが犯罪とされる。多くの場合、女性は生活苦から売春していることは明白だが、その原因を取り除くことはほとんどされないできている。法制定にあたり、本当に売春をなくしたいという共通認識があったかどうか疑わしい」と述べました。

「性交類似行為」は日本語にしかない不思議な言葉

また、買春者への処罰がないことについて、「日本社会では男性の買春行為を『まずい』と考えてこなかった。公娼制度の長い歴史や戦時中の軍隊の慰安所があり、買春は当たり前のこと、男らしさの証拠のようなものとして扱われてきた」とし、「ようやく買春者処罰が関心の対象となってきた。買春の問題を深めて理解する必要がある」と話しました。

風営法は、売防法が禁じる狭すぎる「性交」の定義から零れ落ちるものを補完している、と角田さんはみています。

「風営法により、風俗店で合法とされている『性交類似行為』というのは日本語にしかない不思議な言葉。買った当事者の語りや性風俗店で働いた女性の語りをきくと実際には風俗店での性交(挿入)が行われていることがわかる。売防法と風営法を一緒に考え、どのようにすれば性的サービスをコントロールしてやめさせていくことができるかを考えていかなければいけない」

当事者の女性たちの体験

性売買経験当事者ネットワーク「灯火」からは5人の女性が音声や動画でコメントを寄せました。

さとみさん

路上や風俗店などの性売買の現場では、女性が金銭によって商品として取引され、性行為を拒否や抵抗できない状況が作られています。これは人身取引であり人権侵害です。(中略)この社会は女性が困窮した時に身体を売らせる社会であり、それを望んでいる男性たちがたくさんいるからこそ、私たち女性は性売買の現場に足を踏み入れてしまうのです。女性に身体を売らせるために、女性は自立から遠ざけられ、男女格差が維持され続けています。男性たちは、まず自分たちがこの性搾取の構造を維持しているということを自覚してください

かのんさん

19歳の頃に性売買の現場にいました。大学で勉強するために上京してきたけど日々の生活のお金が無い、将来のために貯金をしなければと足を踏み入れました。(中略)頭では買う男性が悪いとわかっていても、自分の心や体の傷は一生癒えません。買う人にとってはいっときの快楽でも、私にとっては一生の傷なのです。今でも思いだしては悔しくなります。(中略)女性が尊厳を持ち生きられるためにも、今すぐにでも、買春を処罰すると同時に、女性を罰しない法制度の制定をお願いします

ナツメさん

買春の話は軽い冗談や武勇伝のように扱われる一方で、私は後ろめたさを抱えていました。自然と人間関係は同じ店の女性やスカウトや業者、客といった性売買の中だけになっていき、社会と切断されていました。そうして出来上がった大きな空白期間と、トラウマを抱えた状態で、外の社会と繋がり直すのは困難でした。性売買から離れるまで、そして離れてから生活を取り戻すまで、長い時間がかかりました。
タイの少女の事件の報道に触れ、少女が捕まることを覚悟しながら助けを求めなければならなかったということに、過去の自分を重ねました。買う側を罰するというだけで、この問題に蓋をしないでください。性売買のなかにいる女性が『助けられるべき被害者』ではなく『処罰の対象』であり続ける限り、被害はなくなりません

高市首相「買春者処罰」の検討を法相に指示

タイ人少女の事件を受けて、売防法の見直しについて国会論戦が続いています。

高市早苗首相は11月11日の衆議院予算委員会で、緒方林太郎議員が「売春の相手方を罰する可能性について検討するように法務大臣に指示を出してほしい」と問うたのに対し、「必要な検討を行うことを法務大臣に指示します」と答弁しました。

集会の会場からは「首相が買春処罰に言及したのは関心が高まってよかった。しかし、今のままだと女性への処罰はそのままになる。女性が処罰の対象になっていたら、被害を訴えられない状況が変わらない。女性に対する人権侵害で暴力だという認識を持たなければ」「性売買禁止法があるスウェーデンやフランス、性売買防止法がある韓国に学ぶ必要がある」などの意見が出されました。

性売買は女性に対する人権侵害

法改正に向けて必要なこととして、仁藤さん、角田さん、齋藤さんは「性売買の現場の実態を知ること」「買春者の意識調査」を挙げました

仁藤さんは「フランスでも韓国でも性売買禁止(防止)法ができて意識が変わった。日本で買春している男性はかなりいる。今すぐに出来る調査として、風俗店のオプションメニュー、口コミサイトを見ることがある。首を絞めたり、排泄物を食べさせたりと明らかに虐待と思われるメニューがある。日本の男達が、少女や女性をどう扱っているのかわかるはずです。女性たちは写メ日記で営業活動をさせられている。どんな風に商品として並べられているか。女性が見た目で区別をされて選べる形になっている。女性に対する人権侵害がいかに行われているかわかる。メディアもぜひ見に行ってほしい」と話しました。

集会には140人が参加。仁藤さんは、「性売買の背景には女性に対する暴力、虐待、女性差別がある。労働としてとらえるのではなく、女性に対する人権侵害と考え、構造を変えていきたいと思う。当事者のメッセージを何度も読んでください。それぞれの場所でこの問題について問題意識を広げてがんばっていきましょう」と呼びかけました。