〈旧統一教会被害は終わっていない〉② 2世被害者・元信者、弁護士に聞く 声をあげた2世たちは支援を受けられないまま誹謗中傷を受けている

記者名:
宗教2世で元信者の田村一朗さん(仮名、40代)

宗教2世が日本政府による具体的救済策が講じられないまま今も苦しんでいるのを知っていますか?

安倍晋三元首相銃撃事件裁判でも旧統一教会信者である親を介して教団から虐待や人権を侵害され続けてきたいわゆる「宗教2世」の問題が注目されています。私たちは世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による被害の中でも、とりわけ宗教2世の人々が、日本政府による具体的救済策が講じられないまま今も苦しんでいるのをどれほど知っているでしょうか。

前回に続き、10月半ば、韓国の調査報道独立メディア・ニュース打破による旧統一教会問題をめぐる取材に同行し、今回は宗教2世で元信者の田村一朗さん(仮名、40代)にお話を伺いました。田村さんはご自身の経験からSNS・ブログ等で旧統一教会問題について問い続けています。2世が受けたさまざまな苦しみについて教団の責任を正面から問う2世被害の被害訴訟に取り組む弁護士の話も交えて紹介します。

宗教2世で元信者の田村一朗さん(仮名、40代)

Q:ご両親は旧統一教会にいつ入信し、その後、ご自身はどんな生活をしてきましたか?

1990年代、私が小学生の頃、まず母親が旧統一教会に入信し、程なく父親も入信しました。両親は教団の活動に深く関わり、資産を売却したり借金を重ねたりしながら総額1億円以上もの献金を続けました。そうした環境で、私は親や教会に大切にされ、私自身もやがて熱心な信者となりました。20代は、「摂理」(教団の考え)に従って、さまざまな経験しました。高校を卒業して韓国へ語学留学をし、教団内のさまざまな面も見てきました。

私は教団内では「信仰2世」と呼ばれる立場でした。両親は現在も信者です。私は30代で離教(脱会)しています。

Q:献金についてもう少し具体的に教えてください。

私が幼い頃(90年代)は、日本は再臨主1がいらっしゃった韓国を蹂躙した罪深い国だとして、「再臨主」である「真(まこと)のお父様」(故・文鮮明教祖)の意に絶対従わければならないという訓戒を信者たちはずっと受けていました。その「意」とは主に「献金」と「宣教」です。

基本的な献金は「収入の10分の1」と言われていますが、それだけではありませんでした。実際、自宅のファクスに「至急! お父様が今日50億円(500億ウォン)を献金しろと指示しました!」というように献金要請が入ってきます。金額もとてつもなく高額で、例えば3000万円の『聖本』や430万円の『天聖経』などの経典のほか、「先祖解怨」(ぜんぞかいおん)という先祖の恨みをはらす儀式があり、解怨しないと「子孫に悪さをする」と言われています。私の知る限り、1人につき、直系、母方、父の母方、母の母方の4家系が必要で、遡って7代は70万円×4家系で280万円の献金をしなければなりません。8代目以降は7代ずつの区切りで3万円×4家系で12万円ずつの献金を納めながら、遡って解怨を続けていくことになります。そのほか宮殿建立のためなど、想像を絶する莫大な献金をほぼ同時に求められます。これらが全て「摂理」です。

集金の責任は主に女性信者たちに任せられていました。財産を全部捧げて、なくなると夫に内緒でサラ金のカードなどで借金をしたりしていた女性も多かったです。ほとんど狂ったように集金し、そのことで苦しんでいました。
私の母も通っていた教会で責任者になり、10年以上ずっとお金を準備するために苦しめられていました。お金を出してもらうために、女性たちの悩みを聞く電話を一晩中かけているのを何度も見たことがあります。安倍元首相銃撃事件の被告・山上徹也さんの家庭もほぼ同じような状況ではなかったかと思います。

Q:そのように強引に集めた献金のほとんどは韓国の旧統一教会本部へ行くんですよね。前回本サイトで紹介した元信者の川野美子さん(仮名)は直接韓国本部に振り込んだとまで証言しています。韓国の本部と日本の教団の関係はどのようなものだったのでしょうか?

日本の教団には自主的な決定権がありません。長い間、日本の教団の上層部には韓国本部から来た「総会長」(主に韓国人)がいて、地区長を通じて日本の教団を支配してきました。日本の信徒たちは韓国人を「主の国の人」、教団の幹部を「真の父母(文鮮明と韓鶴子夫妻)の代わり」と教育され、まさに絶対服従の状態でした。 
私が到底容認できなかったのは、信者が血のにじむような思いで拠出した献金で私腹を肥やす教団の人々の実態です。私たち家族が通っていた教会に来た教会長(韓国人)のうち何人かはそんな人だったと母は言っています。 

今、韓国では旧統一教会の韓国本部も捜索され、捜査が進んでいます。ぜひ、日本の教団との関係も含め実態を暴いてほしいです。

Q:いま、係争中の安倍晋三元首相銃撃事件裁判では宗教2世への虐待などの問題が注目されています。改めて宗教2世の人たちが抱えている問題について教えてください

日本では、旧統一教会がしてきた搾取と人権侵害の深刻さ、それによる2世被害に対する深い理解がとても不足していると思います。 これは、2世被害に対する救済が全く行われていないことにもつながっています。

また、「家庭内詐欺だ」という2世もいます。信者の親が子どもの保険証や身分証を持ち出し、通っている教会の似たような子どもを銀行に連れて行き奨学金などと偽ってローンを組むこともあります。子どもは知らないうちにローンを組まされていて、仕方なく奨学金を借りて大学を出たり、そもそも大学に行けなかったという話はよく聞きます。

Q:いつ、どんな理由で脱会したんですか? 脱会後、家族との関係には変化がありましたか?

そんな状態の中で、信者や2世たちの苦しみ(お金、病気、家族関係など)が目につくようになり、信仰が揺らぎ始めました。教義の理想とは程遠い現実。自ら調べるうちに、統一教会の核心的な教義「堕落論」2の決定的な矛盾を知り、信仰を棄て、離教に至りました。

両親は今も信者です。長い間、献金や関連企業の活動によって生じた莫大な借金のため老後の生活もままならなくなりそうです。それでも両親は献金を続けると言っています。私は両親とは関係が良い方なのですが、この部分で折り合うことができていません。教会に通っていた頃の友人や同僚とは、離脱時にほとんど関係はなくなりました。

Q:献金以外に、何かさせられたことはありますか?

はい。私の両親は、2015年前後から地元の自民党候補の選挙応援に非常に熱心に取り組むようになりました。それ以前の教会活動といえば献金集めがメインだったのに、今思えば第2次安倍政権の発足後から急激に、自民党候補の応援に傾倒するようになっていました。ポスター貼り、応援集会への参加、後援会への入会勧誘、投票依頼などです。両親の選挙応援に懸ける情熱は年々激しさを増し、2022年の参院選にピークを迎えました。
入会した覚えのない自民党候補者の後援会から私宛てに会報が届いたり、投票期間になれば父親から「期日前投票に行って!いつ行く?もう行った?」と、ものすごい勢いで迫られるようになりました。辟易しつつも「これはかつての献金集めと同じで “ノルマ”があるんだろうなぁ」と思っていました。

Q:宗教2世としてどんな活動をされていますか?

私はどんな団体にも属さず、個人の立場で自由な発言をしています。私の活動名「田村一朗」は、統一教会で「祝福2世」とされたある人にちなんで付けました。彼はもう、この世にはいません。かつて私は旧統一教会を信仰する中で、彼の本当の苦悩に気づけませんでした。もし信仰を棄てた後で彼と出会っていたら、きっともっと彼の心に耳を傾けることができたのではないかと思うんです。そんな気持ちを込め、彼の存在を感じながら活動をしています。

2世として名前も顔も出して活動している人たちもいますが、激しい誹謗中傷を受け、何の救済も受けられずにいます。活動の中で深い傷を負った友人たちがいます。元信者の救済のために活動している弁護士たちも同じく誹謗中傷を受けています。 

Q:日本の政治家や政府による被害者の救済はありますか?

2022年7月の安倍元首相銃撃事件以降、立憲民主党や日本共産党など野党の政治家が積極的な対応に乗り出しました。「野党合同ヒアリング」や立憲民主党旧統一教会被害対策本部は国会内で被害者を招待して100回以上開かれ、私も4回出席しました。
しかし、2022年12月にできた「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」は実際に救済にはなっていません。

私は宗教被害者を救済するには、宗教問題を専門的に扱う公的な機関が必要だと思います。これについて、日本弁護士連合会は2023年11月、「カルト問題に対して継続的に取り組む組織等を創設することを求める提言」を発表しました。さまざまな要因が複雑に絡み合うカルト問題は、支援や救済策も多岐にわたり、「省庁横断的かつ効果的な組織等とするために適切な主管省庁を定めるべき」という内容の提言です。

進む2世被害の被害訴訟

2025年7月24日、旧統一教会信者である親を介して教団から虐待を受け、人権を侵害され続けてきたとして、「宗教2世」の原告8人が、教団を相手どり、計約3億2300万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

代理人である全国統一教会被害対策弁護団で事務局次長を務める阿部克臣弁護士は、2世の被害訴訟について次のように話しました。

「この訴訟は、統一教会2世が幼い頃から受けたさまざまな苦しみについて正面から教団の責任を問う初めての試みです。先例がないのでハードルは高いですが、弁護団としては多くの2世が法的救済を受けられるように取り組んで参りたいと思います」

同弁護団は第2次2世訴訟を12月18日に提起し、初公判は2026年1月28日の予定です。

全国統一教会被害対策弁護団ホームページより作成。2025年12月5日現在

第一次訴訟原告の宗教2世たち8人のコメント全文は同弁護団ホームページで読むことができます。一部抜粋します。

◾️四国地方に住む20代男性
「同じ境遇にある2世の方へ伝えたいことがあります。苦しんでいる方はたくさんいて、声を上げられない人も多くいると思います。しかし、それは仕方のないことだと思います。親や教団に支配されているからです。だから、決して無理をしないでください。私に、影響されて何かをしなければならない、ということではありません。まずは、自分のことを第一に考えてください。」

◾️30代男性
この件に関しては、もちろん一番悪いのは統一教会ですが、「あの頃の僕達子供」からすると、手を差し伸べてもくれず見て見ぬふりをしていた、「あの頃の大人達」も共犯者です。
だからこそ、今回の訴訟では、「もしその時、自分の子供や周りの人が同じ目にあったら」ということを考えて、しっかり統一教会に対して然るべき判決を下してほしいです。

◾️中部地方に住む40代女性
小さいときから、誰にも助けを求めることができませんでした。(中略)
安倍元首相が銃撃され、統一教会に関係があると分かったときは、統一教会のことを思い出したくなくて、あえてニュースを見たり新聞を読んだりしないようにしていました。
 
それから2年くらい経ってから、(中略)初めて自分から統一教会の状況を調べてみて、弁護士に相談できることを知りました。
藁をも掴む思いで、弁護士に電話をかけました。
(中略)今も、私と同じように、助けを求めることができない人がいると思います。その人たちに、「助けを求めていいんだよ。助けを求めていい人がいるんだよ」と伝えたいです。

  1. キリスト教において、昇天したイエス・キリストが再び地上に現れることを指す。文鮮明は自分を「再臨のメシア(救世主)」と名乗っていた。 ↩︎
  2. 旧統一教会の「堕落論」は、聖書の記述を基にしながらも独自の解釈を付す。たとえば、アダムとエバの堕落とは、天使長ルーシェル(サタン)とエバ、そしてアダムとエバの「性的な関係」によって起こったと解釈される。これを通じて原罪が子孫に遺伝したと説く。 ↩︎

【電話相談】
全国統一教会被害対策弁護団
03-6261-6653
10時30分から~15時30分(月~金)
ホームページからメールでの相談もできる。

全国霊感商法対策弁護士連絡会
相談電話:火曜070-8975-3553
     木曜070-8993-6734
相談時間:11:00~16:00
reikan@mx7.mesh.ne.jp

宗教2世ホットライン
「今」助けを必要としている2世たちへ。悩んでいる2世を応援したい2世がボランティアで記事を投稿したり、当事者が気持ちや経験を伝える情報共有サイト。

連載は続きます。



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