「いのちのとりで」を守る新たな一歩 最高裁判決後の生活保護再減額処分に審査請求呼びかけ

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「いのちのとりで」を守る新たな一歩として、生活保護利用者に行政不服審査請求を呼びかけてるんだって

2013年から3年間にわたり生活保護の基準額が平均6.5%、最大10%引き下げられたことを違法として、生活保護利用者が国を訴えた「いのちのとりで裁判」。昨年6月、最高裁は引き下げ処分を「違法」とする判決を出しました。しかし、厚労省は専門家会議を設置し、補償額を約2分の1に抑える再減額処分を実施。ようやく3月から補償額の追加支給が始まっています。満額補償を求め、生活保護利用者らに審査請求を呼びかけるキックオフ集会が4月2日、東京都内で開かれました。会場に156人、オンラインでは210拠点から参加がありました。

いのちのとりで訴訟 国が2013年から2015年にかけ、段階的に生活扶助基準を平均6.5%、最大10%引き下げたのは、生存権を定めた憲法25条に違反するとして、生活保護の利用者らが減額の取り消しを求めて訴えた。提訴は2014年から2018年にかけて29都道府県の地裁で行われ、原告の数は計1000人を超えた。2023年4月の大阪高裁(原告敗訴)と2023年11月の名古屋高裁(原告勝訴)で判断が分かれ、2025年6月27日に最高裁が「引き下げは違法」とする統一見解を判決で示し、国に減額処分の取り消しを求めた。厚生労働省は行政法学者らを含む「専門委員会」で最高裁判決への対応を協議。判決で違法とされなかった「ゆがみ調整」を再実施の上、新たな基準を設けて2.49%減額し、従来の減額幅4.78%との差額を追加給付。原告についてのみ、特別給付金を上乗せ給付するとした。2026年3月から各自治体で追加給付が始まっている。

審査請求を全額補償を勝ち取る第一歩に

最初に「全国生活と健康を守る会連合会」の吉田松雄さんが、最高裁判決後の動きを振り返りました。

「最高裁判決から10カ月が過ぎようとしている。振り返るとこの間、国は何をしてきたでしょうか。原告、弁護団を入れずに専門委員会をつくり、新たな追加支給について厚労省独自の判断を示しましたが、その内容は驚くべきものだった。生活保護利用者と原告を分断し、非原告の補償額を半額に値切った。あくまでも生活保護の費用を抑制する。謝罪もせずに侮蔑的な扱いを行ってきた」

追加支給についても、生活保護利用者に周知が徹底されていないといいます。

「みなさん、自分に給付があるとは思っていない。受け取れますよと伝えると本当に感謝され、審査請求に参加したいと言われる。われわれの闘いは新たな一歩を踏み出す時点にいるのだと思う。生活保護の制度そのものの理解を広げ、分断を許さず、全額補償を勝ち取る第一歩にしようではありませんか」

紛争の一回的解決に反し、平等原則違反

続いて、「いのちのとりで裁判全国アクション」の事務局長を務める小久保哲郎弁護士が追加給付の問題点について基調報告で解説しました。

最高裁判決は、引き下げ後の生活扶助基準を定めた大臣告示自体を違法と判断し、取消を命じています。しかし、国は、デフレ調整に代わる理由で再減額し、補償額を約半分に縮小しました。その上で裁判の原告だけに再減額分を穴埋めする特別給付金を「贈与」として行うとしています。

小久保弁護士はこうした国の対応について、「結果の出た裁判を蒸し返ししないという紛争の一回的解決の要請に反する」「原告と非原告を区別するのは生活保護法2条や憲法14条の平等原則違反」と指摘。

さらに、追加給付の運用についても「判決が確定していない原告への給付は先送り」「裁判が10年以上と長期化したにもかかわらず、遺族に対する給付は行わない」「保護廃止世帯への給付は申出が必要で、戸籍謄本と免許証やマイナンバーカードの提示が必要」「虐待やDVで家を出たケースでも元の世帯主にしか支払われない」などの点で課題が残っているとしました。

「裁判ご苦労さんでしたね」というお金では納得がいかない

各地の生活保護利用者から発言が相次ぎました。

◆山内一茂さん(大阪・原告・判決確定)

僕は13年前に裁判を起こしたときに、「僕らの人権を無視している、僕だけの闘いじゃなくて、生活保護をもらっているみんなの闘いだ」として原告になりました。厚労省がこのたび、給付について、原告とほかの生活保護利用者を分けたことにすごく腹が立っています。生活保護を切り下げられて、裁判で勝って取り戻せると思ったらなおかつ半額にされる。原告だけが「贈与」という名前で特別給付を受けられる。贈与じゃないと思うんですよ。「裁判がんばったね、ご苦労さんでしたね」というお金では納得がいかない。みんな同じがいいと思います。

僕は障害者なんですけど、ヘルパーの人も連れて旅行に行くことを最大の目標としてきました。ヘルパーのホテル代も僕が負担します。引き下げになる前から厳しかったけど、障害年金を貯めながら、なんとか旅行に行っていた。でも基準額がどんどん引き下げられることで、貯金では間に合わなくなってきた。

追加給付が認められても、「もらい得じゃないか」と言われるような風潮があります。そういうこと自体がおかしい。そういう風潮がまたどんどん強まっています。闘いをやめるわけにはいかないと思っています。

あとがない年齢の原告だからこそ感じること

◆森絹子さん(京都・原告・判決未確定)

最初は(生活保護利用を)知られたくない、恥の感覚でした。全国の原告交流会に参加し、考えも変わり、勇気をもらいました。70歳をすぎて、裁判の原告という目標のある生活が始まりました。

感じるのは温かい繋がりです。支援者の、当事者以上の活動に頭が下がる思いでいっぱいでした。あとがない年齢の原告だからこそ、感じることがいっぱいあります。喜びに変わる受け取り方ができたことで、この12年は宝物になりました。

京都は2014年12月提訴。地裁では7年かかり敗訴に。2025年3月13日、大阪高裁でようやく勝訴しました。大阪と愛知の訴訟は、最高裁で歴史的な勝利の判決でした。引き下げは始めから違法とわかっていた。判決が違法を認めるのは当然でした。しかし、補償が原告と原告以外で変わるとは思っていませんでした。

バッシングを怖れて原告になれない人もいた。削減した金額の半分を給付とか、原告だけに贈与とか、言い出すことが許せません。私は闘います。審査請求を成功させるため、がんばります。

賃労働ができないものは死んでもかまわないのか

◆市村忍さん(北海道・非原告)

生活保護を利用し始めたのは2014年1月。うつ病で働けず、自己破産の手続きと同時に自力で生保の申請に行きました。生活と健康を守る会を知ったのは随分たってからのことでした。不当に基準額が下げられていると知り、審査請求の書類を書いたことを覚えています。すでに裁判が始まっていたので私は原告になりませんでした。裁判の傍聴をしたりして訴えの内容を理解していきました。実際に支給額も目に見えて少なくなっていき、近年の急激な物価高もあり、以前に貯めたお金とコロナ禍の補助金などを足してやりくりしてきました。このままではいずれまた生活が行き詰まるという不安がぬぐえません。

札幌地裁は敗訴、4年後に高裁で逆転勝訴しました。

しかし、国は最高裁の判決を軽視し、再減額の実施によって約半分の金額の支給にとどめ、原告と原告以外を分けるという全く誠意のない対応をとっています。

本来であれば生活保護基準の減額前の水準に戻し、急激な物価高に見合う保護費に引き上げるべきです。病者や高齢者など国は賃労働ができないものは死んでもかまわないといわんばかりです。長い訴訟期間中に亡くなった原告の無念を考えると国から謝罪があってしかるべきです。

私は怒りと抗議の意味をもって再度の審査請求を行います。「私はここにいていい」と信じさせてくれたみんなのために闘いの輪に参加させてください。

ばらまきを想起させる「給付」ではなく「支給」

◆澤村彰さん(愛知県、原告、判決確定)

「追加給付」という言葉に遺憾です。一般的に「給付」はお金を上げるという意味。国が生活保護利用者にお金をあげるのではありません。国は間違えている。「支給」です。「給付」と言う言葉が、ばらまきを想起させ、バッシングの原因になっています。

係争中の原告に関する支給ができないとのこと。もう最高裁で結論が出ています。判決確定まではお金を出せないというなら、係争しなければいい、裁判を継続しなければいい。

基準額引き下げの審査請求に続き、2回目の審査請求になる。最高裁判決という日本のルールを、国がねじ曲げている。国が判決に従わないのでいいのなら、裁判所はいりません。国民はみんなルールに縛られて生きています。国はなぜ従わないのか。(審査請求をもって)最高裁判決にもう一度お墨付きをもらいにいきます。ご協力をお願いします。

イラン戦争で物価高騰 生活成り立たない

◆髙橋史帆さん(神奈川、原告、高裁で判決確定)

神奈川は追加給付の支給が始まっているが、生活保護利用者には、高齢で病気を持っている人も多く、「いつ、もらえるの?」というお声が沢山届いている。判決が確定していない地域の方も同じなはず。不平等な扱いをして、人と人を分断する厚労省のやり方は卑劣で許せない。

高市政権は国民の圧倒的支持を受けて、選挙で大勝したのだから文句を言うなと言われるが、冗談じゃない。イランとの戦争、ホルムズ海峡の封鎖によって、あらゆる物価がものすごいスピードで上がっている。このままでは追加給付をもらっても生活が成り立たない。この状況を改善していきましょう。

原告と原告以外で支給額に差は「違法」

◆川西浩之さん(東京、非原告)

原告と原告以外で支給額に差をつけるのは生活保護法2条に違反します。紛れもない事実です。第1回目の支給が決まるまで、引き下げから10年以上経って、やっとここまで来ています。さらにここから出発して、残りのお金を払ってもらうために、原告として活動しなくてはならないのかと思うと、体力がもつのかなあと思う仲間も大勢いると思います。厚労省は病気の人を早く死なせてほしいというような対応をしていると思います。

私は車椅子ですが、最近は、補装具の車椅子の修理代を本人に支払わせようかという動きもあると聞いています。

厚生労働省の「八つの大罪」

尾藤廣喜弁護士は「厚生労働省の八つの大罪」と題して、問題点を列挙しました。

1)「まずは謝罪を」が実行されていない。
2)行政による司法の無視。三権分立の意味がなくなる。民主主義の危機である。今回の対応策は基準部会の検討を経ず、厚労省の示す根拠不明な数字で再度の引き下げを行っている。
3)対応策策定の経過の不当性。専門家会議を設置した上で、法律家委員の意見を無視して再引き下げが決定された。
4)原告間、そして原告と原告以外の当事者間で差別を持ち込み、分断をはかろうとしている。
5)再引き下げの計算にあたり、消費者物価指数以外の指標が消費者実態を反映しているとするが根拠不明。
6)最高裁で違法とされた引き下げ処分の決定過程の究明がなされていない。
7)再発防止策の提案実行がなされていない。
8)「生活保護法」の抜本改正=「生活保障法」制定が全く検討されていない。

満額給付を求め、集団で不服審査請求へ

生活保護基準の引き下げをめぐっては、2013年から15年に計2万7493件の不服審査請求があり、その後、うち1000人超が原告となり、全国31の裁判体で違法性が争われました。

今回も満額給付を求め、各都道府県知事に集団で行政不服審査請求を出し、処分取り消し訴訟で違法性を争っていく方針です。当面は1万件の審査請求を目指しています。

いのちのとりで裁判全国アクションでは、審査請求書の統一フォーマットを含むチラシを作成し、原告以外の生活保護利用者にも広く参加を呼びかけています。不服審査請求は保護費の「追加給付決定通知書」を受け取った日の翌日から3カ月以内に提出する必要があります。

相談ホットラインは5月14日(木)10時〜18時、フリーダイヤル(0120−157930)で受け付けます。また、各地の「生活と健康を守る会」でも追加給付や不服審査請求についての問い合わせを受け付けています。

http://www.zenseiren.net/kakuti_seikatu/kakuti.html