介護現場にスキマバイトが導入され、蔓延しています。現場の状況とリスクについて、介護福祉士でライターの白崎朝子さんからご寄稿いただきました。
タイミーの介護関連登録者51.3万人
国が有効な対策を講じないまま、慢性的な人手不足に喘ぐ介護現場に、スポットワーク(スキマバイト)が蔓延している。本記事では介護現場のスポットワークの実態と問題点を探る。
スポットワークは空き時間に単発・短時間で働け、賃金はスポットワークの運営会社が立替払いし、即日入金される。履歴書、面接は不要でスマホで簡単に登録でき、雇用する事業所と直接、労働契約を結ぶ。その手軽さのためか、スポットワーカーの登録者は急増。飲食などの業種ではキャンセルや賃金未払いなどのトラブルが多発し、訴訟も複数起き始めている。現在、集団訴訟が起きている最大手の㈱タイミーの登録企業数は22万6000社、全登録者数は1340万人(2026年1月末現在)。うち介護関連登録者数は51.3万人にのぼる(2025年10月)。
2024年度の厚生労働省の調査では、スポットワークを含む有料職業紹介事業における、介護施設の新規求職申込件数は81万6414件で、前年度の約2倍に増えた。厚生労働省はその要因は、スポットワーカーの増加の影響だと発表した。
ベネッセキャリオスとタイミーの提携
2026年4月20日、医療・介護人材大手のベネッセキャリオス社とタイミーの業務提携が発表された。ベネッセキャリオスがタイミーを通じスポットワークの利用を促すという。タイミーの介護関連の募集人数は2025年10月、前年同月に比べ約2.3倍に増加。全募集人数の5%を占め、他業種と比べ圧倒的な成長速度だ。ベネッセスタイルケアグループの小林仁社長は「タイミーと組むことで、介護業界全体で持続可能な人材供給モデルを構築していきたい」と意気込みを見せた。
しかし、利用者の健康状態や生活歴を知らないスポットワーカーに介護を任せることにリスクはないのだろうか?

https://www.benesse-careeros.co.jp/careeros-spot/client
3分に1回くる求人
「介護はスポットワークには馴染まないと思います」
そう話すAさんとは、介護とは関係ないある勉強会で出会った。同じ介護職だったこともあり、日を改めてお目にかかったところ、彼女にスポットワークの経験があると知り、取材を依頼した。
Aさんは現場経験7年の介護福祉士。数年のブランク後、2025年に介護・医療の有資格・専門職に特化したスポットワークB社(登録者100万人以上、登録企業2万件)に登録した。10回ほど働いたが3分に1回くる求人にうんざりし、現在は登録解除を検討している。

ある高齢者施設では利用者の心身の説明は一切なく、「〇〇号室の〇〇さんは、認知症で入浴拒否があるから、お風呂に行くとは言わずに浴室に連れていって」と指示された。「どこに行くの?」としきりに聞き、不穏な様子になった利用者を浴室に連れていくと、同じB社に登録しているリピーターのスポットワーカーが入浴させた。Aさんよりは慣れているとはいえ、事故リスクの高い入浴介助を正規職員が対応しないことに驚愕した。その施設は全室個室。建物は広く綺麗だが、フロアの見守りは1人か、誰もいないこともあり、冷たい雰囲気が漂っていた。
別な施設では、入浴介助後、「時間が余ったから」といきなり食事介助をさせられた。誤嚥のリスクがあり、慣れた職員の見守りがなければ危険が伴う。初めての配膳では、利用者の名前と顔がなかなか一致しない。流動食の人に刻み食を配膳したら大事故になる可能性があり、リスクが高い。
筆者の私が以前勤務していた施設では、常勤の看護師や介護職員が対応していても、利用者の誤嚥性肺炎が後を絶たなかった。高熱で入院し、誤嚥性肺炎と診断された利用者のレントゲン写真の肺は、樹氷のように真っ白だった。
「介護は本当に大切な、人間の根本にかかわる仕事であり、凄く尊い仕事だと思います」というAさん。だからこそスポットワークへの違和感が拭えないのだろう。
“いのち”にかかわる専門職への冒涜
B社のホームページでは、求人を出している施設管理者のインタビュー記事が読めるが良いことしか書いていない。B社や事業所が労災や介護事故が起きた際、どんな対応をしているかは不明だ。SNSでは「簡単で楽に稼げる」というB社の宣伝が流れ、著名な俳優によるコマーシャルまである。
Aさんはその宣伝も現状を反映していないと批判する。私の見た宣伝は、「面接履歴書不要でOK」とタレントが気楽さを歌い踊る動画で、「介護」という“いのち”に関わる専門職への冒瀆としか感じられず、思わず目を背けた。
労災や介護事故の発生状況はどうなっているのだろうか?
タイミー社に電話したが、「ホームページのお問い合わせフォームにご用件をお書きください」とアナウンスされ、社員とは直接話すことはできなかった。東京都労働局からは、厚生労働省が委託している『労働条件相談ほっとライン』を紹介された。しかし何度電話してもつながらず、これではいざという時には頼りにならないと思った。
100万人以上の登録者がいるB社のホームページを見ると、事故があれば労災適用するようにと、事業所に要請はしている。だが正規職員でも労災隠しがあるのに、事業所とスポットワーカーの2者間の話し合いに委ねられている実態は不明のままだ。
ぶっつけ本番の身体介護はありえない
東京都目黒区の特別養護老人ホーム・駒場苑の坂野悠己施設長はB社からお試し採用で4回、4人のスポットワーカーを雇用した。時給は1400円+交通費だった。
B社からは、「他の施設でも入浴介助をたくさんされている即戦力の方なので、身体的な介護もどんどんやってもらって大丈夫」という旨の説明をされた。だが身体介護のぶっつけ本番はありえないと、職員が1日張りつき、様子をみた。
スポットワーカーに依頼できるのは、見守りや掃除をしながらの利用者の話し相手、レクリエーションや趣味活動のサポートくらいが妥当だと思った。身体介護をしてもらうなら数日は研修期間をしっかり設ける必要があるが、それは継続的な勤務が前提だ。
「結局、4人のスポットワーカーに正規職員を1人つけて1日研修をしたという感じでした。ならば非常勤で雇用した方が良いと思い、4回で利用をやめました」と坂野さんは話す。雇用契約を結んだスポットワーカーの評価はB社のアプリにログインすれば見ることはできたが、その評価はあてにならないと思った。
私が、「介護事故はまだ表沙汰になってないだけで、水面下ではたくさん起きていると思いますが……」と尋ねると、「たとえ介護事故があってもB社もスポットワーカーを受け入れた事業所も隠すでしょうね。慢性的な人材不足の中、採用活動の一環として、まずは有償で来てもらうということは理解できます。でもその間、身体介護はさせないか、させる時は必ず職員が一緒につき添うことをルール化した方が良いと感じます」と坂野さんは話した。

人材不足になった根本的な政策と構造の変革を!
厚生労働省は労使双方に向け「いわゆる『スポットワーク』の留意事項等」という冊子を作成しており、雇用主が掲載した求人に労働者が応募した時点で、「労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するもの」としている。主に障がい者ヘルパーを多数、組織化している全国一般労働組合東京南部の中島由美子執行委員長は、「人手不足に悩む介護業界がスポットワークに求人を出すのはわからなくもないが、短期・短時間で働いてもらうには、即戦力の専門性スキルとキャリアが必要。面接もしないのに、そのスキルをどこで判断するのか。『即戦力』としての賃金も適正だろうか」と問題提起する。
中島さんは「介護は誰でもいいのではなく、専門性や利用者との信頼関係が必要な仕事だと認識される必要がある。そもそも対人援助の継続性が求められる介護労働にスポットワークが馴染むのかどうかも疑問。人手不足をスポットワーカーでまかなうのは、利用者もまた人間だという視点に欠けていると思う」とのコメントを寄せた。
日雇い派遣ヘルパーの経験から
私は2007年秋~2008年春、㈱グッドウィルの日雇い派遣ヘルパーとして数カ所の介護現場で働いた。派遣会社に履歴書を提出し、コーディネーターからの面接を受けた。
ある日、派遣された現場で服薬をしていない結核の利用者の身体介護をさせられた。時間は十分にあり看護師もいたが、その利用者が結核だったことを知らされたのは就業間際。看護師とともに入浴介助もしたが、他の職員の悪口ばかり聞かされ、肝心の利用者情報はほとんど教えてもらえなかった。
私はこの経験から日雇い派遣ヘルパーの感染等の労災リスクが大きいことを痛感した。そのため派遣された施設から声が掛ったので、直接雇用を選択した。時給は1300円から900円に下がったが、若い職員たちとの人間関係も良く、安心して働けた。
私はグッドウィルの派遣ヘルパーの厳しい実態を『介護労働を生きる』(現代書館、2009年)に書いた。それから17年。介護現場の人手不足や労働環境はますます悪化し、日雇い派遣よりお手軽なスポットワークが急増している。
スポットワークの構造的な問題点
大分県で介護事業所を経営している工藤美奈子さん(介護福祉士・ケアマネジャー)は、介護現場でのスポットワークを認めた厚労省に強い違和感があるという。
介護保険制度や公定価格を決める権限は現場の事業所や労働者には一切ない。生殺与奪の権利を持つ国が、現在の状況をつくってきた。介護事業所は人材確保のために、わずかな利益からスポットワークという他産業の利益へと転換させられている。介護業界が他産業の利益の“狩り場”となっているというのだ。
一番の問題は介護事故が起きた場合の責任がスポットワークの紹介元ではなく、労働者と事業所の2者にある点だ。要介護者の状態を理解せずに、一定の質を保ったケアはできない。専門性があるからこそ、介護の難しさと日常の中に常にリスクがあるのを知っている。危険を知りながらもスポットワークを利用せざるを得ない環境をつくってきた国や、スポットワークの紹介元企業には事故に対する法的責任が一切なく、不公正な構造だ。
「介護は本来、利用者との継続的な関係性や理解の中で安全と質が担保される専門職。スポットワーカーに頼るしかない環境をつくった国には、大きな責任があります。しかし現状は利益構造だけが先行し、責任は当事者にのみ課せられています。これを是正しない限り、現場にリスクを押しつける構造は続き、利用者と労働者の安心は得られない。これが社会保障の制度として妥当なのかを再考を促したいです」と工藤さんは批判する。

“いのち”の尊厳を守るケアを
Aさんとの出会い。そして2回見学させていただいた駒場苑がB社を利用していたことで、ワーカー側と事業所側の両面から実態の片鱗を知ることができた。私自身が日雇い派遣ヘルパーとして、ぶっつけ本番の身体介護の怖さをよく知っていて、その時の経験とも重なった。
介護に導入され、人手不足の要因となった「市場原理」。その究極の形がスポットワークだと思う。人手不足の現場は疲弊し、ハラスメントや利用者虐待が年々増加している。認知症の利用者が初めて会うスポットワーカーから、何の説明もなく入浴させられるのも、心理的な虐待と言える。そんな構造的な虐待に加担させられているスポットワーカーや介護現場も、構造的な暴力に晒されているのではないだろうか?
介護職員が利用者と自分の“いのち”の尊厳を守るケアができるよう、スポットワークに頼らないですむ介護職場の実現を強く求めたい。構造的な改革こそ、喫緊の課題だ。
しらさき・あさこ 介護福祉士、ライター。著書に『介護労働を生きる:公務員ヘルパーから派遣ヘルパーの22年』(現代書館、2009年)、『Passion ケアという「しごと」』(同、2020年)、共著に『ベーシックインカムとジェンダー 生きづらさからの解放に向けて』(同、2011年)など。

