《2026衆院選 私の論点⑤》生命保険まで喰い尽くす社会保障——介護保険改定の正体 宮下今日子さん

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介護保険利用料の2割負担拡大。要件の「預貯金300万円以上」に生命保険の積立金も含む案

政府が進めている介護保険改定で利用料2割負担の拡大が見込まれています。「持続可能な社会保障」のかけ声の下で進む介護保険の崩壊。本当に負担増しか道はないのか。負担増を推進しているのはどんな人たちなのか。介護問題に詳しいライターの宮下今日子さんに寄稿をいただきました。

選挙費用は、2割負担拡大の3年分

突然の解散総選挙にかかる費用は約850億円と言われる。

今政府が検討している介護保険の利用料2割負担の拡大により削減できる支出は、基準額では最も低い「年間所得230万円」までを対象にした場合でも、約290億円。

厚労省社会保障審議会・介護保険部会提出の資料より

選挙をやめれば、2割負担の拡大を少なくとも3年は見送ることができた。まずはこのことをしっかりと抑えて置こう。

生命保険の積立金まで負担能力の要件に

介護保険制度の見直しが進む中、2025年12月1日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会で、思わぬ発言が飛び出した。自己負担割合「2割」の対象者を拡大する案に関連し、審議会のある委員が「預貯金だけでなく、生命保険の積立金も勘案すべき」と発言したのだ。預貯金だけでも驚きなのに、生命保険までとは、どこまで国民を不安にさらすのか。

介護保険サービスの自己負担は、原則1割から始まり、2015年の安倍政権下で、一定以上の所得がある高齢者(単身で年金収入280万円以上など)に対して、自己負担が2割になり、さらに、2018年から、現役並み所得のある人が3割負担になった。次期改定では2割負担の基準を230万円以上に引き下げる案が検討されている。

厚労省は2015年度の改定時には、支払い能力があるとされる「一定以上所得者」については、「所得基準に基づいて判定される」としていた。しかし、今回の改正案では「所得基準に基づく」という方針が大きく崩れることになる。筆者は前回、負担能力の要件に「預貯金」も加わることを伝え、大きな反響を呼んだが、フロー(収入)からストック(資産)へのおそるべき転換が行われようとしている。しかも、昨年12月の審議会では、生命保険も含めるとの発言が出されたのである。

2割負担の対象拡大をめぐる議論では、12月1日の審議会を前に、厚労省が本来なら委員に提示すべき資料を見せず、説明も行っていなかったことが、和田誠委員から指摘された。制度設計の根幹に関わる情報が事前に共有されなかったことは、審議会への信頼を大きく揺るがす事態である。

その後、12月中に4回の審議会が開かれ、25日には意見のとりまとめが行われた。反対意見も多く、最終的には賛否両論を併記する形で結論は先送りとなった。表面的には民主的な議論が行われたように見えるが、実はある一点において、根拠の前提が大きく揺らいでいる。

年収200万円台の高齢者の生活は赤字だった

厚労省は国民生活基礎調査などを根拠に、高齢者の生活実態を「ゆとりがある」と見せかけたかったようだが、ゆとりどころか赤字の実態を逆に露呈する結果になった。これを指摘したのは「認知症の人と家族の会」代表理事の和田誠委員。和田委員は、厚労省の資料にある図を示し、75歳以上の夫婦世帯の収支モデルでは「支出が収入を上回り、赤字となっている」と指摘したのだ。計算してみると、確かにグラフの左二つは、収支が赤字である。右二つもプラスの幅は大きいとは言えない(グラフ下の表を参照)。寝ぼけているのか、厚労省。夫婦世帯のみならず単身世帯でも支出が月収の約8割を占め、余裕があるとは言い難い。

「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」(参考資料)。社会保障審議会介護保険部会(第133回)令和7年12月25日提出資料p195より)*和田委員が発言した15日の資料とは若干異なっている。

さらに、「その他の消費支出」には介護費用を含まない世帯もあり、「これから介護費用がかかる人は負担が増える。また、認知症の配偶者が施設に入所した場合、残された家族の生活が立ち行かなくなる可能性がある」と和田委員は説明した。

厚労省の調査データ隠し、改ざん

和田委員は、この調査資料は、2019年度の家計調査のデータに基づいており、2027年の改正に向けた議論の前提とすることはできない、とも発言。デフレ下であった当時とは支出傾向が異なり、その上、物価高騰にもかかわらず老齢年金が上昇していない実態がある。

そればかりではない。2015年以降、2割、3割負担を導入した後、十分な影響調査を厚労省は公表していないのである。先の社会保障審議会介護保険部会(第133回)2025年12月25日提出資料は、2割負担導入後5カ月以内に行われた2017年度の老人保健混淆増進等事業のものだ。3割負担導入後の調査も同様で、これでは、5ヶ月目以降の影響が分からない。おそらく、5ヶ月以降、利用者は負担増でサービスを減らしていったと思われる。その数値を隠したかったので、厚労省は調査をしていないのである。

実は、2割負担の導入検討時にも、調査データの信頼性をめぐる問題が国会で指摘されている。2014年6月5日の参議院厚生労働委員会で、厚労省側は「負担増の対象者は(家計収支に)年60万円の余裕がある」と説明したが、小池晃議員(共産)から「違う母集団の年金収入と消費支出の差額を計算しており、余裕はない」と追及された。これを受けて田村厚労相(当時)は「余裕のあるような見え方になってしまった(中略)60万というような書きぶりは、これはもう撤回をさせていただきます」と謝罪したのだ。全日本民主医療機関連合会(以下、民医連)はすぐに法案を廃案にすべきだと声明を出したが、再審議されるどころか、何故かそのまま制度化され、2割負担が導入されてしまったのである。

「ケア社会をつくる会」は昨年12月5日に介護保険改悪に反対する院内集会を開いた(中央社会保障推進協議会のyoutube動画より切り出し)

2割負担で介護サービスはいくらになるのか

民医連の調査(「介護保険・利用料負担見直し案に対する緊急影響調査結果について」2025年10月中旬~11月実施、施設入所者514人、在宅サービス利用者1097人が対象)によると、要介護2のひとり暮らし高齢者が在宅で訪問介護やデイケアなどを利用した場合、1割負担では月約2.4万円の自己負担が、2割負担になると約4.7万円に増える。高額介護サービス費制度が適用されたとしても、月4万円超えの負担となれば、家計への影響は深刻である。

さらに2割負担になった場合にどうするかという質問に対しては「利用回数や時間を減らす」32.1%、「利用を中止する」6.5%など、約半数が利用抑制に動くと回答している。

日本労働組合総連合会(以下、連合)も調査を行い、「介護サービスの利用者負担の増加」に対しては、「家族の負担が増える懸念(37.3%)」と「介護サービスの利用を控えざるを得ない懸念(28.0%)」が上位を占め、「介護サービスの維持・確保のために仕方がない(15.5%)」を上回った。(「老後のくらし方に関する意識調査」2025、同年10月24日~10月27日実施、全国の40歳以上の男女1000人が対象)。

高齢者の生活と健康を守るためにも、負担増がもたらす影響を慎重に見極めた制度設計が必須である。筆者が独自調査でケアマネジャーに聞いたところ、2割負担になった途端にサービスを減らし、体調が悪化し、入院に至ったケースもあった。制度設計には介護保険利用の実態をもっと聞き取る必要がある。

経済界が推進する「2割負担」拡大

2025年12月の介護保険部会では、2割負担の対象拡大をめぐり、賛否が大きく分かれた。慎重・反対の立場からは、「介護サービスは利用期間が長期にわたるため、負担増は家計や家族の負担を増やし、利用控えを招く懸念がある」(連合)、「家計収支やインフォーマルサービス、衛生用品などの追加的費用を踏まえない基準見直しは不適切。現時点での変更には反対」(介護ユニオン)、「所得や資産のみで一律に負担能力を判断することは、物価高騰下にある高齢者の生活実態を反映していない」(老施協)といった意見が出され、「高齢社会をよくする女性の会」や「認知症の人と家族の会」も反対を明示している。

一方、賛成・推進の立場からは、日本商工会議所、経済団体連合会(経団連)、健康保険協会、健康保険組合連合会(健保連)などが「制度の持続可能性」や「現役世代の負担軽減」等を理由に、応能負担の強化を主張。経団連の委員はマイナンバーを活用した資産把握を提案し、健保連の委員は「原則2割負担、対象は上位30%まで拡大すべき」と共に強硬なかまえ。生命保険の積立金も勘案対象とするように言及したのは、商工会議所の委員である。

社会保障審議会介護保険部会(第130回)議事録p16より

2割負担の拡大をめぐる議論では、現場の実態に即した制度設計を求める慎重論と、財政的な持続性を重視する推進論とが鋭く対立している。この意見の相違は、単なる専門的な議論にとどまらず、政権与党と野党の政策姿勢を分かつ分水嶺ともなっている。だから政治的な判断が重要で、間近に迫る衆議院選挙では、各政党がこの問題にどう向き合うのか、その公約と姿勢を注視する必要がある。

そもそも、なぜ応能負担を強化するのか

介護保険制度における「応能負担」の強化は、政府が掲げる「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程③)」(2023年12月22日閣議決定)に明記されている。これは、少子高齢化が進む中で、すべての世代が公平に支え合う仕組みを再構築しようという考え方に基づくもので、子育て支援の充実、年金制度の持続可能性、医療・介護の効率化などが柱とされている。

この背景には、高齢者人口の増加と社会保障給付の膨張、出生率の低下と現役世代の減少。加えて、税収の伸び悩みと財政赤字の常態化がある。もはや国の税収や保険料収入だけでは制度を支えきれず、「どの世代に、どれだけの負担を求めるか」という“痛みの分配”が避けられない状況だという理屈である。2割負担を支持する側が強調する「社会保険給付の増大」「保険料の高騰」「現役世代の負担増」といった論点は、まさにこの構造的問題を背景にしている。

そして、応能負担を本格的に進めるには、所得だけでなく資産も含めた負担能力の把握が不可欠だとなり、その手段として「社会保障・税番号制度(マイナンバー)」の活用が提案されているわけである。2021年の法改正により、預貯金口座をマイナンバーに紐付けることは可能となったが、現時点では本人の申請と同意が前提だ。しかし、マイナンバーへの不信感は根強く、「資産調査や税や保険料の徴収強化に使われるのではないか」という懸念も消えていない。知人に話すと、口座なんて黙ってればいい、と言うが、虚偽の申告に罰則規定まで盛り込んでいる始末なのだ。

1号保険者の累進性強化に注目集まる

石田路子委員は、12月15日の保険部会で「1号保険者(65歳以上)の保険料における逆進性」について意見を述べた。すると、複数の委員が関心を示し、今後の審議会で議論する必要があるという意見が多く出た。内容は、現在の保険料徴収の仕組みは逆進性が強く、高所得層の保険料負担率は1%未満なのに対して、年収200万円台の中低所得層では約5%に達しており、明らかな「逆転現象」が生じているというものだ。東京都港区で試算すると、所得1億円超の人の保険料は年間約41万円だが、もし負担率5%を適用すれば490万円となり、その差額は450万円にもなる。改めて筆者の取材に応じた石田委員は、「“負担可能な者は応分の負担を行う”というのが国の社会保障に関する見解ならば、こうした状況について急ぎ議題に上げるべきである」と話した。

「みんなで支え合う」という全世代型社会保障の理念を考えれば、石田委員の指摘はより公平な負担のあり方を検討することに資する提案といえ、とても重要な意見だ。また、保険料の制度設計にとどまらず、所得税の不公平性や、法人税の減税、消費税の逆進性といった税制全体の再分配機能についても、より踏み込んだ議論が必要だ。制度の持続可能性を論じるあまり、「国の税収や保険料収入だけでは支えきれない」と断じてしまう前に、現行の財政構造や課税のあり方を丁寧に検証する姿勢が求められる。

厚労省への拭えない不信感

こうしてみてくると、厚労省が提示する資料や制度設計の進め方には、専門性だけでなく、倫理性にも疑問が残る。高齢者の生活実態を捨て置き、強引な負担増に血道をあげているよう映る。

2015年からの流れをみても、今後、和田委員が指摘した赤字世帯の再検討や、石田委員が指摘した保険料徴収の逆進性について、審議の俎上に載るのかどうか、不安がよぎる。われわれは審議のゆくえをウォッチしなければならない。しかし、介護保険部会の議事録は、12月1日以降、アップされていない(2026年1月27日現在)。

政治不信の時代だからこそ

今回、12月25日に開かれた審議会の最終とりまとめの場で、日本医師会の江澤和彦委員から衝撃的な発言があった。江澤委員は、大臣折衝の決定事項に触れ、「本部会で議論中の案件がすでに国の決定事項となっていることに対し、本部会のあり方の形骸化を危惧している」と述べたのである。

大臣折衝は、その前日の12月24日に行われ、2026年6月の臨時報酬改定で、介護報酬を2.03%、障害福祉サービス報酬を1.84%に引き上げる方針で合意。また、保険部会で審議されている施設入所者の食費基準費用額が1日あたり100円引き上げられ、8月からの施行が決まった。江澤委員の指摘は具体的には分からないが、審議中なのに国が決めたとあれば、保険部会の存在意義そのものが問われる。今後の審議への懸念が深まるばかりだ。

介護保険制度の問題だけでなく、私たちはいま、深刻な政治不信にも覆われている。国会が冒頭から解散されるなどありえないし、山積する介護保険制度の議論は、解散のあおりで停滞している。内閣が暴走する様は異様であり、暴走が審議会の意見や国民の声をなぎ倒していく。厚労省すら暴走に巻き込まれ、立法府と行政府の独立性が疑問視される。

われわれ市民は“おかしい”に気付きたい。それを隣の人に伝えていくことが変化への第一歩になる。

<参考>

厚生労働省社会保障審議会、介護保険部会

厚生労働省「国民参加の場

みやした・きょうこ 2000年の介護保険制度スタートからメディアで記事を執筆。介護福祉士として訪問介護の現場も経験する。2019年11月から始まった、訪問ヘルパーによる国賠裁判を追い、2025年11月に『ヘルパー裁判傍聴記』(ブリコラージュ刊)として出版した。ライフワークとして書き続けてきた『内野健児の詩と教育―明星学園の自由とともに』(新読書社刊)も、同年2月に刊行。

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