大雪予報の投開票日。首相自ら「無理をしないでください」と言い始める始末ですが、無理を押して解散総選挙をゴリ押ししたのは首相自身です。そしてメディアもその流れに棹を差した。今回の選挙の号砲を鳴らしたのは読売新聞のスクープでした。メディアは今、政治の監視役たり得ているでしょうか?琉球新報編集委員の南彰さんに寄稿をいただきました。
#ママ戦争止めてくるわ
2月8日投開票を前に、「#ママ戦争止めてくるわ」の投稿がSNSで広がっている。「#パパも止めてくるわ」など変形も現れ、著名人も輪に加わっている。衆院選で「大勝」が見えてきた自民党が本性をむき出しにしてきているからだ。
麻生太郎副総裁は「防衛費を上げただけでは防衛はできない。いざとなったら国民のために使う、という国民的合意がいる」と訴えた。麻生氏は2023年にも「戦う覚悟」を国民に求める発言をしている。今回の衆院選勝利で「国民的合意」に仕立てるつもりなのだろう。自民党の若手候補からも「国民の皆さんに汗を流して、場合によっては血を流していただかないといけない」(土田慎・前衆院議員)といった発言が飛び出している。そして、高市早苗首相は自身の言動で対中関係を悪化させながら、軍備増強、非核三原則の見直し、スパイ防止法制定などを進めるための「白紙委任状」を取り付けようとしている。
メディアの機能不全、首相を追い込めず
本来、メディアが機能していれば、高市首相は窮地に追い込まれてもおかしくない選挙だった。
一つは、旧統一教会(世界平和家庭連合)の内部文書である「TM文書」だ。安倍晋三元首相や高市政権幹部らと教団との面会ややりとりが次々と明らかになっている。文春やTBS系の「報道特集」、独立メディアのTansaが特集を組んでいるが、首相官邸や韓国に記者を置く大手報道機関の多くは沈黙した。まるで「出どころ不明の文書」という誤情報で打ち消す高市首相に歩調を合わせるようだ。
「消費税減税」を巡る発言も揺れた。1998年参院選の橋本龍太郎首相、2010年参院選の菅直人首相(いずれも当時)は、減税や消費税を巡る発言が揺れたことが響き、選挙で敗れた。しかし、高市首相が1月25〜26日に5回行われた党首討論のたびに説明を二転三転させても、その言動はほとんど問われず、「首相、2026年度消費減税実施」という首相にとって都合の良い部分が流れた。
極め付けは、2月1日に予定されていたNHK「日曜討論」のドタキャンだ。公示から投票日までに行われる唯一の党首討論会を欠席しながら、その日の午後には自民党候補の応援演説に出かけているのに、「怪我」という首相側の説明を流し、批判が鈍かった。
記者の質問を受ける回数が激減
文春が2日前から欠席を画策していた内幕を報じてから、「政府高官」なる匿名のクレジットで「官房長官の判断」と報道されているが、最終判断は首相自身だ。しかし、そのことを公式の場で問いただすことができていない。
高市政権になって、記者の質問を受ける回数がめっきり減っているからだ。読売新聞が1月9日夜に「首相、通常国会冒頭での解散検討」と報じてから、首相が公の場で正式な質疑に応じたのは10日後の記者会見だった。1月19日の記者会見でも、「国論を二分すること」に取り組むためと語る首相に、記者たちは具体的な「何か」を問わなかった。
そもそも、主権者を無視した強引な選挙は、メディアが既成事実化しなければ、実現しなかったのではないだろうか。読売新聞の「衆院解散検討」のスクープは「政治部」のムラ社会では大いに評価されるだろう。しかし、「政党や候補者の政策や論戦を見て、有権者がしっかり考えて選択する時間もない不公正なやり方だ」と有権者側に立ってきちんと批判・指摘していれば、見直される可能性があったのではないだろうか。首相が公の説明を避ける中、総務省が全国の自治体に通知を出して選挙準備を始めさせる拠り所は報道だ。スクープを取った記者の努力は否定しないが、解散権を濫用する権力者に報道機関が使われたことも厳然たる事実だ。

琉球新報の書棚には、先の大戦で朝日新聞の従軍記者だった先輩の講演録が残る。故・むのたけじさんだ。
「当時の記者は、必ずしもヘラヘラ軍部のお先棒を担いでいたわけじゃない。そういう記者もいたが、私の体験からすれば、10人のうち、時の権力におもねた者は2人だね。しかし、結局、今思えば惰性に流された。(中略)抵抗しながらも権力の側になびき、その道具にされているか丸見えだ」
まさに約80年前の記者の姿と、今の政治記者の姿は重なりあっていないだろうか。むのさんは「それを続けていったら、必ず同じ不幸はまた繰り返される」と予言していた。
今回の衆院選では、全国紙の中では、日本経済新聞が経済界の危機感を背景に、高市政権の「積極財政」の危うさを伝え続けた。しかし、本来、憲法や平和の問題に知見を持つ記者を抱える大手報道機関の動きが鈍かった。冒頭の市民のSNSでの動きは、その裏返しだ。
衆院選の結果を受けて、政党は再び流動化するだろう。同時に、今回の衆院選で役割を果たせなかった報道機関離れも進み、日本メディアも本格的な再編に突入するだろう。
2014年12月に当時の安倍首相が消費税増税見送りを掲げて衆院を解散し、自民党が大勝した時も、「最後の歯止めになる」と訴えて勝ち上がった野党議員が、2015年の安保国会で大きな役割を担った。戦争につながる危ういものを見抜き、止める行動力と信念を持った政治家を1人でも国会に送り込むことが大切だ。メディアの側も、沖縄など軍事要塞化が進む地域の報道機関・記者たちがつながり、再び戦争を起こさない報道のあり方を作っていきたい。
「2月8日」の投開票日は、その長い闘いの始まりとなる。
みなみ・あきら 琉球新報編集委員、元新聞労連委員長。著書に『絶望からの新聞論』『黙殺される教師の「性暴力」』『報道事変』『政治部不信』など。

