殺傷能力がある武器輸出の解禁や、「国家情報会議」「国家情報局」設置法案の国会審議、改憲への積極的姿勢など、平和国家から転換し、国民の管理を強化するような高市早苗首相の姿勢に、市民の不安が募っている。そうした政治への批判の意味を込めた市民運動「一億総消費ボイコット」が、5月10日の母の日に行われた。この運動をSNSで呼びかけた砂城さんは、「同じ思いの人が多いと気づかされた」と語る。
ボイコットは5月10日の午前0時から、24時間行われた。大手企業を中心に構成された経団連(日本経済団体連合会)に加盟するイオンやセブン-イレブンなど流通大手での消費を控える内容で、都内の自営業女性である砂城さんが、Xで呼びかけた。
企画したきっかけは、4月22日の夕方、仕事を終えた砂城さんが「国家情報局」創設法案の衆議院内閣委員会可決のニュースを知ったことだったという。「前日の21日には、殺傷能力がある武器の輸出解禁が閣議決定され、暗澹たる気持ちでいた。それにたたみかけるような発表だった。国民があまりに為政者に軽んじられ、馬鹿にされていると強く怒りを感じた」
「国家情報局」は、海外でも危険視されるソフトウェア企業との提携で、国民がその監視対象にされる可能性がささやかれる。砂城さんは「このままでは多様な価値観の人々の自由な批判や対話の場、権利が奪われかねない」と危機感を感じた。
また、殺傷能力のある武器の輸出を認めることは、「平和主義という国際的信頼を目先の利益のため現金化し、切り売りする行為」に思えたという。
「何とかしなければ」。そう考えるうちに、砂城さんの頭のすみに前々からあった消費のボイコットが浮かんだ。「日本では政治的な行動へのハードルが高く、多忙な日々を送る人はデモへの参加は容易ではない。何かを『する』のでなく『しない』方が参加しやすいのでは、と考えた」と明かす。
高市政権に行き場の無い怒り・不安・苛立ちを抱えた人達へ
怒りのエネルギーを込めて帰宅途中の電車内でスマホで投稿文を書き、同日夜9時過ぎにXに投稿した。
〈心底、頭にきた。
高市政権に行き場の無い怒り・不安・苛立ちを抱えた人達へ。
お願いします。力を貸してほしい。〉

対象は、巨大資本である経団連の加盟企業に絞った。経団連は、2025年7月に殺傷能力のある武器の輸出解禁を強く求める提言をするなど、ロビー活動を行ってきた上、自民党を政治献金で支え、法人税減税などの税制の優遇を受けてきたからだ。
ボイコットの規模次第では、当日働く人たちに負担をかける可能性もあり、その点は「心苦しく感じた」という。だが、「今の政治・経済状況を放置すれば、その現場自体も維持できなくなりかねない。長期的な破綻を防ぐため今、この瞬間の意思表示が大事と思った」
最短で経済的影響力の強い日を考え、日程は「母の日」に決めた。念頭には、2月の衆院選で平和を求める市民らがSNSで投票を呼びかけた際に使ったハッシュタグ「#ママ戦争止めてくるわ」があった。
「あのとき、多くの人が抱いた『子どもたちを戦争に巻き込みたくない』という普遍的な思いを、象徴的に表現できる日でもある」。ボイコットは、その地続きの運動だという気持ちだったという。
反響は大きかった。「参加します」「一緒に世の中を動かそう」「これなら参加できる」という賛同の賛同のコメントが次々に集まった。1975年にアイスランドで起きた「女性の日」のようだ、との声も多く寄せられた。
5月13日現在、同投稿への「いいね」の数は4万2千を超え、表示回数は241万回にも上っている。
ボイコット参加を報告する投稿相次ぐ
母の日の当日は、ボイコットへの参加を報告する投稿がXで相次いだ。砂城さんは、「このような大きな流れになるとは想像していなかった」と振り返る。
当初は「孤独な闘い」も覚悟していたが、いざ声を上げると多くの人が賛同してくれた。「高市政権の強引で独裁的な政治のあり方に、同じ危機感と無力感を抱えていた人が多かったことに気づかされた」
参加者の反応から、一日限りのボイコットであっても、それ以降の行動の変容につながるという「確かな手応え」も実感できた。
「地域の良いお店を発見できたので、今度からそちらに行く」「何気ない消費について立ち止まるきっかけになった」などと、自らの消費行動を見直すような感想が多く見られた。また、「無理せず自分事として参加できた」「戦争に突き進む日本に無力感があったが、自分にもできることがあると希望が持てた」といった、行動することを身近に感じるような声もあった。
「報われた。賛同してくれた人の次の一歩につながればうれしい」と、砂城さんは喜ぶ。
投稿への返信を通して、「母の日」は米国で南北戦争時代に、「女性たちが平和のために行動する日」として始まったことも知った。今回のボイコットとの共通点に、「図らずして、およそ100年後に本来の『母の日』に原点回帰するという奇跡が重なった」と感慨深かったという。
高市政権が退陣するまでイコットを呼びかけたい
これまで、砂城さんは自ら政治的な行動を広く呼びかけたことがなかったという。初めての挑戦となった今回、「市民側の労力を最小にしつつ、長期的な効果も期待できる手法として『一日ボイコット』という概念を生むことに成功した」と感じている。
賛同者からは、政治的主張に対するハードル自体が「下がったと感じた」という声も寄せられた。「声を上げる人が増え、その手段が増えた。インパクトは確実にあった」と力を込める。売り上げの数字がどうなったかは分からないが、経団連加盟企業の今後の反応も注視しているという。
仕事をしていても、娯楽をしていても、常に日本の今後への不安を感じているという毎日を、砂城さんは送っている。今回のボイコットの反響や、各地でデモに参加する人が増えている現状についても腑に落ちる部分がある。
「今急激に声を上げる人が増えているのは、こういった危機感にかられて行動している人が、私を含めて多いからでは」
今後も、「少なくとも高市政権が退陣するまでは、タイミングを見つつボイコットを呼びかけたい」という。仕事用のかばんにプラカードを入れ、スタンディングにも積極的に参加するつもりだ。
ハーバード大学の政治学者、エリカ・チェノウェスさんは、人口の3.5%が非暴力的な市民運動で一貫して立ち上がれば、社会変革は必ず成功するという「3.5%ルール」を提唱している。砂城さんは意を強くしている。「3.5%ルールが発動するその日まで、一市民として行動あるのみ」

