日本は原子力潜水艦を持つべきではない——核兵器廃絶や脱原発に取り組む15団体115人が7月14日、共同声明を出しました。日本維新の会が6月24日に発表した提言【「危機の30年」時代の国家安全保障戦略】で、非核三原則の見直し、核共有の検討と並んで、原子力潜水艦保有を強く打ち出したことに対応するものです。自由民主党も同日発表した「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」で、「VLS(ミサイル垂直発射装置)搭載潜水艦に次世代の動力の活用を」と打ち出しています。
声明は原子力潜水艦が不要な理由として3点を挙げました。
1.必要性への疑問と専守防衛の逸脱
2.運用上の課題と現実的な障壁
3.NPT(核兵器不拡散条約)の「抜け穴」と不透明な特例
原子力資料情報室の松久保肇事務局長がそれぞれについて解説しました。
- 最近の原潜保有論の多くは広範な海域での展開を前提としています。日本維新の会が提言するような「西太平洋全域を守るための潜水艦」ととらえれば、日本の国是である「専守防衛」の枠を大きく超える。また日本は「非核兵器国」であり、戦略原潜が想定する「核の第二撃(残存する核兵器による反撃)」を運用する主体とはなり得ない。
- 原子力潜水艦は1隻あたり約1兆円とも言われる巨大な建造コストがかかる。限られた防衛予算を著しく圧迫し、費用対効果が疑わしい。専用の母港の確保、長期潜航に耐えうる乗員体制の構築が困難。放射能関連の事故リスクなど、原子力特有の安全性の問題が山積している。開発に長期間を要する。経産省の革新炉ワーキンググループロードマップでは動力となる小型軽水炉の概念・詳細設計に15年程度かかる。その間に蓄電池技術が進歩し、実用化時には原潜の優位性が失われている可能性がある。
- NPTの包括的保障措置協定14条は「核物質が軍事的性格を持つ活動に使用されている期間中はIAEA(国際原子力機関)の査察が免除される」と規定している。このため、原子力潜水艦での核物質利用がNPTの抜け穴になる懸念がある。これまでは核兵器保有国と原子力潜水艦の保有国が一致していたが、近年、オーストラリアや韓国、ブラジルなどの非核兵器国が原潜保有に動いており、NPT体制に深刻な緊張をもたらしている。日本がこれに加われば、NPT体制の弱体化を強く後押しすることになる。
呼びかけ団体の一つ「ピースボート」の渡辺里香さんは「ピースボートは平和と多様性、核廃絶を求めて来た。国際交流をするために最初に寄港するところはアジア諸国。日本が行った先の大戦における愚行を認め、共通の理解としなければ、核廃絶を強く求められない」と話しました。ピースボートには被爆者が乗船し、世界を回っています。

「動力に原子力を使った軍艦は平和利用とは言えない。原子力基本法を変更する必要が出てくる。政府もそう認識している。原子力基本法をもし変えるとなれば、世界がどのように日本を認識するか。日本は核武装をするのではないか、核兵器を持つのではないかと世界の国々から見られることになる。核兵器の被害者とともに世界で訴えてきた私たちにとっては大きな変化となる。ヒロシマ、ナガサキの被害者、グローバル被爆者の声を世界に届けてきた。それは平和国家日本だからできた。核武装、核共有をする日本ではその力は大きく損なわれる」
NGO団体「核兵器をなくす日本キャンペーン」の浅野英男さんは、オーストラリア、アメリカ、イギリスによる原潜の安全保障枠組み「AUCUS」がIAEAと議論を進めているとし、「非核保有国が原潜を持つとなれば、極めて複雑な査察が必要となる。そのための追加での人員や予算がかかってくる。日本が原潜の所有に進んでいくことはIAEAにさらなる負担を押しつけ、NPT体制の強化とは真逆の方向に進んでしまう」と懸念を表明しました。

また、原潜を持つことは原子力の軍事利用となり、原子力基本法の改定が必要になります。
「基本法から原子力の利用は平和目的に限るという文言がなくなれば、核武装への道が開かれかねない。国土が狭い日本では核兵器を置くなら原潜に配備するのがいいという見解が根強い。原潜を持てば、そこに核を積むという話が出てくるだろう」
浅野さんは核共有の文脈でも問題があるとしました。
日本維新の会の提言では「NATO 型の核共有とは異なり、海洋国家である我が国にとり、海上戦⼒を基盤とした⽇本型の核抑⽌協⼒について、中⻑期的な研究を⾏うべきである」としています。
「核兵器の運搬に海上戦力、すなわち原潜を使おうとしているのではないか。そういう方向に進むのではなく、NPT体制を強化して、軍縮、対話、外交を手段とする安全保障を求めたい」(浅野さん)
原潜の母港として有力視されている神奈川県横須賀市からは「非核市民宣言運動・ヨコスカ」の新倉裕史さんが記者会見に参加しました。

横須賀市の市民団体「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」が5月31日に発行したパンフレット『自衛隊の「原潜」保有は止められる』(*1)を基に話を進めました。
「原発のない横須賀に放射線濃度を計測するモニタリングポストが18基もある。米海軍の原子力艦船が横須賀基地に停泊しているからだ。停泊中は、海上保安庁の巡視艇が毎日海水を採取し、放射線濃度を測定している。1960年代に寄港前に日米が事前協議をし、日本の港では原潜は修理しない、放射性廃棄物は出さないと取り決めている。60年経った今も、原子力艦船が寄港するたびに測量体制が駆動する。危険だという認識が大前提であるからだ」
パンフレットには原子力艦船の放射能事故のリストが掲載されています。2000年以降に限っても14件にのぼっています。

横須賀市を地盤とする小泉進次郎防衛相は「月刊Hanada」2026年6月号の対談記事で「原子力潜水艦という選択肢を排除せず、議論しなければならないと言い続けています。その大きな理由が隊員の命を守ること。隊員の安全性を考えると原子力潜水艦は通常動力型と比べて動きが速い。つまり、敵の攻撃を回避しやすいのです」と語っています。
新倉さんは1963年から7年間にのべ70万人が原潜寄港反対集会やデモを行い、基地で働く人々もストライキをしたと紹介。
新倉さんは「基地で働く人々は、自らの命にかかわる問題として原潜問題を考え、そして行動した。小泉防衛相には横須賀のこうした歴史もぜひ知ってほしい。事故は起きている。原潜を持てば日本の原子力政策も大きく変わってしまう。なんとしてでも止めたい」と述べました。その上で、米軍の原子力空母母港化に対して住民投票を求めた運動に匹敵する運動を、今後展開していく必要があるとの認識を示しました。
*1……パンフレット『自衛隊の「原潜」保有は止められる』は1部200円。問い合わせは横須賀市民法律事務所内「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」(TEL:046・827・2713、FAX:046・827・2731、メールはjtsk@ymail.ne.jp)

