被害者に「心苦しい」と思わせる日米地位協定 賠償額の3%にすぎない人も 神奈川県逗子市の米兵による連続傷害事件で米側が「見舞金」を入金

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被害に遭った人が「申し訳ない」と思わされる仕組みは絶対におかしい。

 神奈川県逗子市で2022年7月に起きた、米海軍横須賀基地所属の米兵による無差別連続暴行事件から4年。被害者らに米国政府が支払う見舞金の金額が確定・入金されたことを受けて、代理人弁護士と被害者の1人が8月20日、記者会見を開きました。米側の見舞金は民事訴訟で支払いを命じられた損害賠償金総額の51.37%。残りは日本政府が、税金から支払うことになります。重い被害を受けた女性は会見で「申し訳ないような思い」と話しました。

事件の概要 米海軍横須賀基地所属のクリーガー・ダニエル被告は2022年7月9日午後8時30分ごろ、逗子市の路上で歩行中のA(男性、当時33歳)に対し、後方から背部に体当たりして転倒させ、臀部を数回足蹴りにした。その後、B(男性、同33歳)に対し、正面から体当たりをして、その後ろにいたC(女性、同25歳)に衝突させて2人を転倒させ、尻餅をついて上体を起こしていたBの顔面を蹴り上げた。その1分後、約60m離れた場所を歩いていたD(女性、同58歳)の左側に、被告の右半身を衝突させて、転倒させ、顔面を路面に打ち付けて大けがを負わせた。

米側の見舞金は賠償額の約半分

 この事件をめぐっては、刑事訴訟では横浜地裁横須賀支部が2024年9月、米兵クリーガー・ダニエル被告に対し、傷害罪で懲役2年4カ月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。その後、被害者4人が損害賠償を求めた民事訴訟で横浜地裁判決は2025年4月、米兵に総額約1650万円の支払いを命じ、確定しました。しかし、この時点ですでに米兵が帰国していたことから、日米地位協定に基づき、米国が賠償額の一部を「見舞金」として支払うことになりました。その後、およそ1年2カ月の日米協議を経て、2026年8月12日に米側の見舞金が被害者側に入金され、被害者代理人は差額の約801万円を日米両政府の「沖縄に関する特別合同委員会(SACO)」の見舞金として支払うよう南関東防衛局に申請書を提出しました。

SACO見舞金は日米地位協定で定められています。日本に駐留中の米兵が犯した不法行為で生じた損害の補償について、日米地位協定18条は、①公務中であれば日本政府が補償する、②公務外であれば示談、もしくは民事訴訟などにより日本政府が補償額を決定して米軍に報告し、米国が支払うかどうかを決める、と定めています。米国による補償が不十分で救済されないケースが相次いだことから、1995年、SACOの最終報告に、SACO見舞金の創設が盛り込まれました。日本で確定した賠償額と米国が支払う見舞金の差額を、日本政府が負担するというものです。

軽傷の2人の見舞金割合はわずか3%

今回、判決額と米側の見舞い金額を比べると、重傷だったAさん、Bさんで50%を超えたものの、軽傷のCさん、Dさんは判決額の3%超に過ぎません。

損害賠償の判決認容額と米側見舞金額の対照表(中村晋輔弁護士の資料から)

代理人弁護士は7月15日に南関東防衛局に質問書を出し、「被害者2名について、米側見舞金が極めて低額になった理由、事情をご教示いただきたい」と要請しましたが、2日後の電話回答は「米国政府が支払う慰謝料の額は、米国政府が自らの判断で決定するものであり、その算定基準等について日本側はお答えすることができない」というものでした。

被害者側の代理人を務める中村晋輔弁護士は「米国側は賠償金を支払う法的義務はないというスタンスが強い。日本の司法判断を軽視しているといわざるを得ない」と批判しました。呉東正彦弁護士も「見舞金を受け取られたことは大きな成果だが、判決後も資料を揃えて提出するのは被害を受けた側で、交渉にも1年以上かかっている。判決が出ている以上、まず日本政府が被害者に支払ってから、日米交渉をして見舞金を取るという順序の方がいいのではないか」と話しました。

被害者代理人の呉東正彦弁護士(左)と中村晋輔弁護士=横浜市中区

みなさんの納税が使われること、申し訳ない

加害者に突き飛ばされて右半身を地面に強く打ち付け、鼻、顎など7カ所の骨折を負った女性(62)が会見に臨みました。今もまだ、右手のしびれや首の後ろの痛みなどの後遺症が残っているといいます。「痛みもですが、普段の生活の中で、突然恐怖心が襲ってくる。また何か事件に巻き込まれるのではと警戒心もある。区切りがついたとは思うが、お金をもらったからといって元の生活に戻れるわけではありません」

女性に対する賠償額約974万円に対し、米側の見舞い金は約508万円。米側の見舞金割合は52.14%にすぎません。この点について女性は「みなさんの納税をこういうことに使われるのは心苦しい。なぜ米兵なり米国が全額支払わないのか。制度を改善してもらわないと納得できません。申し訳ない気持ちでいっぱいです」と話しました。

横須賀をはじめ米軍基地の周辺では米兵による傷害事件や交通事故などがあっても、基地の中までは捜査が及ばない状況があります。また有罪判決が出ても、被害の弁済をしないまま本国に帰国してしまうことも少なくありません。女性は「米兵の被害に遭い、泣き寝入りしている人は多いと思う。今後は被害者の力になれるようなことをしていきたい」と話しました。

「米兵による犯罪で、泣き寝入りしている被害者の力になりたい」と話す女性=横浜市中区