刑法の性暴力に関する規定が改正され、「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」に改められてから3年。改正に取り組む10団体で作る「刑法改正市民プロジェクト」が8月20日、平口洋法相と面会し、改正法の趣旨の徹底と積極的な運用、見直しに向けたワーキンググループの設置などを要望しました。
面談は冒頭の写真撮影をのぞき、非公開。面談後の記者会見で一般社団法人Springの早乙女祥子さんは要望に対する法相からの反応を報告しました。
改正刑法の普及・啓発については「こういう活動、ご意見をいただいて感謝している。改正刑法の趣旨が国民全体にも検察官にも周知が足りていない。検察官への教育も含めてがんばりたい」。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの地域間格差、予算拡充については「法テラスの情報提供業務を通じて実態を伝えていきたい。所管である内閣府とも連携したい」。
次回の刑法見直しまでのワーキンググループの設置については「いましばし様子をみたい」。
男性も被害に遭うことが多い性的な写真や書き込みを使った脅迫「セクストーション」については「研究したい」。
ワンストップ支援センターの予算拡充も
今回、市民団体は法相に4種類の要望書を提出しました。
①刑法改正市民プロジェクト「刑法性犯罪規定施行3年にあたっての要請」
②一般社団法人Spring「『同意誤信』による性暴力をなくすために全ての検察官と裁判官及び組織のトップが『性的同意』について認識を深めることを求めます」
③一般社団法人Spring「改正刑法運用の改善及び運用状況の実態調査ワーキンググループ設立に向けた要望書」
④一般社団法人Spring「『性的な被害を申告することの困難さ』の調査実施実現に向けた要望書」
NPO法人スクール・セクシュアル・ハラスメント防止関東ネットワークの徳永恭子さんは①の内容を6項目に分けて説明しました。
①改正刑法の積極的な運用を 認知件数は増えたが、起訴率が上がっていない。不起訴理由の検証が不十分。
②改正内容の普及・啓発を 周知徹底がされてない。とりわけ学校での性教育の不足もあり、学校教育、教職員への周知不十分だ。性的同意とは何かについての学校での教育が必要だ。
③性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの予算拡充を 男性や子どもの被害のニーズに応える予算、人的リソースが不十分。都道府県によって対応に違いがあり、支援の格差が出ている。
④自治体との連携や情報共有を 2023年、政府は米軍による性暴力を、沖縄県に共有しなかった。改正法の趣旨の実現には国と自治体の情報共有が不可欠。被害者のプライバシーに配慮しつつ、速やかに情報共有を。
⑤公訴時効のさらなる見直しについて検討を 今改正で公訴時効が延長されたことによって、被害者が被害申告でき、捜査につながった件数がどれだけあるのか明らかにしてほしい。調査研究を進め、公訴時効の撤廃を含めた更なる見直しを検討してほしい。
⑥インターネット上のデジタル性暴力への対策を 改正刑法では、性的姿態等撮影罪や16歳未満の子どもに対する面会要求などの罪が新設された一方、テクノロジーを用いた性暴力、ディープフェイク、セクストーション、なりすまし、タグによる追跡など新しい手口を含めた被害が、国外にまで広がっている。相談窓口の設置やプラットフォーム事業者への指導など対策をとってもらいたい。

前回改正時に照らすと、WG設置は4カ月遅延
Springの早乙女さんは③について「改正刑法施行後3年を経て、運用面での課題が多く指摘されており、さらなる見直しのための運用実態の検証が強く求められている。前回改正時のスケジュールに照らすと、実態調査ワーキンググループの設置はすでに約4カ月遅れている」と指摘。最優先課題として、「処罰範囲の明確化の周知徹底のための冊子作成、全国配布、実態調査」「検察・裁判官への研修の強化」の2点を挙げました。
またワーキンググループの調査項目として、「同意が形成・表明できない8原因事由に基づく捜査及び司法手続きの分析」「同意誤信による無罪判決の状況分析」「複数加害者による性犯罪処罰状況の調査」「欺罔(だまして同意を得た)による性暴力事案への対処」「公訴時効延長措置の効果検証」「性的な被害を申告することの困難さの調査」「公訴時効超過後の民事裁判状況」「日本版『レイプシールド法』」の8点を列挙しました。

公訴時効延長でも救われないケースも
このうち「性的な被害を申告することの困難さ」の調査実施については④で詳しく書いています。2023年の刑法改正では、公訴時効がそれぞれ5年延長され、「不同意性交致傷、不同意わいせつ致傷」が20年、「不同意性交等、監護者性交等」が15年、「不同意わいせつ、監護者わいせつ」が12年となりました。また被害者が18歳未満の場合は18歳になるまでの期間が加算されることになりました。しかし、性被害は申告が困難で、幼少期の被害は自覚されないことがあり、また成人後も精神的外傷により記憶を封印、喪失してしまうという理由から訴え出るまでに20年以上を要するケースがままあります。このため、改正刑法は付則20条台第2項で申告の困難さについて必要な調査を行うと明記しました。
要望書では特に以下の2点についての調査を求めています。
- 加害者も証拠もはっきりしているにもかかわらず公訴期間が過ぎて起訴できない事案の実態
- 長期間被害の申告が困難であった事案の背景(被害後の状態、二次的被害、社会の中の誤った認識の内在化など)
「同意誤信」で無罪判決 改正法の趣旨を十分に実現せず
刑法改正以降も、加害者が「被害者に同意があったと思っていた」と供述し、無罪となるケースが相次いでいます。
寺町東子弁護士は「刑法176条で、同意の意思を形成、表明、全うできないケースを8類型で明確化した。しかし、状況認識より、被告人が被害者の同意がないと認識していたかどうかの主観面に判断の基準を置いた判決が見受けられる」と解説しました。

刑法改正に関する国会審議では、行為者の故意の認定について「被害者がそういう状況に陥ったと基礎付ける事実を認識していれば足りる」「加害者に(被害者の同意がないという)認識がなかったというだけでは認められない」としています。
寺町弁護士は「改正法の趣旨が実務において十分に実現されていないという懸念がある。故意は必要なのだが、故意の認定、立証のあり方について、性的同意の認識の広がりや、被害者側の事情がどこまでちゃんと反映されているかに疑問を持っている」と話しました。
