検証:優生思想に基づく医の倫理と人権侵害 第1回 東京裁判で問われなかった戦争犯罪とその理由~宇田川幸大教授に聞く

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第二次大戦後の戦争犯罪はどのような扱いになったの?

韓国独立報道ネットワーク(KINN)とのプロジェクト<問われなかった戦争犯罪>は、「検証:日本軍性奴隷制」「検証:優生思想に基づく医の倫理と人権侵害」という2本の柱を立て、当時の実態や背景を公文書、専門家の研究、市民の調査や記録、現地取材に基づいて多方面から検証する。

第二次世界大戦の終結後、枢軸国側の日本やドイツに対して、連合国側によって戦争犯罪を問う大規模な裁判が行われた。まずは1945年にドイツ国[友山1]内で、史上初の大規模な戦争犯罪裁判として、ナチ・ドイツによる戦争犯罪を裁く「ニュルンベルク国際軍事裁判(ニュルンベルグ裁判)」が行われた。その後、1946年5月3日から約2年半、423回の審理をかけて「極東国際軍事裁判(以下東京裁判)」が行われた。東京裁判では人権侵害である戦時性暴力がほとんど裁かれず、人体実験の事案についても731部隊が裁かれずに終わった。
一方、ドイツでも戦時中、ナチによる収容所内での人体実験、戦時性暴力[友山2]などが確認されており、人体実験については、連合国側によって裁かれている。
「東京裁判研究ー何が裁かれ、何が遺されたのか」(岩波書店)の著者で、中央大学の宇田川幸大教授(日本現代史)に、東京裁判で戦時性暴力が軽視され、731部隊も追及されなかった理由と、そのことによる社会的影響についてインタビューした。

取材に応じる宇田川幸大中央大教授。2026年8月21日、オンラインで

ーー東京裁判では、戦時性暴力がきちんと追及されず、人体実験を行った731部隊も連合国側の追及対象とならなかったが、この二つの罪が訴追対象とならなかった経緯や理由はどのように考えるか?

宇田川 まず日本軍の慰安所や戦地における性暴力などの実態を伴う戦時性暴力については、東京裁判で用いられた「通例の戦争犯罪」に該当するものだ。

東京裁判が行われた当時、世界的にジェンダーや性暴力について認識が著しく低かった。そのため性暴力について、個別に言及した証拠は圧倒的に少ない状況にあった。

東京裁判では、戦地における住民虐殺などの証拠の中で、付随的に性暴力が言及されるケースはあったが、これも全体の件数から見ると圧倒的に少ない。東京裁判で最も多く追及された戦争犯罪は欧米諸国出身の捕虜への虐待だ。

東京裁判
1946年5月3日から1948年11月12日にかけて、東京・市ヶ谷の旧陸軍士官学校で開廷された。連合国側の11カ国から判事が派遣され、日本の戦争指導者28人が起訴された。裁判の目的は、戦争を計画し指揮した指導者に対する個人責任を追及することにあった。同裁判で受理された証拠は3915件、出廷証人は419人にも上った。①A級犯罪(平和に対する罪):侵略戦争を計画・遂行した責任など②B級犯罪(通例の戦争犯罪):捕虜虐待などを中心に追及した。

ーー証拠件数が少なく、追及が不充分だった原因をどのように考えるか?

宇田川 東京裁判が連合国側の中でも欧米諸国主導で開催し、展開されたものだからだと考える。裁判の進め方として、①欧米諸国の捕虜への虐待②欧米諸国の民間人の被害③アジア民衆の被害④論点にすらならない植民地支配ーーという、厳然とした序列に基づいて審理が開催されていたと言っていい。アジア地域の人々の被害は言い訳程度に扱われたというのが実態だった。

そもそも、東京裁判や当時の国際法が「女性に対する性暴力を裁く」という意識に欠けていたという事情がある。

「ハーグ陸戦条約」(1907年)についても性暴力に特化した条項はなかった。性暴力は住民虐殺や虐待の一種、あるいは、これ自体非常に大きな問題だが、「家の名誉」を汚す行為として認識されていたと考えられる。

また、東京裁判の裁判官と検察官が、いずれも男性が中心で、性暴力に対する問題性の認識が低かったことが上げられる。

ーー731部隊の人体実験についても取り扱われなかった理由をどう見ているか?

宇田川 松村高夫氏(慶応大名誉教授)や神奈川大名誉教授だった常石敬一氏(故人)の研究によって、指摘されてきた通りだと考えている。その研究によると、日本軍の秘密部隊、関東軍防疫給水部(731部隊)が所持していた人体実験のデータと引き換えに、東京裁判における部隊関係者の免責が進められた、という理解だ。米国が731部隊の情報を独占したかった、という政治的意図が働いた結果だとされている。

ーー戦争を起こす、戦争が起きると東京裁判のような裁判は常に開かれるものなのか?

宇田川 最初の大規模な国際軍事裁判は、ドイツのニュルンベルク裁判だ。先駆けて、戦争の指導者を追及すべきだとする考え方と、戦争を違法とする考え方が第一次世界大戦後から生まれていた。当初、第一次世界大戦後にドイツの皇帝を裁く計画があったが、皇帝がオランダに亡命して裁けなかった。1928年8月にパリで、「戦争抛棄に関する条約」(不戦条約)が採択された。従前から裁判をやるべきだとして、世界的に議論されていて、実際に第二次世界大戦後に実施されたものだ。

ニュルンベルク裁判
通常の戦争犯罪のみならず、「平和に対する罪」や「人道に対する罪」という新しい概念で戦争犯罪人を裁いた初めての裁判。1945年[友山4]8月の国際軍事裁判所憲章で、「戦争犯罪」ともに平和や人道に対する二つの罪も条文化し、第二次世界大戦のドイツについて、四つの訴因で戦争犯罪人を訴追した。主要犯罪人24人を扱うとともに、医師やナチスの親衛隊員(SS)、高級官僚ら185人を扱った12の継続裁判で構成。東京裁判のモデルとなったとされる。

ーー東京裁判で戦時性暴力が軽視されたり、731部隊が追及されなかったりしたことで、その後の社会にどのような影響があったと思うか?

宇田川 東京裁判で裁かれなかった罪が可視化されていれば、政治や社会で、その記憶が残っていたと思うが、そうはならなかった。一方、欧米諸国の捕虜の虐待については、追及が徹底され、日本の政治家や外交官にも捕虜虐待が問題だったという認識が一部ではあれ根付いたと考えられる。
逆に裁判で追及されなかったことは、政治や社会の中で認識されずに来てしまった。

戦時性暴力については、性暴力を防ぐためのルール作りが遅れてしまった。「慰安婦」制度については、責任がどこにあるかを追及すれば、国際法上の重要な判例を示せたはずだが、その機会を失ってしまった。
女性に対する性暴力の禁止が国際法上、明文化して追及されるようになったのが、ようやく1990年代に入ってから(ローマ規程など)。ローマ規程では、人道に対する罪の一つとして、強姦、性的な奴隷、強制売春、強いられた妊娠の継続、強制断種、その他あらゆる形態の性的暴力を規定している。第二世界大戦が終わってから半世紀かかってようやく規定された。東京裁判に限らず、ニュルンベルク裁判でも裁かれず、世界的に負の影響を及ぼした。

ーー仮に東京裁判で、731部隊について扱うとなると、どのようなやり方が想定されたのだろうか。問われなかったことの影響をどう見るか?

宇田川 731部隊のことを扱うとなると、「通例の戦争犯罪」(B級犯罪)として、ハーグ陸戦条約、ジュネーブ条約違反として扱われたと考えられる。裁判でこの戦争犯罪が正面から問われなかったことで、「戦争と医学」の問題がみえなくされた。裁判後も医の倫理が問われる問題が引き起こされた。その一つが設立時から731部隊出身者が携わった「ミドリ十字」(1950年日本ブラッドバンクとして設立)における薬害エイズ事件だ。戦後の医学界に負の遺産を遺した。

薬害エイズ事件
日本国内で、1980年代にウイルスが不活性化していない血液凝固因子製剤(非加熱血液製剤)を使用したことで、多くの血友病患者がHIVに感染した事件。非加熱製剤の危険性を認識しながら、流通させたとして、ミドリ十字社の経営幹部は起訴され有罪判決を受けた。

ーー現在までに東京裁判の研究は、どのくらい進んでいるのか?

宇田川 1970年以降、米国が資料公開を行って、研究が進み、連合国側がどのような発想・方針をもとに戦犯裁判を開催しようとしていたか解明されてきた。国際軍事裁判開催を前提に戦争犯罪を調査した「連合国戦争犯罪委員会」での議論の内容や米国側の戦争犯罪政策なども明らかになっている。被告人の選定過程、水面下でなされた日米間における天皇や戦争犯罪の免責、裁判の終結過程が分かっている。米国が公開した裁判資料の中で、特に検察側資料をふんだんに使って検証したことで、米国が裁判を主導し、政治的に利用した側面があったこと、日本の「穏健派」が連合国側に積極的に協力し、陸軍を中心とする軍部に戦争責任を押しつけ、戦後の支配体制を確立したという「日米合作」の側面などが明るみになった。

一方で、審理過程や弁護側の検討は最近ようやく進むようになった。新たに公開された弁護側の資料も踏まえて、裁判審理を総合的に研究し、問題点や特徴を明らかにすることが今後も必要だ。

プロフィール
宇田川幸大(うだがわ こうた)
中央大学商学部教授。日本現代史専攻。歴史学の見地から、膨大な裁判の資料を読み解き、審理の特徴や問題点や、戦後の世界や日本にいかなる「未解決の課題」を遺したかを分析するなど、東京裁判の全体像を探る研究を進めてきた。史学史や日本の歴史認識などについても研究を進めている。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学・一橋大学)。主要な著書に『歴史的に考えること』(岩波ジュニア新書、2025年)、『私たちと戦後責任』(岩波ブックレット、2023年)、『東京裁判研究』(岩波書店、2022年)など。

[次回に続く]

*韓国独立報道ネットワーク(KINN)とは、ニュース打破共に財団と韓国探査ジャーナリズムセンターが連帯協働するネットワークです。
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*なお、9月末をもって生活ニュースコモンズの解散となるため、本記事および後続の記事は、ニュース結に掲載されます。ニュース結のURLが出来次第、お知らせします。

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