東京・歌舞伎町で10代の女性を支える活動を行っている一般社団法人Colaboと代表の仁藤夢乃さんが、ブログや動画サイトで虚偽の事実を流布されて、名誉を毀損されたとして、「暇空茜」を名乗る40代男性に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(西村康一郎裁判長)は18日、男性に合計220万円(仁藤さんに55万円、Colaboに165万円)の支払いを命じる判決を言い渡しました。男性は「ひまそらあかね」名で、7月7日に行われた東京都知事選に立候補し、11万票を獲得しています。
判決によると、男性は2022年9月〜10月、ブログサイトnoteと動画サイトYouTubeで「Colaboが10代の少女を3人部屋(タコ部屋)に住まわせて、生活保護を受給させ、毎月1人6万5000円ずつ徴収している」などと投稿し、多数の「いいね」を獲得し、動画は2本合わせて約20万回再生されました。
「真実であると認めるに足りる的確な証拠はない」
判決は男性の投稿が「真実であると認めるに足りる的確な証拠はない」とし、Colabo及び仁藤さんへの名誉毀損を認定。「Colaboが公開した情報を断片的に盛り込むことで、(投稿の)内容が真実であると信じさせかねない構成になっており、Colaboの社会的評価の低下の程度には相当なものがある」とも認め、「投稿の閲覧者により、Colaboの活動が妨害された」「被告が原告らに関する情報発信を頻繁に行ったり、訴状を有料で公開したりするなど、自らの利益のために本件訴訟を利用した」などの事実に照らし、賠償額を算定しました。また、訴訟の対象となった投稿を削除することも求めました。
被告男性は控訴の意向を投稿
被告の男性は1月の本人尋問に続き、判決のこの日も法廷に姿を見せませんでした。被告代理人の弁護士も来ず、被告席は空っぽのままの言い渡しでした。被告は、判決言い渡しの46分後に、X(旧ツイッター)に「どうせ高裁にいくとはいえ、地裁でも勝っておきたかったんですが今回の判決は残念です。控訴でぜひ逆転できればと思います」と投稿し、控訴の意思を明らかにしました。
デマが真実でないと、認められてよかった
判決を受け、記者会見で仁藤夢乃さんは次のように話しました。
このような判決が出たことにホッとしています。被告により、私たちが少女たちを保護しているシェルターについて、少女たちに生活保護を不正受給させてColaboが利益を得ているというデマを拡散され続けました。
その被害は大変に大きかった。被告のデマが事実ではなかったと認められてよかったです。
被告が悪意をもってColaboの活動報告書を都合よく切り取って拡散したことも認めていただいた。
私たちは、大人や他者への不信感を抱えた少女たちと日々出会っています。
家出してキャリーケースをひいて路上にいた子が、シェルターに来て「やっと荷物を移動しなくていい」というところから始まる。家に帰れなくて、買春の被害に遭っている子も多い。見返りを求められずに自分の居場所を得ることができるとは思っていなかった子がシェルターという居場所を見つけ、そこから学校に通えたり、仕事を見つけたりとだんだんとステップを踏んでいく。
そうしたシェルターでの暮らしや安心感が被告のデマによって奪われ、不安に陥れられました。大切にしている生活、暮らしを壊されたと言う子もいる。精神的に苦しくなってしまったり、体調を崩したりする子もいました。今日の判決で少女たちもきっとホッとしてくれるんじゃないかなと思っています。
220万円の賠償では被害に見合わない
ただ、220万円の賠償では、Colaboがこの2年間受け続けてきた被害には見合わない。本当に膨大な被害を受けてきました。
一方、被告はColaboを攻撃するという名目で、すでに1億6000万円以上のカンパを集めている。noteで私たちの裁判の書面も販売している。被告にとって、この程度の賠償はまったく痛手ではない。デマを拡散することがお金もうけになってしまっています。
被告の真似をして、「Colaboの不正追及」という体で誹謗中傷を繰り返し、デマを拡散している人も複数います。中には数千万円のカンパを得ている加害者もいます。
生身の人間がデマの拡散によって命の危険にさらされる
そのうちの一人、元加害者の男性は被告のデマをベースに「ゲーム感覚でやっている」と話しました。根底には女性差別があります。生身の人間がデマの拡散によって命の危険にさらされるということがまったくわかっていない。
虐待や性搾取にあっている子が、Colaboにつながりにくくなっているという被害もあります。判決が出たからといって被害が回復できたとはいえません。
デマを見かけ、Colaboに行くと狭いところに閉じ込められてしまうのではないかと来られない子もいました。未成年の少女が妊娠していて、私たちに相談するかどうかを躊躇している間に中絶できる期間を過ぎてしまったというケースもありました。被告のデマが少女たちの人生に深い影響を及ぼしていることを残念に思っています。
注文していない物を送りつけられる被害は数百件にのぼります。
私への殺人予告、レイプ予告は今も続いています。
被告により、Colaboが支援活動に使っているバスの駐車場の写真と位置情報を拡散され、実際にバスが切りつけられる被害もありました。
ネット上の被害にとどまらず、現実の被害になっています。
女性や女性支援に対するヘイトクライム
私たちはこれを女性や女性支援に対するヘイトクライムと考えて、弁護団を結成して、提訴しました。
今回の判決を踏まえて、刑事事件(注1)の方でもしっかり判断してもらいたいと思います。
私たちは女性支援への攻撃が金もうけになってしまうという状況と闘っています。
被告はColaboを支持する人たちへのスラップ訴訟も起こしている。私たちに繋がる人たちを分断し、孤立させるのがねらいです。そういう攻撃を許さない社会にするためにも判決が力になってくれると思います。
注1)警視庁は2024年2月15日、被告男性をColaboに対する名誉毀損の容疑で検察庁に送致。現在、起訴するかどうか検察庁の判断待ちになっている。