失業者の当座の暮らしを支える失業給付。しかし、受給にはハローワークでの定期的な「面接」が義務づけられており、病気療養中の人や子育て中の人などには使いづらい制度になっています。「不正受給」を疑うようなチラシの文言を受け取り、受給をあきらめた人も。リスキリングやセカンドキャリアで離職・転職が増える中、失業給付制度について検証しました。
3倍返し、差押、詐欺罪……
「不正に受給した金額の3倍返し」「返還・納付されない場合は、財産の差押」「詐欺罪として警察に告発」ー。
京都市内の公共職業安定所(ハローワーク)を利用した40代女性は、失業給付の不正受給に注意を促すチラシを手渡され、驚いた。
女性は昨年3月、早期退職を募った会社側の都合で退職した。フリーランスへの転向も考えていたが、失業給付を受け取るには、企業や事業所への就職活動をしたことを示す「求職実績」が受給要件となる。受給するため就職活動も合わせて行なったが、ハローワークの窓口では個人で請け負った仕事の内容について執ように聞かれ、給付額を減額された。
女性は「不正受給だと言われそうで怖くなった」と話し、受給可能な期間を残して給付金の受け取りをあきらめた。
失業者の当座の暮らしを支える失業給付制度。申請すると、直近の賃金の5〜8割ほどの金額を、雇用保険の加入期間などに応じて90〜150日間にわたって受け取れる。受給には、決められた毎月の認定日にハローワークに出向き、求職実績の報告が必要となる。認定日に、病気や家族の危篤や看護、子どもの入学式などの理由でハローワークへ行くことができない場合、受給するには「その事実が分かる証明書」の提出を求められる。現実離れした運用は、子育て中や病気、障害がある受給者にとっては負担が大きく、受給を控える失業者が出ているのが実態だ。
厚生労働省が行なった2020年転職者実態調査によると、自己都合により転職した人のうち、離職期間があった人の割合は7割超。うち失業給付を利用しなかった人の割合は8割にのぼった。離職中も退職金や貯金で生活費や社会保障費をやりくりする転職者が多数に上ることがうかがえる。
認定の仕方、まるで「茶番」
秋田市に住む40代の女性は昨年9月、長年勤めた会社を自己都合により退職した。ハラスメントをきっかけに休職を経験し、退職時も心身に不調を感じていた。市内のハローワークで失業給付の受給を申請すると、「いつでも就職できる健康状態で、求人があればすぐに働けるか」と職員から念を押された。
職員は給付認定に必要な「失業認定申告書」を示し、求職実績として記入できるハローワークの催しや、窓口の利用の仕方を丁寧に説明した。「職員側もなんとか形を整わせて、受給者が給付を受け取れるように気遣っているのが分かった」と女性。一方で、すぐに働けない状況でも、受給のために職探しのふりをする必要があることに気がとがめ、「認定の仕方が茶番だ」とも感じた。
認定日は平日に限られる。女性には子どもが3人いる。次回は冬休み中の小学生を家に残して出かけなければならない。「病気がある人や小さい子どもがいる人はどうしているのか」
実益のない「形だけの求職活動」
政府は本年度、IT(情報技術)関連を中心に新たな技能を習得するリスキリングや転職を促す「三位一体の労働市場改革の指針」を策定。失業給付の見直しを対策の一つに掲げている。現行制度では、自己都合により退職した人に限って給付金を受け取れない2ヶ月間の「給付制限期間」を課しているが、この制限期間の短縮や撤廃を検討する方針だという。
失業給付は本来、解雇や倒産など会社都合による失業者を保護する制度だ。給付制限期間は、失業給付を目当てに転職を繰り返すことを防ぎ、保護に値する失業状態が続いていることを確認するために必要な期間であることが制度上の建て前となっている。
そのため、給付制限期間の短縮や撤廃は、給付目当ての離職者を出す課題とも隣り合わせとなる。現行の制限期間のあり方が、自発的に転職する人にとって障壁だと捉える政府方針はそもそも制度に矛盾し、論点がずれている。
現在の失業給付は、労働者が切れ目なく企業や事業所に勤めることを前提とした仕組みだ。仮に政府が、学び直しや多様な働き方を支援しようと言うのであれば、退職者の「失業状態」を証明すれば足り、形だけの求職実績を支給要件に求める実益がない。
支援の網目からこぼれる人がいる
記者は退職後、治療中だった病気が再発し、すぐに仕事に就くことができない状況に直面した。
ハローワークに窓口で問い合わせると、体調が悪くて認定日に面接を受けられない場合、1ヶ月分の受給は認められない上、後日の受給には医師の診断書が必要だと説明された。医療費や通院費、社会保障費や住民税の負担は重い上、診断書の作成には医療機関で別途費用がかかる。失業給付がなくては、資格取得に向けた予備校の学費に必要な貯金を取り崩す必要すら感じた。
健康で、会社や事業所に雇用される人に限定した給付のあり方は、病気や障害のある人、ひとり親家庭や介護や看護が必要な家族がいる人などが支援の網目からこぼれ落ちやすいことを意味する。
取材した受給者からは「会社や組織に勤める働き方を前提にした給付制度は時代に合っていない」「さまざまな事情の失業者が安心して一歩が踏み出せる運用にするべきだ」との声が出た。
政府は、小手先の改正で問題の本質をごまかすのではなく、形骸化しやすい求職実績や定期的な面接による認定を必要とする運用をまずは改めるべきだ。
(渡邉麻友)