29年前の阪神・淡路大震災以来、災害や水害の現場にいち早く入り、避難所運営などの初動にかかわってきた一般社団法人「日本避難所支援機構(JSS)」事務局長の金田真須美さんが4日夜、能登半島に入った。ワンボックスカー2台に支援物資を積み込んで、5、6日と輪島市内の避難所に物資を配布して回った。これまでの災害と比べ特徴的な点、気になる点について聞いた。(聞き手:阿久沢悦子)
寝ている人の頭の横に土足
避難所の衛生状態が悪い。避難者が体育館の床に雑魚寝をしている状況で、土足が禁止されていない。床から10センチぐらいのところに人の頭があるのに、土足でうろうろ歩く。その状態で泥が乾燥していく。粉末状になって舞い上がる。人が動くとずっと土埃が舞い上がる中で、横になっている人がいる。元気な人は椅子に座っているけど、大方の高齢者は横たわっている。避難所訓練で推奨されている段ボールベッドも現実には使用されていない。間仕切りすらない。家からひっぱり出してきた毛布をかぶっている人が土足まみれになっている。せめて入り口で靴の消毒をしてほしい。すでにぜんそくの発作が出ている人がいる。私もずっとのどが痛い。だが、避難所によってはリーダーが土足禁止や消毒に後ろ向きだ。「人の持ち物の合間を縫ってだれが掃除するのか」「掃除の道具がない」などと言われた。現地の日本赤十字スタッフには早く改善してほしいと伝えた。
1日1度ラジオ体操やストレッチを
小規模な避難所が多い。公民館とか、県の土木事務所の5階だけが避難所になっている。高齢者が5階まで階段を上り下りしている状況がある。いずれ統廃合されていくだろう。そうすると、2次避難場所が発生する。これまでの災害でも見られたが、後から来た人にとって居心地が悪い状況があるので、配慮が必要だ。
災害の爪痕からすると避難所生活の長期化が予想される。地形の制約があり、仮設住宅を建てる土地が少ないからだ。一朝一夕には建たない。
避難者の健康問題が心配だ。聞き取りで自分の病状を的確に言えない人が多い。特に高齢者に顕著だ。保健師の巡回がまだできていない。陸続きではあるけれど、地形と道路状況の悪さから、他府県の応援の保健師が入ってきていない。地元の人たち、女性たちの力を使って、配布物でいい。「1日1回ラジオ体操しませんか」「午後3時にストレッチしましょう」などの呼びかけが広がっていいのでは?
火気の使用を認めて、温かい汁物やご飯を
避難所ごとの物資の補給量に波がある。喜ばれたのはチンするご飯。カセットコンロで鍋にお湯を沸かして温められる。それを使って、7日の炊き出しは七草がゆにしようかというと、みんな喜んでいた。6日はお湯を沸かして、インスタントの味噌汁を紙コップで配布した。これも喜ばれた。一方で、学校などではまだ火気厳禁のところがある。1995年の阪神大震災の時は火気の使用が原則禁止され、問題になった。2011年の東日本大震災では寒さもあり、かなりの学校で火気の使用を条件付きで解禁していた。能登地震では、電気ポットの使用は可能だが(停電で使えないところも多い)、カセットコンロは不可のところがある。温かいものが必要だ。
200人ぐらいの避難所では空間と人の数からするとまだ余裕がある。500人規模の高校の避難所はプライベート空間が確保できず、厳しい環境だ。学校そのものが被災しているので、校庭に地割れがある。中学校の避難所は2階の体育館にあり、階段を行ったり来たり。障害者の姿は見なかったが、弱っているお年寄りは少なくない。スーパーでよろけて座り込んでいるおばあさんがいたので声をかけた。82歳。こっちにきて23年。ビールケースに座らせて、あれこれ聞き出して、認知症の傾向を感じた。一人で避難しているという避難所に連れ帰った。
抜け道の陥没にはまる車、通れない道が増えていく
道路状況が悪い。しかも余震や雨で日々崩れていく。自衛隊の車なのに、渋滞で救急搬送車が通れない。
生まれて初めて後続のボランティアに「来ないでいい」といった。人が来る、車が増えると困る状況がある。負荷が増す。
一般車両は通行止め。私の車は災害緊急支援の許可を得て、抜け道を使って能登半島に入った。だが抜け道にも車がはまっている。通過できると思うとアスファルトがほげてる(剥がれている)。そういうところがトラップみたいに数百カ所ある。車が上手に通り抜けたとしても、通り抜けた負荷でさらにアスファルトが剥がれる。絶対的に車の通行量が増えないことを願っている。
孤立集落の解消が急がれる。通信器具を空から降ろすことができるのでは。レスキュー隊が人を空から吊る。逆に通信機器、無線を空から降ろす。そこに人がいることがわかれば、食べ物や水をドローンで降ろすこともできる。道路の開通を待っていられない。アクセスの悪さを解決するにはまず連絡が取れるようにすることではないか。
被災者も支援者も辛抱のフェーズ、関心持ち続けて
集落そのものの子どもの数が少ないのだと思うが、子どもの姿を見かけない。親類縁者宅に避難できているといいのだが。女性は若い人もいるが、平均的な年齢は高い。若い人が1人でいる姿を避難所では見ない。若い単身者はたいがい車の中で生活しているのではないかと思う。
災害から復興へのそれぞれのフェーズに、ボランティアによる支援が必要になる。焦らず、落ち着いた時でいい。今は被災者だけじゃなく、支援者も辛抱のフェーズ。今後に向け、関心を途切らせないでほしい。
避難所では、まず炊き出し。それから、子どもたちへの絵本が必要。お年寄りにも塗り絵やパズルなど気晴らしになり、ぼけない工夫を。
道路がととのったら、どんどん来てほしい時期が来る。自治体によっては許容範囲を超えると混乱が生まれるので、事前の連絡・調整が必要だ。家の解体、再建はボランティアでは無理なレベルだと感じた。重機を使えるガテン系だけでなく、被災者に手続きのフローやロジを伝える人がくるべきだと思う。
【金田さんが持って行った支援物資は120種類】
おむつ、粉ミルク、長靴の中敷き(釘やがれきの踏み抜き防止の鉄板)、体を拭くシート、爪切り(はさみ代わりになる)、ポリ袋(何かと役に立つ)、靴下、下着、米、杖、入れ歯洗浄剤、入れ歯ケース、プラスチックどんぶり、割り箸、紙コップ、プラスプーン、カイロ、カセットコンロ、コンセント3口タップ、コロナの抗原検査キット、マスク、ふりかけ、生理用品、尿取りパッド、水(ペットボトル500ccを20ケース、ポリタンク20㍑を5タンク)、ガソリン80㍑(現地では給油できないので、帰り道の分を必ず持参すること)。
緊急募金と現地報告会
JSSは緊急募金を始める。
・ゆうちょ銀行 記号:14300 番号:89770391 口座名 シャ)ニホンヒナンショシエンキコウ
・ゆうちょ銀行 店名四三八 店番438 普通8977039 シャ)ニホンヒナンシャシエンキコウ
備考欄に「能登地震」と記入。
阪神大震災から29年間の災害ボランティアの歩みを振り返り、今後の災害に備える「1・17フォーラム」が1月14日午後2時からオンラインで開かれる。登壇者の金田真須美さんと神戸大学名誉教授の室崎益輝さんによる能登半島地震の現地報告もある。