政治家たちよ、被災地を向いているのか

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参院選で能登地震の復興についてあまり話されていないような・・・

 2024年元日の発生から1年半経った能登半島地震。被災地では倒壊した建物などの解体作業は進んだが、本格的な復旧・復興に向けては、まだ道半ばだ。 参議院選挙において、各政党は、被災地の復興や支援についてどのような政策を訴えているのだろうか。

まず政策を比較検討する以前に、選挙戦の序盤で、政権与党の被災地に対するいい加減な扱いが露呈する前代未聞の出来事が起きた。

自民党の鶴保庸介参院予算委員長が、7月8日に和歌山県内で開かれた集会で、政府が進める都市と地方の二地域居住の説明の中で能登を例に挙げて「運がいいことに能登で地震があった。緊急避難的だが金沢にいても輪島の住民票がとれるようになっていった 」などと発言したのだ。さらに被災地である珠洲市の名称について「能登で地震があって、上の方であったのは、輪島だとか、あの、たま、なんだっけ。上の方・・・」などと発言。この発言を巡って、被災地から「人々の心を根底から深く傷つけるもので、絶対に許すことはできない」と怒りの声が上がり、抗議が広がっている。

 被災地の状況に真剣に向き合っているとは思えない発言の一方、被災地の住民は今、どのような思いでいるのか。支援の現場ではどのような課題が出ているのだろうか。

8割が解体され、更地になった住宅地

住宅の公費解体などが進み、解体見込み棟数の8割を超える3万2787棟(7月14日現在)の取り壊しが完了した。倒壊した建物は撤去され、多くの住宅地が更地となっている。石川県によると、地震で被災し仮設住宅に入居する被災者は、建築した「応急型」が6592世帯、1万3508人(同15日現在)、民間の賃貸住宅に無償で住む「みなし仮設」が2750世帯、6049人(同14日現在)だという。昨年9月の豪雨の被害については、「応急型」に242世帯472人(同15日現在)、「みなし仮設」に41世帯100人(同14日現在)が入居している。

災害救助法によると、それぞれ入居期間は2年が限度だが、地元の要望を受けて、6月30日に最大で1年延長することが決定した。

解体がかなり進んだ被災地。更地が広がる街を眺める被災者の気持ちはどうなのか。

昨年9月の豪雨で民家が流された川の周辺。解体作業が進められていた=2025年4月に撮影

「被災者は急に歳をとったように感じる」

 能登半島に位置する 輪島、珠洲、七尾の各市に住む真宗大谷派の住職3人が登壇する講演会「被災地から、今、伝えたいこと〜これまでとこれからと〜」が7月8日、富山市の同派富山東別院で開かれ、被災地の現状と課題を語った。

富山東別院の本堂に並ぶパネリストたち=2025年7月8日、富山市内

地震で寺が被災した長覚寺(珠洲市正院町)の住職、濤恵周(おおなみえしゅう)さん(61)は現在仮設住宅で暮らしている。

「正院町の地区では、2、3件の建物以外は全て更地になった。水道も道路の本管は通水しているが、それぞれの宅地部分には通っていない状態だ」と説明する。新築したくても、立地や人手不足の点から、請け負ってくれる建設、水道などの業者がなかなか見つからない状態だという。

 「被災者が急激に歳を取った様に感じる。被災後の一時期の記憶がなかったり、体がおかしくなったりしている」

 講演会の会場に展示された被災後の状況や支援の記録を映した写真などのパネルについて、涛さんはこう思いを吐露した。

 「パネルを見て懐かしく思った。 1年前、あの時は力を合わせて頑張っていこう、声出していこう、とやっていた。あの時も(支援に来られた方に)今が一番大変や、苦しいと話したが、どこまで行けばどん底が終わるのか。なかなか這い上がっていけるかわかりません。今が大変です。心も体も」

講演会で思いを語る濤恵周さん

「被災地を忘れないでほしい」

 講演会では、仮設住宅に暮らす人々にとって、ボランティアによる炊き出しや訪問などは、人々が集まるきっかけ作りとなっており、被災者が「(被災地のことを)忘れないでほしい」と願っていることなどが報告された 。また、地域によっては、コミュニティの維持を意識した取り組みを始めていることなども話題に上った。長期化する避難生活で、被災者の心や体のケアが必要だということが痛感させられる講演会だった。

 石川県の厚生政策課によると、被災者のケアとして、国の「被災者見守り支援・相談等支援事業」があるという。この事業では、行政や社会福祉協議会などの職員、委託された外部の災害支援団体の生活支援相談員が個別に被災者を訪問。困り事や身体の状況を聞いて、必要に応じて行政の担当課などにつなぐ仕組みだという。

 持病を持っている人には週に1回程度訪問し、定期的に服薬がされているか確認したり、そうではない人は2、3カ月に1回の割合で訪問したりすることになっているという。

 この事業に係る費用は、国の負担で、今年度末まで全額補助されるが、来年度以降は、国の補助率は4分の3、2分の1と徐々に減っていくことになる。

このほか、国の補助金によるデイサービス事業の展開や、飲食をしたり、風呂に入ったりできるコミュニティ―センターが整備されつつある。

後を絶たない災害関連死

昨年に比べ、生活再建の支援は徐々に整ってきているはいるが、それでもなお災害関連死が後を絶たない。

石川県の発表資料によると、能登半島地震による災害関連死は石川県376人、富山県と新潟県を合わせると計388人が認定され、直接死と合わせた犠牲者は計616人(6月11日現在)となっている。

地震の後に豪雨被害で土砂が流入し被災した奥能登地方の民家。2025年4月時点の様子

被災者の孤立防止や健康維持などケアの取り組みは行政側も行なっているが、人手不足の中で、頼れる存在は地元に通じた小回りの利くボランティアだ。

私は、 被災地の取材を進めるうち、行政機関などの公的支援からこぼれ落ちる隙間の部分を埋める存在が、ボランティアだということに気付かされた。そして被災者のケアは尽くしても、尽くしても、尽くし足りない。

被災者のケアは十分か?

今回の参議院選で、被災者の声を聞いた上で、被災者のケアに関する政策が議論されているだろうか? 争点の一つにもならず、鶴保氏の発言が象徴しているように、被災地の復興など眼中にないのではないか。

土砂崩れで通行できなかった能登半島の外浦の道路が整備されて開通した=2025年4月に撮影

被災者ケアの面で、小回りの利くボランティアへの公的なサポートに焦点を当てて調べてみた。

自民党は防災庁設置に向けて、内閣官房に準備室を設置。6月14日付で、ボランティア団体や学識者で構成する「防災庁設置準備アドバイザー会議 」が報告書を出した。

報告書によると、「防災庁が今後取り組むべき防災政策の方向性と具体的な施策」の一つとして、「被災地支援などに関わる市民等ボランティアとの連携」が掲げられている。ボランティアの育成や行政との連携のコーディネートなどについて触れられている。

ただ、ボランティアに対する具体的な財政的支援については特に書かれていない。

能登地震でもボランティアへの財政的支援は、被災地までの交通費の支給や、ボランティアに限らないが、行政の委託を受けた炊き出しなど一部の活動について資金が出る程度だった 。

ボランティアのサポートは欠かせない

基本的にボランティアの活動費は主に寄付や会費などで賄わなければならず、公費からの金銭的支援はほとんどない 。長期化する被災地での活動となると、自力での寄付集めに限界が出て、財政難に陥り活動が途絶える恐れもある。災害が多い日本にとって、災害支援の経験があるボランティア団体の運営継続は重要だ。避難が長期化する中で、ケア的側面が色濃くなり、公的支援の必要性に対する理解を社会に求めつつ、ボランティア団体への活動の持続に対する視点や政策が欠かせない。

能登半島の外浦。輪島と珠洲をつなぐ道路が復旧した。海沿いが隆起してできた砂浜近くを開通したばかりの道路を利用し進むことができる

35度の猛暑の中、熱中症の被災者を介抱

一般社団法人「富山SAVEふくしまチルドレン」(富山県小矢部市)は、東日本大震災の支援などの経験を基に、地震直後から奥能登を中心に被災地訪問、物資搬入、生業応援、被災者ニーズに即した行政に対する企画提案など、地道に被災地で支援活動を続けてきている災害ボランティア団体の一つだ。このような団体は、被災者のみならず、自らも被災した職員がいる公的機関の目の届きにくいところをサポートする存在でもある。

代表の川嶋茂雄さんによると、避難生活が長期化する中、被災者へのきめ細かいケアが必要で、今後も小回りの利くボランティアの活動が欠かせないという。同団体は資金難で活動継続のため、クラウドファンディングでの資金集めに踏み切った。本来なら公的な財政的支援があって然るべきだ。

珠洲市の外浦で伝統的な製法で塩を作る「珠洲製塩」。地震や豪雨の後も開業し続けている
=2025年4月に撮影

7月18日、日中の気温が35度を超える猛暑日となった奥能登で戸別訪問していた川嶋さんは3人の被災者を介抱したという。

「この夏、子どもとの生活をやめて被災地に戻ってきた高齢の被災者が、クーラーもつけずに生活し、熱中症気味になっていた。放っておいたら大変なことになってしまう」

川嶋さんは、きめの細かい継続的な被災者のケアの必要性を訴える。

参院選も終盤だが、各政党が能登地震について、何を語っているかを注視し、今後も議論は続けていく必要がある。

参院選の各党公約やマニフェストから能登地震や被災者目線の政策に関する部分を抜粋した。主要10政党のうち4政党が「記載なし」だった。

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