衆院選も終盤、いよいよあしたは投開票日です。
今回公約をまとめる中で、一つ気づいたことがあります。それは多くの政党が最低賃金の引き上げに触れている点です。中身のレベルは違えども、ここ数回の選挙で少しずつ最低賃金の引き上げを公約に掲げる政党が増えてきた気がします。それだけ賃上げが急務だということなのでしょう。各党の公約を比べながら、なぜ今、最低賃金の引き上げは必要なのか、引き上げることで何が変わるのかを考えました。
最低賃金は、使用者が労働者に支払わなければならない1時間当たりの賃金の最低額です。厚生労働省が示した額をベースに各都道府県の労働局が審議し、各労働局長が決定しています。
過去最多の平均51円引き上げ 東京は1163円に
今年8月末に各都道府県が相次いで発表した最低賃金の引き上げはちょっとした話題になりました。引き上げ率が平均51円で、過去最高となったからです。これにより全国平均の時給は1055円になりました。
都道府県別にみると、最低賃金が最も高いのは東京1163円(前年1113円)で引き上げ率は4.5%、続いて神奈川で1162円(同1112円)で、引き上げ率は同じく4.5%、最も低いのは秋田で951円(同897円)で引き上げ率は6.0%でした。
(詳しくは厚生労働省のサイトをご覧ください)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
日本の賃金は過去20年ほとんど増えていない
大きく伸びたように思えるこの最低賃金、実は世界各国から見ると大きく後れを取っています。経済協力開発機構(OECD)のデータなどを元に、厚生労働省がG7各国の実質賃金(労働者が実際に受け取った賃金から物価変動の影響を差し引いた指数)の推移を調べたところ、1991年を100とすると、2020年の指数は米国が146.7 、イギリスは144.4と1991年をはるかに上回っていますが、これに対して日本は103.1にとどまっています。つまり20年間、日本の賃金はほぼ増えていないのです。
G7各党の実質賃金の伸び率(1991年を100とした場合)
※OECDのデータを基に作成
要因の一つが、ここ数年の物価高です。消費者物価指数は年々上昇し、家計を圧迫しています。今月18日の総務省の発表によると、総合指数は2020年に比べて4年間で8.9ポイント上昇、食べ物以外の指数も上がっています。急激に物価が上がる中、最低賃金を51円値上げしたところで、暮らしは豊かになりません。
(1) 総合指数は2020年を100として108.9
前年同月比は5%の上昇
(2) 生鮮食品を除く総合指数は108.2
前年同月比は2.4%の上昇
(3) 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は107.5
前年同月比は2.1%の上昇 ※総務省ホームページより
大手は大幅賃金アップ、中小企業との差が開く
一方で従業員500人以上の大手企業は今年の春闘で軒並み大幅のベースアップを表明。経団連によると、集計可能な18業種135社の総平均で、引き上げ額1万9210円(前年比5848円増)、アップ率5.58%(同1.59ポイント増)でした。方や、従業員500人未満の中小企業では、集計可能な17業種375社の総平均は、引き上げ額1万712円(前年比2700円増)、アップ率4.01%(同1.01ポイント増)と高い水準ではありましたが、大手と比べると8500円ほど差が開きます。そして非正規雇用者のベースとなる最低賃金は1時間当たり1055円です。
日本は中小企業が約99%、非正規雇用者が労働者の約4割を占める国です。大手企業だけ潤っても、中小企業の労働者や非正規労働者の暮らしが楽にならなければ、生活の底上げは図れません。
「最低賃金1500円」は5党が公約に
今回各党が最低賃金の引き上げを公約に入れたのは物価高への国民の不満が高まる中、景気是正策として即効性が高いと考えたためだと思われます。具体的に各党の公約を見てみると、時給「1500円以上」を掲げているのは公明、立憲民主、共産、れいわ新選組、社民の5党です。
公明は「5年以内に加重平均を1500円に引き上げる」、立憲民主は「最低賃金を1500円以上とし、適切な価格転嫁等により、労働者の賃金の底上げを実現する」としています。共産は「最低賃金を時給1500円以上にすみやかに引き上げ、平均的な労働時間で月額手取り20万円程度にする。地方格差をなくし、全国一律の最賃制度にする」、れいわも「全国一律の最低賃金1500円を導入」、社民も「最低賃金全国一律1500円」を掲げています。多くの政党が小手先の賃上げではなく、1500円程度の大幅な引き上げを行わなければ、実質賃金の上昇にはつながらないという考え方を持っているのがわかります。
このほか、国民民主は「全国どこでも時給1150円以上を早期に実現する」としています。
一方で、自民党は、石破茂首相が総裁選の際に「2020年代に最低賃金を全国一律1500円に引き上げる」という目標を掲げましたが、今回の選挙公約では具体的な数値は示さず、「引き上げる」ことを公約に入れています。維新については記載がありません。
最低賃金を少なくとも1500円に引き上げられれば、働く貧困層の問題が改善され、それに付随して正社員の給与も底上げが期待できます。子どもの教育格差が是正されたり、長時間労働を防ぐ手立てになるかもしれません。
どの政党が社会を豊かにしてくれるのか、暮らしに潤いを与えてくれるのか。ぜひ(衆院選2024 企画始めます | 生活ニュースコモンズ)と照らし合わせて考えてもらえればと思います。(空)