若い女性へのまなざし

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「若い女性に産んでもらう」という人口施策が堂々と議論され続けている。私の体は、私のものだ。

 ふと思い立ち、秋田県議会の会議録検索システムに「若い女性」「若年女性」とキーワードを入れて検索してみました。人口減少や少子化対策の議論の中で、果たして「若い女性」がどのような存在として見られ、語られているのか、知りたいと思いました。

 期間は2020年~2024年。「若い女性」「若年女性」は234件ヒットしました(12月4日時点)。そのほとんどは、人口と絡めた議論に登場していました。

秋田県議会議事録検索システムの画面

政治・行政の「若い女性」へのまなざし

 なぜ「若い女性」に熱いまなざしが注がれているのか。秋田県の知事や担当部署、そして県議の発言を読んでいくと、ある「共通の認識」が見えてきます。それは「人口のために、若い女性には秋田に定着してもらわなければならない」という認識です。

 例えば、以下のような発言からそのことが読み取れます。(いずれも2024年2月議会より抜粋)

あきた未来創造部長
この新しい奨学金助成制度の背景について御説明しますと、御承知のように、本県の最重要課題であります人口減少、中でも特に少子化という問題を克服するために、今現在、若年女性の定着、回帰を重点的に実施させていただいております。

■鶴田有司議員
(県内大学推進事業について)例えば他県に出ていく女子高生が多いと――女子高生だけではなくて、若年女性が多いと言われているわけですから、そういう方々が求めているものを調べておくことは大事だと思うのですが

■島田薫議員
(助成事業の対象が大学、大学院、高専専攻科の卒業に限られていることについて)文部科学省の統計によれば、専門学校の学生は女性が多いという統計も出ています。若年の女性に特に秋田県に戻ってもらいたいという趣旨からすると(略)専門学校の卒業生を加えてもいいのではないかという声もあるのですが

■小原正晃議員
秋田県は、若者や若年女性の県内定着に力を入れており、県当局ができる最も身近な政策として、会計年度任用職員の更なる労働条件の改善はもとより、三年上限ルールを見直し、会計年度任用職員のより安定的な雇用を実現してはいかがでしょうか。

■加藤鉱一議員
若い女性がわざわざ東京に行かなくても、給与がそんなに変わらないのであれば、秋田で働いてもらう。若い人材が少ないですから、そこをうまくアピールできるように、競争する、いいところをまねる。是非、今回頑張ってもらいたいのです。

 これらの発言から見えてくることは、若い女性に秋田に定着してもらう「手段」として、奨学金や進学先、就職先などを整えていくという考え方です。

「産む存在」として期待する発言

 では、秋田に定着する「若い女性」に、秋田県は何を求めているのでしょうか。それは「子どもを産むこと」です。以下のような発言から、それが見て取れます。

■佐竹敬久知事
若年女性を中心とした東京圏への流出が長く続いたことや、結婚や出産に対する若者の価値観の変化など、極めて難しい課題はあるものの、昨年十二月、国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計人口においては、前回推計と比較して若干の上振れがあるなど、明るい兆しが見え始めております。こうした流れをより確かなものとするため、若年女性を対象とした施策に、引き続き取り組んでいく

■工藤嘉範議員
(人口の)自然増の要素は出生数の向上、社会増の要素は若者定着だとすれば、その方程式の答えをプラスに導くための条件は間違いなく若い女性の県内定着と言えます。若い女性の県内定着に向け、魅力ある職場の創設、賃金向上など、新年度当初予算の柱に据えた「未来の秋田を支える人への投資」、特に「女性・若者の県内定着・回帰に向けた取組」が大きな花が咲くように期待したいと願う一方、知事がよく、寛容性に欠ける、閉鎖的と言われる県民性の改善も答えをプラスにする必要条件であろうかと思います

■原幸子議員
不妊治療を行うことで出生率が〇・一%上がるという調査結果もあることから、若い女性に子どもを持つための様々な手段を知ってもらうために、まずは、若い女性に接する機会が多い病院などと連携して、周知啓発を積極的に行っていくべきと考えます

 あくまで抜粋であり、決してここに記した発言だけではありません。まだまだ、ほかにもあります。

 秋田県議会において、若い女性は「出産する存在」「人口問題の切り札」として語られ続けています。さまざまな工夫によって「若い女性」を秋田に定着させる。そうして環境を整えたあかつきには「妊娠・出産」してもらう。そういう議論が活発に行われています。

 これは秋田県議会だけではないはずです。

 「若い女性が定着するような事業が行われて、結果的に暮らしやすい秋田になるなら、良いのではないか」。もしかすると、そのような考え方があるのかもしれません。ただ、私はそうは思いません。

 「若い女性に定着してもらう」「産んでもらう」という、人の体や生き方に関わることを、本人ではない誰かが話し合って決めている。そのこと自体に、強い違和感があります。 

「性の人権」を守る発言はゼロ

 人口問題を語るとき、欠かせない視点があります。それは「自分の体は自分のもの」という「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=SRHR)」の考え方です。

 秋田県議会の議事録検索システムで「性と生殖に関する健康と権利」「SRHR」「リプロ」「自己決定」などの言葉を検索してみました。

 結果は「ゼロ」でした。2020年から2024年までの5年間の秋田県議会で、「若い女性」「若年女性」は234回も語られているのに、彼女たちの権利を守る言葉は、一つもありませんでした。

 国や自治体が力を入れ始めている「プレコンセプションケア(将来の妊娠に備えて、女性やカップルに健康管理を促す取り組み)」をはじめ、人口問題の議論を見ていると、女性たちがまるで「道具」のように語られていると感じます。「若い女性」は「一人ひとり異なる人間」であるという当たり前の認識が欠けたまま、「産む存在」としての議論ばかり行われている。そういう印象を受けます。

 議会内にも県庁内にも「おかしい」と思っている人はいるはずです。しかし、政策を決める人たち(意思決定層)からはそのような声は聞こえてきません。少なくとも県議会議事録では、見つけることができませんでした。

女性の体は繰り返し押さえつけられてきた

 性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=SRHR)の保障に取り組む国連機関「国連人口基金」は「世界人口白書2023」の発表に寄せた文章のなかで、次のように記しています。

 出生率の目標を設定したり、優生学の観点から夫が妻に性行為を強いることを許す法律を制定したりなど、権力者たちが子どもを産む女性の能力を道具として利用することの危険性を、歴史は警告しています。

 夫や義父母や国家といった家父長的な社会構造により、女性の身体が繰り返し押さえつけられるのが、目撃されてきました。国際社会はそうした慣習に終止符を打つべきです。

 歴史はまた、恐れが誰かを傷つける道具にもなりうることを示しています。人口が多過ぎる、または少な過ぎるという恐れは長年に渡り、そして今でも、外見や生活様式が異なる人々を排除し、害を及ぼしてきました。出生率を問題視することでは、世界における最も深刻な課題を解決することはできないでしょう。

 問題視されるべきは不平等です

 このような前提を、もっと話し合う場が必要だと思っています。

「若い女性」施策への批判的な質問も

 12月5日に再度、秋田県議会の会議録検索システムで「若い女性」「若年女性」のキーワードを検索したところ、ヒット数が240件に増えていました。追加された議事録のなかに「若い女性」施策に批判的なまなざしをむけた議員の声がありました。(2024年6月議会の議事録から抜粋)

櫻田憂子議員
知事は、少子化対策として「若年女性」の県内定着・回帰の必要性をよくお話しされています。今年度の主要施策にも、「根源的な少子化対策として、婚姻数の増加につながるよう、女性や若者の県内定着・回帰の取組を強化する」が挙げられています。
県として女性が働きやすい条件などを整えることはとても大切だと思います。でも、「少子化対策のために、若年女性の県内定着・回帰が必要だ」というロジックで語られることが、かえって、若い女性に「秋田に戻って結婚して子どもを産め」という圧力を感じさせているのでは、と強く懸念しています。
例えば、県が五月に実施した「秋田県こども計画作成のための若者アンケート」の中に、結婚や恋愛についての考え、現在の交際状況、結婚していない・考えていない理由、将来子どもを持ちたいかなどの質問項目がありました。この質問は、言葉こそきれいですけれど、女性たちが「付き合っている人はいるのか。結婚しないのか。子どもはまだか」と聞かれ不快に感じてきた、その聞かれ方と同じではないでしょうか。(略)
少子化対策に前のめりになるあまりに多様性への配慮がおろそかになり、結婚しないこと、子どもを産まないことに対し、不寛容な秋田を作り出す結果にはなっていないでしょうか。
県がこれから進めようとしている人口減少対策や、こども計画など、様々な計画や事業推進において、多様性条例の理念をどのように活かし取り入れていくのか、知事の御所見を伺います。

 これに対する、佐竹敬久知事の答弁です。

■佐竹敬久県知事
もとより、結婚や出産は個人の自由な意思による選択が尊重されるべきものであります。先般の総合政策審議会においても、行政や教育の場で結婚・出産等を強調することにより、若者が逆に負担に感じる場合があるとの意見をいただいたところであり、産業振興や地域の寛容性、住みやすさを高めていく中で、自然な形で意識の醸成が図られることが施策を進める上での基本であり、若者への押し付けとならないよう留意すべきものと考えております。
今後も、条例の理念のもと、一人一人の多様性が尊重され、県民が安心して暮らすことができ、持続的に発展することができる寛容な社会づくりに十分に配慮しながら各施策を推進してまいります。

 
 秋田県議会だけでなく、各市町村議会でも、人口減少と少子化対策が議論されています。そこで「若い女性」がどのように語られているのか。今後も見ていきたいと思います。

【参考資料】
・秋田県の公式サイトhttps://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/77527
・国連人口基金駐日事務所サイトhttps://tokyo.unfpa.org/ja/news/swop2023_launch_statement

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