
外務省が国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)への拠出金の使途から女性差別撤廃委員会(CEDAW)を除外するよう求めた問題で、女性差別撤廃条約実現アクション、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークが2月19日、東京都内で集会を開き、決定の速やかな撤回を求めました。162人が参加しました。外務省からは職員1人が参加し、質疑応答がありましたが、決定のプロセスと権限者については依然としてゼロ回答のままです。
誰が、なぜ決定したのか不明のまま
拠出金の使途からCEDAWを除外した理由について、外務省はCEDAWが昨年10月、スイス・ジュネーブで開いた日本政府への第9回報告審査に基づき、「男系男子」の皇位継承を定めた皇室典範の改正を勧告したことに対し、勧告からの削除を申し入れたが対応がなされず、抗議の意を示した、と説明しています。
集会の冒頭、福島みずほ参院議員は「誰が決定したのかのプロセス、どうしてこういう判断になったのかがわからない。CEDAWが日本政府に出した勧告は60ほどある。皇室典範の1点のみを持って、女性差別撤廃委員会への任意拠出の停止を言うのはもったいない。これは違うと思えば建設的対話を続けて行くというのが、国際人権の観点から、国際社会の信頼の回復の観点から必要だ」と外務省の姿勢を質しました。

根拠を欠く外務省の文書回答
集会に先立ち、主催者は質問を送っています。
決定の責任者と決定文書の開示
①「任意拠出金の使途から女性差別撤廃委員会を除外する」という決定を行った部局と決裁した権限者を教えてください。
②内閣府男女共同参画担当大臣および男女共同参画局長には通知されていますか?
③決定の検討経過を示す記録、また、決裁文書をお示しください
④この決定は外務省のみの決定ですか?
⑤CEDAWの総括所見に対する日本政府の意見書はCEDAWサイトにも公開されています。日本政府が皇室典範問題を総括所見から削除するよう求めているという立場は内外に明らかにされています。その上でさらに、判明している限りは2005年以降使われたことのないCEDAWの拠出金使用を削除するという決定と通告を行った目的はなんですか?
外務省の文書による回答は次の通りです。
政府としてCEDAWに対しては、審査プロセス及び審査後にも我が国の考えを繰り返し丁寧かつ真摯に説明してきました。にもかかわらず、皇室典範に関する記述の削除要求が受け入れられなかったことは大変遺憾であり、そのことを重く受け止め、政府として検討し、このような判断となりました。
皇室典範改正は国会でも議論の最中
集会では1人2分の自由発言があり、その中から質問をピックアップして外務省に問いただしました。

1)決定のプロセスというのはどういうことだったのか。
政府の判断、とはいうが、閣議決定とは書かれていない。
2)これからもCEDAW勧告に誠実に向き合うというが、具体的にそのメッセージを国内外にどのように発信するのか?
3)皇室典範については、2024年5月以来、衆参両院の正副議長の主催する「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応に関する全体会議」で議論を続けており、「安定した皇位継承のあり方」を模索している。今回の措置はそうした政府見解と異なるのではないか?
「この場でお答えすることは差し控えたい」
外務省担当者は「CEDAWに我が国の考え方を丁寧に真摯に説明してきたにもかかわらず、皇室典範に関する記述の削除要求が受け入れられなかった」と繰り返し、「具体的な検討のプロセスについては、この場でお答えすることは差し控えたい」とゼロ回答でした。
また、2005年以降、CEDAWに拠出金が使われていない理由については、「OHCHRの中でも北朝鮮やカンボジアの人権状況の改善、ハンセン病元患者への差別解消について、拠出金を出してきた。優先順位を考えCEDAWには出してこなかった」と説明しました。
日本婦人団体連合会の小畑雅子さんらが「CEDAWは建設的な対話を積み重ねてジェンダー平等を進めている。勧告を出した後も各国と粘り強く対話がなされている。日本政府が経済制裁とも言えるような措置を行ったというのは、建設的な対話の立場に立っていない」と指摘しました。
また、60項目ある勧告の、皇室典範以外の部分については、どのようにフォローアップサイクルに載せていくのか、という質問も相次ぎました。
これに対する外務省からの回答は「関係省庁と協力しながらしっかりやっていく」にとどまりました。
マイノリティの声が聴かれる数少ない場
6団体からなるSRHR市民社会レポートチームが取り組んでいるオンライン署名には、2週間で2万5902筆が集まり、この集会で、外務省に提出されました。

同チームは「リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関わる健康/権利)」に取り組み、昨年、ジュネーブで開かれたCEDAW審査にも出席し、レポートを提出しています。
署名の要求は3点あります。
①外務省から国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に対する任意拠出金の使途から、女性差別撤廃委員会(CEDAW)を除外するとした通告を撤回すること
②今年度予定されていたCEDAW委員の訪日プログラムを予定通り実施すること
③女性の人権を守るべく、選択議定書の採択や独立人権機関の設置を含むCEDAW委員会からの勧告を遵守すること
同チームの福田和子さんは次のように話しました。
「私も今回、はじめてジュネーブに行ったが、社会の中で脆弱な立場に置かれているマイノリティの人々が必死の思いでCEDAWに行っている。なぜか?日本には国内人権機関がなく、マイノリティの声が聴かれる数少ない場が、CEDAWだからです。そういうCEDAWに対して今回のような拠出金除外措置をとるというのは大きな失望でした」
「いま日本政府がすべきことは、普遍的な人権尊重の立場に立って、女性やマイノリティを含むすべての人の人権と権利を守る態度を示すこと。それには今回の署名をぜひ真摯に受け止めてほしい。女性差別撤廃条約を真摯に履行してほしい。今回の通告に関しては必ず撤回していただきたい」
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