
2024年10月に開催された第89回女性差別撤廃委員会(CEDAW)で、日本政府に出された勧告の内容を振り返り、女性の人権を守るため政府が果たすべき役割を考える勉強会が2月26日、参議院議員会館で開かれました。CEDAWの勧告をめぐっては、外務省が、皇室典範に関する記述が削除されなかったことへの抗議として、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に出している日本の拠出金の使途から、CEDAWを除外するように国連に求めるなどの問題が起きています。会場、オンラインを合わせ約300人が参加し、勧告の意義を再確認し、政府に対し真摯に対応するよう求めました。
記念の年、政府は課題に取り組みを

勉強会は、CEDAWにNGOレポートを提出し、スイス・ジュネーブでの日本報告の審査にも立ち会った、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の課題に取り組む6つの市民団体と公益財団法人ジョイセフが主催しました。
はじめに、CEDAWの委員長を務めた経験のある弁護士の林陽子さんが「今年は北京会議(第4回世界女性会議)から30年、女性差別撤廃条約批准から40年で、日本にとっては記念すべき年。本来であれば日本政府は盛大にお祝いをして、女性の権利の進捗状況を明らかにし、残された課題に取り組むべき時だ」と口火を切りました。10月に出た日本への勧告(総括所見)の特徴として①日本には包括的差別禁止法や個人通報制度がなく、人権制度のインフラが整備されていないという大きな問題がある②セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)がこれまでになく大きく取り上げられた③日本の人権状況が進捗しない大きな原因として政治の中に女性や若者の参加が少なく、選挙での供託金の高さ、クオータ制度がないことが指摘された――の3点を上げました。
林さんは「総括所見の目的は、締約国の条約の実施を援助することであり、対立することではないし、その国が新しい法律を作るのに所見を活かしてほしいという願いを込めている」と説明し、「日本の拠出金の使途から女性差別撤廃委員会(CEDAW)を排除するという申し入れがなされたのは元CEDAW委員として大変残念。まだ時間があるので、CEDAW委員の訪日プログラムを復活するなど元通りの計画を実施していただきたい」と力を込めました。
勧告を受け止め、SRHR施策の推進を

刑法堕胎罪の撤廃と母体保護法の改正を求めてきた女性団体「SOHSIREN 女(わたし)のからだから」の岩崎眞美子さんは、日本報告に対する総括所見をみて「私たちが言いたいことががっちり詰まっていてうれしかった」と振り返りました。その上で、「『日本で中絶すると罰せられるんだよ』と言うと若い子たちはびっくりするが、今も中絶は堕胎罪で原則禁止であり、母体保護法で例外としてお目こぼしにあっているだけ。そして中絶だけでなく、不妊治療にも配偶者同意が求められている」と強調しました。
「政府には、CEDAWの勧告にしたがって堕胎罪を撤廃して、母体保護法から配偶者同意の要件をなくし、経口中絶薬が安価で誰にとってもアクセスしやすく、必要な人に確実に届くようにしてほしい」と求めました。

NPO法人ピルコン理事長の染矢明日香さんは、避妊と包括的性教育についての勧告の受け止めと期待を述べました。すべての女性と少女に、緊急避妊を含む安価で近代的な避妊法へのアクセスを提供すること▽年齢に応じた包括的性教育が学校教育課程に適切に組み込まれること――などが明記され「市民社会の課題意識が共有された」と評価しました。
一方で日本の現状は、緊急避妊薬の薬局販売は試験段階から進まず、性教育の実施状況も国際水準から遅れを取り、1998年に設定された、小中学校の学習指導要領には生殖・性交や避妊、中絶に関して内容を制限する「はどめ規定」が今も存在すると指摘しました。染矢さんは訴えます。
「ピルコンは学校からの依頼を受けて中学生に性教育講演を行っているが、避妊についてはすべてカット、性行為という言葉は使わないで性教育をしてください、と言われている。インターネットや情報機器の発達で子どもを取り巻く性情報は20年前とすっかり変わっている。大きな見直しが必要です」
染矢さんは「政府は勧告を真摯に受け止め、科学的根拠と人権に基づくSRHR施策を進めてほしい」と締めくくりました。
トランスの人たちと平和的な関係結んで

「Tネット」の高井ゆと里さんは、LGBTやトランスジェンダーに関する人権について触れました。勧告ではLGBTに関して、同性婚の法制化▽アイヌや障害のある女性などマイノリティ女性の中の複合的差別の解消▽性同一性障害特例法から手術要件をなくし、不妊化手術を受けざるを得なかった当事者への補償を含む被害回復――の3点が盛り込まれました。高井さんはこう述べました。
「特例法は戸籍上の性別の表記を変更することで、差別されているトランスの人たちを社会に包摂するための法律だったが、同時に不妊化手術を課すことでその人たちを切り離してもきた。勧告では、手術を受けざるを得なかった人の被害を回復、修復することが要求されている。もう体は元に戻らないが、傷つけてきた関係性を修復することはできるし、そう信じている」
一方で、アメリカのトランプ大統領が就任早々「連邦政府はトランスジェンダーを認めない」と宣言するなど、時代は逆行していると懸念し、「日本政府には、そのような風潮に流されることなく、トランスの人たちと平和的な関係を結ぶことを諦めないでほしい。私たちも争いを望んでいるわけではない」と求めました。
女性の自由と人権を守って

「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんからは、政府に対し、国連人権高等弁務官事務所に対する拠出金の使途からCEDAWを除外するとした外務省の通告を撤回することやCEDAW委員の訪日プログラムを予定通り実施することなどを求める、署名キャンペーンについて説明がありました。福田さんはCEDAWの審査を振り返り、こう話しました。
「私はSRHRの分野で6年くらい声を上げているが、政策の優先順位は低いまま。避妊のことを発信すると『そんなにセックスがしたいのか』など、誹謗中傷のようなコメントを毎日目にしてきた。CEDAWでは委員が私たちの声を取りこぼしのないように一生けん命聞いてくれて、日本との建設的対話で反映してくれた。日本だと『わがまま』とされることが、私たちの声って大事にされていいんだ、権利なんだ、というのが感じられた。勧告は政府に対してであるのと同時に、私たちへのエンパワメントでもあり、本当に大切なもの」
「CEDAWの委員も、署名してくださった方々も、日本を叩きたいからではなく、もっとよくなってほしいから声を上げている。政府には、マイノリティを含むすべての女性の自由と人権を守る、そういう態度を示してほしい。勧告を真摯に履行してほしい」と求め、外務省の担当者に2万8360人分の署名を手交しました。
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