同性同士が「法律婚」を利用できないことこそが、憲法違反ーー。婚姻制度から同性カップルを排除する「別制度」ではだめだという判決が、また出されました。
愛知県の同性カップルが、同性同士(法律上の性別が同じである人同士)の結婚を認めない民法と戸籍法の規定は憲法違反であるとして国を訴えていた #結婚の自由をすべての人に 愛知訴訟の控訴審判決が3月7日、名古屋高等裁判所(片田信宏裁判長)で言い渡されました。
名古屋高裁は、異性カップル(法律上の性別が男性と女性のカップル)の婚姻しか認めていない民法と戸籍法の規定は憲法14条1項(法の下の平等)、24条2項(婚姻に関する法律は個人の尊厳などに立脚)に違反すると判断しました。「同性カップルには別制度で」という余地を残していた1審の名古屋地裁から、大きく前進しました。こちらが判決全文です。(CALL4「結婚の自由をすべての人に訴訟」サイトより)


2審での違憲判決は札幌高裁、東京高裁、福岡高裁に続き4件目。これまで出された高裁判決は「すべて違憲」となっています。
〈この裁判の流れ〉
日本はG7の中で唯一、同性カップル(法律上の性別が2人とも同じであるカップル)の結婚を認めていません。2019年には各地の同性カップルが婚姻の平等を求めて一斉に提訴。現在、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5カ所の裁判所で6つの訴訟が行われています。これらは「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれており、今回の愛知訴訟もその一つです。
1審の名古屋地裁は、現在の法律が「憲法24条2項、14条1項に違反する」と指摘する一方、24条1項には違反しないと判断。国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を怠っているという主張(賠償請求)が認められなかったため、当事者側が控訴していました。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟のこれまでの判決は、1審の地裁で違憲5件(札幌、名古屋、東京1次、2次、福岡)、合憲1件(大阪)。2審の高裁では2024年3月14日の札幌と10月31日の東京、12月13日の福岡に続き、名古屋が4件目の違憲判決となりました。これまでの高裁判決はすべて「違憲」となっています。(※地裁判決にある「違憲状態」という表記も「違憲」にカウントしています)
今ある制度を使えないことが「差別」
判決内容を詳しく見ていきたいと思います。
判決では、まず「性的指向は自らの意思で選択、変更できない」こと、結婚は「個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益」であることを示したうえで、今の民法と戸籍法の規定によって同性カップルが法律婚制度を利用できないことは「合理的な根拠を欠く性的指向による法的な差別的取り扱い」であると断じ、憲法違反としました。
異性カップルが利用できている法律婚を、同性カップルは利用できないことこそ憲法違反である――この視点は、1審名古屋地裁での「同性カップルには別の制度もありうる」という文言から、ぐっと前進するものでした。
「私たちは『何らかの制度』が欲しいと求めているのではなく、法律婚という『今ある唯一の制度』を使わせてほしい。それを使えないのが憲法違反なのだと問うてきた」。愛知弁護団、水谷陽子弁護士のこの言葉に呼応するような判決です。

ちなみに「同性カップル向けの別制度」の是非については、2024年12月の福岡高裁も「同性カップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項(法の下の平等)違反の状態は解消されるものではない」とし、「同性カップル向けの別制度」は新たな不平等になるとダメ出しをしました。
当事者は不利益だけをこうむっている
判決は、当事者のカップルやその子どもたちの存在を明記し、今いかに不利益をこうむっているかを詳細な事例を挙げて説明していきました。
控訴人の大野利政さん、鷹見彰一さん(いずれも仮名、30代)は養育里親として子どもを育てており、3人で暮らしています。

判決では、大野さん、鷹見さんが「婚姻関係にある夫婦と何ら異なることのない共同生活」を営んでいること、また2人のように共同生活を営む同性カップルや、ともに子どもを育てる同性カップルが相当数、存在することにふれた上で「同性カップルが法律婚制度を利用できない」ことによる不利益の数々を挙げていきました。
例えば、同性カップルのうち、実親でないパートナーと子どもが法的な親子関係を結ぶことは困難なため、子どもの医療行為が必要になったときの「同意」が認められない恐れがある。子どもの進学への同意や学校行事への参加もできない可能性がある。実親が亡くなった場合、子どもの養育が制度的に保障されない可能性がある――などです。
判決は、同性カップルが法律婚制度から排除されているために「子の生命・身体・福祉に関して深刻な問題が生じ得る」とし、さらに同性カップルがこうむる「就労における不利益」「賃貸住宅や住宅ローンの利用の制限」などの不利益にもふれました。
別制度には「限界と危険性」がある
このような同性カップルの不利益を軽減しようと、地方自治体はパートナーシップ制度やファミリーシップ制度を導入しています。判決では、パートナーシップ制度を導入する自治体の人口が日本の総人口の約85%(2024年6月時点)に及ぶとしながら、その限界と課題にも言及しました。
まず、パートナーシップ制度やファミリーシップ制度はそもそも「婚姻による法的効果」を享受できるものではなく、その効力も原則として住んでいる自治体内に限られること、利用できるサービスにも限界や制約があること、さらに「パートナーシップ制度やファミリーシップ制度といった婚姻制度とは異なる制度を利用すること」自体が、性的指向を自らの意思に反して開示する「プライバシー侵害につながる危険性がある」としました。
そして、法律婚を利用できないことによるさまざまな不利益は「同性カップルにとって深刻な問題」であるだけでなく、「個人の尊厳が損なわれているという不利益」にも結びついているとしました。
同性婚を法制化しても「弊害はない」
では、同性カップルが法律婚制度を利用できるようになれば、どうなるのか。
判決は「国民がこうむる具体的な不利益は想定しがたい」「(法律婚制度の)法的効果を同性カップルに付与した場合の具体的な弊害は観念しにくい」と繰り返し明言しました。
さらに「自らの意思で選択や変更する余地のない性的指向を理由として差別することは許されず、性的少数者の権利を保障すべきであるという考えが、国内外を通じて急速に確立されてきている」なかで、同性カップルが法律婚制度を利用しても弊害が生じるとは言えないにもかかわらず、法律婚制度を利用できないという「区別」をしていることは差別的な取り扱いであり、憲法14条1項、24条2項に違反すると結論づけました。

「文言の変更の法改正で足りる」
今回、判決で目を引いた部分があります。司法から、立法府に向けた言葉です。以下に引用します。
「同性婚の法制化は戸籍制度の重大な変更をもたらすものではなく、民法の婚姻の効力に関する諸規定については、『夫婦』を『婚姻の当事者』、『夫又は妻』を『婚姻の当事者の一方』など性別中立的な文言に変更するといった法改正で足りる」「同性カップルに法律婚制度とは別の制度を設ける場合とは異なり、膨大な立法作業が必要になるとはいえない」――。
この部分について、弁護団の矢﨑暁子弁護士は「国会が立法作業をするにあたっては、条文の文言はこう変えればいいし、それによって複雑な解釈の問題が生じることもないということを、名古屋高裁が判決に書いて指摘している。このことは国会に対して、立法はそんなに難しいものではなくてやろうと思えばすぐできることを、高裁として示してくれたと理解しています」と話していました。
心強い「周囲の人たちの変化」
会見にのぞんだ控訴人の鷹見さんは、違憲判決について「99%、大丈夫だろうなと思っていたんですけど、残りの1%でこの1週間ぐらい、若干、情緒不安定だった」と打ち明けました。
「意見陳述で、私たちが育てている里子の話、子育ての話も取り上げていただけたことが、本当に、裁判官の方々が真摯に向き合って判決文を書いてくださったんだなというのが伝わってきて、すごくよかったなと思っています」

裁判が始まってから、鷹見さんは周囲の変化を感じるようになったといいます。
「保育園などで話をしていると、他のママさんの中で『(性的指向について)自分で決められることじゃないから、うちの子どもがそうだったときに守られない、法律婚ができないってことだよね、それって駄目じゃない?』と言ってくれるような方が、すごく増えたというか、当事者だけの問題だったような部分が、身近に感じてくれるようになったなと。『別制度でもいい』という前回の判断から今回の判断に変わったのは、当事者に限らず、これからを生きていく子どもたちのためにも良い判断になったなと本当に思っています」

「司法による立法府に対する警告」
この日の夕方に行われた官房長官会見で、林芳正官房長官は判決について問われ、次のように述べました。
「現段階では確定前の判決でございまして、他の裁判所で同種の訴訟が継続をしておりますので、その判断も注視して参りたいと思います。そのうえで、同性婚制度の問題は親族の範囲やそこに含まれる方々の間にどのような権利義務関係等を認めるかといった国民生活の基本にかかわる問題でございまして、国民一人一人の家族観とも密接にかかわるものであるという認識をしております。そのため国民各層の意見、国会における議論の状況、同性婚に関する訴訟の動向などを引き続き、注視していく必要があると考えております」
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202503/7_p.html(判決に関するやり取りは9分40秒ごろ)
一刻も早く法律婚を利用できるようにしてほしい。難なくできるはず――という当事者の声や司法からの指摘に対し、国の回答はこれまでと変わりませんでした。
愛知弁護団は判決を受けた声明文のなかで、次のように記しています。
〈裁判所が現行法令に対して違憲判決を出すこと自体が非常に珍しい我が国において、全国の裁判所がこのように立て続けに違憲判決を下しているということは極めて稀な状況です。それほどまでに違憲性が明白であるということを示しており、司法による立法府に対する警告です。国会は、いつまでも注視という名目で放置し続けるのを、今すぐ改めるべきです〉
〈参考資料〉
・CALL4 結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)サイトhttps://www.call4.jp/search.php?type=material&run=true&items_id_PAL[]=match+comp&items_id=i0000031
・マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚」