人は誰も、幸福を追求する権利がある。はっきりとそう示す、重く歴史的な判決でした。同性の人を伴侶とする人の幸福追求権を、現在の法律は侵害している――判決の明快な指摘は一方で「当たり前のこと」が当たり前に保障されない人々がいる日本の現実を、強く感じさせるものでもありました。
九州の3組の同性カップルが、同性同士の結婚を認めない民法と戸籍法の規定は憲法違反であるとして国を訴えていた #結婚の自由をすべての人に 九州訴訟の控訴審判決が12月13日、福岡高等裁判所(岡田健裁判長)で言い渡されました。
福岡高裁は、男女間の婚姻しか認めていない民法と戸籍法の規定は憲法13条(幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)、24条2項(婚姻に関する法律は個人の尊厳などに立脚)に違反すると判断しました。
13条の幸福追求権の違憲判断は初めてです。
さらに判決は、異性婚と同じ婚姻制度を認めなければ「憲法違反」になる――つまり「同性カップル向けの別制度ではダメ」とも明言しました。1審の福岡地裁から一転、大きく踏み込んだ判決です。
2審での違憲判決は札幌高裁と東京高裁に続き、福岡高裁で3件目。これまで出された高裁判決は「すべて違憲」ということになりました。
「もう、そろそろ国会に動いてもらいたい」「立法府としてのプライドを見せてほしい」――。判決を受けて、原告の当事者らは喜びを語る一方、あらためて立法による保障を求めました。弁護団は「判決はどんどん深まっている。今日の判決は立法での対応を強く要請するものだ」と訴えました。
こちらが判決全文です。(CALL4「結婚の自由をすべての人に訴訟」サイトより)
〈この裁判の流れ〉
日本はG7の中で唯一、同性同士の結婚を認めていません。2019年には各地の同性カップルが婚姻の平等を求めて一斉に提訴。現在、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5カ所の裁判所で6つの訴訟が行われています。これらは「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれており、今回の九州訴訟もその一つです。
1審の福岡地裁は「現在の法律は憲法24条2項に違反する状態にある」と「違憲状態」を指摘した一方、13条、14条1項、24条1項には違反しないと判断。国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を怠っているという主張(賠償請求)も認められなかったため、当事者側が控訴していました。
これまでの判決は、1審の地裁で違憲2件(札幌、名古屋)、違憲状態3件(東京1次、2次、福岡)、合憲1件(大阪)。2審の高裁では今年3月14日の札幌と10月31日の東京に続き3件目の違憲判決が出ました。これまでの高裁判決はすべて「違憲」となっています。
婚姻という「幸福追求権」を保障されるべき
判決はまず、「婚姻の自由」は憲法13条が定める「幸福追求権」に含まれることを示しました。
そして、13条は「婚姻の自由」を保障しているだけではなく「婚姻による法的な保護を受ける権利」も認めていると指摘。にもかかわらず、同性同士の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは同性カップルの幸福追求権を侵害しており、憲法13条に違反する――と結論づけました。
判決はまた、どの性別の人を好きになるかという「性的指向」は本人が選択したり変更したりできるものではないこと、そして愛する人と家族になりたいという願いは男女であろうと同性同士であろうと何ら変わりがないことに触れたうえで、同性同士も「幸福追求権としての婚姻」を等しく保障されるべきである、と明言しました。
異性カップルには何ら影響なし
13条には「公共の福祉に反しない限り」という断り書きがあります。判決では「念のため」として、同性同士の婚姻が「公共の福祉」に反しないかを検討していました。
まず「異性愛者への影響」があるか否か。
判決は〈同性のカップルによる婚姻が法的に認められることで、既存の異性婚カップルの権利や法的地位に何らかの侵害・制約が生じたり、異性のカップルの婚姻が妨げられたりするような事態はおよそ想定できない〉とし、同性同士の婚姻が認められても異性カップルには何ら影響がないことを改めて「念押し」しました。
「宗教的な立場からの介入」は許されない
次に「歴史」から見てどうなのか。つまり、これまでの社会の歴史に基づいて、同性同士の婚姻を「公共の福祉に反する」と主張する向きがあるかもしれない――と仮定しての考察でした。
判決は〈歴史的にみれば、我が国だけではなく、全世界的にみても、有史以来、婚姻は異性間でのみ認められてきたことは事実。このような歴史的事実を根拠として、同性の力ップルによる婚姻が公共の福祉に反し許されないとするような議論が、あるいはあり得るかもしれない〉と想定したうえで、そのような想定に対して、次のように答えています。
〈しかし、少数者の権利を尊重し保護すべきことは、憲法が強く要請するところである。また、婚姻は両当事者の自由な意思に完全に委ねられており、血縁集団の維持・存続といった目的からの介入は一切許されないことは、憲法24 条から明らかである。同様に、婚姻ないし婚姻制度について宗教的な立場からの介入が許されないことも〉
さらに〈同性のカップルによる婚姻を法制度として認めない理由はもはや存在せず、むしろ同性婚について法制度を設けていないことの違憲性がクローズアップされているのが現状である〉とし、同性同士の婚姻は「公共の福祉に反しない」と結論づけました。
「同性カップルを差別している」
判決はまた、今の法律が「法の下の平等」を定めた憲法14条1項にも違反している――と認定しました。
今の民法と戸籍法について〈男女のカップルのみを法的な婚姻制度の対象に限定し、同性のカップルについては法的な婚姻制度の利用を認めないものであり、男女のカップルによる婚姻には法的な地位や保護を与えるのに対し、同性のカップルについては(略)法的な地位や保護を得ることを一切認めていない〉としたうえで、同性のカップルを婚姻制度の対象外とすることには〈合理的な根拠がなく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するものである〉と指摘しました。
異性婚と「別の制度」をつくるのは憲法違反
さらに〈同性カップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない〉と明言。「同性カップル向けの別制度」をつくることは憲法違反になると示しました。
「同性カップル向けの別制度」は新たな不平等になる――という司法からの「ダメ出し」は、10月31日の東京高裁判決よりも、さらに踏み込んだ表現になっていると感じました。
また、今の民法と戸籍法は「個人の尊重」を定めた憲法13条に違反するものだから、24条2項(婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき)にも明らかに違反する――と指摘しました。
「考えなくていい不安を、日々考えなければならない」
「今日、13条の幸福追求権を違憲と言っていただけたことに、すごくほっとしました」。パートナーのこうすけさんとお揃いのネクタイを結んでこの日に臨んだまさひろさんは、こう喜びを語りました。
「私たちは結婚できない状態なので、法的には他人です。他人であることで私がすごく不安に感じているのは、いつなんどき、どのようなことがあるかわからない状況にあるからです。私は彼と死ぬ間際まで絶対一緒に過ごしたいと思っているのですが、例えば突然の事故があったときに『家族の方じゃないので会えません』というふうに言われて、死に目に会えない可能性もあるということです。そのような小さな不安を抱えて、日々生活を送っていくというのは、かなりストレスです。考えたくないし、考えなくてもいいことを抱えて生きている」
13条に違反する――という初の判決を出した福岡高裁。まさひろさんはその判決内容に、心強さを感じたと話します。
「自分たちで選んだものではない、生まれ持った性的指向によって結婚ができない、その権利がない状況は、とても苦しいのだというところに、すごく寄り添ってくださったコメントだと感じました。海外に移住した方がいいのかと考えることもありました。ただ私は、この大好きな日本で、大好きな友人や家族に見守られながら結婚して、幸せになりたい、彼と幸せになりたいというふうに思っています。そこに一歩近づいた判決だったと思っています」
「特別な権利」ではなく平等が欲しいだけ
「しっかりと憲法違反の状況であると示していただけて、ものすごく私も安心しました」。まさひろさんのパートナー、こうすけさんが語ります。
「2019年にこの訴訟に参加すると決めたとき、顔を出して、この不平等な理不尽さを訴えていこうと決意をしました。それまで私は、自身のセクシュアリティを周囲に明かさずにひっそりと生きていくつもりでいました」
訴訟が進む中で、こうすけさんはSNSで誹謗中傷を受けるようになったといいます。
「私たちが、同性のカップルが婚姻できない状況によってどれだけの不利益が生じているかを改めて痛感して、それを主張すれば、ネットなどでは誹謗中傷に近いような意見がたくさん飛び交いました。それに対して、傷つかなかったということはありません。何度も何度も傷つけられて、それでも私たちが主張しているのは、同性愛者に特別な権利をよこせだとか、優遇してほしいといったものでは一切なく、異性愛者の方たちと同じように、自分が好きな相手、この人と結婚したいという相手と婚姻をするという選択肢を平等にください、ということだけです」
「命の問題」だということを忘れないで
13条の幸福追求権に違反する―という裁判長の言葉には、救われる思いでした。
「ゆっくりと、穏やかな口調で、まるで私たちのことを昔から知っているかのように、裁判長が述べてくださったことがとても心にきて、判決を言い渡されているときから涙が止まりませんでした。そうやって涙が出てきている私の顔を、隣でまさひろさんが見るので、また余計に、涙が止まらなくなっていました。この判決は私たちにとって、とても画期的であり、背中を押してくれるものでした。立法府はこの判決を受け止めて、早急に法制度の作成に着手していただきたいです。本当にこれは、基本的人権の問題であって、命の問題だと思っています。本当に困っている人たちが今、生きているということを忘れないでいただきたい」
「異質なものを見る目」を浴びて
「自分は42歳になります。10代の頃から、テレビの中で扱われる同性愛者っていうのは、笑いの対象だったり、異常なものとして描かれたりしていました。10代の頃、パートナーと熊本の街中を手を繋いで歩いていると、やっぱり男女が手を繋いで歩いているのとは違う、異質なものを見るような目で見られてきました」。原告のこうぞうさんの言葉です。
それは仕方のないことだ――という声も周囲から聞こえてきました。しかし、こうぞうさんは疑問を抱いてきました。「なんで僕らだけ、異常なものとして扱われるんだろうか。これは僕らがおかしいんじゃなくて、そういうふうに感じる社会の方がおかしいんじゃないか」
同性同士の婚姻を排除している今の法律は、憲法13条の幸福追求権に反する――という判決は、その疑問を晴らしてくれるものでした。「自分がずっと抱いてきた疑問に対して、やっぱり自分は間違っていない、これは今までのあり方、社会での扱われ方が誤っていたのだという答えをやっといただけたような気がして、うれしく思っています」
「当たり前のことを、当たり前に言ってくれた」
「憲法13条に違反するという言葉が聞けるとは想像していなかったので、非常に驚きました」。こうぞうさんのパートナー、ゆうたさんはこう語ります。
「言ってしまえば、当たり前のことを当たり前に言ってくださった、というふうに思います。当たり前のことを言ってくださっているのに、それが実現されていないのが現状だと思います。この判決を受けて今回、国がどういうふうに動くのか。また『注視』を続けて先に延ばすのか、この状態を放置するのか。国の対応についてはやっぱり、モヤモヤとした納得できないという気持ちを抱えながらも、非常にありがたい判決だったと今しみじみ感じているところです」
いろんな形があるはずなのに
「13条に違反」という判決に、とても驚いたというゆうたさん。「13条違憲かあ、良かったあと思ってこうぞうさんの方を見たら、もう号泣していて。それを見て、私の方は涙がすーっと引っ込んでしまいました(笑)。でも、それでいいんだと思います。いろんなカップルがいますよね。ご夫婦でも、いつも喧嘩ばっかりしているような夫婦、仲が良くなさそうに見えて実は仲が良い夫婦、いろんなカップルがいて、いろんな夫婦がいて、それが当たり前です。けれど国は、こっちのカップルは法的に認めるけれどこっちは無視する、何もしない、ということをしている。この現状は、やはりおかしいと思うんです。なぜ、幸せになれる人を幸せにしないで放置しておくのかなという疑問が、私の中にはもうずっとあります。多くの人が幸せになる世界になることを祈っています」
〈参考資料〉
・CALL4 結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)サイトhttps://www.call4.jp/search.php?type=material&run=true&items_id_PAL[]=match+comp&items_id=i0000031
・マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚」