すべての親子に「子育てケアマネ」と「保育」の保障を求める緊急集会が4月15日、東京都内で開かれました。主催は子どもと家族のための政策提言プロジェクト、みらい子育て全国ネットワーク(miraco)、認定NPO法人フローレンス、公益財団法人あすのば。現在日本では保育は親が就業していなければ受けることができず、子育てに保育士や助産師などの専門家が伴走してくれる公的サービスもありません。当事者・支援者らは、少子化の一方で、増え続ける虐待、子どもの自殺、産後うつ、子どもの貧困などに手を打つべきだと訴えました。
保育園落ちた、日本死ね!!!から10年
「保育園落ちた、日本死ね!!!」 というブログで、待機児童が社会的課題と認識されてから10年。コロナ禍で急速に進んだ少子化などの影響で待機児童数は10分の1に激減しました。しかし、保育や母子保健の問題が改善したわけではありません。
miracoの天野妙さんは「同居する母が認知症になった時に、ケアマネが寄り添ってアドバイスをくれた。育児でも温かく手を差し伸べてくれる専門家がいたら、どれほどの悲劇が防げただろうかと思います」と話しました。
月10時間では足りない
「保育」の保障については、3人が語りました。

フローレンスの赤坂緑さんは2024年度から一部自治体で試行されている「こども誰でも通園事業」について、来年の全国実施に向けて3つの改善点を示しました。現在「月10時間」を上限としていますが、こどもの育ちを第一に考えると、月36時間以上を望む保育士が多い、と示しました。対象年齢も「生後6カ月以上3歳未満」という現行の基準を、生後6カ月未満も対象に含めた方が、母の産後ケアや0歳児の育児困難の手当にもなり、望ましいとしました。さらに現場の負担軽減も求めました。試行的事業では子どもひとり1時間あたり850円の単価が示されていますが、事前面談、事務作業、普段と違う子どもを受け入れる保育者の負担を考えると引き合わないとしました。
親子を地域で丸ごと支える

福島県二本松市の認定こども園「まゆみ学園」の古渡一秀理事長は、全国に先駆けて1995年から幼保統合型保育を実践してきた経験から、保育所=厚生労働省、幼稚園=文部科学省と縦割りになっていた「保育の高い壁」を壊す必要性について話しました。現在、「まゆみ学園」には地域子育て支援センター・児童発達支援事業所などを併設。子ども食堂、子育てカフェなども展開し、親子のために包括的、一体的な「インクルーシブ保育」を提供しているといいます。障害や病気、外国ルーツなど多様な背景のある子どもが共に育ち学び合える幼保統合型の施設は「親子を地域で丸ごと支える環境」を実現する拠点であり、「子育てしやすい地域」を作るカギだ、としました。
2005年の原点に立ち返って

東大名誉教授の汐見稔幸さんは2005年に自民党の文教制度調査会・幼児教育小委員会が出した文書「国家戦略としての幼児教育政策」を引用しました。
「20年前、欧米諸国にならい、親の就業事情等にかかわらず、全ての子どもの健全な育ちを保障、0歳から小学校入学までの子どもの育ちを一貫して支えるなどの方針が出されている。今一度この原点に戻っていただきたい」
面談と面談の間 空白の解消を
「子育てケアマネ」についても3人が語りました。

2023年末に出産したNPO法人manma理事の新居日南恵さんは伴走型支援の課題について体験をもとに述べました。伴走型相談支援は現在3回。妊娠がわかった時、妊娠後期、産後1カ月です。
「現状では、面談と面談の間が空白になってしまう。妊娠中に不調で悩んだり、産後の1カ月間に子どもの様子に不安を感じたりしても、誰にも連絡できない。子どものしゃっくりが止まらない。子どものうんちの色がいつもと違う。そのときに相談できない。
情報連携も課題です。産後1カ月の時に、出生時の体重、状況を聞かれた。すでに母子手帳に書かれている情報をメモして帰って行くのは有効な時間の使い方なの?と思った」
その上で実際に利用した助産院の産後ケアについて話しました。
「金額的には高い、月8000円。これが無料ならどんなにいいだろうか? LINEで助産師にいつでも相談できて、助産院をカフェ利用、リフレッシュのための託児あり。生後半年までのサービスだが、1歳の時に乳腺炎になった時にも助けてもらった。親子の状況を理解している専門家に困った時にいつでも相談できる環境整備が必要です」
増え続ける児童虐待相談対応

児童虐待防止全国ネットワークの高祖常子さんは、児童虐待の相談対応件数が増えていることを数字で示しました。2023年度は過去最高の22万5509件。児童相談所の職員一人あたりが受け持つ案件は100件を数えた数年前に比べると70件まで減ったものの、広域を管轄していて、細やかな対応が難しい状況にあるといいます。
虐待死は毎年70〜80人。8割が3歳以下、0歳が約5割。このうち生まれた直後に亡くなる「0日死」は0歳の死亡の約2割を占めます。
社会的養護を受けている子どもは4万1000人。その半数以上が虐待要因です。児童養護施設を退所後、大学に進学した学生へのアンケートでは1、2年生の8%が「週に40時間以上のアルバイトをしている」と答え、若者の貧困にもつながっていることがわかりました。
高祖さんは「児童虐待による社会的コストは年1.6兆円と試算されています。それぞれの家族に合った伴走支援による『川上』の支援が大切」と訴えました。
対話型支援へ転換を

東京都医学総合研究所の西田淳志氏は、都が一部区市で2021年度から進めている「予防的支援推進とうきょうモデル」について説明しました。とうきょうモデルは、子ども家庭支援センターと母子保健が一体となり、25歳以下の初産婦に、妊娠初期から伴走的支援を行うというもの。モデル自治体は児童福祉司などの派遣も受けられます。
「モデル事業の結果、分かったことの一つは、人間は本当に困った状況に陥ると誰にも相談できなくなるということだった。困らないように支援すること。困り切る前に川上で支援すること。妊婦に『ゆとり』を感じられる支援を実現することが大切だ」と西田さん。
妊娠期からの予防的支援が不可欠である理由は「産後3カ月以内の多難期に自ら助けを求めることは不可能だから」。一方、妊婦面接では多くの取りこぼしが見られました。1歳までの虐待通告事例のうち、妊婦面接で支援が必要と判断されなかったのは83.3%にのぼったといいます。「既存のサービスでは、困った人、虐待しそうな妊婦をスクリーニングしようとしているという支援者の姿勢が妊婦さんに伝わり、スティグマを与えている。母子保健サービスは生活や人生の生き詰まり、孤立・孤独に対応できていない。フィンランドのネウボラのような対話型支援への転換が必要だ」と話しました。
介護保険のような仕組みを
討議を受け、淑徳大学元教授の柏女霊峰さんが総括しました。

「最大の課題は子ども・子育て支援の羅針盤が揺らぎ続けていること。サービス供給体制の基礎構造改革が実現されていない。制度が細かく分断され、寄り添い型支援の提供ができていない。介護保険や障害者支援で進んだ構造改革が参考になります。
介護保険では本人や家族へのアセスメントをもとに、ケアマネが当事者に合った利用プランを作り、伴走型の支援を提供しています。施設入所も在宅サービスも、責任が市町村に一元化されている。子ども子育てには、こうした利用者中心の総合的な仕組みがない。児童虐待も都道府県に一時保護された途端に市町村、支援チームの責任が終わる。そのために支援の谷間に落ちて子どもの死亡事例が発生する」
2024年度創設のこども家庭センターは、行政が必要とみなした家庭にサポートプランを策定します。これが介護保険のケアマネによるプランに相当するか、柏女さんは疑問を呈しました。
「プランの策定者は異動の多い公務員で、ケアマネのように家庭に寄り添い伴走する専門職も、それを支える仕組みも見当たらない」
「介護と異なり、育児はすべての子どもに必ず支援が必要とされます。すべての子に保育を、すべての家庭に妊娠から伴走支援する専門家をということの実現は基礎構造改革の第一歩になる。インクルーシブ保育の拡充も、障害児支援制度と子ども・子育て支援制度の分断を解消して、切れ目をなくすことによって進めていくことができるのではないかと思う」

与野党の政策担当者による討議では、自民党の長島昭久衆院議員が、「フィンランドのネウボラ視察に行き、伴走型支援の重要性を感じた」と発言。「子育てケアマネと保育を全員に」という要望について「3年以内に実現したい」とし、他党の政策担当者も「ぜひやりましょう」と応じました。