違法状態を4カ月も続ける国に向け、「だまってへんで、これからも」いのちのとりで裁判大決起集会

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「さもしい顔」「恥」。生活保護に関する現内閣の閣僚の言葉です。こういう意識を変えていきたい

生活扶助費が2013年から平均6.5%、最大10%引き下げられたことをめぐり、全国の生活保護利用者が国に対して引き下げ処分の取り消しを求めた「いのちのとりで裁判」。今年6月には、最高裁が、大阪と名古屋の訴訟について引き下げは違法として処分を取り消す判決を下しました。それから4カ月、国からの謝罪も被害の回復もなされないままです。解決に向け、原告らが声を結集する「いのちのとりで裁判大決起集会」が10月28日、東京都内で開かれました。会場に800人、オンラインでは600人が参加しました。

いのちのとりで訴訟 国が2013年から2015年にかけ、段階的に生活扶助基準を平均6.5%、最大10%引き下げたのは生存権を定めた憲法25条に違反するとして、生活保護の利用者らが減額の取り消しを求めて訴えた。提訴は2014年から2018年にかけて29都道府県の地裁で行われ、原告の数は計1000人を超えた。2023年4月の大阪高裁(原告敗訴)と2023年11月の名古屋高裁(原告勝訴)で判断が分かれ、今年6月27日に最高裁が「引き下げは違法」とする統一見解を判決で示した。これまでに31の地裁で判決が出され、20勝11敗。15高裁の判決は10勝5敗。
厚生労働省は最高裁判決への対応を協議するため、行政法学者らを含む「専門委員会」を設置。専門委員会は原告らの傍聴は認めず、意見陳述の場も1回設けただけに終わっている。
これとは別に原告らは行政交渉で「謝罪」「被害回復」を求めているが、厚労省側は課長級以上の出席はなく、専門委員会の検討に委ねるとして、態度を保留している。

高市首相の「さもしい顔」発言に危機感

開会あいさつで、「いのちのとりで裁判全国アクション」の共同代表である吉田松雄さんは、厚労省が最高裁判決後に立ち上げた専門委員会の議論を紹介しました。

「行政法の2人の専門家は、『最高裁判決によって、原告には2012年に保護基準が戻って財産権が発生している。さらなる引き下げは認められない。もしそんなことをしたら最高裁の逆鱗に触れる』とおっしゃった。ところが厚労省は判決を覆せるかのような傲慢な態度で、再引き下げを狙っております。断じて許されません」

高市早苗内閣、自民・維新連立政権の発足にも危機感があるといいます。

「高市内閣は社会保障制度の改悪、安倍政権の再来をねらっています。思い出してください。安倍政権は発足と同時に生活保護基準を引き下げました」

2013年当時、高市首相は「さもしい顔をして貰えるものは貰おうとか弱者のフリをして少しでも得をしよう、そんな国民ばかりになったら日本国は滅びてしまいます」と発言しました。片山さつき・財務大臣も「生活保護を恥と思わないことが問題」と発言しています。

吉田さんは「こういった内閣がわれわれの期待に正面から応えることは今の段階では考えにくい。我々の大いなる奮闘が求められている」と参加者を鼓舞しました。

改めてこの国は法治国家なのか

大阪訴訟の原告側弁護団の小久保哲郎弁護士はこれまでの訴訟の経緯を振り返りました。

「最高裁が生活扶助基準引き下げの違法性を認めた。初めてのことです。そして生活保護減額処分の取り消しを命じました。遡及的な適用は世界的にも初めてだと思います。これまでの下級審で勝率6割。普通に裁判官が資料を見ればどれだけひどい引き下げかわかるというものです。最高裁はデフレ調整の違法性を全員一致で認めた。物価変動率のみを直接の指標として用いることは専門的知見がないとして違法としました」

しかし、厚労省は原告団との6回の協議で謝罪や被害回復について実質的に話をせず、専門委員会の審議に委ねるとしています。

小久保弁護士は「当事者を軽視し、不誠実。引き下げをやり直して、被害回復額を値切ろうとしている」と非難しました。

今後必要なこととして、専門委員会の監視、国会議員への要請、厚生労働省前での抗議行動などを挙げました。地方では、オンライン署名や地方議会での意見書採択運動に取り組んでいます。すでに東京都町田市、小金井市、府中市、埼玉県北本市、上尾市、山形県山形市、大阪市などで採択されました。

最高裁判決の後、名古屋高裁、名古屋高裁金沢支部で判決があり、いずれも原告が勝訴しています。12月3日には仙台高裁、来年2月6日には東京高裁で判決が予定されています。

小久保弁護士は「問題は解決していない。このままだと各地で国が敗訴し、司法の軽視と批判されかねない。厚労省は原告たちと真摯に向き合って解決の道を探るべきだ。生活保護基準に基づいて扶助額を決めることが、政治の力でゆがめられた。司法はそれをただせるかが問われた。司法は生きていた。次は行政や政治がどう受け止めるかが問われている。4カ月間、解決していない。10数年の闘いを終えて、改めてこの国は法治国家なのかと疑問に思う。バッシングで分断と対立を煽る社会から、連帯して被害回復と謝罪を勝ち取ろう」と会場に呼びかけました。

4人の原告からアピールがありました。

大阪市議会では全会一致で意見書可決

大阪訴訟原告 新垣敏夫さん

国は異常な違法状態を4カ月も放置しています。この間に亡くなる原告が出ている。厚労省には責任を認め、早期解決を求めていきたい。

専門委員会は論点整理に入り、年内には結論が出ると思われます。改めて私たち原告には判決の形成力により、違法とされていないゆがみ調整分を含めて、引き下げ前の状態に戻っていることを確認し、有する既得権または期待権により、新たな再改定による引き下げ処分は断じて許されないと思っています。

また原告以外の保護利用者も当然、同じ被害補償がされるべきだと思っています。

10月21日、大阪市議会で「最高裁判決に基づき、すべての生活保護利用者に対する速やかな被害回復措置を求める」意見書が全会一致で可決されました。

その内容は

  1. 全面解決のため、国の責任において、生活保護費の遡及支給と被害回復の措置を速やかに取ること
  2. 生活扶助基準と連動する諸制度への影響調査及び被害回復を図ること
  3. 違法とされた保護基準の改定に至る経緯について、原告弁護団、及び当事者を入れた検証を行うこと

現在は大阪府議会での採択を目指し、請願中です。

今日の物価高騰により、保護利用者は大変苦しい生活が続いています。速やかな経済対策を求めたい。厚労省との要請書に基づく合意、早期解決と、全国の訴訟の取り下げを求め最後まで闘っていきましょう。

減額分はどこに消えたんですか?

愛知訴訟原告 澤村彰さん

最高裁判決の宇賀意見書(*1)を取り上げたい。

名古屋高裁で私が述べた意見を読み上げます。

生活保護利用者は一般の人の税金で生かされているという感覚があります。

生活保護法第60条には「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない」と書いてあります。

税金で生かされているのだから、基準額の引き下げを受け入れなければいけないと、減額によって一般国民に還元されるなら仕方ないと、当初は考えていました。

ところがこの裁判に原告として参加して物価偽装の事実を知りました。名古屋高裁でも、北海学園大学の鈴木雄大准教授が「厚生労働省が引き下げに用いた生活扶助CPI(消費者物価指数)が統計学的にあり得ない数値である」ことを明らかにされました。その翌日の、当時の厚労相職員の尋問では「計算ミスはない、計算し直しはしない」と証言しています。はい、いいえで答えられるはずの質問すらはぐらかしました。

今も厚労省は専門委員会で逃げ回っている。謝らない。厚労省と6回交渉し、1㎜も進んでいません。

最高裁判決を受けて謝罪してくれ、と原告は求めています。謝罪するかどうかも専門委員会で検討すると述べました。今の専門委員会でそんな論議をされていますか?みなさん。していませんよね、隠蔽してますよね。

デフレ調整は完全アウトです。2つの計算式を使って、(減額分を)異常にふくらましました。減額分が一般国民に戻るんだったら、僕も何も文句はいいませんでした。どこに消えたんですか?

ゆがみ調整。これ2分の1をずっと隠蔽していました。生活保護基準部会の専門家の判断を勝手に2分の1にしていいんですか?

2013年の基準部会の専門家の意見を聞かなかったんです。今回、専門委員会が決定しても厚労省が聞くと思いますか?それも含めてみなさん、見ていってください。

*1……最高裁判決での宇賀克也裁判長の少数意見

北海道の原告は38人が亡くなった

北海道訴訟原告 鳴海真樹子さん

北海道からは16人がこの集会に参加しています。

25歳の時に、親戚から両親の本当の子ではないと知らされました。隠されていたことに悲しみと怒りが交差し、その頃から私の心が病み始めました。それでも働かなくてはとアルバイトなどをしてきましたが、父も母も病気で亡くなり、ひとりぼっちになったときにはどうにもならなくなり、精神科受診が始まりました。そのために生活保護を受けたことで、安心して通院ができました。

ところが2013年から保護費が減らされたことで、心が安まるお風呂はプロパンガスのため、湯船にお湯を溜めると月1万円以上かかってしまうので、冬でもシャワーだけ。それでも5000円以上はかかります。消費税の8%も重なって、食事は1日2食に減らしました。この裁判が始まったころ、ブラウン管テレビが処分できずにいましたが、給付金でやっと処分し安心していたところ、その後冷蔵庫が壊れました。今私の部屋には冷蔵庫が2台あります。貯蓄が全くできず、廃棄処分するお金がないからです。

さらに頭を悩ませるのは冬の灯油代です。今日も北海道を出る時、雪が降っていました。私の家の灯油は定期配送で使った分だけ請求が来ます。追加注文の手間や灯油がなくなる心配がない分、料金が高いのです。今年の1月から値上がりし1ℓ153円になりました。昨年より10円値上げになり、設定温度を下げ、日中はストーブをつけずに布団に入って過ごしましたが、冬季加算でもらえる金額を上回りました。現在は物価高で食品だけではなく、電気代、ガス代も高くなって、もうこれ以上何も削るところはありません。食べる量を減らす以外にないのです。

今回の最高裁判決で、これで少しは安心した生活に戻れると思っていたのに、もう4カ月も経つというのに、謝罪もなければ削り取った保護費も返してくれない。この10年の間に、北海道の原告は38人が亡くなり、最高裁判決後にも全国の仲間が亡くなっています。

10年以上もつらく苦しい闘いをしてやっと私たちの声が届いたというのに、こんなことが許されるのでしょうか?

一刻も早い解決に向け、弁護士や支援者とともに最後まで頑張って行く決意を述べて発言を終わります。

貧困は「恥」という意識を変えたい

富山訴訟原告 村山和弘さん(オンライン)

富山もだんだん寒くなってきましたが、まだストーブの灯油が買えていません。

私の妻は原告で、亡くなりました。私が引き継いで9年間、裁判をしています。私は84歳になりました。

妻が亡くなってから2回がんになって、もうだめだと思って、後の人への引き継ぎ手続きをしていたのですが、ついに今回の裁判で勝利して、生きがいというか嬉しい。

私が嬉しいだけじゃなくて、介護施設の職員も利用者も非常に喜んでくれた。新聞を切り抜いてわざわざ持って来てくれた人が2人もいた。「おめでとう」「よかったね」と喜んでくれた。裁判に勝ったんだから、謝罪と賠償は当然、前提になっていると思う。

でも、いろんな問題があるんですよ、といって、謝罪もまともにしないという状態だし、専門委員会なるものをやって、なんとか引き延ばそうとしている。せっかく私の連れ合いの遺志を引き継いでいるんだけど、生き残っている原告が亡くなるのを待っているのではないか。これは負けてはいけないと思って、がんばろうと思っています。

いろんな人たちが励ましてくれるのですが、天皇の勲章を貰った人もいる。そういう人が「あなたのやっていることは立派だ」と言ってくれた。意見書、署名の仲間を作っていきたい。

在日の人は、「知り合いに生保を受けている人がいるが、打ち切れという排外主義の声も上がっている。私たちも応援している」というメッセージを寄こされた。色んな人がこの裁判に注目しているのだなと感じています。

この裁判の原告になって、名前や顔を明らかにしてやっていこうと思ったのは、日本の社会で貧困であることは、自分の責任だ、情けないことだ、片山さつき(財務相)の言う「恥」であるという文化が染みこんでいて、声を上げにくかったから。そういうあり方を変えていかないと、国から施しを受けるという旧態依然とした考え方を変えていかないと、と思っています。

人間の尊厳を守ることをあきらめない

各界からのアピールでは、日本弁護士連合会副会長の拝師徳彦さん、日本司法書士会連合会常任理事の内田雅之さん、日本精神保健福祉士協会常務理事の洗成子さん、労働者福祉中央協議会事務局長の南部美智代さん、全日本民主医療機関連合会理事の石塚俊彦さん、POSSE代表理事の岩本奈々さんらが、最高裁判決とその後の厚労省の対応について意見を述べました。

最後に「集会アピール」を京都訴訟の原告・森絹子さんが読み上げました。

ちょうど10年前の今日、日比谷野外音楽堂に4千人の仲間が集まりました。「人間らしく行きたい 守ろう憲法25条 10.28生活保護アクションin 日比谷」です。この生活保護問題では初めての大きな集会が、生活保護基準という“命の砦”を守り、より良いものにしていくスタートとなりました。
各地で裁判がたたかわれる中、集会の翌年となる2016年11月7日に、220人の当事者・支援者が参加して、「いのちのとりで裁判全国アクション」が結成され、全国で手をつないでたたかってきました。
権利のために声をあげると、すぐにバッシングされるという風潮の中、その逆風に身をさらしながらも立ち上がり、顔や名前も出し、街頭で声を上げた原告。それを支えた弁護士や支援者。その思いにこたえる形で最高裁判所は、今年6月27日に原告勝訴の判決を言いわたしました。
しかし、判決から4カ月。最高裁で違法判断が確定したにもかかわらず、いまだに厚生労働大臣は謝罪もせず、被害回復のメドさえ示していません。それどころか、決着がついた問題を蒸し返して専門委員会で論議し、新たな引き下げを行おうとしている疑いさえあります。
生活保護基準が違法に引き下げられてからすでに12年。原告の2割以上が亡くなっています。
私たちは求めます。原告だけでなく、すべての生活保護利用者に対して、謝罪すること。そして、一刻も早く被害を補償すること。さらには、再発防止のための検証を行うこと。そのためにも、厚生労働大臣は私たちとの話し合いのテーブルに着くべきです。
私たちはあきらめません。人間の尊厳を守り抜くため闘います。

そして、大阪訴訟の原告の言葉を、参加者全員で唱和しました。

「だまってへんで、これからも」

社会保障政策における最悪のアウトソーシング

閉会あいさつで「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表の藤井克徳さんは「最高裁判決の後、4カ月も違法状態が続きっぱなし。今日が124日目。ずっと違法状態で、損害の回復に手を付けない状態が続いている」との認識を示しました。

こうした状況が続いている背景には、政府の認識のずれがあると指摘。

「厚労省は第6回目の交渉で、自分たちは一部敗訴だと思っている、といいました。大方は勝ったと思っているとうそぶいている。国民の多くは政府の姿勢を支持してくれると信じている。生活保護バッシングを追い風にして言っている」

専門委員会についても「政府の言いたいことを言わせている。隠れ蓑委員会、矮小化委員会と言ってもいい。社会保障政策における最悪のアウトソーシングだ」と喝破しました。

「生活保護の領域を超えて怖いことは、三権分立をないがしろにし、司法を軽く見ているということ。民主主義の根幹に関わってくる問題だとしっかりと抑える必要がある。悪政は運動の帆を膨らましてくれる。どんどん帆が膨らんでいくのではないでしょうか?政府に対しての働きかけと提言活動がますます大事になってくる」とし、その一番根底にあるのは、「あきらめない」「伝える」「つながる」ことだと伝えました。

閉会後、参加者約200人が、厚生労働省前に移動し、「私たちの声を聴け」「まず謝罪を」「被害回復を」と訴えました。